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医師から他職種へのタスク・シフティング、「B・C水準指定の枠組み」に位置付けて推進―医師働き方改革タスクシフト推進検討会

2019.11.21.(木)

医師から他職種へのタスク・シフティングを推進していくため、今後、いわゆるB・C水準への指定を申請する医療機関等が作成しなければならない「医師労働時間短縮計画」の中に「自院ではどのようなタスク・シフティングを行うこととし、その進捗はどうか」といった点の記載を求め、それを評価機能が評価する仕組みを設ける―。

また、タスク・シフティングの実効性を上げるために、実現可能性や労働時間短縮効果を踏まえて、「タスク・シフティングの推奨項目」として、例えば「医師から看護師への包括的指示」や「特定行為研修を修了した看護師の活用」などを示す―。

11月20日に開催された「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった方針が概ね固められました(前回検討会に関する記事はこちら、前々回(第1回)検討会に関する記事はこちら)。

11月20日に開催された、「第3回 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」

タスク・シフティングの実現に向け、B・C水準指定の枠組みを活用

厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が3月末(2019年3月末)に次のような方針を明確化。現在、B・C水準医療機関の指定等に向けた具体的な仕組みの検討が進められています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら こちら)。

▽2024年4月から「医師の時間外労働上限」を適用し、原則として年間960時間以下とする(すべての医療機関で960時間以下を目指す)【いわゆるA水準】
▽ただし、「3次救急病院」や「年間に救急車1000台以上を受け入れる2次救急病院」など地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関で、労働時間短縮等に限界がある場合には、期限付きで医師の時間外労働を年間1860時間以下までとする【いわゆるB水準】
▽また研修医など短期間で集中的に症例経験を積む必要がある場合には、時間外労働を年間1860時間以下までとする【いわゆるC水準】

こうした基準を遵守するためには、すべての医療機関で「医師の労働時間短縮」を強力に進めることが必要で、例えば「労務管理の徹底」(いわゆる36協定の適切な締結など)や「タスク・シフティング等による労働時間そのものの短縮」などが求められます。

厚労省は、今夏(2019年6-7月)に30の医療関係団体からヒアリングを実施しており、そこでは6分野・286の業務・行為が「医師から他職種にタスク・シフティングできる可能性がある」との意見が出されました(ヒアリングに関する記事はこちらこちらこちら)、検討会ではこれらを、まず次の3グループに区分。

(A)現行制度の下で実施可能である業務
(B)現行制度の下で実施可能か否かが明確に示されていない業務
(C)現行制度の下では実施できないが、実務的には十分実施可能で法改正等を行えば実施可能となる業務

このうちは(C)の業務については、「医療安全を確保するために、どういった教育・研修が必要なのか」などの点について関係学会等が意見を募り、それをベースに法改正の必要性やその内容を検討していくことになりました。

11月20日の検討会では、(A)(B)の業務について、「業務移管をどのように進めていくか」という議論が行われています。

まず(A)の「現在でも実施可能な業務」については、「なぜ業務移管が進まないのか」を明らかにすること、さらに「どのような方策をとることが業務移管推進に向けて効果的なのか」を改めて考えること、が必要です。

また(B)については、業務の中身を「現時点で実施可能な業務部分」と「現時点では法令上、医師以外では実施不可能な業務部分」とに明確に切り分け、前者について(A)に組み込んで業務移管を進めていくことが必要です。

厚労省は、こうした点、さらに「タスク・シフティング/タスク・シェアリングがとりわけ重要となるのは、医師が長時間の時間外労働を行うことになるB水準・C水準医療機関である」点を踏まえ、次のような方策で業務移管を推進してはどうかとの考えを提示しました。「B・C水準指定の枠組み」の中にタスク・シフティングを位置付けるもので、異なる側面から見れば「B・C水準指定を希望する医療機関では、タスク・シフティングを進めなければならない」という環境を構築するものと言えます。検討会で特段の異論・反論は出ておらず、今後、別の検討会(医師の働き方改革の推進に関する検討会)で具体的な制度設計を練っていきます(タスク・シフティング/タスク・シェアリング項目は本検討会で詰める)。

(1)「管理者向けのマネジメント研修」、「管理者が行うB・C対象医師(救急科の医師や研修医など)への説明」、「管理者と対象医師との意見交換の場」などの機会を通じ、各医療機関が取り組むタスク・シフティング/シェアリングについて周知し、徹底する策を講じる

(2)B・C医療機関等に作成が義務付けられる「医師労働時間短縮計画」の中に、各医療機関が「自院で実施するタスク・シフティング/シェアリング項目」を選定し、その取り組み状況の記載を求める

