電話・オンライン診療のコロナ特例、実施件数は横ばいから微減で適正実施が進む―オンライン診療指針見直し検討会(2)
2021.10.11.(月)
新型コロナウイルス感染症下において臨時特例的に大幅拡大されている電話診療・オンライン診療の実施状況を見ると、▼件数等は横ばいから微減▼不適切事例(不適切な医薬品処方など)は減少▼いわゆる完全初診患者(一度の受診歴がなく、他院からの情報提供もない患者)への実施割合は減少―など、適切実施が浸透してきているように見える。コロナ感染症は、収束には至っておらず、臨時特例は当面、継続するべきである―。
10月7日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)で、こういった点も了承されました。なおオンライン診療について、「推進」に偏りすぎ議論を諫める意見も少なからず出ています。
オンライン診療、「推進」も重要だが、まず安全性・適切性の確保が最優先なのではないか
Gem Medでお伝えしているとおり、昨年(2020年)4月10日から、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、臨時特例的に電話診療・オンライン診療が大幅に拡大されています。対面診療によるコロナウイルス感染リスクを避けながら「医療へのアクセスを最低限確保する」ために、初診患者も含めた「電話・オンライン診療」までもが臨時特例的に認められています。
ただし初診患者へのオンライン診療では、「誤診や重症化の見落としなどのリスク」が高いことから、次のような留意点が厚労省から示されています。
▼「初診のオンライン診療等が適していない症状や疾病」、「考えられる不利益」、「急病急変時の対応方針」などについて、医師から患者に対して十分な情報を提供し、説明した上で、その説明内容を診療録に記載する
▼地域医療連携の下で実効あるフォローアップを可能とするため、対面による診療が必要と判断される場合は速やかに対面診療に移行し、自院で困難な場合は、「あらかじめ承諾を得た他の医療機関に速やかに紹介」する
さらに、過去に一度も自院の受診歴がなく、他院からの診療情報提供などもない患者(本稿では完全初診患者と呼ぶ)に対するオンライン診療では、「誤診や重症化の見落としなどのリスク」が極めて強くなることから、次のような制限がかけられています。
(1)「麻薬」「向精神薬」の処方はできない
(2)「特に安全管理が必要な医薬品」(【薬剤管理指導料】の「1」の対象となる抗悪性腫瘍剤や免疫抑制剤等のハイリスク医薬品)の処方はできない
(3)処方日数は7日間を上限とする
(4)「完全初診患者に対する電話・情報通信機器を用いた診療」は、過去の受診歴とならない(「完全初診患者に対する電話・情報通信機器を用いた診療」を終えた後に、当該患者が再度、電話・情報通信機器を用いた診療を受けたとしても、(1)-(3)の縛りが継続する)
厚労省は、こうした臨時特例的な「初診からの電話・オンライン診療」について全症例を報告することを医療機関に義務付け。その報告内容を集計・分析し「原則として3か月ごとに検証」しています(今年(2021年)1―3月分の状況に関する記事はこちら、昨年(2020年)10-12月の状況に関する記事はこちら、同7-9月の状況に関する記事はこちら、同4-6月の状況に関する記事はこちら)。
今般、今年(2021年)4-6月分の診療状況が検討会に報告されました。実施件数は2020年6月以降、▼全体では月間1万6000-1万7000件程度▼うち初診は月間7000件前後―と「横ばい」から「微減」という状況です(詳細は後述)。
こうしたデータについて佐藤主光構成員(一橋大学経済学研究科・政策大学院教授)らは「低調である。ボトルネックが診療報酬にあるのか、コストにあるのか、規制(臨時特例制度)にあるのか、指針が曖昧だからなのかを検証しなければいけない。いかに普及させるかを考えるべきである」と厚生労働省に強く求めました。
しかし今村聡構成員(日本医師会副会長)は「そもそも、オンライン診療が野放図に行われていたことを踏まえ、適正実施のためのルールを検討してきた。昨今、オンライン診療については『推進』に議論が偏り過ぎている。推進はもちろん重要だが、適正実施のためのルールづくりをしている場であることを忘れてはいけない」と反論。偏った方向に進んできている議論にブレーキをかけました。
上述した臨時特例措置は「これ以上ないほど電話・オンライン診療の実施要件を緩和している」と言えます。また、「オンライン診療実施のために必要な『システム』使用料などは、『療養の給付と直接関係ないサービス等の費用として別途徴収できる」(選定療養)ことは2018年度診療報酬改定の疑義解釈(その1)で明確にされています(厚労省のサイトはこちら)。
こうした状況下でも「オンライン診療の実施件数が横ばい」である背景には、「オンライン診療等のニーズがそれほど高くない」「医師がオンライン診療できること、できないことを明確に分けて対応している」といったことがあるのかもしれません。今村構成員は「処置や注射(例えば、コロナ感染症の重症化防止薬であるロナプリーブは点滴投与が求められる)などはオンライン診療では行えない。医師が対面での在宅医療とオンライン診療とを適切に組み合わせて実施している」と状況を分析。またコロナ禍でオンライン診療を本格実施する大橋博樹構成員(多摩ファミリークリニック院長)も「ファーストチョイスとしてオンライン診療は非常に有益であるが、細かなトリアージは対面診療でなければ行えないなど、オンライン診療の限界もある」と指摘。さらに島田潔専門委員(板橋区役所前診療所院長)は「保健所から診療依頼が来る患者には往診等が必要になり、オンライン診療では対応が困難なケースが多い」と状況を説明しています。
