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医師から他職種へのタスク・シフティング、特定行為研修推進等で医療の質担保を―厚労省ヒアリング

2019.7.18.(木)

 医師の働き方改革に向けて、医師から他職種へのタスク・シフティング(業務移管)が必要不可欠であり、その際には「病院経営上のメリット」も考慮すべきではないか。また、医療の質を担保するために、特定行為研修の推進や、「周術期管理チーム」などの「多職種で医療の質を確保する」取り組みなどが重要となる。また、業務移管を受ける看護師等から、別の他職種へのタスク・シフティングも重要である―。

 厚生労働省が7月17日に開催した「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング」で、こういった点について意見発表がなされました。

ロボット支援手術等で手術時間が延びる中、タスク・シフティングが極めて重要

 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が3月末(2019年3月末)に報告書をとりまとめ、大きく次のような方針を明確にしました(関連記事はこちら)。

▽2024年4月から「医師の時間外労働上限」を適用し、原則として年間960時間以下とする(すべての医療機関で960時間以下を目指す)(いわゆるA水準)

▽ただし、「3次救急病院」や「年間に救急車1000台以上を受け入れる2次救急病院」など地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関で、労働時間短縮等に限界がある場合には、期限付きで医師の時間外労働を年間1860時間以下までとする(いわゆるB水準)

▽また研修医など短期間で集中的に症例経験を積む必要がある場合には、時間外労働を年間1860時間以下までとする(いわゆるC水準)

▽2024年4月までの5年間、全医療機関で「労務管理の徹底」(いわゆる36協定の適切な締結など)、「労働時間の短縮」(タスク・シフティングなど)を進める
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 医療機関は、「今」から労働時間短縮に向けた取り組みを進める必要があり、その中で重視されているのが、「医師から他職種に、また他職種からさらに別の職種に、当該職種でなくとも実施可能な業務を移管し、当該職種がその資格を保有していなければ実施不可能な業務に集中する」環境を整える【タスク・シフティング】です。

厚労省は、30超の医療関係職能団体や関係医学会など(三師会、四病院団体協議会、新専門医制度の基本領域学会、日本専門医機構、日本看護協会ほか)に、「どの業務を、どの職種に移管することが可能と考えられるのか」「業務移管によって、どの程度の負担軽減効果が得られるのか」「業務移管後も医療の質を担保するために、どのような施策が必要と考えられるのか」などといった点について意見を聴取するとともに、厚労省幹部との意見交換を行う場を設置し、6月の会合では、日本医師会や日本脳神経外科学会、日本病理学会などから意見を聴取しています(関連記事はこちら)。

7月17日に開催された第2回会合では、▼日本外科学会▼日本麻酔科学会▼日本理学療法士協会▼日本皮膚科学会▼日本診療放射線技師会▼日本救急救命士協会▼日本精神神経学会▼日本作業療法士協会▼日本臨床衛生検査技師会▼日本整形外科学会▼日本専門医機構▼日本医学放射線学会▼日本薬剤師会▼日本リハビリテーション医学会▼日本救急医学会―の15学会・団体から意見聴取を行いました。意見は極めて膨大なため、ここでは急性期医療に特に関係の深い外科学会・麻酔科学会の意見に焦点を合わせてみます。

日本外科学会では、現在医師が担っている業務のうち看護師に移管可能と考えられる業務について、現在の移管状況とともに次のように整理しました。同じ手術でも、▼開腹手術 → ▼内視鏡手術 → ▼手術支援ロボットを用いた手術―と技術が高度化し、下準備などに多くの時間がかかるようになってきています。そうした中では「医師が、医師でしかなしえない業務」に集中できるよう、周辺業務の他職種への移管が極めて重要であると日本外科学会は強く訴えています。

▽手術の際の手術部位(創部)の消毒やドレープがけ【現在の移管状況は10%未満】

▽術後24時間以内の疼痛管理目的での麻薬性鎮痛薬(フェンタニル等が必要になった場合)の投与【現在の移管状況は20-30%】

▽定型的血液検査の指示入力【現在の移管状況は20-30%】

▽皮下埋め込み式CVポートの穿刺【現在の移管状況は40%以上】

▽胃管・EDチューブの挿入・管理・抜去【現在の移管状況は20-30%】

▽急性血液浄化療法における血液透析器または血液透析濾過器の操作・管理【現在の移管状況は40%以上】

▽持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整【現在の移管状況は40%以上】

▽抗不安薬の臨時の投与【現在の移管状況は40%以上】

▽持続点滴中の降圧剤の投与量の調整【現在の移管状況は40%以上】

▽抗精神病薬の臨時の投与【現在の移管状況は40%以上】

▽人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整【現在の移管状況は40%以上】

▽直接動脈穿刺法による採血【現在の移管状況は10%未満】

▽創管理(ドレッシング抜去、抜糸)【現在の移管状況は10%未満】

▽ドレーン抜去【現在の移管状況は10%未満】
医師働き方改革タスク・シフティングヒアリング1 190717
 
「現在の移管状況」は、日本外科学会のNCD(National Clinical Data Base)のデータから分析したものです。NCDは手術症例の詳細を登録するデータベースで、2011年から稼働しています。今後、タスク・シフティングが進める中で、その状況を個別症例単位で追跡することができ「タスク・シフティングの効果」検証にも大きな役割を果たします。仮に「タスク・シフティングにより患者の予後が悪化した」ような場合には、その対策を検討することが可能となります。

