大学病院の勤務医、「自院+兼業・副業先」の時間外労働が1860時間超となるのは2.4%にとどまる—社保審・医療部会(1)
2022.8.17.(水)
大学病院本院において、「自院および兼業・副業先」における時間外労働時間が1860時間を超える医師は全体で2.4%程度にとどまる—。
8月17日に開催された社会保障審議会・医療部会に、こういったデータが報告されました。
同日の医療部会では、ほかに▼感染症対策▼オンライン診療の推進—についても議論が行われており、これらは別稿で報じます。
「信頼できるデータか」との見方と、「医師の考え方・行動が変化している」との見方と
Gem Medで繰り返しお伝えしていますが、2024年4月から、【医師の働き方改革】がスタートします。
この点、地域医療機関の間には「大学病院の勤務医について、▼個々の医師の労働時間を短縮しながら、医療提供体制を確保するためには医師の増員が必要であり、「他の病院に派遣している医師の引きあげ」(派遣ストップ)が生じるのではないか▼兼業先・副業先を含めて960時間・1860時間の上限があるため、自院(大学病院)での勤務を優先させ、兼業・副業の制限が生じるのではないか―」などの強い不安があると指摘されます(関連記事はこちらとこちら)。
このため、「大学病院を含めた病院が、勤務医の働き方をどの程度把握できているのか、宿日直許可を得られているのか」「大学病院は派遣医師の引き上げを行うとしているのか、派遣を受ける病院はその点を確認できているのか」、さらに「地域の医療提供体制確保について責任を負う都道府県は、管下病院の状況などを適切に把握し、必要な支援を行えているのか」などの実態把握が必要となりますが、今年(2022年)6月に報告された調査(4月・5月に実施)では「大学病院や都道府県は、状況把握が十分になされていない」という、少し困った状況が明らかになりました(関連記事はこちら)。
2024年4月の医師働き方改革に向けて残された時間は僅かであり、事態を放置することはできません。このため厚労省は、大学病院や都道府県に「勤務医の働き方改革の実態を早急に、正確する」ように強く働きかけており、今般の医療部会では、以下のような「大学病院本院(82病院)における、1860時間を超える時間外労働をしている勤務医の状況」が報告されました。「自院の勤務状況」については100%の把握が行われ、「兼業先・副業策の勤務状況」については90%の把握が行われており、先の調査に比べて「状況把握が進んでいる」ことが伺えます、。
▽副業・兼業先も含めた時間外・休日労働時間数が年通算1860時間相当超の医師数は1034名で、全勤務医(4万3718名)の2.4%に相当する
▽診療科別に「時間外・休日労働時間数が年通算1860時間相当超の医師」(副業・兼業先も含める)の【数】を見ると、外科(270名)、内科(248名)、産婦人科(150名)で多い
▽診療科別に「時間外・休日労働時間数が年通算1860時間相当超の医師」(副業・兼業先も含める)の【割合】を見ると、産婦人科(7.0%)、脳神経外科(5.8%)、外科(5.1%)で多い
この数字について木戸道子委員(日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)は「学会で把握している数字(1860時間超の時間外労働をする産科医は平均3割程度、少ないところでも15%程度、多いところでは6割程度)と大きくかけ離れている。回答病院の中には、例えば『一定時間を超える時間外労働はカウントしない』などの対応をとっているところがあるのではないか」と指摘。
これに対し、小熊豊委員(全国自治体病院協議会会長)は「木戸委員のような見方もあるが、全自病調査でも1860時間超の時間外労働をする医師は全体の0.1%にとどまっている(関連記事はこちら)。医師個人の『働き方』に関する意識が変わり、行動変容が進んでいるとの見方も可能である。最も重要ななのは医師個人個人の考え方であり、この変容を促すとともに、地域別・診療科別の取り組みにより、医師働き方改革は進められる」とコメントしています。
木戸委員の見方と、小熊委員の見方と「どちらが正しいのか」を判断することは現時点ではできませんが、厚労省担当者は「今後も、継続して実態調査を行う」考えを提示しています。今回は「時間外労働が1860時間を超過する」、つまり2024年4月以降は「違法となる」医師の状況を調査しています。今後は、「時間外労働が960時間(A水準)を超え1860時間以内に収まる」(いわゆるB水準・連携B水準・C水準)医師の状況などを調べていくが予想されます。今後の調査結果に注目が集まります。
このほか医療部会では、▼大学病院の勤務医が安心して副業・兼業が可能なように、地域医療機関は「宿日直許可」の取得を進めている(2次救急病院でも宿日直許可を取得できている)。大学病院サイドも積極的に「連携B」取得に努めてほしい(加納繁照委員:日本医療法人協会会長)▼宿日直許可の取得推進に向けた取り組みを強化していうべき。「医師の働き方改革の推進に関する検討会」へも報告し、状況把握や意見交換を求めるべき(島崎謙治委員:国際医療福祉大学大学院教授)▼勤務医の労働実態について「地域差」「診療科による違い」を詳しく把握していくべき(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)▼医療介護相互確保基金のうち「勤務医の労働時間短縮に向けた体制整備」の執行状況が芳しくない(関連記事はこちら)。基金活用も含めた取り組みを強化・推進していくべきである(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)—といった意見が出ています。
繰り返しになりますが、2024年4月まで本当に時間がありません(2年を切っている)。国・自治体・医療機関・医療従事者・国民のすべてが協力して、医師働き方改革実現(つまり「医師の健康確保」と「地域医療の確保」との両立)に向けて動くことが重要です。
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