完全初診患者へのオンライン診療、どういった仕組みで安全性など担保し、費用負担はどうすべきか―オンライン診療指針見直し検討会(1)
2021.10.8.(金)
オンライン診療を初診患者に対しても実施することを制度化するが、誤診等の恐れもあるため、原則は「かかりつけ医がオンライン診療を行う」「医学的情報が把握できる患者に実施する」こととなる―。
しかし、事前にオンラインでのやり取りを行って患者の医学的情報等を把握し、医師がオンライン診療で対応可能であると判断した場合には、オンライン診療を行うことを例外的に認めて良いのではないか。ただし、その場合の仕組みや費用負担をどう考えるべきか―。
また、オンライン診療では難しい場合には、対面診療に移行することが求められるが、当該オンライン診療を行う医師と、対面診療を行う医師とは、同一であるべきか、異なっても良いと考えるべきか―。
10月7日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。さらに議論を深め、近く「オンライン診療指針」(オンライン診療の適切な実施に関する指針)見直し案をまとめます。
なお、同日には新型コロナウイルス感染症に関連したオンライン診療・電話診療の臨時特例について「継続する」点も確認しました。この点、「オンライン診療が進んでいない理由を詳しく調べ、推進に向けたドライブをかけよ」との指摘も出ましたが、今村聡構成員(日本医師会副会長)が「推進に議論が偏り過ぎている。適正なオンライン診療の実施に向けた議論を行うべき」と一喝し、場を収めています。こちらは別稿で報じます。
目次
初診からのオンライン診療実施に向けて、要件等の整理論議が本格化
菅前内閣において、「安全性と信頼性をベースに、初診も含めオンライン診療は原則解禁する」(恒久化)方針が決まっています。
検討会では「初診を含めたオンライン診療」を適切に実施するための枠組みの議論を進めており(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)、10月7日から、オンライン診療指針(オンライン診療の適切な実施に関する指針)見直しに向けた具体的な検討に入りました。
最大の見直しポイントは述べるまでもなく「初診からのオンライン診療」です。オンライン診療では、直接の対面診療と比べて得られる情報が限定されており(例えば触診が行えず、匂いを覚知することもできない)、現在は「初診患者へのオンライン診療は、原則、不可」とされています。これを解禁することとなるため、どのようにすれば安全性等を確保できるのかという視点に立ち、大きく5つの論点が浮上しています。
(1)初診からのオンライン診療実施に当たり、どのような医学的情報があれば安全に実施できるか
(2)かかりつけ医がいない場合などには「オンライン診療前の『オンラインでのやりとり』」をすることで安全性を確保する仕組みを設ける方向で検討が進んでいるが、その取り扱いの詳細や実際の運用をどう考えるか
(3)どういった症状について、初診からのオンライン診療を認めるべきか
(4)初診からのオンライン診療で処方可能な薬剤、処方不可能な薬剤についてどう考えるか
(5)「対面診療が必要である」となった場合の実施体制をどう確保するか
上述の通り、オンライン診療では得られる情報が限定されるため、「誤診」や「隠れた傷病の見逃し」などが生じるリスクがあります。このリスクを下げるために、「過去に自院の受診歴がある」「他院から診療情報提供を受けている」などして「患者の医学的情報を把握できている患者にのみ、初診からのオンライン診療を実施する」という方向で議論が進んでいます。
その際、どういった情報があれば「患者の医学的情報を把握できている」と見做してよいか、というのが(1)の論点になります。この点、「ケースバイケースで必要な情報は異なる」点を踏まえて、過度な限定をせず「現場医師の裁量」を広く認めるべきという点で検討会構成員の意見は一致しています。もっとも▼ケースごとの例示などは行うべき(山口育子構成員:(ささえあい医療人権センターCOML理事長)▼保険診療で実施する際の要件の中に「どういう情報でオンライン診療実施可と判断したのか」の診療録記載を求めることなどを考えるべき(今村構成員)―といった指摘も出ており、今後の議論の素材となるでしょう。なお、「保険診療での実施ルール」については、中央社会保険医療協議会で検討されるべき事項である点には留意が必要です。