タスク・シフティングの推進、病院経営上のメリットも考慮すべきでは

また日本麻酔科学会では、次のような業務が他職種に移管可能であると提言しています。この点、「経営上のメリット」を考慮しなければ、多くの医療現場においてタスク・シフティングが思うように進まないのではないか、との考えも示されています。

【看護師へのタスク・シフティング】
▽術前のオリエンテーション・リスク評価、麻酔に関する説明

▽術中の末梢点滴ルート確保、薬剤・薬液準備、バイタルサイン・処置記録、既設置ルートからの動脈採血と測定

▽術後のラウンド・術後疼痛管理

【薬剤師へのタスク・シフティング】
▽術前の服薬内容チェック・処方提案

▽術中の管理薬剤の払い出し、残薬回収、術後の鎮痛薬調製・投与器具準備

▽術後の疼痛評価・鎮痛薬調整提案、術前中止薬の再開確認

【臨床工学技士へのタスク・シフティング】
▽術前のシリンジポンプ・フットポンプ、麻酔関連機器の保守点検と準備

▽術中の麻酔関連機器の修理・対応

▽術後の各種機器の回収・保守点検、鎮痛薬投与ポンプデータの解析
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特定行為研修の推進、チームでの管理などで、医療の質担保を

 もっとも、こうした業務を移管した場合でも医療の質が確保されなければなりません。この点について、日本外科学会では▼看護師が特定行為研修等を受講し、手技の適応や内容について十分に理解する▼医療機関が当該行為を行う必要な条件を明確にした上で、当該行 為を行うことを許可する―ことが必要と指摘。また、日本麻酔科学会では▼周術期管理チームメンバーとしての職種別活動を行う▼看護師は特定行為研修を受講するとともに、さらなる研修カリキュラムについて厚労省・研究班で検討する―ことを提案しています。

 このうち「周術期管理チームメンバー」とは、▼周術期管理チームセミナーへの2回以上の参加実績、これに相当するe-learningの受講実績▼日本手術看護学会主催の麻酔看護研修への2回以上の参加実績▼周術期管理チームテキスト(816ページ)内容の理解▼認定試験への合格―を果たした看護師・薬剤師・臨床工学技士を指し、日本麻酔科学会が2014年から積極的な育成を行っているものです。現在(2019年)、看護師:1908名・薬剤師:134名・臨床工学技士:55名が周術期管理チームメンバーとして養成されており、特定行為研修を修了した看護師(2018年9月末時点で1205名)を上回っています。

「チームで医療の質を確保する」という考えは、タスク・シフティングに限らず極めて重要な視点と言えます。この点、周術期管理チームを設置し、タスク・シフティングの実行を始めている東邦大学医療センター大森病院では、「高齢化・重症化にも関わらず手術件数が増加し、一方で平均在院日数の短縮・術後入院日数短縮という医療の質向上を実現できている」といった効果が現れています。
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 このように両学会とも「研修の重要性」を指摘としおり、学会独自の取り組みはもちろん、公的な制度となっている「特定行為研修」(研修を修了した看護師は、医師の包括的指示の下で一定の医行為を実施可能)の重要性がさらに高まっていくと考えられます。

特定行為研修について厚労省は「2025年度までに特定行為研修の修了者を10万人とする」との目標を打ち立て、2020年4月から「領域別パッケージ研修」をスタートさせます(▼在宅・慢性期領域▼外科術後病棟管理領域▼術中麻酔管理領域—の3領域について、特定行為研修を「パッケージ」化し、併せて研修内容を精錬して研修時間等を短縮。特定行為研修を受けやすくする)(関連記事はこちら)。あわせて、日本病院会や外科系学会、特定機能病院も「積極的に特定行為研修を実施する」姿勢を強く打ち出しており(関連記事はこちらこちら)、特定行為研修が今後、各所で強力に推進されることになるでしょう。

 
ただし、医師が担っている業務の一部が看護師等に移管された場合、看護師等の業務が過剰になります。このため、日本外科学会・日本麻酔科学会はもちろん、ヒアリングに参加した各学会・団体は「他職種(看護師等)の業務についてのタスク・シフティングも進める必要がある」点を強調しています。

 
 
 なお、タスク・シフティングに関連して、▼ナース・プラクティショナー(NP)▼フィジシャン・アシスタント(PA)―などにも注目が集まっています。前者のNPには、米国等では「医師等の指示を受けずに、独自の判断で一定の医行為を実施する」ことが認められており、後者のPAは、医師の監督のもとに▼診察▼薬の処方▼手術の補助―など、医師が行う医療行為の相当程度をカバーする医療資格者のことです。

この点について日本外科学会・日本麻酔科学会をはじめ多くの学会は「先進諸国ではNPやPAの活用による医師の負担軽減が進んでいる」ことを強調しています。日本看護協会は根本匠厚生労働大臣に「NP創設について検討する場」を設置するよう求めており(関連記事はこちら)、今後、の厚労省・学会・医療関連団体の動きに注目が集まります。

 
 

 

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