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「医師少数区域等での勤務」認定制度、若手医師は連続6か月以上、ベテランは断続勤務も可―医師需給分科会(1)

2019.1.31.(木)

 医師の地域偏在解消に向け、新たに「医師確保計画」に則った医師確保策(医師派遣の充実や、医師少数地域での勤務の評価、大学医学部への地域枠・地元枠の設置要請など)が2020年度からスタートします。

各都道府県では、2019年度の1年間をかけて「医師確保計画」を作成することになり、その拠り所となる指針策定に向けた議論が「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)で大詰めを迎えています(医師需給分科会では、2018年度中に中間とりまとめを行い、これに基づき、厚労省が指針を策定する)。

1月30日に開かれた医師需給分科会では、次の4点について詰めの議論を行いました。今回は(2)の「医師少数区域等で勤務した医師の認定」に焦点を合わせ、ほかの項目は別稿でお伝えします。
(1)医師少数区域・医師多数区域の設定(新たな医師偏在指標に基づき、上位33%を多数区域、下位33%を少数区域とし、少数区域への医師派遣等を充実していく)
(2)医師少数区域等で勤務した医師を認定する制度
(3)地域枠・地元枠の必要医師数
(4)外来医師多数区域の設定(新たな偏在指標に基づき上位33%を多数区域とし、多数区域での新規クリニック開設者には在宅医療等提供を求める)

1月30日に開催された、「第27回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

1月30日に開催された、「第27回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

 

医師少数区域等の勤務期間、6か月が最低限だが、1年以上が望ましい

医師偏在を是正するためには、まず、医師に「医師の少ない地域」に赴任してもらうことが必要です(ほかに、地域枠等での地域に勤務する医師を養成する手法もある)。このためには、例えば「大学等に医師派遣を依頼する」ことや、「医師の少ない地域に赴任した医師にインセンティブを与える」ことなどが考えられ、後者については2018年の改正医療法・医師法で制度化が行われました。

具体的には、「医師少数区域等で一定期間勤務した医師」を認定し、「医師派遣機能などを持つ地域医療支援病院」等の管理者(院長)となるための要件とする制度で、2020年4月からスタートします。

制度の詳細を固めるには、さまざまな要素を勘案しなければいけませんが、とくに重要な論点として、▼「一定期間」(医師少数区域等での勤務期間)をどの程度とすべきか▼院長要件が課せられる病院の範囲をどう設定すべきか―の2点があります。

前者の勤務期間については、先進的な実事例(沖縄県立中部病院等から離島への派遣期間:2年)や自治医科大学による医師派遣事業(1年)、新専門医制度における総合診療専門医の僻地等研修期間(東京、神奈川、愛知、大阪、福岡の5都府県では12か月、その他の地域では6か月)などを勘案し、これまでに「連続する6-12カ月程度」との考えが厚労省から示されていました(関連記事はこちら)。

この点、医師需給分科会では「若手医師とベテラン医師とでは異なる勤務形態(ベテランでは週1、2日の勤務を可能とするなど)を認めたほうが、医師少数区域等に勤務しやすのではないか」「若手医師に対して、医師少数区域等で勤務しやすいような環境整備を行う必要があるのではないか」といった意見が示されており、厚労省は、これらも踏まえて、改めて次のような考えを提示しました。1月30日の医師需給分科会で概ね了承されています。

【卒後3~9年目で医師少数区域等に勤務する場合】
▼最低限の勤務期間:6か月(地域のニーズや地域医療に関する研修の状況を踏まえると1年以上の勤務が望ましい)

▼「臨床能力の向上」という要請に応えるため、医師少数区域等の所在する都道府県において「若手医師が医師少数区域等で勤務する環境整備」のためのプログラム策定を促す

【卒後10年目以降の医師が医師少数区域等に勤務する場合】
▼最低限の勤務期間:6か月(地域のニーズや地域医療に関する研修の状況を踏まえると1年以上の勤務が望ましい)

▼医師少数区域等に所在する複数の医療機関で断続的(週1日等)に勤務する医師もいると考えられ、「卒後10年目以降で勤務した日数が累積で認定に必要な勤務期間となる場合」(例えば、週2日の勤務を90週(22カ月)続けるなど)も、認定の対象とする
医師需給分科会(1) 190130の図表
 
 「6か月」の勤務期間は、総合診療専門医の受験資格取得研修における「僻地での研修期間」を参考にしたものです。地域における医療資源(医師)確保という側面からは「長期間」の勤務が望まれますが、「赴任してくれる医師」の視点からすれば、「短期間」の勤務としたほうが、赴任へのハードルが下がることになり、両者のバランスを考慮した数字と考えることができるでしょう。