(3)B・C医療機関指定の前提となる「評価機能による評価」項目の中に、「タスク・シフティング/シェアリングに向けて重要と思われる」項目を加える


後述するように、「現在でも業務移管が可能なA項目」は多数あり、実施の難易度(「いますぐにでも業務移管が可能なのか、一定の準備が必要なのか」、「多くの医療機関で実施できるのか、一部の医療機関でしか実施できないのか」など)や効果(勤務医の労働時間がどの程度縮減するのか)には差があるため、厚労省としては「こういった業務・行為が実施に移しやすく、また効果も高い」という、いわば「推奨項目」(後述)を示します。これを(3)の「評価機能による評価」項目に加えることになるのです。

各医療機関は、「推奨項目」はもちろん、他の「タスク・シフティング/シェアリング項目」も含めて、「自院にマッチしたタスク・シフティング/シェアリング項目」を選択し、(2)にあるように、それを「医師労働時間短縮計画」に記載。さらに、タスク・シフティングの進捗状況も併せて記載します。

評価機能によって「タスク・シフティングも含めて労働時間短縮が十分に進んでいる。しかし、現状では地域の医療提供体制を確保するために960時間を超える時間外労働もやむを得ない」と評価されればB・C水準への指定が見えてきます(評価機能の評価も踏まえて、最終的なB・C水準指定は都道府県が行う)。逆に「タスク・シフティングも含めて労働時間短縮が進められていない。B・C水準への指定は好ましくない」と評価されれば、B・C水準指定は厳しくなります(同)。

このため(2)(3)によって、医療機関が「タスク・シフティングを進めなければならない」環境が整備されると考えられるのです。



ところで、医療機関ごとに提供する医療内容や、スタッフの配置状況、スタッフの技能などは異なるため、「どういった業務を医師から他職種に移管すれば、自院の勤務医の負担が軽減するか」も異なってきます。したがって、医療機関によっては「厚労省の推奨項目は自院にはマッチしておらず、別の項目のタスク・シフティングのほうが効果的である」というケースも出てくるでしょう。

こうしたケースについて評価機能は「推奨項目について業務移管を実施していないのは遺憾である」と単純な判断はせず、「個別医療機関の実情を踏まえて、タスク・シフティングの実施状況、推進情報を判断していく」ことになります。

看護師による「特定行為」実施などを、厚労省が推奨

では、どういった業務・行為が「タスク・シフティング/シェアリング項目」に該当するのでしょう。

厚労省は、上述の(A)項目(現時点で既に業務移管可能な項目)・(B)項目(業務移管可能かどうか明確でない項目)を整理するとともに、▼いますぐにでも業務移管が可能なのか、一定の準備(研修等)が必要なのか▼多くの医療機関で実施できるのか、一部の医療機関でしか実施できないのか▼勤務医の労働時間がどの程度縮減するのか―などの観点から、次のような業務・行為を「推奨項目」(重要項目)例としてピックアップしました(下記の(A)は現時点で業務移管可能なもの、(B)は業務を切り分け、明確化を行うもの)。

【看護師】
▽包括的指示の有効な活用(A)
▽特定行為(A)
▽定型的血液検査等の指示の代行入力(A)
▽外来でのワクチン接種(A)
▽患者に対する放射線治療についての説明・相談。抗がん剤治療中や放射線治療中の患者の検査オーダーについては、事前に合意されたプロトコルに基づいて実施(B)

【助産師】
▽院内助産(A)
▽助産師外来(A)

【医師事務作業補助者】
▽患者への説明(検査手順説明、入院説明、同意書の取得等)(A)
▽電子カルテの記載(診断書、入退院サマリー、各種パスの代行入力等)(A)
▽各種書類作成等事務業務(申請書等の草案作成、診療データ入力・解析、統計作成、当直表作成等)(A)

【薬剤師】
▽術前服薬指導(持参薬の入力等含む)(A)
▽薬物療法のモニタリングの実施とその結果に伴う処方内容の見直しの提案(A)

【診療放射線技師】
▽医師の包括的指示に基づき、撮影部位の確認と追加撮影オーダーを診療放射線技師が実施する(B)
▽血管造影・IVR診療の補助行為(B)

【臨床工学技士】
▽全身麻酔装置に伴う麻酔作動薬や循環作動薬、輸液を投与する行為(B)

【臨床検査技師】
▽心臓・血管カテーテル検査における超音波検査等の検査のための装置の操作等(B)

【義肢装具士】
▽医師の指示に基づく、断端形成、潰瘍部の免荷、ギプスの介助等(B)

【言語聴覚技師】
▽医師の包括的指示に基づく嚥下検査の実施(B)


もちろん前述のとおり、これら「推奨項目」(重要項目)以外についてもタスク・シフティングを進めていくことが重要です。

例えば、現状でも業務移管可能な(A)項目の一覧を眺めると、▼助産師による「妊産婦の保健指導業務」(勤務医の労働時間削減効果は、1病院・1か月当たり44時間)▼理学療法士による「リハビリテーション実施計画等の作成と患者への説明」(同10.6時間)―などは非常に削減効果が大きいものの、「多くの医療機関での実施」という面でいささか疑問もあり(例えば産科・産婦人科のない医療機関では助産師が活躍できる場面が極めて限られる)、「推奨項目」には盛り込まれていませんが、医療機関の判断で「医師労働時間短縮計画」に盛り込むことが可能です。

