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GemMed塾 看護モニタリング

B・C水準指定の枠組みほぼ固まるが、医療現場の不安など踏まえ「年内決着」を延期―医師働き方改革推進検討会

2019.12.27.(金)

12月26日に「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、今検討会)が開催され、意見取りまとめに向けた議論を行いました。

今検討会では「いわゆるB・C水準医療機関の指定」に関する枠組みを議論しており、その内容は大枠で固まりつつあるものの、医療現場には「医師の働き方改革によって、地域医療が崩壊してしまうのではないか」といった不安も大きなことから、厚生労働省医政局の吉田学局長は「さらに議論を継続してほしい」と今検討会に要請しました。

当初は「年内(2019年内)の取りまとめ」が予定されていましたが、これを延期し、年明け以降(2020年)も議論が継続されます。ただし、2024年4月から勤務医に新たな時間外労働上限が適用されるスケジュールを踏まえると「2020年度中に法制度を整えておく」必要があり、厚労省医政局医事課の担当者は「なるべく早い時期の取りまとめ」を目指す考えを強調しています。

12月26日に開催された、「第6回 医師の働き方改革の推進に関する検討会」

B・C水準医療機関の指定枠組みや健康確保措置の内容など、大枠は固まっている

2024年4月から、すべての勤務医に新たな時間外労働の上限規制が適用されます。原則として「年間960時間以下」が上限となりますが【いわゆるA水準】、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関【いわゆるB水準】や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師【いわゆるC水準】では、「年間1860時間以下」までに上限が緩和されます。



今検討会ではB・C水準指定に関する枠組みを議論しており、これまでに次のような大枠が固まってきています。

B水準医療機関の指定
▽「3次救急病院」や「年間に救急車1000台以上を受け入れる2次救急病院」など地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関が対象
▽労務管理の徹底やタスク・シフティングなどを進めるとともに、「医師労働時間短縮計画」を作成し、新設される「評価機能」の評価を受ける
▽評価機能が「労働時間短縮がしっかり進められているが、地域医療確保のために年間960時間を超える時間外労働が必要な部門がある」と判断した場合、都道府県知事がB水準としての指定を行う

B水準指定の流れ(医師働き方改革推進検討会1 191226)



C1水準医療機関の指定
▽初期研修医や新専門医資格取得を目指す専攻医について、集中的に多くの症例を経験させる必要のある医療機関が対象
▽指定の枠組みそのものはB水準に類似
▽C1水準医療機関が「見込み時間外労働時間も含めた研修プログラム」を提示し、研修希望医師側が病院を選択できる仕組みを構築する

C1水準指定の流れ(医師働き方改革推進検討会2 191226)



C2水準医療機関の指定
▽高度特定技能の習得を目指す医師について、集中的に多くの症例を経験させる必要のある医療機関が対象
▽指定の枠組みそのものはB水準・C1水準に類似
▽技能習得を目指す医師が「高度特定技能育成計画」を作成し、新設する「審査組織」での審査を得たうえで長時間の時間外労働実施を可能とする仕組みを構築する

C2水準指定の流れ(医師働き方改革推進検討会3 191226)



追加的健康確保措置
▽長時間労働に携わる医師の健康・生命を維持するために、次のような措置を各医療機関に義務付け、毎年の立入検査で履行を担保する
▼追加的健康確保措置1:B水準・C水準医療機関で月960時間を超える時間外労働を行う勤務医について「28時間までの連続勤務時間制限」「9時間以上の勤務間インターバル」「代償休息」を義務とし、A水準医療機関の勤務医、およびB・C水準医療機関で月960時間までの時間外労働となる勤務医ではこれらを努力義務とする
▼追加的健康確保措置2:月の時間外労働が100時間以上となる勤務医については産業医等が「面接指導」を行い、必要に応じて就業上の措置を行うことを義務とする(前月の労働が80時間を超えた場合、翌月に100時間以上となることを見越して面接指導の準備等を行う)

追加的健康確保措置の流れ(医師働き方改革推進検討会4 191226)



ところで、医師においては一般労働者と異なり「複数の医療機関に勤務する」ケースが少なからずあります。この場合、「勤務医の自己申告に基づく労働時間の通算」は当然に行われるとして、健康確保措置をどの医療機関で実施するのかが問題となります。

前回会合(12月2日開催)では、追加的健康確保措置2の「面接指導」については、例えば「面接指導結果が複数医療機関間で共有(医師が面接指導の結果を副業・兼業先に提出することを想定)され、それを踏まえた就業上の措置が適切に図られる」ことを条件に、「1つの医療機関が面接指導を実施する」(例えば最も勤務時間の長い病院など)ことを可能とする方向などが固められました。

複数医療機関に勤務する場合の面接指導の実施例(医師働き方改革推進検討会5 191226)



一方、追加的健康確保措置1の「勤務間インターバル」などについては、「どういった仕組みが考えられるか」について具体案がまだ見いだせていません。例えば「始業から24時間経過までに9時間のインターバル」「始業から46時間を経過するまでに18時間のインターバル」を確保することが求められますが、複数の医療機関で勤務する医師についてどのように労働時間を管理し、インターバルを付与すべきか、実効性のある仕組みの構築が非常に難しいためです。

連続勤務時間制限等のイメージ(医師働き方改革推進検討会7 191226)

代償休息の実施イメージ(医師働き方改革推進検討会8 191226)



