主要手術の公民比率など見て、構想区域ごとに公立・公的等病院の機能を検証―地域医療構想ワーキング(1)
2019.1.31.(木)
地域医療構想調整会議において、今年度(2018年度)中にまず「公立病院及び公的等病院の機能改革」に関する合意を行う必要がある。その後、合意内容の妥当性等を検証していくことになるが、その際、「公立病院・公的病院等でなければ担えない医療機能への重点化」が重要な視点となることから、各構想区域において、例えば5疾病5事業における主要症例(胃がん、乳がんなど)にどういった病院が対応しているのか、などのデータを提示していく―。
1月30日に開催された「地域医療構想ワーキンググループ」(「医療計画の見直し等に関する検討会」の下部組織、以下、ワーキング)で、こういった方向が示されました。
目次
2018年12月末、機能改革等について公立の48%、公的等の60%で合意済
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していくと見込まれます。そうした中では、より効果的かつ効率的な医療提供体制を構築することが求められ、病院・病床の機能分化・連携の強化を進めていく必要があります。この一環として地域医療構想の実現があげられ、現在、各地の地域医療構想調整会議(以下、調整会議)で議論が進められています。
調整会議では、まず「公立病院および公的病院等の機能改革等」について、今年度(2018年度)中に合意を得ることとなっています。ただし、昨年(2018年)12月末時点の合意状況を見ると、ベッド数ベースで▼公立病院は48%(2018年9月末から9ポイント向上)▼公的病院等60%(同8ポイント向上)―にとどまっています。残り3か月、各調整会議での集中的な議論が待たれます。
主要症例ごとに、各構想区域のデータから「公立等と民間が競合しているか」など判断
「公立病院および公的病院等の機能改革等」については、「公立病院・公的病院等でなければ担えない医療機能への重点化」が1つの指針として掲げられ、具体的には、▼高度急性期・急性期機能▼山間へき地・離島など過疎地等における一般医療▼救急・小児・周産期・災害・精神などの不採算・特殊部門の医療▼がんセンター、循環器病センターなどの高度・先進医療▼研修の実施等を含む広域的な医師派遣拠点機能―など例示されています。
もっとも、こうした機能をどの病院が担っているかは、地域によって区々です。厚生労働省が2017年度の病床機能報告結果を分析したところ、「胃がん・結腸がん・直腸がんの手術治療」「乳がんの手術治療」「冠動脈バイパス手術」「脳動脈瘤クリッピング手術」について、3分の1から半数程度の構想区域では「公立・公的等病院のみが実施している」が、濃淡に差はあれど「民間病院と公立・公的病院等の双方で実施している」構想区域も少なくなく、さらに一部には「民間病院のみが実施している」構想区域もあることが分かりました。
例えば「胃がん・結腸がん・直腸がんの手術治療」については、全339構想区域のうち、▼約45%の構想区域(154区域)で公立・公的等病院のみが実施(「2017年6月に当該手術を1回以上算定している病棟が公立・公的等のみ」という構想区域が154)▼約36%の構想区域で公立・公的病院と民間病院の双方が実施▼約3%の構想区域で民間病院のみが実施―しています(約16%の当該区域では実施しておらず、他の区域で手術を受けている)。
また「乳がんの手術治療」については、全339構想区域のうち、▼約39%の構想区域(132区域)で公立・公的等病院のみが実施(「2017年6月に当該手術を1回以上算定している病棟が公立・公的等のみ」という構想区域が132)▼約25%の構想区域で公立・公的病院と民間病院の双方が実施▼約3%の構想区域で民間病院のみが実施―しています(約30%の当該区域では実施しておらず、他の区域で手術を受けている)。
厚生労働省は、こうした状況を踏まえ、手術等の医療機能ごとに「構想区域を、例えば4つのパターンに分類できるのではないか」との考えを示しました。今年度(2018年度)中に公立・公的等病院の機能改革に関する合意がなされますが、その合意内容について、各種データを活用して、「公立病院・公的病院等でなければ担えない医療機能への重点化」が実現されているかどうかを検証してはどうか、という提案です。
【パターン(ア)】手術(例えば胃がんや乳がんなど)を相当程度実施する公立・公的等病院と民間病院とが存在する構想区域
