「電話での湿疹治療」や「発熱患者に対面受診勧奨をしない」など、電話・オンライン診療の拡大に課題も浮上―オンライン診療指針見直し検討会
2020.8.7.(金)
新型コロナウイルス感染症対策として、臨時特例的に「電話・情報通信機器を用いた診療」が大幅拡大されているが、「電話で患部を見られないにもかかわらず、湿疹治療を行った」例や、「発熱や呼吸器症状があるにもかかわらず、電話・情報通信機器を用いた診療で完了し、対面受診を促さない」ケースが多数あるなど、一部に問題点も浮上している―。
新型コロナウイルス感染症は収束しておらず、「電話・情報通信機器を用いた診療」の臨時特例は当面継続するが、▼要件の周知▼電話診療に馴染まない疾患等があることの周知▼遠方の患者について電話・情報通信機器を用いた診療を行うことは好ましくないことの周知―などの改善を行う―。
8月6日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)で、こういった方向が固められました。厚生労働省は近く事務連絡等を発出し、医療機関等に注意を促します。
目次
- 1 臨時特例的に、完全初診の患者にも「電話・情報通信機器を用いた診療」を実施可能に
- 2 約1万6000医療機関が臨時特例を活用し、うち約6800医療機関が初診患者にも活用
- 3 発熱等患者にも電話・オンライン診療が行われ、「対面受診の勧奨」はごくわずか
- 4 完全初診患者への麻薬処方など、不適切な電話・オンライン診療も散見
- 5 電話での湿疹治療など、電話・オンライン診療に馴染まない疾患がある!
- 6 電話・オンライン診療の臨時特例は継続、「なし崩し的な恒久化」を懸念する声も
- 7 「電話・オンライン診療を行う医師には、研修受講を求めるべき」との指摘も
- 8 聴覚障害者がオンライン診療を利用する場合、「手話通訳者の参画」を認める
臨時特例的に、完全初診の患者にも「電話・情報通信機器を用いた診療」を実施可能に
新型コロナウイルス感染症対策の一環として、臨時特例的に「電話や情報通信機器(ビデオ通話システムなど)を用いた診療」が大幅に拡大されています。
「医療機関の直接受診による新型コロナウイルス感染リスク」を恐れて、慢性疾患治療中の患者が治療からドロップアウトしてしまうことを防止するために、当初は「再診患者」をターゲットに据えた「電話や情報通信機器を用いた診療」の拡大が進められました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
その後、政府の規制改革推進会議からの「初診患者についても医療へのアクセシビリティを確保すべき」との強い意向を踏まえ、「過去に一度も自院の受診歴がなく、他院からの診療情報提供もない患者」(以下、本稿では「完全初診」とする)に対する「電話・情報通信機器を用いた診療」が認められるに至りました。
もっとも検討会では、かねてから「完全初診患者に対する、電話・情報通信機器を用いた診療では、誤診や重症化の見落としなどのリスクが極めて高い。外来医療体制が極めて危機的な地域に限定するなどの慎重な対応が必要である」との意見が大勢を占めており(関連記事はこちらとこちら)、厚労省も「完全初診患者に対する電話・情報通信機器を用いた診療」については、次のような縛りをかけています(関連記事はこちら)。
(1)「麻薬」「向精神薬」の処方はできない
(2)「特に安全管理が必要な医薬品」(【薬剤管理指導料】の「1」の対象となる抗悪性腫瘍剤や免疫抑制剤等のハイリスク医薬品)の処方はできない
(3)処方日数は7日間を上限とする
(4)「完全初診患者に対する電話・情報通信機器を用いた診療」は、過去の受診歴とならない(「完全初診患者に対する電話・情報通信機器を用いた診療」を終えた後に、当該患者が再度、電話・情報通信機器を用いた診療を受けたとしても、(1)-(3)の縛りが継続する)
また、「完全初診」でない初診患者(過去に自院を受診している患者、他院からの診療情報提供がある患者)であっても「重症化リスクの見落とし」等の危険性を無視することはできないため、次のような留意点も設けられています。
▼初診から電話や情報通信機器を用いて診療を行うことが適していない症状や疾病等、生ずるおそれのある不利益、急病急変時の対応方針等について、医師から患者に対して十分な情報を提供し、説明した上で、その説明内容について診療録に記載すること
▼医師が地域における医療機関の連携の下で実効あるフォローアップを可能とするため、対面による診療が必要と判断される場合は、「電話や情報通信機器を用いた診療を実施した医療機関において速やかに対面による診療に移行」する、それが困難な場合は、「あらかじめ承諾を得た他の医療機関に速やかに紹介」する
さらに厚労省は、こうした電話・情報通信機器等を用いた臨時特例的な診療について、全症例を報告することを義務付け。その報告内容を集計・分析し、「原則として3か月ごとに検証する」こととしており、今般、4-6月の3か月分の状況が検討会に報告されました。
約1万6000医療機関が臨時特例を活用し、うち約6800医療機関が初診患者にも活用
