全医療機関で36協定・労働時間短縮を、例外的に救急病院等で別途の上限設定可能―医師働き方改革検討会(1)
2019.2.7.(木)
各医療機関で、36協定の締結、自院の勤務医の労働実態の把握を行ったうえで、タスク・シフティングなど労働時間短縮策を進めることが必要である。こうした取り組みをしてもなお「年間960時間未満」の時間外労働上限をクリアできない救急医療機関等は、都道府県知事の特定を受けた上で、2024年4月以降、「年間1900-2000時間程度以内」(数字は未確定)の時間外労働上限の設定できるが、勤務医の健康確保措置を実施するとともに、継続的な労働時間短縮に取り組むことが必要となる―。
2月6日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。方向性に対する大きな反論は出ていませんが、さまざまな意見・提案が出ており、詳細な制度設計に向けた検討されることになるでしょう。
目次
医療機関はまず「36協定」の締結を、36協定のない時間外労働は「違法」
検討会では、「地域医療の確保」と「医師の健康確保」との両立を可能とする「医師の働き方改革案」策定に向けて議論を進めています(2019年3月までに意見を取りまとめる)。最大の論点となっているのが、2024年4月から適用される「勤務医の時間外労働上限規制」で、厚生労働省は▼原則として年960時間・月100時間未満(いわゆるA水準)▼救急医療機関など地域医療確保のために必要な特例水準として年1900-2000時間程度以内(いわゆるB水準)―としてはどうか、との提案を行っています(関連記事はこちらとこちら)。
医療には、▼不確実性(患者の急変等は完全に予見できない)▼公共性▼高度の専門性▼技術革新と水準向上—という特殊性があることから、当面、一般労働者よりも長時間上限を設定するものです。ただし、医師の健康確保を確保するために、別稿の【追加的健康確保措置】をとることが求められます。
これから2024年4月までの動きを一度整理してみましょう。なお、「1900-200時間程度以内」などの上限は議論中であり、今後、見直される可能性があります。
まず、もっとも基本的かつ重要な点として、各医療機関では「時間外労働」などについて、今すぐにいわゆる「36協定」を労働者と結んでいるかを確認し、未締結の場合には直ちに労働者側と協議し、締結する必要があります。「36協定」を結ばない時間外労働は、現時点で既に「違法」であることをまず認識しなければいけません。逆に言えば、「36協定」未締結の医療機関では、医師・看護師・事務スタッフなど含め、労働者に「時間外労働」をさせてはならないのです。この点をまずご確認ください。
自院の労働時間を把握し、国や都道府県のサポート等を受けて労働時間短縮を
その上で、自院の勤務医がどれだけの時間外労働を行っているかを把握し、これを短縮する方策(医師の増員、看護師等の他職種へのタスク・シフティングなど)を検討・実施することが必要です。勤務医の労働時間短縮を進め、全医療機関で2024年4月からA水準をクリアすることを目指さなければならないのです。
ただし、労働時間短縮を個別医療機関が自ら進めることは難しく、国・都道府県等がバックアップに努めます。国は、「A水準クリアに向けて、取り組みやすい目標値(時間外労働短縮目標ライン:まず●時間を目指して○○の取り組みを進め、次に◆時間を目指して◇◇の取り組みを進める、といったイメージ)を設定する」などの支援を行います。また、都道府県では、「自県には労働時間の長い救急医療機関が複数あるが、統合によって負担を軽減できるのではないか」といった検討を行い、地域医療構想調整会議等の議題にするなどのサポートを行うことになります。「働き方改革」の視点からも、病院の統合・再編が進むと考えられます(関連記事はこちら)。
さらに厚労省は、個別医療機関および都道府県に対し、「長時間労働の要因を分析し、改善策等の提案・指導を行う」新たな機能の創設を考えています。分析の結果、「当該地域では病院の統合が必要」と都道府県に進言したり、「タスク・シフティングが不十分であり、シフト計画の策定・実施が必要」と医療機関に提案するイメージで、どういった組織がこの機能を担うのかも含めて、検討が進められています。
都道府県知事の特定を受けてははじて「B水準」の時間外労働が可能に
こうした取り組みを実施してもなおA水準をクリアできない場合には、B水準の医療機関として「都道府県知事に特定される」ことを目指します(2023年度中に特定される)。ただし、B水準の医療機関は、地域医療確保に不可欠な機能を担っていなければなりません。厚労省は、例えば▼2次・3次救急医療機関▼在宅医療で特に積極的な役割を担う医療機関▼5疾病・5事業を実施する医療機関▼高度のがん治療や移植医療など、極めて高度な手術・病棟管理を行う医療機関▼児童精神科―などの機能を掲げており(例示)、こうした機能を持たない医療機関で、A水準をクリアできない場合には、「罰則」が課されることに最大限の留意が必要です。
B水準医療機関として都道府県知事に特定されるためには、「上記の機能を持つ」だけでなく、「労働時間短縮に向けた不断の取り組みを実施してもなお、A水準に業務が収まりきらない」ことが求められます。上記の機能を持つ各医療機関において、【ステップ1:時間外労働の実態を的確に把握する】→【ステップ2:自院に適用される上限を検討する】→【ステップ3:「医師労働時間短縮計画」を策定し、実行する】ことになり、こうした取り組みで、労働時間を短縮できる医療機関は、上記の機能を保有していてもA水準が適用されます。また、時間短縮に取り組まない医療機関は、B水準として特定されません。
B水準医療機関では「連続勤務時間28時間」以内などの健康確保措置が「義務」
なお、別稿で述べるとおり、B水準医療機関では、長時間の労働が想定されるため、▼連続勤務時間を28時間に制限する▼9時間以上の勤務間インターバルを設ける―などの【追加的健康確保措置】をとることが「義務」となります(A水準医療機関では「努力義務」)。この義務を理由なく果たしていない(つまりさぼっている)場合、B水準医療機関の特定が取り消されます。
もっとも、個別医療機関の事情(突然の欠員があり、医師確保がままならないなど)や、地域医療提供体制の事情(医療機関等が複数かつ小規模で、マンパワーが拡散し、非効率となっているなど)により、「実施したくても実施できない」ケースもあることでしょう。こうした場合には、上述のように地域医療構想調整会議などで「病院の合併」などを地域単位で検討し、「追加的健康確保措置の実現」に向けたサポートを検討することになります。
裵英洙構成員(ハイズ株式会社代表取締役社長)は、労働時間の短縮に当たっては、こうした「地域の事情」なども勘案しなければならないため、上述の「医師労働時間短縮計画」について、個別医療機関が独自に作成するのではなく、「都道府県の関与が必要」と提案しています。
また片岡仁美構成員(岡山大学医療人キャリアセンターMUSCATセンター長)は、例えば医師の確保・派遣などに関して県のサポートにも限界があるとし、「医師会などのネットワークを活用した実効性のあるサポート体制の構築が必要」と訴えました。2020年度から、新たな「医師確保計画」がスタートすることとなっており、こうした動きも踏まえたサポート体制の検討が期待されます(関連記事はこちらとこちら)。
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