【パターン(イ)】手術を一定程度実施する病院(公立・公的等、民間の双方)が数多く存在する構想区域(東京や大阪などの大都市に多いパターン)
【パターン(ウ)】複数の公立・公的等病院が一定程度の手術を実施する構想区域
【パターン(エ)】複数の病院に手術が核酸し、いずれの病院でも手術実績が低い構想区域
このうち、【パターン(ア)】のような構想区域では、手術を相当程度実施する公立・公的等病院と民間病院とが、「競合」しているのか、「棲み分け」をしているのか、を考えていく必要があります。例えば、どちらの病院でも、患者の重症度や合併症状況が似通っていれば、「競合」していると考えられます。こうしたケースについて、中川俊男構成員(日本医師会副会長)は「公立病院には多くの助成金・補助金が投入され、公的病院等では税制上の優遇がある。一方、民間病院にはそうした支援がない。地域で『競合』している場合には、公立・公的等病院側が身を引くべきである」と強く求めており、当該公立・公的等病院は機能転換を迫られることになりそうです。
一方、例えば「重症患者や合併症のある患者を公立・公的等病院が受け入れ、比較的軽症の患者を民間病院が受け入れている」ような場合には、「棲み分け」をしていると考えられます。この場合、当該公立・公的等病院は「「公立病院・公的病院等でなければ担えない医療機能への重点化している」と言え、当該機能は維持すべきと判断されることになるでしょう。
厚労省は、「各構想区域がどのパターンに合致するのか(手術別・部位別に見る必要がある)」や、さらに詳細なデータ(5疾病5事業の主要症例に関するデータなど)を提示する考えです。こうしたデータをもとに、各調整会議で「うちの構想区域において、乳がん手術は【パターン(ア)】に該当するようだ。患者の状況などから判断して、●●県立病院と民間の○○病院とは競合していると考えられ、○○病院には十分な余力があるようだ。2019年3月までに『乳がん手術については○○病院に集約していく』という方向で合意したが、その内容に問題ないのではないか」、あるいは「公立の◆◆中央病院と民間の◇◇病院のデータを見ると、乳がん手術については一定の棲み分けがなされているようだ。2019年3月までに『乳がん手術については○○病院に集約していく』という方向で合意したが、重症患者への対応に問題が出る可能性がある。合意内容を少し見直していく必要があるのではないか」といった検証論議をしていくことが期待されます。
この点について小熊豊構成員(全国自治体病院協議会会長)は、「受け入れている患者の状態(重症度や合併症の状況など)、患者の利便性(アクセスなど)などを総合的に考えていく必要がある」と強調し、一部データのみに基づく安易な判断に警鐘をならしています。例えば、「競合」しているように見えても、民間病院だけでは地域の要手術患者に対応できず、公立・公的等病院と民間病院とが「協力」しているケースも考えられるためです。中川構成員も、地域の状況・特性を熟知した調整会議メンバーで十分な議論が行われることに期待を寄せています。
症例が拡散している場合など、公立病院等の再編・統合の検討も
一方、【パターン(エ)】のような構想区域や、【パターン(ア)】の構想区域でも、症例数の少ない公立・公的等病院では、患者のアクセスなども考慮した上で、▼当該機能を他院への移譲する▼近隣病院と再編・統合する―ことなどを検討する必要がありそうです(症例数の少ない民間病院は自然淘汰されると中川構成員が指摘)。
米国メイヨークリニック・スタンフォード大学とグローバルへルスコンサルティング・ジャパン(GHC)との共同研究では、「症例数と医療の質(例えば医療安全)は相関する」ことが明らかになっており、再編・統合等により症例数の確保・医療資源の集約を行い、医療の質を維持・向上していくことが不可欠です。
この点、前者の選択肢「一部機能の他院への移譲」には、経営面での課題も生じそうです。当該公立・公的等病院の経営を支えるために当該機能が不可欠というケースもあるためです。
そこで中川構成員は、再編・統合や大規模なダウンサイジングなど「公立・公的等病院の大改革が必要」と指摘しましたが、小熊構成員は「公立病院同士でも、再編・統合の議論が難しいケースもある。設立母体がさまざまな公的等病院ではなおさらだ。構想から再編・統合の実現までには10年単位の時間が必要である。さまざまな要素を考慮しなければならない」と実態を紹介しています。
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