高度技能獲得目指すC2水準、事前の特定は困難だが、厳正・適正な審査で乱立・症例分散を防ぐ―医師働き方改革推進検討会
2021.10.15.(金)
医師が高度技能獲得を目指す場合、「短期間に多くの症例を集中的に経験する」必要があるため、どうしても長時間労働となってしまうので、「C2水準」として960時間を超える時間外労働が認められる―。
このC2水準について、スタート当初から「どういった技術・技能が対象となるのか」の限定・特定は困難だが、審査を厳正・適正に行うことで研修プログラムの乱立・症例の分散を防ぐこととする―。
10月14日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、検討会)で、こうした方向が固められました。
今回で医師働き方改革の制度詳細に関する議論は一通り終了しています。今後、厚生労働省で改正医療法(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律)の施行(つまり働き方改革の実施)に向けて、関係政省令等を詰めていくことになります。
C2水準における「高度な技能」、一律に予めて特定・限定することは困難である
Gem Medで繰り返しお伝えしていますが、2024年4月から、【医師の働き方改革】がスタートします。
検討会において▼医師勤務時間短縮計画(時短計画)の作成▼時短計画の評価▼勤務間インターバルや連続勤務時間制限、代償休息の付与方法―などの詳細を詰めてきていますが、最後に「C2水準をどう設定するか」というテーマが積み残しとなっています。
【その他の制度詳細に関する議論】
▽評価センターによる評価の議論はこちらとこちら
▽追加的健康確保措置に関する記事はこちら
▽医師勤務時間短縮計画に関する記事はこちら
▽労務管理、地域医療への影響に関する記事はこちら
C2水準は「我が国の医療水準の維持発展に向けて高度な技能を有する医師を育成することが公益上必要な分野において、当該技能を獲得しようとする医師(医師免許取得後6年目以降)」を対象とするものす。高度技能を獲得するためには、短期間に数多くの症例を経験する必要があり、960時間超1860時間以内の時間外労働を例外的に認めるものです。
これまでに、次のようなC2水準運用の大枠が固められてきています(関連記事はこちらとこちら)。
(α)C2水準の対象となる「分野」を国・別に設置する審査組織が予め指定しておく(どういった技術分野がC2水準の対象になるのかが不明確では、医師サイドが申請しにくい)
↓
(β)都道府県が「高度技能獲得のために必要な体制・設備を有している」などの要件を満たす医療機関をC2指定する(▼特定機能病院▼臨床研究中核病院▼基本領域の学会が認定する専門研修認定医療機関(基幹型のみ)―などは要件を満たすと考えられる(いわば自動指定)。それ以外でも要件を満たす病院はC2指定を受けることが可能)
↓
(γ)「高度な技能獲得を目指す医師」が、自ら、主体的に「高度特定技能育成計画」を作成し、その必要性を所属する医療機関(C2指定を受けていなければならない)に申請する
↓
(δ)申請を受けた医療機関が、計画に必要な業務について審査組織に申請し、承認を受ける
↓
(ε)この承認によって、当該医師について上記36協定が適用され、協定に基づいた業務を実施できる
これまでに(α)の「対象となる分野の限定」に向けて、厚生労働省からは次のような考え方が示されていました(関連記事はこちら)。
(1)「我が国の医療水準の維持発展のために必要な診療領域において、高度な技能を有する医師を育成することが公益上特に必要と認められる医療の分野」とは、日本専門医機構の定める19基本領域とする
(2)C2水準の対象となりえる技能としては、(i)▼我が国の医療水準を維持発展していくために 必要とされる、医学研究や医療技術の進歩により新たに登場した保険未適用の治療・手術技術(先進医療を含む)(ii)「良質かつ安全な医療を提供し続けるために、個々の医師が独立して実施可能なレベルまで修得・維持しておく必要がある」が基本領域の専門医取得段階ではそのレベルまで到達することが困難な技能―とする
(3)技能の修得にやむを得ず長時間労働が必要となる業務としては、(ア)診療の時間帯を選択できない現場でなければ修得できない(イ)同一の患者を同一の医師が継続して対応しなければ修得できない(ウ)その技能に関する手術・処置等が長時間に及ぶ―の1つ以上に該当するものとする
この考え方に対し「特定・限定が十分でない」との批判もありましたが、10月14日の会合では、上記(1)から(3)の考え方が、医学会等の「技能・技術を予め一律に特定することは困難であり、個別の技術申請ごとに審査を行うことが必要である」との見解を踏まえて設定したものであることを厚労省が改めて説明。これ以上の特定・限定が難しいことを踏まえて、この考え方が了承されています。
審査組織による適正・厳正な審査で、C2研修プログラムの乱立を防ぐ