まず、「電話・情報通信機器を用いた臨時特例的な診療」の活用状況をみると、7月末時点で1万6000施設強の医療機関が対応しており、うち6800施設強が初診患者にも対応可能としています(「電話・情報通信機器を用いた診療に対応している」「初診にも対応している」医療機関数で、実際に診療を行った医療機関数ではない)。
都道府県別に人口10万人当たりの実施医療機関数をみると、全体では5-25施設程度、初診では5-10件程度となっており、広く全国で「電話・情報通信機器を用いた臨時特例的な診療」が活用されていることが分かります。
発熱等患者にも電話・オンライン診療が行われ、「対面受診の勧奨」はごくわずか
次に、「電話・情報通信機器を用いた臨時特例的な診療」の内容を見てみましょう。
患者の年齢別に主疾患・症候を見ると、10歳未満の小児患者では「湿疹」「上気道炎」「気管支炎」「アレルギー性鼻炎」などが多く、10歳以上の患者では「発熱」が最多となります。軽症患者が多いとも思われますが、「発熱」や「上気道炎」といった症候からは、「新型コロナウイルス感染症の可能性があるのではないか。医療機関を直接受診(対面診療)し、新型コロナウイルス検査を受けるよう奨めるべきではないか」なども気になります。しかし、「対面診療の受診勧奨」はごく少数にとどまっています。
また「発熱」以外にも、「頭部外傷」や「頭痛」「めまい」「腹痛」「胸痛」「出血」など重篤疾患の可能性がある症候に対し、「電話・情報通信機器を用いた臨時特例的な診療」のみで対応し、「対面診療の受診勧奨」をしていないケースも散見されます。
まさに「誤診」や「重症化リスクの見落とし」の危険がある疾患で、日本プライマリ・ケア学会でも「オンライン診療に適していない」ことを明確にしています。
この点、山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は「厚労省から、通達等で『こういった症状が見られた場合には、対面受診を促す必要がある』ことなどを強く求めるべき」と訴えました。今村聡委員(日本医師会副会長)も「発熱患者に解熱剤を処方し、自宅待機での『様子見』を求めることが、家庭内感染を広めてしまう危険もある。早期に対面受診し必要な検査を受けるよう、きちんと促す必要がある」と指摘しています。
ただし、4-6月時点では新型コロナウイルス検査体制が必ずしも十分でなかった地域も少なくなく、それが「対面診療の受診勧奨」が少ない背景にあるとも考えられます。7月以降の状況も注視する必要があるでしょう。
さらに、「電話による初診」(患部や患者の視覚情報がゼロ)もかかわらず、湿疹などの皮膚疾患を診療している事例もあります。黒木春郎構成員(医療法人社団嗣業の会理事長・日本オンライン診療研究会会長)は「電話では、患者の顔も患部も見ることができない。電話での初診は医学的にはあり得ない」と強調しています。
こうした点を考慮すると、初診に対して「電話・情報通信機器を用いた診療」で実施可能な診療は極めて限られており、「オンライン受診勧奨」で十分なのではないか(診断、処方等はせず、患者の状況を踏まえて「考えられる疾患」を列挙し、適切な医療機関受診を促す)、とも考えられます。今後の検討課題となるかもしれません。
完全初診患者への麻薬処方など、不適切な電話・オンライン診療も散見
また、次のように(1)-(4)の縛りを無視した「不適切な電話・情報通信機器を用いた診療」も一部にあることが分かりました。
▼完全初診患者に対し、麻薬や向精神薬を処方している事例がある((1)違反)
▼完全初診患者に対し、ハイリスク薬を処方している事例がある((2)違反)
▼完全初診患者に対し、8日以上の医薬品処方をしている事例がある((3)違反)
「リスクを考慮しながらの臨時特例な拡大」であり、通常時よりもルールを厳守する必要性が高い中でのルール違反には強い批判が出ています。こうした不適切事例については、都道府県から医療機関に対し指導等が行われます。
ただし金丸恭文構成員(フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長グループCEO)は、「不適切な電話・情報通信機器を用いた診療を行う医師は、通常の診療でも不適切な行動をとっているであろう。電話・情報通信機器を用いた診療の拡大によって、突然、医師の行動が不適切になるわけではない。電話・情報通信機器を用いた診療とは別に考えていくべき」と指摘。「電話・情報通信機器を用いた診療」の拡大には、大きなメリット(医療へのアクセシビリティの確保)があり、若い子育て世代には強く歓迎されていることなども併せて紹介し、「電話・情報通信機器を用いた診療」の要件厳格化には慎重姿勢をとっています。
このほか次のような課題も、今般の調査や構成員からの指摘で浮上してきています。
▽極めて遠方の医療機関を、電話・情報通信機器を用いて受診するケースがある(北海道の患者が、慢性鼻炎の診療で東京都の医療機関を受診する、東京都の患者が、アトピー性皮膚炎の診療で大阪府の医療機関を受診する、など)
▽「糖尿病治療薬のGLP―1受容体作動薬を用いた最新ダイエット法を、オンライン診療で!コロナ太りに最適!」などといった極めて不適切な広告が、「電話・情報通信機器を用いた診療」の拡大に乗じて増加している可能性がある
電話での湿疹治療など、電話・オンライン診療に馴染まない疾患がある!