完全初診患者には「オンラインでのやりとり→オンライン診療」の2段階実施が検討されているが・・・
このように、「初診からのオンライン診療」では、前提として「患者の医学的情報」などを医師が把握していることが必要となり、「かかりつけ医によるオンライン診療」を目指すものと言えそうです。例えば、▼AクリニックにX疾患で通院している患者が、別のY疾患を発症したため、かかりつけのAクリニックで「初診からY疾患に関するオンライン診療」を受ける▼Bクリニックをかつて受診した患者が、Y疾患を発症したため、過去に受診したことのあるBクリニックで「「初診からY疾患に関するオンライン診療」を受ける―などといったイメージです。
しかし、若年者などでは「かかりつけ医などに心当たりはない」「直近、数年間、医療機関を受診したこともない」という人も少なくないでしょう。この場合、上記(1)の「医学的情報を把握している医師」が存在しないことなり、「初診からのオンライン診療を利用できない」ことになってしまいます。
この仕組みの詳細を(2)の論点として詰めていくことになりますが、「事前のオンラインでのやりとり」と「オンライン診療」とを峻別できるのか、という点がまず気になります。
概念的には「オンラインでのやりとりで、オンライン診療が可能か、対面診療が必要かを判断する」→「可能と判断された場合には、オンライン診療を行う」という2段階の運用が考えられそうです。しかし、患者の負担や医療現場の多忙さなどを考えれば、「オンラインでのやりとり」と「オンライン診療」とが、実質的に一体のものとして行われる可能性も少なくないでしょう。実際のオンライン診療に携わる黒木春郎構成員(医療法人社団嗣業の会理事長)も、「医師がオンライン診療の可否を判断する行為は、すなわち診療である。前段階を設ければ、かえって混乱するのではないか」と指摘します。
こうした一体的な実施が行われるとなれば、実質的には「まったく医学的な情報を把握できていない完全初診患者にも、制限なしにオンライン診療を初診から行える」ことにつながってしまうのではないか、との懸念も生じます。
現在のコロナ感染症特例では「初診からのオンライン診療」が大幅に拡大されていますが、いわゆる完全初診患者(一度も診察したことがなく、他院からの情報提供もない患者)には、抗がん剤などのハイリスク薬等の処方が行えず、処方日数も7日までに制限されています。さらに、臨時特例で認められた「初診からのオンライン処方」をもって「過去に診療したことがある」と見做すことも認められていません。これを認めれば、初診患者へのオンライン診療にも制限がなくなってしまうからです。
今後、こうした点も踏まえながら、「オンライン診療を行う前の『オンラインでのやりとり』」の在り方・仕組みを詰めていくことになります。
なお、10月7日の検討会では「オンラインでのやりとり」の費用についても複数の意見が出ています。上記の議論を整理すると、「オンラインでのやりとり」はオンライン診療には位置づけられないこととなりそうです(オンライン診療に位置づければ、完全初診からのオンライン診療を認めることになってしまう)。その場合、いわゆる「オンライン受診勧奨」や「オンライン健康相談」の一環という位置づけで、いわゆる「自費診療」となるのが原則です。
この点について、▼「オンラインでのやりとり」は自費診療になるが、そこから保険診療につながった場合の費用負担を整理する必要がある(例えば、のちのオンライン診療と一体と扱うのか、選定療養などに位置づけるのか)(今村委員)▼「オンラインでのやりとり」が完全自費診療となれば、患者の抵抗も強く、それこそ「後のオンライン診療と一体的に」、つまり「完全初診患者に、単なるオンライン診療を行う」ことになってしまうのではないか(鈴木美穂構成員:認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事)▼「オンラインのやりとり」から患者の情報把握、オンライン診療か対面診療かの判断などを行っていただく必要があるが、そこには診療報酬等をつけなければ、実施の担保ができないのではないか(山口委員)―など、さまざまな意見が出ています。最終的には中医協議論を待つ必要がありますが、検討会で運用フローを考える際には、セットで「費用負担に関する基本的な考え方」も一定程度整理される可能性があります。
