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2018年の【緊急的な取り組み】で超長時間労働の医師はやや減少、残業1920時間以上は8.5%に―厚労省

2020.8.3.(月)

厚生労働省は、今後の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、新検討)の議論に供するため、7月31日に▼令和元年医師の勤務実態調査▼医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査―結果を公表しました(厚労省のサイトはこちら)。

本稿では、前者の「令和元年医師の勤務実態調査」結果に焦点を合わせてみます(地域医療への影響に関する調査は別稿でお伝えします)。そこからは2018年2月に厚生労働省が全医療機関に求めた、医師の働き方改革に関する【緊急的な取り組み】によって医師の労働時間が「平準化」し、超長時間労働を行っている医師はやや減少していることが分かりました。

1920時間以上の時間外労働をする医師は2016年の9.7%から「8.5%」に減少したが・・・

2024年4月から、すべての勤務医に新たな時間外労働の上限規制が適用されます。原則として「年間960時間以下」が上限となりますが【いわゆるA水準】、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関【いわゆるB水準】や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師【いわゆるC水準】では、「年間1860時間以下」までに上限が緩和されます。

ただし、一般則と比べて「多くの医師が長時間労働に携わらなければならない」状況そのものは変わっておらず、医療機関の管理者は次のような追加的健康確保措置を講じなければなりません。

【追加的健康確保措置】
長時間労働に携わる医師の健康・生命を維持するために、次のような措置を各医療機関に義務付け、毎年の立入検査で履行を担保する
(1)追加的健康確保措置1:B水準・C水準医療機関で月960時間を超える時間外労働を行う勤務医について「28時間までの連続勤務時間制限」「9時間以上の勤務間インターバル」「代償休息」を義務とし、A水準医療機関の勤務医、およびB・C水準医療機関で月960時間までの時間外労働となる勤務医ではこれらを努力義務とする

(2)追加的健康確保措置2:月の時間外労働が100時間以上となる勤務医については産業医等が「面接指導」を行い、必要に応じて就業上の措置を行うことを義務とする(前月の労働が80時間を超えた場合、翌月に100時間以上となることを見越して面接指導の準備等を行う)



こうした「B・C水準医療機関の指定」や「追加的健康確保措置」などの詳細については、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」で議論が進められています(現在、新型コロナウイルス感染症の影響により、議論が一時中断しているが、近く再開される見込み、関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。



ところで、B・C水準の時間外労働上限となる「1860時間」は、2016年に実施された「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(通称、10万人調査)において、▼勤務医の10%程度が「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」の2倍となる年間1920時間を超えて労働を行っている▼さらに1.8%の勤務医は、「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」の3倍となる年間2880時間超の労働を行っている―というデータを踏まえ、「まず上位10%を超過重労働から解放し(つまり上限を上位10%程度に規定し)、健康確保に努める必要がある」との考えに基づいて設定されました。

ただし、「医師の働き方改革に関する検討会」(旧検討会)においては、「2024年4月を待たずに、可能な部分については医師の働き方改革を現時点から進める必要がある」との見解がまとまりまっています。例えば、すべての医療機関において(1)他職種への業務移管の推進(2)女性医師のライフイベントを踏まえた支援(3)勤務医の在院時間の客観的な把握(4)職員を週40時間以上労働させる協定(36協定)の自己点検(5)職員が健康で働き続けられる職場づくりのための既存の仕組みの活用―を進めることとされ、(1)の「業務移管の推進」に関しては、▼初療時の予診▼検査手順の説明や入院の説明▼薬の説明や服薬の指導▼静脈採血▼静脈注射▼静脈ラインの確保▼尿道カテーテルの留置(患者の性別を問わない)▼診断書等の入力(医師の確認が必要)▼患者の移動―の9つの業務を、看護師や事務職員に原則移管すべきことなどとされました(2018年2月、【緊急的な取り組み】)。



この点、新検討会では、主に労働組合代表者として参画する構成員から、「B・C水準の上限となる1860時間でも、非常に長時間の時間外労働を認めることとなっている。【緊急的な取り組み】の実施により医療現場の労働時間は10万人調査時点よりも短くなっているのではないか。あらたな実施調査を行い、その結果を踏まえてB・C水準の上限時間見直しを検討し直す必要があるのではないか」との指摘が出ていました。

厚労省は、この指摘も踏まえて新たに「医師の勤務実態調査」(新10万人調査)を昨年(2019年)9月に実施。3967施設・2万382名から回答が得られ、そこから分析に耐えられる「週4日以上の勤務実態を回答したもの」など8937名分の回答を選別し(2016年の10万人調査では1万5677件が分析対象)、詳細な分析を行っています。医師の9割以上が回答している「2018年の医師・歯科医師・薬剤師調査」(三師調査)結果と比べて、▼男女比は同程度▼年齢構成は、20・30代が少なく、40代が多い▼内科・臨床研修医で回答が少ない、皮膚科・麻酔科の回答が多い―などの特徴があります。

調査結果からは、病院に常勤で勤務する医師の週労働時間は、次のような状況となっていることが分かりました。

▽週40時間未満:13.7%(2016年の10万人調査では16.1%なので、2.4ポイント減少)
▽週40-50時間:22.3%(同21.0%で、1.3ポイント増加)
▽週50-60時間:26.3%(同23.7%で、2.6ポイント増加)
▽週60-70時間:18.9%(同18.4%で、0.5ポイント増加)
▽週70-80時間:10.4%(同21.0%で、0.7ポイント減少)
▽週80-90時間:5.0%(同5.6%で、0.6ポイント減少)
▽週90-100時間:2.3%(同2.5%で、0.2ポイント減少)
▽週100時間以上:1.2%(同1.6%で、0.4ポイント減少)

2016年の10万人調査時点と比べて、▼超長時間労働が減少している▼短時間労働が減少している―ことが分かります。

また超過重労働となっている上位10%は、2016年の10万人調査では「1904時間」でしたが、今回の調査では「1824時間」に減少しています。また「週80時間以上」の労働は、時間外労働に換算すると「1920時間以上」となりますが、こうした超長時間の時間外労働を行っている医師の割合は、2016年の10万人調査では「9.7%」いましたが、今回調査では「8.5%」と1.2ポイント減少しています。

これらの背景には、上述の【緊急的な取り組み】を全国の病院が実施した結果、「平準化」(長時間労働者から短時間労働者への業務シフトなど)が進んだと考えることができるでしょう。

医師の労働時間は、緊急的取り組みを背景に「短縮」している(令和元年医師勤務実態調査 200731)



今後、今回のデータを踏まえて、新検討会において「B・C水準の上限となる1860時間の妥当性」が検討されることになります。「上位10%の数字が減少しており、B・C水準の上限はより短時間とすべき」と判断されるのか、「確かに上位10%の数字は減少しているが、B・C水準上限を見直す必要まではない」と判断されるのか、今後の状況を注意深く見守る必要があります。

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