医師働き方改革論議が骨子案に向けて白熱、近く時間外労働上限の具体案も提示―医師働き方改革検討会
2018.12.20.(木)
医師の働き方改革に向けた議論が、終盤に入ってきました。
これまでに、医師の長時間労働の実態が明らかにされ、医師を守り、ひいては医療を守るために「働き方改革」が急務であることをまず確認。その上で、「時間外労働の上限」をどう設定するかにとどまらず、▼医師でなくとも実施可能な業務の他職種への移管(タスク・シフティング)▼医療機関内のマネジメント改革▼医療提供体制の機能分化等の推進▼当直許可基準の現代版への見直し▼労働と研鑽との切り分けと適切な運用の確保▼応召義務の考え方の整理―などを行う考えを明らかにしています。
また、「時間外労働の上限」については、厚生労働省から議論のたたき台となる提案(後述)がなされ、徐々に「取りまとめ」に向けた段階に入ってきています。
そうした中で12月19日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)では、これまでの議論に沿った「取りまとめ」骨子案のたたき台が示され、これに基づいた議論を行いました。ただし、意見の隔たりが大きな部分も多々あり、議論の中で火花が飛ぶ場面もあります。取りまとめには、まだ時間がかかるでしょう(2018年度内、つまり来年(2019年)3月までに取りまとめを行う)。
医師の働きか改革には、国民の意識・行動変容も不可欠
前述したとおり、検討会では、まず「医師の働き方改革がなぜ必要なのか」という点について、「医師の労働時間は飛び抜けて長く、医師の健康・生命の確保、医療の質・安全の確保のために改革が必要不可欠である」点を確認しています。
さらに、ここでは「医療の受け手」、つまり患者も、適切な医療のかかり方を学んでいくことの必要性も指摘されています。患者が、当たり前のように時間外や休日に受診したり、あらゆる事項の説明を医師に求めたりすることを続けていては、医師が過重労働から解放されることはないためです。
この点について、「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」が、「『いのちをまもり、医療をまもる』国民プロジェクト宣言!」をまとめ、例えば、患者・家族の不安(不安であるがゆえに夜間等に受診してしまう側面がある)を解消することを最優先課題として取り組むよう、国・医療者・民間企業・一般国民のすべてにメッセージを発信したことが、懇談会の座長も務めた渋谷健司副座長(東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授)から報告されました(関連記事はこちら)。
タスク・シフティングやマネジメント改革、実効性をどう持たせるか
医師の長時間労働を是正・解消していくためには、「時間外労働に規制を設ける」(上限設定)のだけでは足りません。上述したように、▼タスク・シフティング▼院内マネジメント改革―などを併せて、「実際の労働時間を減らしていく」取り組みをしなければ、時間外労働規制は画餅に帰してしまいます。
タスク・シフティングの一環として「看護師の特定行為研修」制度があり、さらなる推進に向けた「パッケージ化」などが行われます(関連記事はこちら)。これに対する反論はありませんが、「医師の多忙さが切羽詰まっている」状況を打開するために、より強力な方策(例えば、医師の指示を待たずに一定の医療行為を実施できる「ナース・プラクティショナー」、NP制度の創設など)を求める声も少なくありません。
この点について、前回同様に、戎初代構成員(東京ベイ・浦安市川医療センター集中ケア認定看護師)や中島由美子構成員(恒貴会訪問看護ステーション愛美園所長)らから「NP制度創設に向けた検討の必要性」を強調する意見が出る一方、限られた期限の中で議論の拡散を避けるために、まず「既存の特定行為研修制度の見直し」推進を行うべきとの今村聡構成員(日本医師会副会長)らとで意見が対立しました。両者の意見は、同じ方向を向いているようにも思えまずが、背後には他の要素も絡んでおり、調整にはまだ時間がかかりそうです。
ただし渋谷副座長は、「救急医療をはじめとして、勤務医の負担が限界を超えており、このままでは間違いなく医療は崩壊する」という若手医師(例えば、赤星昂己構成員:東京女子医科大学東医療センター救急医)の声に耳を傾け、さまざまな改善方策を総合的に実行する必要があると指摘し、NP制度創設なども積極的に検討していくべきと強調しています。また赤星構成員は「働き方改革の議論が始まり1年以上が経つが、医療現場は何も変わっていない」とも指摘しており、渋谷副座長は「若手医師が失望しないような方策を打ち出さなければならない。時間が限られているからといって、片手落ちの取りまとめを行うことは許されない」と極めて強い調子で訴えています。