オンライン診療・対面診療とは、原則として同一のかかりつけ医が行うべきか否か
また(5)は、オンライン診療を行う前、あるいはオンライン診療実施の中で「オンライン診療では対処できない。対面診療に移行する必要がある」と医師が判断した場合に、すぐさま対面診療に移行できる体制を整えておく必要があるという論点です。例えば「隠れていた重篤な疾患が発見された場合」や「処置等が必要になった場合」などが思い浮かびます。
「必要な場合に、対面診療へ移行できる体制を整えておく必要がある」との考え方に反対する声は出ていませんが、「誰が対面診療を行うか」という問題が、「距離要件」と絡めて浮上しています。
例えば、今村構成員は「若人などが、オンライン診療をきっかけに『かかりつけ医師』を持つことが期待される。かかりつけ医師を多くの国民に持ってもらうことが国策としても重要になっていると考える。その際には、まずかかりつけ医師が対面診療を行うべきではないか」との考えを示します。もちろん、当該かかりつけ医師の専門外の傷病が発見されることもあり、その場合には、他の医師につなぐことになると思われますが、原則として「まず、かかりつけ医が対面診療を行う」ことが求められ、その場合、必然的に「患者とオンライン診療を行う医師・医療機関との距離には、一定の制限」が設けられることになるでしょう。なお、今村構成員、さらにオンライン診療や在宅医療等に尽力する大橋博樹構成員(多摩ファミリークリニック院長)は「オンライン診療専門の医師、医療機関が出現する」ことにも難色を示しています。
一方、黒木構成員や大石佳能子構成員(メディヴァ代表取締役社長)は「緊密な情報連携等がとれていれば、オンライン診療を行う医師と、対面診療を行う医師とは、必ずしも同一でなくても良いのではないか。オンライン診療を行う医師が、信頼できる医師を患者に紹介し、対面診療を促せばよいのではないか」との考えを披露。この場合には、距離要件を設けることはナンセンスとも考えられます。
両者の意見ともに頷ける部分があります。今後、さらに検討を深めていくべきテーマと言えますが、例えば「まず今村構成員の提案に沿った仕組みでスタートし、状況を見ながら黒木構成員定員のように拡大していく」などの選択肢も考えられそうです。
また、(3)(4)の論点については、日本医学会連合が「どのような疾患についてオンライン診療が適さないのか」「どのような医薬品がオンライン診療での処方で適さないのか」をリスト化しており、これをベースに「一定の縛り」を考えていくことになるでしょう。この点、最終的には「医師の判断」が最優先されることになるでしょう(患者の状態など、個々のケースで状況は全く異なるため、一律の厳格ルールを設けることは難しい)。
なお、別稿でも述べますが、構成員の一部には「オンライン診療の推進」を非常に強く求める声もあり、中には「オンライン診療が伸びていない。診療報酬の対面診療との格差をなくし(つまり点数引き上げ)、空港などでの時間待ちの間にオンライン診療を実施できるように検討せよ」との意見まであります。
たしかに、現下のコロナ感染症流行下では、コロナウイルス感染を避けるためのオンライン診療推進の必要性は小さくないと思われます。難病をはじめ慢性疾患を抱える患者では、コロナウイルス感染が命取りになるケースもあるためです。このため国も診療報酬上の臨時特例措置を拡大し、例えば自宅・宿泊療養中のコロナ感染症患者への電話診療・オンライン診療では【二類感染症患者入院診療加算】(250点)の算定までも可能となっており、少なくとも「点数上の格差」は完全解消されていると言えます。
オンライン診療の推進とは、「患者のニーズがあった場合に、それに安全かつ適切に応える」ことと考えられ、「規制を壊すことが目的」となってはいけないはずです。患者ニーズをしっかりと把握し(どこまでニーズがあるのか)、安全かつ適切に実施されるような仕組みづくりの検討が期待されます。
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