感染管理など、特定看護師配置を診療報酬算定の要件にできないか検討を—神野・全日病副会長
2017.6.27.(火)
「特定行為に係る看護師の研修制度」の推進を急ぐのであれば、そろそろ診療報酬上の評価を検討する必要がある。施設基準で認定看護師や専門看護師の配置が要件とされている診療報酬項目について、「特定行為研修を修了した看護師(以下、特定看護師)の配置でも同等に扱う」という見直しを行うべきではないか—。
26日に開催された医道審議会・保健師助産師看護師分科会の「看護師特定行為・研修部会」で神野正博委員(全日本病院協会副会長)はこのように提案しました。部会終了後に神野委員は、メディ・ウォッチに対し「2018年度の次期診療報酬改定に向けて『感染管理や褥瘡処置などで特定看護師配置を要件とすべき』との要望ができないか検討するよう担当者に指示している」ことを明らかにしています。
目次
病院団体などが特定行為研修制度の実務を一部引き受け、指定研修機関の負担を軽減
一定の研修(特定行為に係る研修、以下、特定行為研修)を受けた看護師は、医師・歯科医師の包括的指示の下で手順書に基づいて38の診療の補助(特定行為)を実施することが可能になります(関連記事はこちらとこちらとこちら)。しかし2014年の制度施行から3年近く経つものの、特定行為研修を行う指定研修機関は25都道府県に40機関しか設置されていません(2017年3月末時点)。 これでは「就業しながら、身近な施設で研修を受ける」ことは難しく、特定看護師養成に向けたハードルの1つとなっています。
そこで厚生労働省は、特定看護師の計画的な確保に向けて、取り急ぎ次の3つの方策をとることを26日の部会に提案しました。提案内容そのものに異論は出されておらず、厚労省医政局看護課の島田陽子課長は、関係省令の改正などを行うことを明確にしました(今夏から今秋には改正が行われる見込み)。
(1) 指定研修機関が行わなければならない▼特定行為研修修了証の交付▼特定看護師の名簿の厚生労働大臣への提出▼記録の保存▼指定申請および変更承認に係る申請―などを、指定研修機関が所属する医療関係団体などに委託することを認める
(2) 看護師が特定行為研修を地域で受講できるよう、医療計画に「指定研修機関および実習を行う協力施設の確保などの研修体制」を具体的に記載し、都道府県に整備を求める
(3) 特定行為研修制度の認知度向上に向けて、より積極的な周知活動を行う
このうち(1)は、指定研修機関を目指す医療機関などの負担軽減を行うものです。厚労省医政局医事課の担当者は、「例えば、Aという病院グループがあり、その本部が上述の『修了証の交付』などの事務を担うことになれば、グループに所属する病院すべてが(もちろん一定の要件を満たした上で)指定研修機関になってくれる可能性がある」と期待しています。島田看護課長は、医療関係団体等について「例えば病院団体(日本病院会や全日本病院協会)のほか、病院グループ(地域医療機能推進機構:JCHO)なども想定している」とコメントしました。
この点について神野委員は「経営が一体的な団体と、そうでない団体とで分けて考える必要がある」と注文を付けています。
第7次医療計画に、特定行為研修制度の体制整備関する記載を求める
また(2)は、2018年度からの第7次医療計画の中に、▼特定行為研修の普及状況の把握▼特定行為研修の推進に向けた課題の抽出▼指定研修機関の整備数などの数値目標設定▼目標達成のための施策▼事業の評価—という、いわば「特定行為研修を行うための整備計画」を盛り込むことを求めるものです。空欄となっている「医療従事者の確保」に関する項目の中で、こうした点の具体的記載が求められることになります。
この方策について異論・反論は出ていませんが、中山洋子部会長代理(高知県立大学特任教授)らは「例えば研修受講時の代替看護職員の派遣必要を補助する事業などがあるが、お金はあっても代替看護職員が確保できないという問題がある」と指摘。後述する特定行為研修制度の見直しにおいて、より効果的な対策をさらに検討する必要がありそうです。
感染管理や褥瘡処置など、特定看護師配置を報酬の施設基準化できないか
ただし、こうした推進方策にどれだけの実効性があるのか疑問もあります。神野委員は「これまで診療報酬での評価は早いと思っていたが、制度推進を急ぐのであれば、何らかの形で特定看護師と関係する診療報酬項目について、1項目でもよいから『専門・認定看護師と同等と扱う』とすれば動くのではないか。2018年度の次期診療報酬改定に向けて検討すべきである」と要望しました。
また高木誠委員(日本病院会常任理事)も「報酬面での評価があれば、推進に向けた動きが出てくると期待できる」と賛同。さらに秋山正子委員(株式会社ケアーズ白十字訪問看護ステーション統括所長)も、大分県の特定看護師の活躍で老健施設入所者において肺炎の予防・重度化予防がなされている事例を紹介し「インセンティブ付与に値する事例であろう」と述べています。
もちろん、診療報酬の議論は中央社会保険医療協議会などで行うもので、厚労省の担当も保険局医療課となります。この点について神野委員は部会終了後、メディ・ウォッチに対し「2018年度の次期診療報酬改定に向けて『感染管理や褥瘡処置などで特定看護師配置を要件とすべき』との要望ができないか検討するよう担当者に指示している」ことを明らかにしました。日本病院団体協議会では今秋にも、具体的な改定要望を厚労省に行う予定ですが、その中に「特定看護師配置の診療報酬上の評価」が盛り込まれる可能性もありそうです。
特定行為研修制度の現状を評価し、2019年度に必要な見直しを行う
ところで、特定行為研修制度の根拠法となる地域医療介護総合確保法(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律、2014年)では「法公布後5年を目途として、特定行為研修制度の施行状況などを勘案し、必要があれば所要の見直しを行う」と規定されています。
この規定に沿えば2019年度には、特定行為研修制度について必要な見直しを行うことになり、島田看護課長は「今秋(2017年)から」次の2点について順次議論してほしいと部会に要請しました。
(1) 特定行為の実施状況などを踏まえ、特定行為研修制度の現状について評価を行う
(2) 現状の評価(1)を踏まえ、▼特定行為・特定行為区分▼特定行為研修の基準—などについて適宜検討する
このうち(2)では、懸案となっている▼経口・経鼻気管挿管の実施▼経口・経鼻気管挿管チューブの抜管―を特定行為に含めるか否かだけでなく(関連記事はこちら)、より広範な検討が行われる可能性があります。太田秀樹委員(全国在宅療養支援診療所連絡会事務局長)や東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)らは、「医師が常駐していない在宅や介護施設においてこそ、特定看護師の必要性は高い。しかし急性期病院を主なフィールドとする特定看護師と同様の研修を受けなければならず、人手不足の訪問看護ステーションや介護施設から特定研修受講を躊躇してしまう。在宅や介護施設などのロングタームケアで求められる行為を厳選し、特定行為研修の内容を見直していく必要がある」と強調。現在、「臨床病態生理学」「臨床推論」「フィジカルアセスメント」「臨床薬理学」「疾病・臨床病態概論」「医療安全学」「特定行為実践」など315時間とされている共通科目についても見直しが検討される可能性があります。
もっとも釜萢敏委員(日本医師会常任理事)は「(1)の現状の評価」が重要であると強調します。釜萢委員は「特定看護師が本当に医療現場で役にたっている、という共通認識ができなければ、どのような方策をとっても養成・確保は進まない。まず現状をきちんと把握する必要がある」と述べ、特定行為の拡大などには慎重な姿勢をとっています。
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