病床過剰地域での有床診開設特例、調整会議で事前審査を―地域医療構想・在宅医療ワーキング(1)
2018.3.5.(月)
「地域包括ケアシステムを推進するために必要と判断された有床診療所は、病床過剰地域においても開設できる」との特例が拡大されるが、必要性を十分に見極めるために地域医療構想調整会議で「事前の協議を行う」こととする—。
3月2日に開催された、「地域医療構想に関するワーキンググループ」と「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」の合同会議(いずれも、医療計画の見直し等に関する検討会の下部組織)で、こういった方針が固まりました。
厚労省は、3月中に通知を発出し、この方針や「病床が不足している地域では、病院と並んで有床診療所の設置も検討すべき」ことなどを都道府県担当者等に周知する考えです。
地域包括ケアシステムの推進に必要な場合、病床過剰地域でも有床診の開設が可能
2018年度から、新たな医療計画(第7次計画)と、新たな介護保険事業(支援)計画(第7期計画)がスタートします。いわゆる団塊の世代が、すべて75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護ニーズが増大する2025年に向けて、「病院・病床の機能分化、強化および連携の強化」や「地域包括ケアシステムの構築」を目指した計画です。
地域包括ケアシステムは、医療・介護ニーズが高くなっても、可能な限り住み慣れた地域での生活を続けられるように、▼住まい▼医療▼介護▼予防▼生活支援―を、地域の実情に応じて総合的・一体的に提供する仕組みです。このうち医療については、地域に密着し、かつ入院機能も持つ「有床診療所」が重要な役割を果たすと期待されています。
しかし、有床診療所は減少の一途を辿っており(1990年には2万3689施設であったが、2017年12月末には7218施設にまで減少)、どう「経営等を下支えしていくか」が重要課題の1つとなっています。
例えば2018年度の診療報酬改定では「介護サービスを提供する有床診療所では、報酬の高い入院基本料1-3までの要件を緩和し、要介護者の入院受け入れを、新たに【介護連携加算】として評価する」、介護報酬改定では「利用者専用病床を1床確保すれば、看護小規模多機能型居宅介護の「宿泊室」の設備基準を満たしていると見なす」などの見直しが行われています。
また一昨年(2016年)11月の「医療計画等の見直しに関する検討会」では、「地域包括ケアシステム推進のために必要と認められた場合には、病床過剰地域でも有床診療所を設置できる」という規定を緩和し、設置対象を大幅に拡大することが決まりました。
現在、病床過剰地域で設置が認められる有床診療所は▼在宅医療推進のために必要である▼へき地に設置する▼小児・周産期医療、その他、地域で特に必要な医療を提供する—場合に限られています。2018年度からは、これらに加え、次のような機能を持ち「地域包括ケアシステム推進のために必要」と都道府県医療審議会が判断した場合にも設置が可能となります(範囲の拡大)。なお、特例の対象になれば「届け出のみでよい」「医療計画への記載は不要」となりますが、後述するように「医療審議会等で『特例の対象となるか』を、事前に詳しく審査する」ことになり、「特例の対象とはならない」と判断されれば、新設は認められません。
▽在宅療養支援診療所の機能(訪問診療の実施)
▽急変時の入院患者の受け入れ機能(年間6件以上)
▽患者からの電話等による問い合わせに対し、常時対応できる機能
▽他の急性期医療を担う病院の一般病棟からの受入を行う機能(入院患者の1割以上)
▽当該診療所内において看取りを行う機能
▽全身麻酔、脊椎麻酔、硬膜外麻酔または伝達麻酔(手術を実施した場合に限る)を実施する(分娩において実施する場合を除く)機能(年間30件以上)
▽病院からの早期退院患者の在宅・介護施設への受け渡し機能
病院と同様に、有床診療所の新設について調整会議で機能等を確認
厚生労働省は、今般、この特例に該当し「必要な機能(上記)を持ち、地域包括ケアシステムの推進に必要かどうか」を、事前に「地域医療構想調整会議で説明してもらい、判断してもらってはどうか」との考えを示しました。
2017年度・18年度は地域医療構想の実現に向けた集中期間とされ、例えば、病院を新設する場合には、事前に開設者が地域医療構想調整会議に出席し「どのような機能を持たせようと考えているのか」などを説明することが求められます。仮に、説明された機能が「地域医療構想の方向」とマッチしていない場合(例えば急性期ベッドが過剰で多機能への転換を進める構想を組み立てた地域において、新たに急性期ベッドを設けようとする場合など)には、「機能転換をすれば開設を認める」などの条件を付すことになります(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
このいわば事前審査とも言える仕組みについては、「病院の新設や増床だけでなく、『病床過剰地域における有床診療所の新設』に当たっても適用する」ことを明確にするものです。規模や機能は異なりますが、病院も有床診療所も「入院医療」を提供する点で共通しており、同じルールを適用することは当然のことと言えます。
このように地域医療構想調整会議・都道府県医療審議会の2段階で、「必要な機能(上記)を持ち、地域包括ケアシステムの推進に必要かどうか」が審査されることになり、ここで「当該有床診療所の新設は、我が地域での地域包括システム推進にマッチしない」と判断されれば、「特例の対象」とはならず、新設は認められません。地域の実態を踏まえて、医療提供体制や人口構造の変化などを考えて「新設によって地域包括ケアシステムが推進するか否か」を判断するもので、例えば、「在宅療養支援診療所であり、(上記)要件を満たす」と一律に判断し、都市部などで有床診療所の開設を次々と認められる、といった事態にはならない模様です。
合同会議の構成員もこの方向を支持していますが、この特例は「新設を促す」ものゆえ、「すでに地域で活躍している有床診療所の経営等をサポートする」仕組みの創設なども検討してほしい、と池端幸彦構成員(日本慢性期医療協会副会長)らは求めています。この点、前述した2018年度診療報酬・介護報酬改定の効果に注目が集まります。
あわせて合同会議では、今後も病床を整備していかなければならない地域において、「病院だけでなく、有床診療所もベッド整備の重要な選択肢として扱っていく」方向も了承されています。
厚労省は、3月中にこの2点(▼病床過剰地域における有床診療所新設について、地域包括ケアシステム推進に必要かどうかを地域医療構想調整会議でも審議する▼病床不足地域では、ベッド整備の選択肢として有床診療所も検討する—)に関する通知を都道府県の担当者等に発出します。
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