 また卒後10年以上のベテラン医師では、家庭環境から「連続した赴任」等が難しいケースもあるでしょう。一方で、「非常勤で構わないので、そのスキル・知識を当院に貸してほしい」と欲する医療機関もあると考えられることから、「断続」勤務を可能としたものです。

この点、制度の運用状況を見て「より長期の勤務期間を求める(認定の要件とする)といった見直しも、将来検討すべき」との指摘もありましたが、制度の安定性を考慮すれば、根幹に関する見直しは慎重に考えるべきでしょう。例えば、制度発足当初は「6か月」勤務で認定されるが、制度開始から6年経過後に「1年間の勤務が必要」と見直されれば、認定者の間に大きな不公平が生じ、制度の信頼が揺らぎかねないためです。

 
この6か月の間に、▼個々の患者の生活背景を考慮し、幅広い病態に対応する継続的な診療や保健指導(継続的な診療、診療時間外の急変時対応、在宅医療など)▼他医療機関との連携や、患者の地域生活支援を支援するための介護・福祉事業者等との連携(地域ケア会議や退院カンファレンス等、他の事業者との連携やマネージメントに関する会議への参加など)▼地域住民に対する健康診査や保健指導等の地域保健活動―などを実施することが求められます。

認定資格を院長要件とする仕組みに、さらなるインセンティブ等を求める声も

こうした6か月間以上の医師少数区域等での勤務を終えた医師(認定医師)には、「『医師派遣機能などを持つ地域医療支援病院』等の管理者(院長)となるための要件を1つ満たす」(以下、院長要件)という一種のインセンティブが与えられます。

この点、医師需給分科会では、これまでにも多くの委員から「診療所などでも、院長要件を設けるべき」との指摘が出ていました。より広範な医療機関に院長要件を課すことで、医師少数区域等で勤務する医師が増えると考えられるためです。しかし、対象医療機関を広めるほど「半強制」に近づいてくことになり、それが地域住民にとって好ましいかどうかも考えなければいけません。院長要件を課される対象医療機関の範囲は、別の検討会(特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会)で議論されており、今夏(2019年夏)に詳細が固められる予定です。

ところで、この院長要件の適用は、「施行日(2020年4月予定)以降に初期臨床研修を開始した医師」に限定されます。このため、厚労省は▼「2020度以降に初期臨床研修を開始した医師」以外の医師が管理者(院長)となるケース▼当該病院の管理者(院長)が急に不在となり(事故での急逝など)、後継者が認定資格を持っていないなど、特別の事情のあるケース―については、認定視覚を持っていなくとも当該病院の管理者(院長)に就任できることとする考えも示しました。

「2020度以降に初期臨床研修を開始した医師」が実際に地域医療支援病院の院長等に就任するのは20-30年ほど先のことになると考えられ、当面、すでに臨床研修を終えた医師等は、認定資格を持たず(つまり医師少数区域等での6か月以上の勤務経験がない)とも、「前者」のケースとして、「医師派遣機能などを持つ地域医療支援病院」等の管理者(院長)に就任することになります。この点について本田麻由美構成員(読売新聞東京本社編集局生活部次長)は「当面は、ほとんどのケースで例外規定が適用され、軽い仕組みとなってしまわないか」と危機感を示しています。

 
なお、この院長要件は一種のインセンティブと解されていますが、その効果のほどは不透明です。このため、より多くの医師が医師少数区域等に赴任するよう、▼医師が多数勤務する病院(特定機能病院等)に、勤務医の5%を医師少数区域等に派遣させる義務を課し、当該病院には経済的なインセンティブを与えてはどうか(鶴田憲一構成員:全国衛生部長会会長)▼医師少数区域等のうち、比較的医師の多い区域等に集中しないよう、「とくに医師の少ない地域への赴任」ではより大きなインセンティブが得られるなどの濃淡をつけてはどうか(裵英洙構成員:ハイズ株式会社代表取締役社長)―といった提案がなされています。

3年ごとの「医師確保計画」の見直し時期(2020年からスタートし、2024年、27年と3年ごとに見直される)などに、制度の運用状況(どの程度、医師少数区域等に赴任しているか、実際の勤務期間はどの程度か、など)を見ながら、こうした提案も踏まえた改善策が検討されることになりそうです。

この点に関連して、厚労省では、前述した「若手医師が医師少数区域等で勤務する環境整備」のためのプログラムの魅力が重要ではないか、との見解を示しています。魅力あるプログラムを用意しPRすることで、若手医師が当該地域に積極的に赴任を検討・希望することが期待されます。

 
 
 
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