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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

勤務医の年間時間外労働上限、一般病院では960時間、救急病院等では2000時間としてはどうか―医師働き方改革検討会

2019.1.15.(火)

 2024年4月から、勤務医の時間外労働上限時間を「年960時間・月100時間未満」とするが、地域医療の確保を踏まえ、対象を限定した特例として「1900-2000時間程度以内」と設定する。これにより、現在の「勤務医の10.5%が1920時間を超える時間外労働を行っている」状況を改善する―。

1月11日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)で、厚生労働省からこういった提案が行われました。

労働組合代表の構成員は反対していますが、病院経営者サイドはもとより、勤務医サイドからも「現実的な提案だ」との高く評価する声が数多く出されています。

1月11日に開催された、「第16回 医師の働き方改革に関する検討会」

1月11日に開催された、「第16回 医師の働き方改革に関する検討会」

 

まず「超過重労働をしている勤務医」の労働時間を、2024年3月までに短縮

勤務医の時間外労働上限については、医療の特殊性(不確実性・公共性・高度の専門性・技術革新と水準向上)に鑑み、一般労働者の上限(平日:月45時間・年360時間まで、臨時的な必要がある場合:年6か月に限り休日込みで月100時間かつ年720時間まで)とは異なる、次のような規定としてはどうかとの議論が検討会で進んでいます(関連記事はこちら)。

(A)勤務医に適用される上限を設定する(ただし、▼連続勤務時間制限▼勤務間インターバル確保―などの追加的健康確保措置1を努力義務とし、上限超過勤務医に対する▼医師による面接指導▼面接結果を踏まえた就業上の措置(ドクターストップ)—などの追加的健康確保措置2を義務とする)

(B)医師養成には10年程度の時間が必要で、すぐに「全医療機関でA水準とする」ことは地域医療確保が困難になることから、Aを超える上限を対象医療機関を限定して設定する(ただし、上述の追加的健康確保措置1・2のいずれも義務とする)

(C)「将来にわたる我が国の医療水準の維持・向上」のために、研修医や若手医師を対象とするAを超える上限を、対象医療機関を限定・特定し、かつ勤務医本人の申請を基に設定する(ただし、上述の追加的健康確保措置1・2のいずれも義務とする)
 
 1月11日の検討会では、A・Bの上限、および追加的健康確保措置1・2について厚労省から具体案が示され、これに基づいた議論を中心に行いました。
医師働き方改革検討会2 190111
 
 まず(A)については、「診療従事勤務医に2024年度以降適用される水準」として、「休日込みで年960時間・月100時間未満」とする考えが提示されました。

年960時間を単純に12か月で除せば「1か月当たり80時間」に、さらに4週間で除せば「1週間20時間」の時間外労働となります。例えば週に1度、労働に該当する日当直を行えば、それだけで「時間外労働が15時間」となり、当該週の他の勤務日に可能な時間外労働は「合計5時間」にとどまることになります(1日1時間程度)。
医師働き方改革検討会3 190111
 
 
また(B)については、「地域医療確保暫定特例水準」として、「休日込みで年間1900-2000時間程度以内」とする考えも提示されました。(B)水準を採用できる医療機関は、都道府県が特定することととなり、例えば、医師の労働時間短縮等を進めても(A)水準実現が困難な、▼救急医療・在宅医療提供体制のうち「特に予見不可能で緊急性の高い医療ニーズ」に対応するためのもの(2次・3次救急など)▼5疾病(がん、脳卒中、心血管疾患、糖尿病、精神疾患)・5事業(救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児医療)▼特に専門的な知識・技術や高度かつ継続的な疾病治療・管理が求められ、代替困難な医療機関(高度のがん治療、移植医療、児童精神科など)―を提供する病院が考えられます。

(A)と同じように考えると、「1週間40時間程度」の時間外労働となり、例えば、週に1度、労働に該当する日当直を行う(かつ当直明けは昼まで勤務)とともに、他の勤務日に各4時間程度の時間外労働を行う、というイメージです。
医師働き方改革検討会4 190111

もちろん、この(A)(B)の水準は「上限」であり、地域医療で重要な役割を果たす病院において、全勤務医が「2000時間の時間外労働を強いられる」わけではありません。現在、10.5%の勤務医が、「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」の2倍となる年間1920時間を超えて労働を行っている(さらに1.8%の勤務医は、「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」の3倍となる年間2880時間超)実態がありますが、こうした超過重労働を、「まず2024年度までに(B)の水準」にまで抑えることが第1目標と言えます。さらに厚労省は、医師の働き方改革(タスクシフティングやマネジメント改革など)を進め、「暫定特例水準の時間(1900-2000時間)は段階的に引き下げていく」「2035年度(2036年3月末)までに、暫定特例水準を廃止する」(つまり、少なくとも勤務医の時間外労働時間は研修医等を除き年間960時間までとする)との考えも示しています。
医師働き方改革検討会1 190111