もっとも、「これ以上の限定・特定は困難である」ものの、「広範に過ぎ、有象無象の技術がC2申請され、不適切に『960時間を超える時間外労働に従事する医師』の範囲が広まってしまうのではないか」という危惧もあります。有象無象の技術がC2として数多く認められれば(つまり研修プログラムが乱立すれば)、症例が分散し、個々の研修プログラムで十分な技能獲得ができなくなってしまうという心配の声も依然として小さくありません。
そこで厚労省は今般、「医師サイドから申請されてきた技能・技術の審査」を厳正・適切に行うことで、こうした問題を防止する考えを明確にしました。上述のとおり、勤務医自ら研修プログラム(技能研修計画)を作成して申請し、今後設置される審査組織で、当該計画の妥当性(技術の水準なども含めて)・医療機関の体制などを審査し、「C2水準の研修プログラムとして妥当か否か」を判断します。大きくは次のような枠組みで、今後、省内でさらに精緻化・明確化し、「適切な審査を行う体制・ルール」に仕上げられていきます。
▽審査組織には、▼研修計画、医療機関の体制を審査する審査委員会▼全体を統括して、C2技能の考え方(上述の(1)-(3))の見直しなどを行う委員会―を設置するとともに、厚労省と密接な連携とる(公正・公平な審査体制を確保する)
▽審査は「複数の異なる分野の学術団体」からの技術的助言を受けて実施する(ある技術の高度先進性などを、例えば外科系学会・内科系学会の異なる視点で審査することで、公正性・公平性を担保する)
▽上記(γ)(δ)にある「医師が提出する技能研修計画」では、▼計画期間▼経験を行う分野▼修得予定の技能▼経験予定症例数▼手術数▼指導者・医療機関の状況▼研修・学会・論文発表など学術活動の予定―などの記載を必須とする(不適切な申請にブレーキをかける)
▽上記(δ)にある「医療機関による申請」の様式の中で「技能を効率的に修得することが可能である」旨が明らかとなるよう、「学会等の定める施設認定の所有状況」の記載を求める(施設認定を有していない場合は、 施設認定に相当する、あるいはそれ以上の教育研修環境(例:当該技能の症例数、指導体制)を有することを示す情報の記載を求める)(適切な研修体制が整っている医療機関でのみC2研修プログラムを実施できることとする)
予め技能・技術を絞り切ることはできないものの、審査段階で不適切な申請を排除することで、研修プログラムを適正なものに限定・特定し、研修の質の担保を目指す考え方です。構成員は、この考え方を「現実的である」として了承したうえで、例えば次のような点に留意し「審査が公正・公平に行われる」ような運用を心がけてほしいと厚労省に要望しています。
▽C2水準に向けた研修プログラムの申請を行う医師が「相談」できるような窓口を審査組織などに設けるべき(島崎謙治構成員:国際医療福祉大学大学院教授)。さらに一歩進めて審査組織サイドが「医師から意見聴取する仕組み」も検討すべき(鈴木幸雄構成員:横浜市立大学医学部産婦人科客員研究員)
▽C2水準とB水準との重複など不適切な運用や拡大解釈が行われないよう、医療機関等に制度の趣旨考え方などをしっかり周知してほしい(岡留健一郎構成員:日本病院会副会長、片岡仁美構成員:岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授)
また、運用が適切に行われているのかなどを確認するために、検討会で「定期的な運用状況チェックを行う」方針も了承されました。
この点、C2水準の対象となる「高度な技能」については来年(2022年)4月から実際の特定・限定がスタートします(早めに特定・限定されていなければ、医師が技能研修計画の作成などを行えないため)。厚労省は、実際の特定・限定が始まる前のしかるべき時期(2021年度中)に、「まず、審査のフレームや模擬審査などの状況を検討会に報告する」考えを示しています。
なお、審査組織による審査の基準について、厚労省は「原則は絶対評価となるであろうが、相対評価の考えを加味する必要があるケースも出てくるかもしれない。今後、詳細を詰めていく」考えも示しています。絶対評価とは、例えばX医師からC2水準に向けた研修プログラムが申請された際、「一定の要件を満たすことが確認されればC2の認可を行う」という仕組みと言えます。この絶対評価の考え方がC2審査・認可のベースとなります。
しかし、例えば同じ技術について多くの医師が同時に申請を行った場合、すべての申請について「要件を満たしているので認可する」としたのであれば、研修プログラムが増えすぎ、症例を確保できず、技能獲得が困難になる、というケースが出てくるかもしれません。こうした場合、何らかの相対評価基準を導入し、申請のうち上位のみを認可するという考え方を導入する必要も出てくる可能性があるのです。
もっとも、「仮定を置いて審査・認可の基準を事細かに設定する」ことは極めて難しく、実事例を積み重ねながら検討していくよりなさそうです。こうした点についても今後、厚労省で詰めていくことになるでしょう。
冒頭に述べたとおり、検討会での制度詳細論議は今回で一通り終了。厚労省で今後、医師働き方改革の施行に向けた準備(政省令の制定や関連通知の発出など)が進められます。
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