次期がん対策基本計画の全体目標、「予防」「治療」「共生」を軸に調整―がん対策推進協議会
2017.1.20.(金)
2017年度からの「第3期がん対策推進基本計画」策定に向けた議論が、がん対策推進協議会で進められています。19日に開かれた協議会では、前回会合に引き続き「第3期計画における全体目標」をどう設定すべきかが中心議題となりました。
委員からはさまざまな意見が出ていますが、門田守人会長(堺市立病院機構理事長)は「予防・治療・共生が委員間の共通認識と言えるのではないだろうか」と述べ、厚生労働省に素案を作成するよう指示しています。
なお、がん対策推進基本計画の大本となる「がん対策基本法」が改正されたこともあり、協議会の議論は当初スケジュールより遅れています。現在「6月に第3期計画を閣議決定する」ことを目指して議論が進められていますが、閣議決定というゴールが後ろにずれ込む可能性もゼロではありません。
全体目標の上位概念として「がんの克服」などのスローガンは必要か
第3期計画の全体目標については、桜井なおみ委員(CSRプロジェクト代表理事)から次のような提案がなされました。
▼全体目標の上位概念として「救える命を救う」/「がんの克服」を掲げる
▼全体目標として、(1)がんになる人を減らす【予防】(2)がんで亡くなる人を減らす【治療】(3)小児がん・希少がん・難治がんを中心としたゲノム医療の推進【研究】(4)がんになっても安心して暮らせる社会の構築【共生】―の4本柱を建てる
▼個別目標として、(1)の予防では「2022年までに成人喫煙率を12%とする」、(2)の治療では「小児がん、AYA(Adolescent and Young Adult)がん対策の推進」、(4)の共生では「就労支援」などを設定する
▼(1)から(4)すべての共通する事項として「専門的人材育成」や「予算の獲得」「国民総参加の推進」などの環境整備を行う
この提案に対し、若尾直子委員(がんフォーラム山梨理事長)や馬上祐子委員(小児脳腫瘍の会代表)、難波美智代(シンクパール代表理事)らは「国民全員が共通認識を持つために第3期の目標は『がんの克服』であると一言で表せるスローガンは極めて重要」として、全面的に賛同しています。
また中釜斉委員(国立がん研究センター理事長)は、「分かりやすく整理されている」と高く評価した上で、「ゲノム医療は『がん克服』のための手段・方法であり、目標とは異なるのではないか。ゲノム医療は例えば『共通する事項』に位置づけるなどするとより分かりやすくなる」と提案しました。
対して、山口建委員(静岡県立静岡がんセンター総長)は、「現在、がんと闘っている患者に対するメッセージも込める必要がある。がん対策推進基本計画は、がん対策基本法の理念を具体化するものであり、スローガンはあっても良いが、必須のものではない」と指摘。その上で、▼死亡者の減少▼「がんの特性」(難治がん、希少がん、緩和ケアなどを含めて)に応じた最適な医療の実践▼社会的共同の実現▼研究の推進―の4点を全体目標としてはどうかと提案。「死亡者減少」で数値目標は定めず、「がんの特性」として特定のがんに焦点をあわせないことで、「すべてのがん患者を対象にしている」という考え方が示されます。
しかし、桜井委員や難波委員らは「希少がん、小児がん対策は取り残されている。そこに光を当てるためにも、希少がん・小児がんといった言葉は全体目標に入れるべき」と強調。中釜委員も「小児がん・希少がん対策は重要なキーワードであり、何らかの形で明記すべき」との考えを示しています。
このほか全体目標については、次のような意見が出されています。
▽「がんによる死亡者の減少と、ライフステージに応じた医療提供」「すべてのがん患者・家族の苦痛軽減と、療養生活の質向上」「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」「ゲノム医療を導入した新たながん医療体制の構築」の4本を全体目標としてはどうか(檜山英三委員:広島大学自然科学研究支援開発センター教授)
▽「がん罹患率の減少(予防)」「がんによる死亡率の減少(早期診断・早期治療を含めて)」「サバイバーシップ」の3本を全体目標の柱としてはどうか。この目標を達成するための方法論としてライフステージに応じたがん対策やゲノム医療の推進を位置づけてはどうか(中釜委員)
▽がん予防が目標の1つに位置づけられると思うが、その中で「HPV」(子宮頸がんワクチン)についても記載を行うべきである(難波委員)
▽研究は、都道府県の目標には馴染まないので除外すべである。また死亡率についての数値目標入れるべきでない(道永麻里委員:日本医師会常任理事)
こうしたさまざまな意見を受けて門田会長は、「基本的には『予防』『治療』『共生』で委員間の共通認識が得られたのではないかと感じた」と総括。厚労省に議論を整理して、全体目標に関する素案(叩き台)を作成するよう指示しています。
ところで、道永委員や山口委員は「全体目標には数値目標を入れるべきではない」との見解を示しています。第2期計画までは「がんの75歳未満の年齢調整死亡率20%減」との数値目標が掲げられましたが、これがために「死亡率減少に大きな貢献をしない『希少がん対策』や『難治性がん対策』、『75歳以上の高齢者のがん対策』が取り残されてしまった可能性も否定できない」という指摘もあることを踏まえた見解と言えるかもしれません。
この点、片野田耕太参考人(国立がん研究センターがん対策情報センターがん登録センター室長)は、すべてのがんの75歳未満の年齢調整死亡率は、今後10年間において▼現状対策の延長で15.6%減少する▼たばこ対策の推進(2022年に男女計の喫煙率を12%まで下げる)で1.7%減少する▼検診の徹底(受診率50%以上、精検受診率90%)で3.9%減少する▼がん医療の高度化で3.0%減少する―との推計値を発表。その上で、「仮に第3期計画でも死亡率減少の数値目標を入れるとした場合、推計値はいずれも最大値であり、今後10年間の目標としては(現行と同じ)『20%』程度が妥当ではないか」との見解も示しています(関連記事はこちら)。
希少がん対策、まず「集約化」と「ネットワーク構築」を
19日の協議会では「希少がん・難治性がん対策」や、「がん患者の社会的な問題」も議題となりました。
前者のうち「希少がん」(人口10万人当たり6症例未満など)については、治療・研究を進めるために▼集約化▼ネットワーク構築―の2点が重要という共通認識が委員間で確認されました。もっとも、集約化・ネットワーク構築をどう進めるかという具体論については詰めきれておらず、東尚弘参考人(国立がん研究センターがん対策情報センターがん臨床情報部部長)は「国立がん研究センターの希少がん対策ワーキンググループで、四肢軟部肉腫を対象として専門施設などの情報公開を検討している。今後、より希少な『眼腫瘍』の情報公開についても検討していく」ことが報告されました。
この点、山口委員は「専門家がどこにいるのかが最重要情報だ。希少がんの種類別に、積極的な研究・治療を行っている医師のリストを学会に作成してもらってはどうか」と提案しています。
また「難治がん」については中川恵一委員(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)から、「リソース(予算や人材)が限られた中で(対策の)バランスを考える必要がある」との指摘がありました。5大がんの中にも難治の組織型があります。そうした点を総合的に考慮して、予算や人材を適正に配分していく必要があるでしょう。
なお、第3期がん対策推進基本計画は「6月に閣議決定」となる予定ですが、協議会の議論は遅れ気味となっています。協議会で意見をまとめ、その後第3期計画に対するパブリックコメント募集のための期間などを考慮すれば、閣議決定の時期が後倒しになる可能性も否定できません。
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