勤務医の4割は年間960時間超の、10.5%は1920時間超の、1.8%は2880時間超の過重労働をしている

勤務医の4割は年間960時間超の、10.5%は1920時間超の、1.8%は2880時間超の過重労働をしている

医師働き方改革検討会5 190111
 

厚労省案に救急医も「現実的」と高い評価、ただし医療機関の集約化等が必要

この提案について、労働組合代表の立場で参画する村上陽子構成員(日本労働組合総連合会総合労働局長)や森本正宏構成員(全日本自治団体労働組合総合労働局長)は、「そもそもABCの骨格そのものにも問題がある」「2000時間とは、一般の労働者2人分超の労働であることを十分に認識すべきである」「年2000時間は月160時間程度に相当し、いつ労働災害が発生してもおかしくない水準であることを十分に踏まえる必要がある」点を強調し、厚労省の提案に反対しています。

一方、医療提供サイドから参画する委員は、経営者(院長等)はもちろん、救急現場等で尽力する勤務医からも「現実的である」との高い評価が出ています。

例えば岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)は、(B)の「1900-2000時間」について、「米国の研修医程度であり、一定の安全性が確保されていると考えることができる」「今後、5年間に働き方改革を進め、なんとか実現できるのではないか」と見通しました。

また救急医療に従事する赤星昂己構成員(東京女子医科大学東医療センター救急医)は「年間2000時間という数字のみを見ると長いようにも思えるが、実際の勤務形態に落とし込めば『短い。逆に実現可能なのか』と感じる。妥当な提案ではないか」とコメント。また同じく臨床に従事する三島千明構成員(青葉アーバンクリニック総合診療医)も「研修医はB水準よりも長時間労働をしており、勤務間インターバルなどを組み合わせた良い提案である」と高く評価しました。

  
ただし、赤星構成員は「B水準を実現するためには、医療資源の集約(例えば病院の再編・統合など)が必須となる」、岡留構成員は「2036年3月でのB水準廃止は、医療現場の状況などを調査し、改めての議論が必要である」などの注文も付いています。このうち「医療資源の集約化」については、「検討会のとりまとめ骨子案」に向けた議論においても山本修一構成員(千葉大学医学部附属病院院長)らから、その必要性が強く指摘されています。

地域医療構想の実現に向けた議論が進められ、そこでも「医療資源の集約化」(病院の再編・統合など)が進んでおり、今後の極めて重要なキーワードになることでしょう。

長時間労働となる医師の健康を確保するための「追加措置」を準備

ところで、(A)の「勤務医全体の水準」でも時間外労働上限は一般労働者よりも長く設定います。このため、上述のように「追加的健康確保措置1・2」が努力義務化・義務化されます。村上・森本両構成員の指摘するように「健康」確保が極めて重要となるのです。

これまでに、追加的健康確保措置1に関しては、例えば▼連続勤務時間は28時間以内▼勤務間インターバルは9時間(日当直明けは18時間)―などといった案が厚労省から示され、これらをベースに議論が進められています(関連記事はこちら)。

また追加的健康確保措置2は、例えばA対象医療機関(年960時間・月100時間)でも、緊急手術などで「月100時間を超える時間外労働が緊急的に生じる」ことがあります。またB対象医療機関では、長時間労働が発生しやすいため、医師の健康を確保するために「産業医等が当該医師に面談を行い、必要な対策(例えば就労の一時的停止など)をとる」などといった仕組みです。ただし、「時間外労働が月100時間を超過した」、その時点で確実に面談を行うことを求めるのは非現実的です。今後、▼ICT等を活用した勤務医の精神・肉体の健康状態モニタリング▼面接を行う医師の第三者性(当該医療機関からの独立性)確保▼健康確保措置が確実に実施されるような支援策―などを検討することになります。

 
 なお、こうした労働時間の短縮を進めるためには、「医師から他職種へのタスクシフティング」などが重要になります。この点に関連して、戎初代構成員(東京ベイ・浦安市川医療センター集中ケア認定看護師)や中島由美子構成員(恒貴会訪問看護ステーション愛美園所長)らから、改めて「ナースプラクティショナー制度の創設」が提案されました。特定行為研修を修了した看護師と異なり、「医師等の包括的指示」を受けずに、自身の判断で一定の医行為を実施できる看護師を育成せよとの提案です。

ナースプラクティショナー制度の「検討」は、医師の働き方改革に向けて非常に重要であり、この点に反対する構成員は皆無です。ただし、「時間外労働の上限」設定や「追加的健康確保措置」とは性質の異なる議論であり、検討会の議論がややぶれてしまうのは非常に残念でもあります。検討の場を変えて、改めて議論することが必要でしょう。

   
 
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