医師の働き方改革に向け、特定行為研修修了看護師の拡充や、症例の集約など進めよ―外保連
2019.3.26.(火)
医師の働き方改革論議が進む中で、医師から他職種へのタスク・シフティングが重要である。そうした中で「特定行為研修を修了した看護師」への期待が高まっており、まず特定機能病院が指定研修機関となり、自院の看護師が「働きながら研修を受けられる」体制を構築してはどうか―。
外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が3月19日に開催した記者懇談会で、このような考えが示されました。
特定機能病院は、特定行為研修の指定研修施設となるべき
医師(勤務医)にも働き方改革が求められており、厚生労働省の「医師の働き方改革検討会」で、時間外労働上限の設定とともに、さまざまな労働時間短縮策に関する議論が進められています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
労働時間短縮策の中でとくに重視されている項目の1つとして医師でなくとも可能な業務の他職種への移管(タスク・シフティング)があり、既に制度化されている「特定行為研修を修了した看護師」の拡充はもちろん、新たに「ナース・プラクティショナー(NP)」を制度化していくべきとの指摘もあります。
「特定行為研修を修了した看護師」は、指定された研修機関で一定の研修(特定行為に係る研修、以下、特定行為研修)を修了した看護師のことで、医師・歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38行為(21分野)の診療の補助(特定行為)を実施することが可能です。
2020年4月からは、研修科目を精査し「研修の質を担保しながら、研修時間の短縮を行う」とともに、▼在宅・慢性期領域▼外科術後病棟管理領域▼術中麻酔管理領域—の3領域において特定行為研修をパッケージ化するなどの見直しが行われます(関連記事はこちらとこちら)。
パッケージ化研修を修了すれば、例えば「外科術後病棟管理領域」では▼呼吸器(気道確保に係るもの)関連▼呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連▼呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連▼胸腔ドレーン管理関連▼腹腔ドレーン管理関連▼栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連▼栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連▼創部ドレーン管理関連▼動脈血液ガス分析関連▼栄養及び水分管理に係る薬剤投与▼術後疼痛管理関連 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整▼循環動態に係る薬剤投与関連―の特定行為を実施可能となり、医療現場でのさらなる活躍が期待されます。さらに、研修を受ける看護師にとっても、看護師を研修に送り出す医療機関にとっても「負担の軽減」が図られ、「特定行為研修を修了した看護師」の拡充も見込まれます。
ただし、研修修了者は2018年3月時点で1006名にとどまっており、厚生労働省の掲げる「2025年度までに研修修了者を10万人とする」との目標達成までには、まだまだ険しい道のりがあります。
こうした状況を踏まえ、日本外科学会の馬場秀夫理事(熊本大学大学院生命科学研究部消化器外科学教授)は、「特定機能病院が、特定行為研修の指定研修機関となり、特定行為研修修了看護師の養成を進めることが重要」と訴えています。
指定研修機関は、2019年2月に追加されましたが、それでも全国で39都道府県113機関にとどまっています(関連記事はこちら)。新たに設けられる「外科術後病棟管理領域」のパッケージ研修でも、短縮されるとはいえ、総研修時間は「365時間(共通科目250時間+区分別科目115時間)+各区分別科目の症例実習(科目によって5-10症例)」と長く、看護業務に携わりながら遠方の指定研修機関で研修を受講することには相当の負担が伴います。
馬場理事は、特定機能病院が指定研修機関となれば、「当該病院に勤務する看護師が、業務に携わりながら研修を受講するハードルは低くなる」と見通します。
