「オンライン初診」の前提となる医学的情報把握、「医師の裁量」認めるべきでは―オンライン診療指針見直し検討会(1)
2021.6.1.(火)
「初診からのオンライン診療」については、誤診や見逃しのリスクを下げるために、「過去に自院の受診歴がある」などして患者の医学的情報を把握している患者に限定する方向で議論が進んでいる。ただし、あまりに限定することは好ましくなく、どういった医学的情報を把握しているかについては「オンライン診療を行う現場医師の裁量」を広く認めるべきではないか―。
ただし、誤診や見逃しのリスクを下げるための「安全性・信頼性の確保」を担保する仕組みも併せて設ける必要もあるのではないか―。
5月31日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。
検討会ではこの6月にも「初診からのオンライン診療解禁」に向けた意見取りまとめを行いますが、「初診からのオンライン診療」実施に向けた枠組みの取りまとめにとどまる見込みで、その後に詳細を詰め、今秋(2021年秋)にオンライン診療指針(オンライン診療の適切な実施に関する指針)改正の中に盛り込まれることになります。
目次
患者の医学的情報を相当程度把握できる場合に、オンライン初診を可能としてはどうか
菅義偉内閣総理大臣を筆頭に、平井卓也IT担当大臣、河野太郎行革担当大臣、田村憲久厚生労働大臣が「安全性と信頼性をベースに、初診も含めオンライン診療は原則解禁する」(恒久化)方針を決定しています。検討会では、この方針を踏まえて「初診を含めたオンライン診療」を適切に実施するための枠組みを議論しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
これまでに、例えば▼オンライン診療では得られる情報が対面診療に比べて格段に少なく、誤診や見落としのリスクが得られるため「対象患者や症状」などを限定する必要があるのではないか▼「オンライン診療では対応できない」ことが判明した場合に、速やかに対面診療に移行できるような体制を整えておく必要があるのではないか▼「オンライン診療に適した症状化」などを事前にトリアージする仕組みを設ける必要があるのではないか▼オンライン診療で適切に症状把握等ができるよう、実施医師には適切な研修受講を義務づけるべきではないか―などの論点について議論が重ねられてきています。
5月31日の検討会では、このうち「『対象患者や症状』などを限定する必要があるのではないか」という論点について、さらに議論を深めました。
オンライン診療では、音声・映像に関する情報は相当程度得られますが、匂いをかぐことができず、また触診を行うこともできないため、直接の対面診療と比べて得られる情報が大きく制限されます。このため、「誤診」や「見落とし」のリスクが対面診療に比べて高くなります。
そこで検討会では、「過去に自院を受診したことがある」など、患者の医学的情報が相当程度得られているケースに限定し、「まったく医学的情報がない初診患者」は原則としてオンライン診療の対応にしない旨の共通認識が醸成されてきています。
逆に言えば、「過去に自院を受診したことがある」ケースと同等程度に医学的情報が把握できる患者では、初診からのオンライン診療が可能になると言えます。この点、(1)過去の診療録(2)診療情報提供書(3)健康診断の結果(4)地域医療情報ネットワーク―などから患者の医学的情報を得られる場合などが考えられそうです。ただし「『過去』とはいつまでを指すのか、一定の期限(例えば直近12か月以内など)を設けるべきではないか」(鈴木美穂構成員:マギーズ東京共同代表理事)、「健診は多くの人が毎年受けており、その情報を患者自身が提供すれば初診からオンライン診療を可能と考えてよいのか」(津川友介構成員:カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教授)などの意見も出ており、さらに詳細を詰めていく必要がありそうです。
ただし、情報提供の形式ではなく「内容」を重視すべきとの指摘もあります。実際に月間60―100件のオンライン診療を実施している大橋博樹構成員(多摩ファミリークリニック院長)は、「服用している薬剤や、過去のアレルギー情報などといった事項が包含されている」医学的情報が有用であると指摘。島田潔専門委員(板橋区役所前診療所院長)をはじめ、多くの構成員がこの指摘に賛同しています。
