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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

医療現場の窮状、国民にどう周知し、理解してもらうかが重要な鍵―厚労省・上手な医療のかかり方広める懇談会

2018.10.23.(火)

 救急医療をはじめ、我が国の医療は、限られた医療スタッフが、極めて多忙な業務を行うことで提供されている。このため、例えば、不要不急の時間外受診などは控えてもらいたい。時間外受診は、患者負担も高く、医師・患者の双方にとってデメリットも大きい―。

 10月22日に開催された「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」(以下、懇談会)では、こうした点について構成員間で情報を共有。その上で、今後「そういった医療の窮状を、国民にどう周知し、認識してもらうか」という方策などを検討していくことになります(関連記事はこちら)。

10月22日に開催された「第2回 上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」

10月22日に開催された「第2回 上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」

 

不要不急な時間外の受診は、医療スタッフだけでなく患者にもデメリット

「医師の働き方改革」に向けた検討が進められていますが、そこでは「患者側にも医療のかかり方について、しっかり考えてもらう必要がある」との議論もなされています。どれほど医師の時間外労働規制を行おうとも、医師の業務を他職種に移管しようとも、患者・国民側が「医療機関が空いている夜間や休日に受診しよう」などと考えていたのでは、医師は永遠に過重労働から解放されないからです(関連記事はこちら)。

10月22日の懇談会では、「救急医療がどれほど大変なのか」について、実際に救急医療現場で働く医師・赤星昂己参考人(東京女子医科大学東医療センター救急医)から説明が行われました。

女子医大東医療センター(東京都荒川区)の救命救急センター(急性心筋梗塞や脳卒中などの重篤な救急患者に対応する三次救急医療機関)では、年間1万1563件の救急患者に「わずか8人」の医師で対応しており、極めて多忙な状況です。しかし、救急搬送される患者の中には、「暑かったので、熱中症にならないかと心配となった」という、本来は救急医療が必要とは思われない患者も少なくありません。

救急搬送に限らず、不要不急の時間外診療には、▼医師をはじめとする医療スタッフの多忙さが増す▼医療事故の発生リスクが高まる(限度を超えた多忙は、どうしても注意力を低下させる)▼患者の負担が増す(時間外加算などの費用面、後日の外来受診の時間面など)▼本当に救急医療等が必要な患者のアクセスを阻害する―といったさまざまな問題があります。赤星参考人は、「今でも救急医療の維持はギリギリである」とし、不要不急の時間外診療の抑制を求めています。

こうした状況は医療関係者の中では、いわば「常識」とも思われますが、構成員にとっては「新鮮かつ驚愕の事実」でもあったようです。デーモン閣下構成員(アーティスト)は、「こうした状況が、日本全国の救急医療機関で同様であるとすれば、我が国の医療は危機に瀕していると言わざるを得ない。医療の窮状をまず、国民に周知し、認識してもらうことが必要ではないか」と強調しました。

ただし、「国民にどう訴えるか」は非常に難しいテーマです。佐藤尚之構成員(ツナグ代表取締役)からは「赤星参考人のような若手医師の生の声を無料動画サイトなどに投稿してはどうか」、阿真京子構成員(知ろう小児医療守ろう子ども達の会代表理事)は「患者にも負担増などのデメリットがあることを周知することが重要」といった具体的な提案も出されましたが、本当に見てほしい層(例えば救急車をタクシー代わりに利用するような人々)に、どこまで届くかとなると、難しい面もありそうです。

とはいえ、「難しい」と手を拱いていては何も変わりません。赤星参考人は、「我が国の救急車は世界でも有数の速さで現場・医療機関に到着するが、それは社会全体で『救急車を優先しよう』という心遣いが働いているから」と述べ、社会全体で「不要不急の時間外受診はやめよう」という風土が生まれることに期待を寄せました(東京だけかもしませんが、最近では救急車を優先させない人も増えてきています)。

医療情報のお墨付きサイト、誰が費用を負担し、誰が運用していくか

 不要不急の時間外受診を抑制するために重要なツールの1つとして、国と各都道府県が実施する「子ども医療電話相談事業(#8000)」と「救急相談センター(#7119)」があります。

デーモン閣下構成員や豊田郁子構成員(患者・家族と医療をつなぐ特定非営利活動法人架け橋理事)は、「地域によっては#7119が十分に運用されていないところもあると聞く。全国での十分な運用と、その周知を、医療の窮状のPRと併せて実施していく必要がある」と改めて訴えています。

また、#7119等利用者の7割は、「今、診療してくれる医療機関を教えてほしい」との問い合わせをするといいます。このため、大阪で実施されているような「医療機関検索アプリ」などを開発してはどうか、との提案もなされましたが、これは「119番通報を減らす」効果はあっても、「不要不急の時間外診療を減らす」効果となると疑問符が付くため、取り組みの優先順位はやや低そうです。

また、10月5日の前回会合でも複数の委員から提唱された「ここに行けば正しい医療情報が入手できる」という、いわば国のお墨付きサイト構築についても議題に上がりました。「正しい医療情報」提供という方向性そのものに反対する構成員はいませんが、「費用負担をどうするのか」「誰が運用するのか」「どのような規模・内容で展開するのか」という各論について妙案は出ていません。

メディ・ウォッチでもお伝えしましたが、「構築時には関係者が盛り上がるが、徐々に熱が冷めていき、放置されたウェブサイトになってしまう」事例には枚挙にいとまがありません。例えば「基本的な情報と、最新の情報を随時更新していく必要がある」(阿真構成員)という要請があります。間違いなく魅力的なサイトになると思われますが、「その運用を、誰が、どういった費用を用いて行うのか」という大きな課題が生じます。この点、渋谷健司座長(東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授)は、「公共財と考え、公費を投入するという考え方もある」とコメントしました。

ちなみに、厚生労働省医政局では来年度(2019年度)予算概算要求の中で「適切な医療のかかり方について国民の理解を促進するためのウェブサイト構築、イベント開催等」の経費(4400万円)を計上しています(厚労省のサイトはこちら)。今後の懇談会の議論次第で、この経費を活用したサイト構築の検討なども行われる可能性がありそうです。

チーム医療を患者・国民にも理解してもらうため、職種と業務内容をイラスト化しては

 なお10月22日の懇談会では、裵英洙構成員(ハイズ株式会社代表取締役社長)から、チーム医療の推進に関する意見発表も行われました。

 冒頭に述べたとおり、「医師の働き方改革」が重要となっており(懇談会の議論もそこに結びつく)、その中では「医師でなくとも実施可能な業務を他職種に移管する(タスク・シフティング)」ことが検討されており、それを患者・国民も認識・理解・認容する必要があります。裵構成員は、「なんでも医師にお願いする」という姿勢から、「この業務は医師にお願いし、そうでない部分は他職種に依頼する」などといった意識変容の必要性を訴えています。

例えば、一定の研修(特定行為研修)を修了した看護師が、医師・歯科医師の包括的指示の下で一定の医療行為(特定行為)を実施可能とする仕組みが稼働しており、さらなる発展等が期待されますが、構成員からは「医療現場にはどういったスタッフがいて、どういう業務を行っているのかをイラスト化したようなものがあると、国民・患者に分かりやすいのではないか」といった提案もなされています。
上手な医療のかかり方懇談会1 181022
上手な医療のかかり方懇談会2  181022

 
 
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