技師・技士による検査や医薬品投与のための静脈路確保など認めてはどうか―医師働き方改革タスクシフト推進検討会
2020.1.21.(火)
技師・技士による検査や医薬品投与のための静脈路確保や消化器内視鏡検査・治療における組織採取の補助操作などについて、法令改正を行い、医師からの業務移管(タスク・シフティング)を進める環境を2024年4月までに整えてはどうか―。
1月20日に開催された「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました(前回(第4回)検討会に関する記事はこちら、前々回(第3回)検討会に関する記事はこちら、前々回(第2回)検討会に関する記事はこちら、その前の回(第1回)検討会に関する記事はこちら)。
教育研修等で医療安全確保し、タスク・シフティングを進めてはどうか
厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が3月末(2019年3月末)に次のような方針を明確化。現在、いわゆるB・C水準医療機関の指定等の枠組みを検討しています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
▽2024年4月から「医師の時間外労働上限」を適用し、原則として年間960時間以下とする(すべての医療機関で960時間以下を目指す)【いわゆるA水準】
▽ただし、「3次救急病院」や「年間に救急車1000台以上を受け入れる2次救急病院」など地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関で、労働時間短縮等に限界がある場合には、期限付きで医師の時間外労働を年間1860時間以下までとする【いわゆるB水準】
▽また研修医など短期間で集中的に症例経験を積む必要がある場合には、時間外労働を年間1860時間以下までとする【いわゆるC水準】
こうした時間外労働上限を遵守するためには、すべての医療機関で「医師の労働時間短縮」を強力に進めることが必要で、例えば「労務管理の徹底」(いわゆる36協定の適切な締結など)や「タスク・シフティング等による労働時間そのものの短縮」などが求められます。
タスク・シフティングに関しては、医療関係団体から6分野・286の業務・行為が「医師から他職種にタスク・シフティングできる可能性がある」との意見が出されました(厚労省のヒアリングに関する記事はこちらとこちらとこちら)。検討会ではこれらをまず次の3グループに区分。
(A)現行制度の下で実施可能である業務
(B)現行制度の下で実施可能か否かが明確に示されていない業務
(C)現行制度の下では実施できないが、実務的には十分実施可能で法改正等を行えば実施可能となる業務
このうち(A)(B)の業務・行為については「現在も実施可能である旨の周知」や「実施可能な業務の明確化」などが進められます。ただし今村聡構成員(日本医師会副会長)や齋藤訓子構成員(日本看護協会副会長)は、「なぜ可能であるのにタスク・シフティングが進まないのか、その背景を十分に探る必要がある」と提案しています。
一方、(C)の業務・行為については、(1)各資格法における資格の定義と、それに付随する行為の範囲内であるか(2)その職種が担っていた従来の業務の技術的基盤の上にある隣接業務であるかと(3)教育カリキュラムや卒後研修などによって安全性を担保できるか―という3つの視点に立って選別。今般、▼(1)(2)(3)の3要素すべてを満たす▼(1)と(3)を満たす―下の22の業務をピックアップしました。
さらに(3)の安全性担保に関しては、次のような整理を行っています。
【a】(1)(2)(3)の3要素すべてを満たす業務・行為のうち「現行養成課程で必要な知識の習得が明確に担保されている業務・行為」については、新たな研修は課さない。ただし医療安全上の配慮が特に必要な場合は、▼事前の医師の明確な指示▼緊急時の連絡体制の整備▼緊急時のマニュアル整備―など「安全に実施する上での留意事項」を通知で示す