この点、村上陽子構成員(日本労働組合総連合会総合労働局長)は、追加的健康確保措置全般について「現在の基準は単一事業所に勤務する一般労働者を念頭に置いて設定された。医師において複数医療機関勤務が当然であるなら、それを前提にしたより厳格な健康確保措置を講じるべきではないか」と提案しました。

これに対し、今村聡委員(日本医師会副会長)や山本修一構成員(千葉大学医学部附属病院院長)は「健康確保措置の重要性は十分に認識している。しかし、医師の中には5か所、6か所の医療機関に勤務する方もそう珍しくない。そうしたケースについて、どのように労働時間を把握し、どのように健康確保措置を実行するのか、我々にはノウハウが全くない」「ほとんどの医療機関ではこれまで十分な労務管理すら行っておらず、複数医療機関での勤務状況を把握し、健康確保措置を講じろと命じられ、頭がパニックになっている」とコメント。

現在、研究班で「健康確保措置の具体的な実施方法」に関する研究が進められており、この報告(2019年度末予定)を素材として「実効性のある健康確保措置」を検討会で議論するほかないような状況です。

なお、関連して勤務医の立場で参画する鈴木幸雄構成員(横浜市立大学産婦人科・横浜市医療局)は「私も3、4時間の仮眠の後に診療を行うことがあり、その際には集中力が欠け、ベストな医療提供ができないこともある。とくに複数医療機関勤務では、交代時間に医療事故が集中したり、引き継ぎうまくいかないなどの問題点もある。懸念されるポイントを改めて整理し、問題点の共有をまず図ってはどうか」と提案しています。

医師の働き方改革に、医療現場は「大きな不安」を抱えている

また、医療現場には「医師の働き方改革によって、地域医療が崩壊してしまうのではないか」との不安を持つ方も少なくないようです。現在、日本医師会では病院を対象にしたアンケート調査を実施しており、そこでは「派遣医師の引き揚げが生じるのではないか」「医師派遣会社の紹介手数料等が引き上げられ、医師確保がさらに困難になるのではないか」といった多くの不安の声が寄せられていることを今村構成員は紹介しています。

他方、厚労省は今年(2019年)9月に「医師の働き方実態調査」を実施。1万9000施設超の病院・クリニック・介護老人保健施設・介護療養・介護医療院に勤務する14万人超の勤務医を対象に、労働時間の実態などを調べる「新10万人調査」と言うべきもので、厚労省医政局医事課の佐々木健課長は「現在、集計・精査を行っており、近く報告を行う」考えを示しています。

冒頭に述べた「1860時間以内」というB水準・C水準医療機関における上限時間は、2017年4月の旧10万人調査(医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査)結果で「勤務医の1割・2万人程度が2000時間を超える時間外労働に携わっている」状況が判明したことを受け、「まず、この2万人の勤務医を救済するために実現可能な基準」として設定された経緯があります(関連記事はこちらこちら)。

新10万人調査は「旧10万人調査は古すぎる。最新の勤務医の勤務実態を見るべき」との指摘も踏まえて実施されたもので、検討会では「実態調査結果も踏まえた議論を行うべき」との強い要望があります。



このように「医療現場には『医師の働き方改革』に向けた不安がある」「新10万人調査を踏まえた医療現場の実態に関する議論がまだ行われてない」状況などを総合し、吉田医政局長は「さらなる議論の継続」を今検討会に要請しました。B・C水準医療機関の指定に関する枠組みは大枠で固まっていますが(少なくとも法改正事項のみを取りまとめる準備は相当程度整っている)、「『一定の取りまとめを行う雰囲気の醸成』には至っていない」「見切り発車は『医師の働き方改革』と『地域医療の確保』との両立に向けてマイナスになる」と判断したものと言えます。

現在、残っている大きな論点としては前述した「複数医療機関勤務における追加的健康確保措置の実施方法」があります。さらに、実態調査結果なども踏まえて、検討会では「意見取りまとめ」に向けた議論を継続することになります。

ただし、「2024年4月の制度スタートに向けて、2020年度中に法整備を行う」というスケジュールを考えると、「意見取りまとめ」までに残された時間はそれほどありません。仮に次期通常国会に予算非関連法案を提出(2020年3月)するとなれば、法文作成や内閣法制局の審査に必要な時間も考えた、「できるだけ早い」取りまとめが求められます。

医師働き方改革の実行スケジュール(医師働き方改革推進検討会6 191226)



なお、法整備だけで制度が動くわけではありません。厚労省は▼B水準医療機関の対象となる「都道府県知事が地域医療確保のために必要と認める医療機関の範囲」(指定権者と被指定者が同じとなればお手盛りが生じてしまうため、範囲をできる限り明確にしておく必要がある、2023年度の都道府県指定までに検討)▼C1水準における「効率的な研究」の在り方(ただし研修の質を落としては本末転倒となる、2020年度に研究班で議論)▼C2水準における「審査組織」の在り方▼評価機能により評価の手数料等(2021年度までに検討)▼面接指導を行う医師(産業医以外)の研修カリキュラム等(2019年度末の研究結果を踏まえて検討)▼医師労働時間短縮計画の作成ガイドライン(医療機関が作成する場合の拠り所となる、2020年度早期に公表)―などを「今後の検討課題」に据えています。

また、「医師の働き方改革」が地域医療に与える影響についても、一定の仮定を置き、可能な範囲で状況等の把握・推計等を行い、検討会議論の素材として提供される見込みです。

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