2019年10月の消費税率引き上げ、薬価等の見直しは同時に行うべきか―中医協総会
2018.10.22.(月)
来年(2019年)10月に消費税率が10%に引き上げられる予定だが、それに伴う薬価・保険医療材料価格の見直しは、同時(2019年10月)に実施すべきである―。
10月19日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、業界団体はこのように主張しました。
ただし2019年10月に消費税対応の薬価等見直しを行った場合、2020年4月の通常の薬価改定に向けて「市場実勢価格」を勘案することが困難になるため、見直しの時期については引き続き検討が続けられます(関連記事はこちら)。
また業界団体は「消費税率引き上げに伴う見直しのみを行うべきであり、長期収載品に係る追加的な引下げなどは実施すべきでない」と主張していますが、中医協委員からは異論も出ており、この点も重要な検討課題となります。
薬価等の消費税対応改定では、改定の内容についても意見は区々
消費税率が見直される(引き上げられる)際、医薬品と特定保険医療材料(以下、医薬品等)については、「薬価・材料価格に消費税率分を上乗せする」という対応が採られています(消費税対応改定)。この点、医薬品卸業者等から医療機関等が医薬品等を購入した場合に負担した消費税相当分は、薬価・材料価格の中で補填されることになり、他の衛生材料などの購入にかかる消費税を医療機関等が最終負担している(いわゆる控除対象外消費税)ことと異なることに留意が必要です。
来年(2019年)10月に予定されている消費増税時にも同様の対応が図られる予定で、今般、業界団体(▼日本製薬団体連合会▼米国研究製薬工業協会▼欧州製薬団体連合会▼日本医薬品卸売業連合会▼日本医療機器産業連合会▼米国医療機器・IVD工業会▼駐日欧州商工会議所—)から意見聴取が行われました。
業界団体の意見のポイントは、(1)消費税対応改定は2019年10月に実施すべき(2)消費税率引き上げに伴う見直しのみを行うべきであり、長期収載品に係る追加的な引下げや再算定、新薬創出等加算の累積額の控除、医療機器の機能区分見直しなどは実施すべきではない―という2点に集約できそうです。
まず(1)の改定実施時期ですが、業界団体は「2019年10月実施」の根拠として、▼医療機関等の実質的な負担増とならないよう、消費税率引上げ分を適切に薬価へ転嫁することを目的として実施するものであり、消費税率引き上げと「同時」に行うことが論理的かつ自然である▼仮に2019年10月以外に改定を行った場合、価格交渉を頻回に実施せざるをえず、流通に支障が出る可能性がある―ことなどを掲げています。
この根拠は、改定の趣旨に遡って「極めて当然」の主張をしているものです。ただし、2019年10月に薬価等の見直しを行った場合、半年後に控える「通常の2020年4月改定」への影響が懸念されているのです。
2020年4月には通常の薬価等改定が行われますが、その際には「2019年9月(材料では5-9月)取引分」の実勢価格(実際に、医療機関が卸業者等から購入した価格)を調査し、それをベースに新たな薬価等を設定することになります。しかし、直後の2019年10月に消費税対応改定が行われれば、当然、実勢価格は2019年9月取引分から変化してしまいます。このため「2019年10月に消費税対応改定を行えば、2020年4月の通常改定に悪影響が出てしまう」と指摘されているのです(関連記事はこちら)。
今後、診療報酬本体の見直しとも併せて「消費税対応改定の実施時期をどう考えるのか」が検討されていきます。
一方、(2)は「改定内容」に関する論点と言えます。通常の薬価等改定では、実勢価格に見合った価格調整を行うことと併せて、いわば「薬価算定ルールに則った政策的な見直し」(長期収載品に係る追加的な引下げや再算定、新薬創出等加算の累積額の控除など)も行われます(さらに、薬価や材料価格に現存する問題点などを洗い出した算定ルールそのものの見直しも議論される)。
この点、業界団体は「消費税対応改定は、あくまでも臨時・特例的なもの」であり、後者の見直しは好ましくなく、2018年9月分等を対象とした薬価調査等のデータに基づき「消費増税分の上乗せ」のみを行うべきと強く主張しているのです。