臨時特例措置により電話・オンライン診療が拡大する中でノウハウが蓄積され、医師が「こうしたケースはオンライン診療でも対応可能、こうしたケースは対面診療が必要である」と適切にトリアージしていることも考えられそうです。
なお、8月14日からは「診療報酬上の臨時特例措置」を拡大し、例えば自宅・宿泊療養中のコロナ感染症患者への電話診療・オンライン診療では【二類感染症患者入院診療加算】(250点)の算定までも可能となっています。現状では「診療報酬の格差(対面とオンラインとの格差)」というハードルもなくなっており、その後に推進するのか、それほど増加しないのかをチェックする必要があるでしょう。
もっとも「オンライン診療について安全性・適切性を確認しながら、段階的に推進していく」ことが重要なテーマで点には疑いがありません。厚労省も今後の検討テーマに「オンライン診療の推進方策」を位置づけており、構成員からも▼診療だけでなく、服薬指導や電子処方箋なども含めた一体的なオンライン診療の実施体制が必要ではないか。一部だけオンラインでは「かえって面倒」となりかねない(大石佳能子構成員:メディヴァ代表取締役社長)▼e-ラーニングによる研修実施を、コロナ感染症が落ち着いている今こそ推進すべき(大橋委員)▼オンライン診療の推進は、まず「再診」であろう。オンライン再診のハードルを下げれば、利用者がどんどん増えるのではないか(高林克日己専門委員:医療法人社団鼎会理事/三和病院顧問、千葉大学名誉教授/日本内科学会)―などといった提案がなされています。
不適切処方などの背景・理由も詳しく分析し、適切なオンライン診療実施を目指す
また、今年(2021年)4―6月のデータからは次のような状況も明らかとなっています。件数等は横ばいから微減、不適切事例は減少、「完全初診患者」へのオンライン診療等の実施割合は減少傾向にあります。上述のように「件数の少なさ」を指摘する声が目立ちますが、電話・オンライン診療の内容は「適正実施が浸透してきている」と見ることもできそうです。
▽全医療機関に占める「電話・オンライン診療の実施体制がある医療機関」の割合は15.0%(2021年6月末時点、4月末時点に比べて0.2ポイント低下)、「初診から電話・オンライン診療を実施できる医療機関」の割合は6.40%(同、同じく0.05ポイント減)
▽全医療機関に占める「初診から電話・オンライン診療を実施した医療機関」の割合は0.47%(2021年6月、3月末時点と比べて0.1ポイント減)、「完全初診患者に電話・オンライン診療を実施した医療機関」の割合は0.22%(同、同じく0.05ポイント減)
▽「電話・オンライン診療」に占める電話診療の割合は、▼4月:56.9%▼5月:56.0%▼6月:61.4%▼7月:73.3%▼8月:64.6%▼9月:72.9%▼10月:77.6%▼11月:73.1%▼12月:75.7%▼2021年1月:60.8%▼2月:70.1%▼3月:64.2%▼4月:69.3%▼5月:71.2%▼6月:71.3%―で、「6-7割」で推移している
▽年齢階級別の患者構成を見ると、「0-10歳」が電話診療で29%(前3か月と比べて4ポイント減)、オンライン診療で34%(同10ポイント増)となった
▽主な疾患は、0-14歳では「上気道炎」と「気管支炎」とで5割を占める。15歳を過ぎるとバラエティに富んでくるが、「発熱」が2割程度で最多となる
▽完全初診の割合は、0-14歳では14%(前3か月と比べて4ポイント減)にとどまるが、15―64歳では33%(同10ポイント減)、65歳以上では25%(同11ポイント減)となった
▽特例措置の要件(上述の「初診からの麻薬・向精神薬処方の禁止」など)を守らないケースは、減少してきてはいるが、依然として一部にある
「特例措置の要件を遵守しない」ケースについては、構成員の多くが「なぜ実施するのか」を分析すべきと指摘。厚労省では、理由の調査も進めており、次回報告(今年(2021年)7―9月分の報告、年明け1月頃になる見込み)でその状況が明らかになる見込みです。
関連して、「医薬品の処方は最終的には医師が判断すべきである。例えば、ヨード造営剤へのアレルギーがある患者には禁忌であるが、心筋梗塞が疑われるケースではステロイドを併用しながら使用せざるを得ないこともある」(南学正臣構成員(東京大学大学院医学系研究科腎臓・内分泌内科学教授/日本医学会)という意見もあります。
ただし、完全初診患者に「麻薬を使用する」ケースなどがあれば、「どういった理由があってのことか」を詳しく調べ、場合によっては当該医師・医療機関への指導等も検討されることになるでしょう。
こうした状況を総合勘案して、検討会では「臨時特例措置を当面継続する」考えをまとめています。ただし、山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)からは「電話初診については、なんら安全性確保のための議論を検討会で行っていない。コロナ感染症が流行し始めた当初は、医療へのアクセスを確保するために電話初診を認める必要性もあったのかもしれないが、そろそろ再考しなければならない」と訴えています。
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