【b】(1)(2)(3)の3要素すべてを満たす業務・行為のうち「現行養成課程で必要な知識の習得が担保されていることが明確でない業務・行為」については、養成課程において必要な教育内容として明確化するとともに、既に資格取得済みの者については、法令による研修の受講の義務付けは行わないものの、通知で「当該業務・行為の実施に当たって追加的な知識の修得が必要な者について、職能団体が実施する研修を受けること」を求める
【c】(1)と(3)のみを満たす業務・行為(つまり(2)を満たさず、当該業務・行為が従来の業務・行為の技術的基盤の上にない)については、養成課程において必要な教育内容を追加するとともに、既に資格取得済みの者については、法令により「厚生労働大臣が指定する研修を受講すること」を業務実施の要件とする
【診療放射線技師】
●省令改正
▽放射線部門の検査関連の静脈確保注射(造影剤注入装置を用いて造影剤を注入するための静脈路確保する行為)【c】
▽RI(Radio Isotope)検査医薬品注入後の抜針および止血【b】
▽CTコロノグラフィの検査手技(カテーテルから空気の吸引)【b】
▽造影剤注入装置から動脈へ造影剤を注入する行為(抜針および止血を行う行為を除く)【b】
▽(上部消化管造影において)鼻腔からバリウムを注入する行為【b】
●法律改正
▽RI核種(RI検査医薬品)投与のための静脈路確保【c】
▽RI核種(RI検査医薬品)の投与(体内への注入)【b】
▽病院または診療所以外の場所における検査(医師または歯科医師が診察した患者を対象とする出張での超音波検査)【a】
【臨床検査技師】
●省令改正
▽直腸肛門機能検査(肛門内圧検査・直腸バルーン知覚検査/検査のために肛門にカテーテル・センサーを挿入する行為)【b】
▽持続血糖測定のための穿刺・抜針(皮下の間質液を採取する持続自己血糖測定器を取り付けるために穿刺する行為、および当該測定器を取り除くために抜針する行為)【b】
▽術中モニタリング(運動誘発電位や体性感覚誘発電位)に係る電極装着(針電極含む)、検査装置の操作・管理【b】
●政令改正
▽救急現場における採血のための末梢静脈路の確保(ヘパリンロックを除く)【b】
▽救急現場における採血のための末梢静脈路の確保後、ヘパリンロックをする行為【b】
▽検査のための採痰(誘発採痰含む)【b】
▽消化器内視鏡検査・治療における生体組織採取行為の補助操作【c】
▽成分採血装置(末梢血ラインから連続成分採血装置による体外循環を行う機器)の運転【b】
●法律改正
▽造影超音波検査の超音波造影剤の投与(ソナゾイド等静脈から超音波造影剤を注入)【b】
【臨床工学技士】
●政令改正
▽血液浄化施行時のバスキュラーアクセスへの穿刺によるカニューレの留置および不要カニューレの抜去(動脈表在化等を含む)、血液浄化装置の先端部(穿刺針)のバスキュラーアクセスへの穿刺及び抜去【b】
●法律事項
▽輸液ポンプ等を用いた薬液投与のための皮静脈穿刺によるラインの確保、不要カニューレの抜去【b】
▽心・血管カテーテル治療時に身体への電気的負荷等をかける装置のスイッチを押下する行為【b】
▽内視鏡外科手術において、体内に挿入されている硬性鏡の保持・術野の視野を確保するための操作【c】
▽人工呼吸器等の生命維持管理装置を装着している患者に対する輸液ポンプによる中心静脈カテーテル等からの薬剤の投与【b】
これらのうち、「技師による静脈確保」については、齋藤構成員や秋山智弥構成員(岩手医科大学看護学部特任教授)らから▼薬液漏出等が生じるリスクもあり、医療安全に問題はないのか▼静脈路確保は現在でも多くのケースで看護師が実施しており、それで十分ではないか(技師への業務移管の必要性はない)―との考えが示されました。
しかし、前者の医療安全については、「臨床検査技師や臨床工学技士では、すでに穿刺を医療現場で実施しており、診療放射線技師についても研修等を課すことで医療安全は確保できる」「医師も看護師も初めは未経験者であり、研修や臨床での経験を積んで技術が磨かれていく」という意見が他の構成員から相次ぎました。また、後者については「大学病院などでは静脈路確保を医師が実施しているケースも少なくなく、タスク・シフティングの必要性は高い」との見解が厚労省担当者から示されるとともに、今村構成員から「看護師の業務負担軽減も考慮しなければならない」との意見が出されました。