これも頷ける主張ですが、中医協総会では支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)から「消費税対応改定は、実勢価格に消費増税分を上乗せするものであり、その際の実勢価格は、例えば、新薬創出等加算の累積額が控除されるものであれば、『控除後の価格』に消費増税分を上乗せするのが筋ではないか」とコメント。
両者の折衷案などが考えられるのか(例えば、「新薬創出等加算の累積額控除は実施しないが、長期収載品の追加引き下げは行う」などが論理的に許されるのか)なども含めて、今後も議論が続けられることになります。
3件目のがん遺伝子パネル検査が先進医療に、保険診療との併用可能
10月17日の中医協総会では、新たな「先進医療」と「患者申出療養」がそれぞれ1件、報告されました。遺伝子パネル検査は、▼ NCCオンコパネル(国立がん研究センター)▼ Todai Onco Panel (東京大学医学部附属病院)—につづく3件目の先進医療技術となります。
【新たな先進医療】
▽進行・再発の難治性固形癌患者に対するOncomine Target Testシステムを用いたがん遺伝子パネル検査(大阪大学医学部附属病院で実施、保険給付されない先進医療に係る費用は44万5000円(半額を研究費が補助)。1年半で200例の患者に対して当該検査を実施し、▼アクショナブル遺伝子異常を有する患者の割合とその95%信頼区間▼シークエンス成功割合▼がん種別の各遺伝子異常割合▼がん種別の遺伝子異常に対応する治療薬の治験が国内に存在した割合▼治療薬が投与された割合▼全生存期間—などを評価し、薬事承認を目指す)
【新たな患者申出療養】
▼Genotype1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者に対するレジパスビル・ソホスブビル療法(大阪大学医学部附属病院で実施、保険給付されない患者申出療養に係る費用は487万8000円。非代償性肝硬変疾患の患者に対し、適応外薬であるハーボニー配合錠(一般名:レジパスビル アセトン付加物、ソホスブビル)を12週間投与評価し、最終的に薬事承認を目指す)(関連記事はこちら)
また10月17日の中医協総会では、▼平成30年7月豪雨▼平成30年北海道胆振東部地震—における被災医療機関等に対して「診療報酬上の特例措置」を2018年度末(2019年3月)まで行い、状況を見ながら延長等していくことが了承されました。
▼定数超過入院▼月平均夜勤時間数▼平均在院日数―など14項目について特例(例えば、被災地において看護師確保がままならず、一部の看護師に夜勤が集中し、月平均夜勤時間が72時間を超過してしまっても、特例的に入院基本料の要件を満たすとみなす、など)を設け、特例の活用状況を見て、特例延長を定期的に判断していくことになります。
医療経済実態調査、有効回答率高めるための方策を模索
さらに、中医協総会に先立って実施された、「調査実施小委員会」では、2020年度以降の診療報酬改定に向けて、重要な基礎資料となる「医療経済実態調査」(とくに医療機関等の経営状況をみる「医療機関等調査」)の回答率・有効回答率を上げるために、▼前回の調査結果の概要を調査票等と併せて送付するなどして医療機関等の回答意欲を高める▼フォント(文字の書体)やレイアウト等を工夫し、より見やすく記入しやすい調査票にする▼電子調査票の利用を促進し、記入者負担の軽減や誤記入防止を図る―などの方針が提示されています。
医療経済実態調査の回答率は全体では、65%程度と高めの水準となっていますが、例えば「公立・公的病院では80%を超えているが、医療法人病院では5割弱、個人病院では3割にとどまる」「都道府県別に見ると有効回答率などに大きな差がある」など、バラつきがあります。このため公益代表委員らからは「バイアス(偏り)がある。調査の信頼性に問題があるのでないか」との指摘もあります。
他調査も含めて「回答率の向上」は大きな課題であり、今後も改善に向けた検討・努力が待たれますが、公益代表の荒井耕委員(一橋大学大学院経営管理研究科教授)は「他の統計資料(医療法人に提出が義務付けられている事業状況報告書等)を活用するなど、抜本的な対策も検討する時期に来ている」と指摘しています。
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