また(B)項目の一覧を眺めると、例えば「薬剤師によるプロトコルに基づいた投薬(医師の包括的指示と同意がある場合に、医師の最終確認・再確認を得ずに薬剤師が投薬を行う(患者自身が内服するケースを想定)」については、▼薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更について、処方の範囲内で、医師・薬剤師等で事前に作成・合意されたプロトコルに基づき実施する場合は、必ずしも医師の最終確認・再確認を必要とせずに実施可能である▼病状が不安定であることなどにより専門的な管理が必要な場合には、医師と協働して実施する必要がある▼薬剤の「患者への投与」(例えば注射など)については、医師や看護師が実施する必要がある―と切り分け、明確化を行っています。

ただし、1つ1つの行為を厳密に見ていくと「こういうケースはどうなのか」という疑問が数多く出てくることから、さらなる切り分け・明確化なども検討されます。

また、従前(A)項目とされた業務・行為の中にも、「詳しく見ていくと、当該業務・行為のこの部分は『現行法令では医師以外の実施は困難』である」と判明し、(B)項目に移して切り分け・明確化が行われているものもあります。

構成員からは個別項目について、例えば「●●業務の中に、〇〇ケースは含まれるのか」「〇〇業務であっても、△△のケースは除外すべきでないか」などの指摘も多数出ており、厚労省でさらなる精緻化が進められます。

また馬場秀夫構成員(熊本大学大学院生命科学研究部消化器外科学講座教授)からは、自院において「患者の移送」(入院後から検査室への移送など)等を専ら担うスタッフを配置することで、医師・看護師の負担が大幅に減少したことなども紹介されています。

特定行為を修了した看護師の活用で、医師の業務時間は2割も減少

さらに、注目される「特定行為研修を修了した看護師」へのタスク・シフティングについて、次のような効果があるという研究結果が紹介されています。

▽医師による1週間あたりの指示回数が有意に減少した(692回→200回:492回・71%減)

▽医師による夜間帯(19時以降)の指示回数が有意に減少した(77回→21回:56回・73%減)

▽病棟看護師の月平均残業時間も有意に減少した(401.75時間→233.25時間:168.5時間・42%減)

▽医師の年間平均勤務時間が有意に短縮(2390.7時間→1944.9時間:445.8時間減・19%減)


148床の急性期病院、500床超の特定機能病院を対象にした限定的な研究結果ですが、極めて大きな「勤務医の負担軽減効果」があることが伺えます。

もちろん「特定行為研修を修了した看護師」を配置する医療機関では、院内全体で「勤務医の負担軽減を進めよう」「医師から他職種へのタスク・シフティングを進めよう」という風土が醸成されており、複合的な要素によって「勤務医の労働時間短縮」が進んでいると考えられますが、「特定行為研修を修了した看護師」の活躍とその効果には目を見張るものがあることは紛れもない事実でしょう。

「特定行為研修」実施施設のさらなる拡大と、より多くの看護師の研修受講等に期待が集まります(関連記事はこちらこちら)。

タスク・シフティング受ける側の「不安」「負担」「不満」に十分な配慮を

また、11月20日の検討会では、上述した(1)の「マネジメント研修」等について、構成員の間で改めてのその重要性が確認されました。

この点に関連して裵英洙構成員(ハイズ株式会社代表取締役)は、▼タスク・シフティングを受ける側の「不安(実施したことがない)」「負担(現在でも忙しい)」「不満(なぜ下請けをしなければならない)」に配慮してタスク・シフティングを進めなければならない▼タスク・シフティングに失敗した場合のフォローの仕組みを予め構築してくべき点―などを強調しています。

今村聡構成員(日本医師会副会長)や根岸千晴構成員(埼玉県済生会川口総合病院副院長(麻酔科主任部長兼務))も、こうした点への留意が極めて重要であることを指摘し、実効性のあるマネジメント研修等を行い、「医療機関の管理者等の意識改革」を行うべき点を訴えています。この点、裵構成員は「座学の研修には限界がある」点も指摘しており、マネジメント研修については「内容」と「実施方法」を十分に練ることが必要でしょう。


関連して猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は、「医師から看護師にタスク・シフティングを行った場合、すでに看護師は極めて多忙であり、看護師から看護補助者等へのタスク・シフティングをしなければならない」が、人材確保はそれほど容易ではなく、「タスク・シフティングの効果は限定的である」点を強調。ICTなどの活用も併せて検討していくことの重要性を指摘しています。この点、馬場構成員も「標準的な手術については、説明事項も標準化が可能であり、それをDVD化して患者・家族に見てもらい、必要な部分について執刀医等が説明するような形態も考えていくべき」と提案しています。

検討会では、年内の意見とりまとめ(もちろん将来的な課題については検討を継続する)を目指し、さらに議論を深めていきます。

 
 
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