また「臨床検査技師による消化器内視鏡検査・治療における生体組織採取行為の補助操作」は、例えば「医師が内視鏡捜査で手が離せない場合に、技師に『この部分を採取してほしい』と具体的に指示し、技師が鉗子により検体採取を行い、さらにその後の検体検査までの一連の流れを担う」ことが想定されていますが、釜萢敏構成員(日本医師会常任理事)や今村構成員らから「実際の場面がイメージしにくい」「医師は内視鏡捜査を行うなどその場面におり、どこまでの業務負担軽減が可能なのかイメージしにくい」との声が出ています。
なお上記項目は「各団体からの要望」をベースに構成されているため、用語等の統一が十分になされていません。厚労省は今後、構成員の意見も踏まえ、さらに用語統一等を行う形で、さらに「タスク・シフティング案」を精緻化していきます。あわせて、別途検討されている「救急救命士へのタスク・シフティング」案も付加して、今後、最終案取りまとめに向けて議論を詰めていくことになります。
この点、猪口雄二構成員(全日本病院協会会長)は「2024年4月までに時間は極めて限られている。前向きな検討が必要である」と指摘。また釜萢構成員は「22の業務・行為についてすべて業務移管の対象にしなくてもよいと思う。教育研修などについて議論を尽くし、合意の得られた業務・行為について必要な法令上の対応を行えばよい」との考えを披露しています。
また22業務・行為は「2024年4月までに業務移管可能な環境を整備する」考えの下で検討が進められていますが、今村構成員は「研修に必要な人材確保やコストへの補助なども検討すべき」と指摘。ただし、研修内容やその実行可能性担保などは法令等改正後に研究・実施することになるでしょう。
救急現場における医師診察前の看護師による検査オーダー、一定要件下で可能
なお、1月20日の検討会では「救急外来における医師の診察前の検査実施」に関する議論も行われました。例えば、救急患者が数多く搬送され、医師の手が空かないような状況で「医師の診察が行われる前に、主に看護師が必要な検査指示等を一定程度行い、その結果を踏まえて医師が診察を行う」ようなケースについて、▼初診・診察前の指示が有効に成立するのか▼無診察治療(医師法第20条で禁止)に該当しはしないのか―という疑問が生じたためです。
この点、厚労省は次のような整理を行い「救急外来の診察前検査等において、医師の指示をより効率的に活用することができる」との考えを示しました。
【初診・診察前の指示の有効性】
▼対応可能な患者の範囲が明確にされている▼対応可能な病態の変化が明確にされている▼指示を受ける看護師が理解し得る程度の指示内容(判断の規準、処置・検査・薬剤の使用の内容 等)が示されている▼対応可能な範囲を逸脱した場合に、早急に医師に連絡を取り、その指示が受けられる体制が整えられている―ことを満たせば「医師による事前の指示」は有効であり、その際、「事前に医師関与の下でのプロトコル作成」が望ましい
【医師法第20条との関係】
▼医学的検査のための採血は医師法第20条の「治療」には当てはまらないと解釈することが可能であり、無診察治療には該当しない
ただし「必要性の低い検査」までがプロトコルに含まれてしまえば、「不要な検査が増加し、医療費が膨張してしまう」という懸念もあり、構成員から「プロトコル作成に当たっての工夫が必要」(猪口構成員や永井康徳構成員:医療法人ゆうの森理事長たんぽぽクリニック)などの指摘が出ています。一律に「救急搬送患者には〇〇と●●と▼▼の検査」などという網羅的なプロトコルは避け、一定程度患者像を想定し、「◇◇状態の患者では〇〇検査と▽▽検査」「◆◆状態の患者では●●検査と▼▼検査」などの個別プロトコル作成が期待されるでしょう。
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