また、大道道大構成員(日本病院会副会長)は「議論がかみ合うよう、そろそろ具体的な『医学的情報』に関するリスト案などをたたき台に、どういった医学的情報があれば、誤診・見落としのリスクを低めて初診からのオンライン診療を実施できるかを検討し始める必要がある」と提案しています。初診からのオンライン診療解禁には、検討会でも「積極的に推進すべき」という立場の構成員と、「安全性を確保するために慎重に拡大していくべき」という立場の構成員がおり、同じテーマで議論をしても「かみ合っていない」場面が少なからず見られます。大道構成員の提案は、実りある議論に向けたものと言えるでしょう。
初診からのオンライン診療の判断は「医師の裁量権に委ねよ」との声も
一方で、大石佳能子構成員(メディヴァ代表取締役社長)は「安全性も重要だが、臨時特例的に認められたオンライン診療を後退させることは国民に理解されない」としたうえで、「初診からのオンライン診療の間口は広めるべきである」「どのような医学的情報があれば初診からのオンライン診療が実施可能かは、現場の医師の裁量に委ねるべき」と提案しています。
前段の「安全性」に関する指摘にはやや疑問を覚えますが、後段の「現場医師の裁量に委ねるべき」との提案には、多くの構成員が理解を示しました。「●●のケースは認められる」などのポジティブリストでは、どうしてもすべてをカバーすることは困難なため、一定程度「医師の裁量」を認めることになるでしょう。
ところで医学・医療の専門性に鑑みれば、本来は「すべて医師の裁量に委ねる」ことが妥当とも考えられます。しかし、診療報酬点数表の変遷を見れば明らかなように、▼不適切な事例が生じる →▼「規制」を明文化して不適切事例を排除する →▼規制の盲点を突いた別の不適切事例が生じる →▼「規制」を強化・拡大せざるを得ない―という流れが医療界でも生じていることを考えれば、「広範に過ぎる医師の裁量」にはリスクもありそうです。
この点に関連して、今村聡構成員(日本医師会副会長)は「現在でも不適切な医薬品処方(例えば麻薬など)をオンライン診療等で実施する医師が後を絶たない。安全性確保は非常に重要である。医師の裁量権を認めることは極めて重要であるが、同時に『不適切な事例をただす仕組み』も導入しなければならない」と指摘。また山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)も「都合よく『医師の裁量権』を解釈する事例も出てくる。現在でも、『コロナ禍でのダイエット薬』などと称してオンラインで糖尿病治療薬を処方する旨の広告が後を絶たない」と指摘し、裁量権の安易な拡大に懸念を示しました。
一方、これらの指摘に対し、金丸恭文構成員(フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長グループCEO)は「不適切な診療を行う『bad Doctor』は、オンライン診療以外でも存在する。それと『good Doctorの裁量権拡大』とは別個に考えるべきである」と改めて反論しています。
両者の意見ともに頷ける部分もありますが、大道構成員の指摘する「議論がかみ合っていない」事例の1つと言えるかもしれません。オンライン診療拡大の前提として「安全性の確保」があります。利便性の追求は極めて重要ですが、「リスクへの対策を設けない」「患者にその判断に丸投げする」ことなどは無責任のそしりを免れないでしょう。例えば、今村委員が指摘するように「裁量権の拡大」と「裁量権を濫用等した場合のペナルティ」とをセットで検討するなど、「間口を広げながら、不適切な事例が跋扈しないような方策も打ち立てる」ことが重要と考えられます。
オンライン診療における「距離制限」をどう考えるべきか
また5月31日の検討会では、「オンライン診療を実施する医療機関と、患者との距離をどう考えるか」という点も議論になりました。
「距離」については、現在の大幅にオンライン診療が拡大されている臨時特例においても「『概ね同一の二次医療圏内に居住、活動拠点を有する患者』を対象とすることが望ましい」旨の考えが示されています。状態が急変した場合、誤診や見落としがあった場合などに、すぐさま「直接の対面診療」に移行できることを念頭においた規定です。
