がんゲノム医療の推進に向け、遺伝子パネル検査を先進医療で導入―中医協総会(1)
2018.4.25.(水)
がんゲノム医療の推進に向けて、「遺伝子パネル検査」の保険収載を目指し、国立がん研究センター中央病院で先進医療として実施する―。
4月25日に開催された中央社会保険医療協議会で、こういった報告が行われました。
国立がん研究センター中央病院で、遺伝子パネル検査を先進医療として実施
ゲノム(遺伝情報)解析技術が進み、「Aという遺伝子変異の生じたがん患者にはαという抗がん剤を、Bという遺伝子変異のある患者にはβとγという抗がん剤を併用投与することが効果的である」といった情報が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいた最適な治療法の選択が可能になれば、個々のがん患者に対して「効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながります。
米国では、すでに「多数の遺伝子の変異の有無を一括して検出する検査」(遺伝子パネル検査)が臨床現場で行われ、その結果に基づいた治療法選択が行われています。しかし、我が国では、遺伝子パネル検査が薬事承認されていません。
こうした状況を打開し、我が国においても、個別がん患者に最適かつ効率的な医療を提供する体制の構築を目指し、厚生労働省は「がんゲノム医療の推進」を重要施策の1つに掲げています。その一環として、医療関係者、ICT・AIの専門家が一体となってゲノム医療を支える「がんゲノム医療推進コンソーシアム」(共同事業体)の構築が進められており、今年(2018年)2月には、北海道大学病院、東京大学医学部附属病院、国立がん研究センター中央病院など11の「がんゲノム医療中核拠点病院」(我が国のがんゲノム医療を推進してく施設)が指定されました(関連記事はこちら)。
あわせて医療制度面で「がんゲノム医療」を推進していくために、▼遺伝子パネル検査の早期薬事承認や保険適用▼全ゲノム解析などの探索的な医療の先進医療への位置づけ▼希少がんへの抗がん剤適応拡大などに受けたインセンティブ付与―などに向けた検討が進められています(関連記事はこちらとこちら)。
この一環として、今般、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)において、「個別化医療に向けたマルチプレックス遺伝子パネル検査」の先進医療としての実施が可能となります。
マルチプレックス遺伝子パネル検査(NCCオンコパネル)は、がんの組織などから抽出したDNAをもとに114の遺伝子について「変異の有無」を検査・解析し、その結果に基づいて最適な治療法の選定を補助するものです。厚労省保険局医療課の古元重和企画官は「114の遺伝子について変異の有無を調べ、うち48遺伝子が『特定の医薬品や医療技術の選択』などに有用である。患者の1割程度で、実際の治療法に結びつくとの先行研究結果がある」ことを紹介しています。
対象となるのは、▼16歳以上▼ECOG Performance Scaleが0(日常生活に問題なし)または1(激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行える)▼治癒切除不能または再発病変を有する原発不明がん、または標準治療がない、標準治療が終了している、もしくは終了が見込まれる固形がん(原発不明がんを除く)—の患者、205-350名。マルチプレックス遺伝子パネル検査(NCCオンコパネル)による網羅的遺伝子解析とその結果に基づく治療選択までのフローの臨床的有用性、および臨床検査として用いる妥当性を先進医療の中で明らかにし、薬事承認を目指します。
上記の先行研究結果に照らせば、20-35名程度(205-350名の1割程度)の患者において「最適な治療方法(抗がん剤など)」の選択に結びつくと考えられます。保険外の費用は66万4000円で、うち46万4000円が患者負担となります(このほかに保険診療の患者一部負担もある)。
このため中医協総会では、診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)と今村聡委員(日本医師会副会長)から、「患者負担が比較的大きい。当該検査によっても大半(上記先行研究結果に照らせば9割程度)は最適な治療方法の選択がなされない点をきちんと説明して実施する必要がある」旨が指摘されました。
また、4月25日の中医協総会では、皮膚科専門医が重症あるいは重症化の可能性があると判断し、薬疹が疑われる汎発型皮疹の患者に対する「血清TARC迅速測定法を用いた重症薬疹の早期診断」についても、先進医療として実施されることが報告されています(奈良県立医科大学附属病院で実施)。
発症早期において▼薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS)▼Stevens-Johnson症候群(SJS)/中毒性表皮壊死症(TEN)▼紅斑丘疹型薬疹(MPE)▼多形滲出性紅斑(EM)—を判別し、適切な治療法選択を補助する技術です。
【関連記事】
がんゲノム医療を牽引する「中核拠点病院」として11病院を選定―がんゲノム医療中核拠点病院等指定検討会
- 第3期がん対策推進基本計画を閣議決定、ゲノム医療推進や希少・難治がん対策など打ち出す
- 拠点病院にABCの区分設け、補助金などに反映―拠点病院の指定要件ワーキング
- 【2018年度診療報酬改定答申・速報6】がん治療と仕事の両立目指し、治療医と産業医の連携を診療報酬で評価
- 第3期がん対策基本計画案を了承、2020年までに受動喫煙をゼロにする—がん対策推進協議会
- がんゲノム医療を提供できる中核病院を、本年度(2017年度)中に7-10施設指定—がんゲノム医療懇談会
- 第3期がん対策の素案、予防・医療充実・共生・基盤整備すべてを重点分野に—がん対策推進協議会
- がんゲノム医療、当面は新設する「がんゲノム医療中核拠点病院」で提供―がんゲノム医療懇談会
- 第3期がん対策基本計画、「がんの克服」をスローガンに掲げる—がん対策推進協議会
- 「免疫療法」の推進、科学的根拠のない免疫細胞療法と峻別し、がん対策基本計画に明記を―がん対策推進協議会
- 次期がん対策基本計画の全体目標、「予防」「治療」「共生」を軸に調整―がん対策推進協議会