またマネジメント改革について今村委員は、「トップである管理者(院長等)が変わらなければ、どのような仕組みを設けても医療現場は変わらない」点を強調し、「トップの意識変革」を進める仕組みの検討をさらにしなければならないと提案しています。この点については、大学病院のトップである山本修一構成員(千葉大学医学部附属病院院長)も強く賛同。さらに山本構成員は、「改革に当たり、医療機関の経営を無視することはできない」とし、「働き方改革」と「地域医療確保」とのバランスをとった議論を要請しています。
時間外労働上限には依然として賛否両論、近く厚労省が具体案を提示
さらに検討会では、「時間外労働の規制」についても具体的な議論を始めています。厚労省からは、すでに次のような考え方が提案されています(関連記事はこちらとこちら)。
(A)医療の▼不確実性(患者は個別性が高く予見不可能な状態変化も少なくない)▼公共性▼高度の専門性▼技術革新と水準の向上―という特殊性に鑑み、まず2024年度から「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」をも考慮した「年間の時間外労働上限」(上限を超過した労働を課した場合、事業主には罰則が科される)と「月間の時間外労働上限」を設定する
(B)地域医療確保のため、対象医療機関を限定・特定した上で、(A)の水準を超える時間外労働(年間・月間)を可能とする
(C)我が国の医療水準の維持・向上のため、特に若手医師が短期間に集中的に多くの症例を経験することを可能とするために、「医療機関を限定・特定する」「本人の申し出に基づく」場合には、(A)を超える時間外労働を認める
さらに医師の健康を確保するために、次の【追加的健康確保措置】を(A)-(C)の要件としてはどうか、との提案もなされています。
【追加的健康確保措置(その1)】
「連続勤務時間制限を28時間以内とする」「9時間以上(当直明けは18時間以上)の勤務間インターバルを確保する」ことを、(A)の医療機関では「努力義務」化、(B)(C)の医療機関では「義務」化する
【追加的健康確保措置(その2)】
(A)から(C)のすべての医療機関において、「月間の時間外労働上限」を超過した労働が生じる場合には、▼医師による面接指導▼面接結果を踏まえた就業上の措置(ドクターストップ)—などを行う
この考え方に対しては、まさに賛否両論が入り乱れています。例えば、労働組合の代表者である村上陽子構成員(日本労働組合総連合会総合労働局長)や森本正宏構成員(全日本自治団体労働組合総合労働局長)は「(A)の目指すべき水準ですら、過労死の恐れがあり、さらにそれを超える(B)(C)の水準は容認できない」旨を主張。また「28時間の連続勤務時間制限」や「9時間の勤務時間インターバル」などに対しては、「地域医療の確保」「医療機関経営の維持」という面から「将来の目標値としては妥当だが、現時点では非現実的である」旨が医療提供者サイドからコメントされています。
12月19日の検討会でも、同様に賛否両論が出ています。この背景には「(A)(B)(C)の上限が具体的に何時間なのか」が示されていないこともありそうです。厚労省は近く、時間設定のたたき台となる素案を提示すべく、準備を進めています。
ところで、上述したタスクシフトなどの勤務時間短縮や面接などの追加的健康確保措置は、医療機関によっては「単独での実施」が困難ケースも少なくないでしょう。このため検討会では、「第三者機関による支援」の必要を訴える声も出ています。今村構成員は「病院管理者も孤独であるケースが多く、何をすればよいか分からないことも少なくない」とし、第三者機関からの情報提供やサポートの必要性を説いています。」
なお、すでに各都道府県には、医療機関に対しスタッフの勤務環境改善をサポートする「勤務環境改善支援センター」が設置されていますが、今村構成員らは実効性に疑問を呈し、▼機能強化▼財源確保―を強く求めています。この勤務環境改善支援センターが、上述の第三者機関となるのか(兼ねるのか)なども、今後の重要な検討テーマの一つとなるでしょう。
検討会では、こうした意見を踏まえて「骨子案たたき台」を、近く「骨子案」へとブラッシュアップさせ、さらに最終的な詰めの議論を行いながら、今年度内(2018年度内)に「取りまとめ」を行う考えです。前述したように、具体的な「時間外労働の上限」について近く厚労省が示されることから、議論はさらに熱を帯びてくることでしょう。
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