さらに馬場理事は、外科医師の働き方改革に向けて、「地域の実情に応じた手術症例の集約化」も検討すべきと提案。例えば、▼肝臓がん▼胆のうがん▼食道がん―のような高度手術は、症例を集約することで、効率的な治療や周術期管理が可能となるとともに、治療成績の向上も期待できると馬場理事はコメントしています。一方で、▼大腸がん▼胃がん―などでは「ある程度の症例経験を積めば標準的な手技が実施可能となる」とし、集約化の是非を検討する必要があるとも指摘しています。厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」でも、医療機関の集約化を地域で検討する必要があるとの議論が行われており、同じ方向を向いていると考えられます。
産科医療の実態を踏まえ、宿日直の基準を一時的に緩和すべき
また、医師の中でも特に負担が大きいとされる産婦人科領域について、日本産婦人科医会の中井章人代議員(日本医科大学教授、同大学多摩永山病院院長)は、宿日直について一般に「宿直は週1回、日直は月1回を限度とする」との厚労省基準の見直しが必要と指摘します。
産婦人科医の即座の増員が不可能(医師の養成には10年単位の時間が必要)な中で、この限度どおりに産婦人科医師を配置した場合、全国の医療機関で運営が困難になると中井代議員は指摘。
なお、総合周産期医療センターなどで宿日直基準を守り、夜間の医師業務を「夜勤」とすれば、多くの医師で「週あたり2-4日の休日確保が可能」となり、この休日中に市中の産婦人科医療機関での宿日直を担当する(アルバイトなど)ことができます。しかし、こうした場合、当然、総合周産期医療センターなどの平日・日中の医師配置が手薄となってしまい「本末転倒」な状況が生まれてしまいます。
中井代議員は、当面は「宿日直の基準を緩やかに設定し、段階的に厳格な基準に戻していく」ことが現実的であると訴えています。例えば、総合周産期医療センターでは、夜間でも平均1.15回の分娩等が行われており、「日中に近い労働」となっていることから「宿日直ではなく、夜勤」と扱うことが必要ですが、一般病院の産婦人科では、夜間の分娩等件数は平均0.61回であり、一定程度柔軟な対応(夜勤でなく宿日直とし、回数基準を当面、緩和する)をとることなどが考えられそうです。なお、宿日直許可基準については「内容の現代化」方向が固められていますが、回数緩和方向はこれまでに示されていません(関連記事はこちら)。
なお、中井代議員は総合周産期医療センターや地域周産期医療センターの機能強化を図るために、産科の有床診療所については現行体制を維持したまま、▼総合周産期医療センター▼地域周産期医療センター▼一般病院の産婦人科―について、一定の集約化を図ることも検討すべきと提案しています。
「医師の働き方改革に関する検討会」では近く意見をとりまとめ、5年後の2024年4月から時間外労働上限規定などが適用されます。こうした働き方改革について外保連の岩中督会長(埼玉県病院事業管理者)は、「医師の地域偏在、診療科偏在が大きく、1860時間を超える医師も少なくない。一方で、病院経営も厳しい」とい現実を紹介し、改革実現に向けた道のりの険しさを強調しています。
消費税率10%への引き上げで、高度急性期・急性期病院の負担が増加
さらに、外保連の川瀬弘一手術委員長(聖マリアンナ医科大学小児外科教授)は、今年(2019年10月)予定の消費税率引き上げに関し、高額な医療機器等を使用する術式においては「償還されない費用が消費増税で増大し、病院経営がますます厳しくなる」と訴えています。
例えばK046【骨折観血的手術】の1「肩甲骨、上腕、大腿」とK932【創外固定器加算】を実施した場合、診療報酬点数表では前者1万8810点と後者1万点が設定され、入院料等を除いて28万8100円が請求できます。一方で、▼手術用の基本的な医療機器のセット:1万7928円▼創外固定器の一連のシステム(テイラースペーシャルフレーム):137万5000円―などの償還できないコストが発生します(創外固定器については、特定保険医療材料としての価格が設定されず、上記K932【創外固定器加算】で評価)。
消費税率引き上げにより、機器購入に当たっての消費税負担も増加します(特定保険医療材料であれば、償還価格の引き上げが行われる)。また、昨今では医療安全を重視した使い切りの機器(ディスポーザブル製品)が増加しており、病院の負担する控除対象外消費税負担のさらなる増加も予定されます。
この点、日本医師会では「医療に係る消費税問題は、2019年度の消費税対応改定での精緻化で解消した」との見解を示していますが、特に、高度急性期・急性期の償還不可材料等を多く使用する医療現場(特定機能病院や地域の中核病院など)では「控除対象外消費税」は依然として大きな課題であることは間違いありません。クリニック等の状況のみを踏まえて「解消した」とするのではなく、医療現場全体をみた「消費税問題の解決」に向けた再検討が期待されます。
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