しかし、オンライン診療は、そもそも「距離」という壁を超えることが利点の1つであり、「距離の制限」はなじまないようにも思えます。
この点は、オンライン診療の「形態」別に考える必要があるでしょう。
例えば、オンライン診療が、その威力を最大限に発揮するケースの1つに「D to P with D」(Dは医師、Pは患者)があります。指定難病など希少疾患については、適切に診療できる医師が限られ、遠方の医療機関を受診するには多くの苦労が伴います。この点、希少疾患患者が近隣の「かかりつけ医」を受診し、そこと専門医とをオンラインで結べば、「専門医の指導等をオンライン診療で受ける」ことが可能となるのです。こうした「形態」では、距離の壁を設けることは不適当でしょう(海外の医師からオンライン診療を受けることすら期待される)。
一方、例えば高血圧症などの慢性疾患で、比較的症状が落ち着いている患者へのオンライン診療は「かかりつけ医の診療を直接の対面で受ける」ことの延長と位置付けることができ、この場合には、症状悪化時には「対面診療を受ける」ことになるため、「距離の壁」を設けることが好ましいように思われます。「かかりつけ医」の推進という側面からも「距離」制限を設けることが妥当と言えそうです。
検討会の構成員間では、様々な形態を「オンライン診療」と一つに括った議論が行われがちですが、今後、こうした「オンライン診療の形態」に着目した議論が行われることにも期待したいところです。
大学病院をはじめとする中核病院での「オンライン診療」をどう考えるか
なお、5月31日の検討会では「大学病院や中核病院では、オンライン診療が浸透していない」点も議論になりました。落合孝文構成員(日本医療ベンチャー協会理事)は「中核病院で浸透しない理由などを分析すべき」旨を指摘しています。
この点、大学病院をはじめとする地域の中核病院は、主に「重症患者」に高度専門的な医療を提供することが期待されており、外来診療についても「紹介患者を中心にする」方針が明確になっています。
つまり、そもそものオンライン診療で想定している「高血圧症などの慢性疾患で、比較的症状が落ち着いている患者」や、臨時特例措置で想定している「風邪や軽い頭痛のある患者」などは、大病院ではなく、クリニックや中小病院をまず受診することが求められており、こうした患者について「大病院でオンライン診療が進まない」のは、至極「当然のこと」であると考えられます。
大学病院や地域の中核病院で、オンライン診療を行うとすれば、上述した「D to P with D」のような形態が好ましいと言えます。2020年度の前回診療報酬では、難病や小児慢性特定疾患について「D to P with D」によるオンライン診療を行うことが保険診療でも可能となっており、こうした方向での「オンライン診療」推進が望ましいと考えられます。
「状態の落ち着いた慢性疾患患者」等へのオンライン診療を中核病院等で進めようとうするのであれば、それは「医療機能の分化・連携の強化」という医療提供体制改革の大方針に逆行することになります。検討会では、こうした医療提供体制改革の全体像を踏まえたうえで「オンライン診療の拡大、推進」を議論することに期待したいところです。
なお、オンライン診療推進に向けて「診療報酬での評価引き上げ」(▼通信費用や投下コストの評価▼各種制限(3か月に一度の対面診療受診や、外来に占めるオンライン診療割合(1割以内)などの撤廃)を求める声も出ています。
これらの議論は中央社会保険医療協議会で行うことになり、指針見直しが固まった「今秋」(2021年秋)に具体的な検討が行われていくことでしょう。ただし、「オンライン診療実施のために必要な『システム』使用料などは、『療養の給付と直接関係ないサービス等の費用として別途徴収できる」(選定療養)ことは2018年度診療報酬改定の疑義解釈(その1)で明確にされています(厚労省のサイトはこちら)。
また、上述したように「対面診療に比べて得られる情報が限定的である」点を考慮すれば、一般に「対面診療と同等の質を担保する」ことは困難であり、その場合に、対面診療と同程度以上の報酬を設定することは困難でしょう。
こうした点も踏まえ、慎重に診療報酬改定論議が進むことになると思われます。
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