このように、一部に不適切な「電話・情報通信機器を用いた診療」が見られたことなどを踏まえ、検討会では次のような改善が必要であるとの考えをまとめています。厚労省から近く事務連絡などが示される見込みです。
▽「完全初診患者に麻薬やハイリスク薬を処方する」など要件を守らない不適切な診療について、引き続き厳正に対処していくとともに、要件(上述の(1)-(4)など)を改めて周知する
▽「概ね同一の二次医療圏内に居住、活動拠点を有する患者」を対象とすることが望ましい旨を明確化し、周知する(必要な場合には、速やかに対面診療に移行できるよう、自宅や職場に近い医療機関が電話・情報通信機器を用いた診療を行うことが重要である。構成員や厚労省はオンライン診療システムを開発するベンダーに「近隣の医療機関のみが表示される」システムを期待している)
▽「電話診療が適していない疾患があること」(例えば「湿疹に対して電話診療を行う」など)、「必要な場合には対面診療の受診勧奨を行うべきこと」などを明確化し、周知する
なお、「電話による初診」について、検討会構成員は強い疑問を持っています。オンライン診療による初診ですら検討会では慎重意見が相次ぎ、さらに情報量の少ない「電話」(画像も動画もない)での初診は「あり得ない」という意見が少なからず出ています。
しかし、高齢者ではパソコンやタブレット端末、スマートフォンの利用が難しい面もあることから、「医療へのアクセシビリティを確保するために、電話での診療も拡大すべき」と判断されました。
現時点では、「電話に代わる、新型コロナウイルス感染リスクのない医療へのアクセスツール」が存在せず、当面、「電話による初診」も臨時特例の一環として継続が認められます。ただし、上述のように「電話による診療に馴染まない疾患」が、「オンライン診療に馴染まない疾患」よりも広くある点に最大限の留意が必要です。
電話・オンライン診療の臨時特例は継続、「なし崩し的な恒久化」を懸念する声も
再三述べていますが、「電話・情報通信機器を用いた診療」はあくまで、新型コロナウイルス感染症が収束するまでの臨時特例措置です。
現時点では「新型コロナウイルス感染症が収束している」とは言えず、山本隆一座長(医療情報システム開発センター理事長)は「当面、継続する」考えを示しました。今後も「原則として3か月ごとの報告」が行われ、検討会での検証が継続されます。この点、山口構成員は「なし崩し的な恒久化は許されない。期限をしっかりと考える必要がある」と指摘しています。
「電話・情報通信機器を用いた診療」は、新型コロナウイルス感染リスクを低減するためのものです。「感染リスクを抑えて、医療にアクセスできる」というメリットがありますが、その一方で「直接の対面診療と比べ、医師が収集できる情報が格段に少ない」というデメリットがあります。情報通信機器を用いたオンライン診療の拡大については、こうしたメリット・デメリットを十分に比較衡量することが求められます。
関連して今村委員は、「医療機関の感染対策は進んでいる。小児の予防接種や健診・検診等を安心して受けられる体制が整ってきた段階で臨時特例を終了することも考えるべき」旨の考えを示しています。新型コロナウイルス感染症が収束せずとも、医療機関を安心して受診できる環境が整った段階で、臨時特例措置は終了すべきとの指摘と言えます。
「電話・オンライン診療を行う医師には、研修受講を求めるべき」との指摘も
また、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、「オンライン診療の研修」を受講することが求められています(2020年4月以降にオンライン診療を実施する医師は厚労省指定の研修を受講しなければならない。既にオンライン診療を実施している医師は、2020年10月までに研修を受講する、関連記事はこちら)。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、この研修受講要件は一時的に停止されています。
この点について今村委員は、「不適切な診療を是正するためにも研修受講を求めるべきである。研修はe-ラーニングで受講することができ、新型コロナウイルス感染のリスクもない」と指摘しました。
厚労省も「研修受講」を求めていく考えを明らかにしていますが、今般拡大されている「電話・情報通信機器を用いた診療」は、本来のオンライン診療とは異なる(臨時特例)ため、研修内容を別途検討していく必要があります。例えば「電話での診療の留意点」「医療広告の規制」などは、オンライン診療の研修内容に含まれておらず、今後、早急に詰めていくことになるでしょう。
聴覚障害者がオンライン診療を利用する場合、「手話通訳者の参画」を認める
このほか、検討会では次のような方針も固めています。
▽「電話・情報通信機器を用いた診療」のさらなる実態把握に向けて、▼初診からの電話・情報通信機器を用いた診療でも一定の診断を下すことが可能であったと考えられる症状▼初診からの電話・情報通信機器を用いた診療では正確な診断が困難であったと考えられる症状▼対面診療に移行した症状―などについても調査を行う(構成員から「完全初診」と「それ以外」とに分けた分析の必要性も指摘されている)
▽聴覚障害者がオンライン診療を利用する際、「手話通訳者」の参画を可能とする(現在の「オンライン診療指針」では第三者の参画を認めていないが、事務連絡等で可能な旨を明確化する)
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