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がんの地域連携パスを活用し、拠点病院単独でなく地域全体でがん患者を支えよ―がん診療提供体制検討会(2)

2016.8.5.(金)

 がん診療連携拠点病院の中には、拠点病院単独でなく、かかりつけ医などを含めた地域全体でがん患者に医療・支援を提供する必要があり、そのためには「がんの地域連携パス」が重要なツールになる―。

 4日に開催された「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」では、藤也寸志構成員(国立病院機構九州がんセンター院長)から、こういった提言が行われました(関連記事はこちら)。

 また、がん診療連携拠点病院に設置が義務付けられている「がん相談支援センター」について、拠点病院の院内でも知られておらず、相談者や相談内容が多様化しているといった課題があるため、認知度を上げる取り組みや、複雑なニーズに対応するためのネットワーク構築が必要であるといった提案も行われています。

8月4日に開催された、「第8回 がん診療提供体制のあり方に関する検討会」

8月4日に開催された、「第8回 がん診療提供体制のあり方に関する検討会」

がん拠点病院の指定要件、「メリハリ」をつけることが必要

 藤構成員は、28の拠点病院(国立病院機構内)を対象に行ったアンケート調査結果から、拠点病院自身が指定要件や、評価などについて、次のように考えていることを報告しました。

(1)拠点病院間で格差があると感じている病院は71%。ただし「格差を互いに認め、一般にも周知することが大切」「専門職の専任配置は名ばかりとなっており、マンパワー確保のために補助金などの増額が必要」という意見がある(関連記事はこちらこちら

(2)既に一定数の指定ができており、「今後は拠点病院の質の向上に注力すべき」という意見が出ている(関連記事はこちらこちら

(3)患者・家族の希望と、診療内容に隔たりがあり、「患者・家族の要望」を踏まえた指定要件になっていないのではないかという意見もある

(4)指定要件について、「混乱が生じている」と感じる病院は7割弱、「根拠に疑問がある」とする病院は5割強ある

 こうした意見を踏まえ、藤構成員は第3期がん対策推進基本計画において▽現場が納得できるような指定要件の根拠や有効性の確保▽アクションの効果や質の評価▽行政自体の取り組みの評価▽がん相談ナビゲーターなどの育成―を行うべきと要望。さらに、個別の拠点病院単独ではなく、かかりつけ医をはじめとする「地域の医療関係者すべてが参加したがん医療」提供体制を実現する必要があるとし、そのために「がんの地域連携パスが重要なツールになる」とも提言しています。がん患者に対して、▽再発不安に対する心のケア▽治療後のQOL維持・向上▽就労への不安の克服▽重複がんの予防―などを総合的に提供する必要があるものの、拠点病院単独ではすべてをカバーできないためです。

今後は、がん拠点病院単独ではなく、さまざまなニーズに応えるために、かかりつけ医をはじめとする地域の医療者全体でがん患者をサポートする体制が不可欠であり、そのために「がんの地域連携パス」が重要なツールとなる可能性がある

今後は、がん拠点病院単独ではなく、さまざまなニーズに応えるために、かかりつけ医をはじめとする地域の医療者全体でがん患者をサポートする体制が不可欠であり、そのために「がんの地域連携パス」が重要なツールとなる可能性がある

がん診療連携拠点病院自身は、指定要件や評価についてどのように考えているのか

がん診療連携拠点病院自身は、指定要件や評価についてどのように考えているのか

 このうち(2)は、すでに述べた「集約化」を意味すると考えられます。ただし検討会では、今後も「均てん化」を進めるという原則は崩さず、その上でゲノム医療や粒子線治療などに一部の医療についてのみ「集約化」を図るという方針を固めており、「標準的な治療は全国のどこでも受けられる」体制の整備は今後も継続することになります。

 また(3)(4)の指定要件について森正樹構成員(大阪大学大学院医学研究科消化器外科学教授)らは、「指定要件の中にも『これは必要なのか』という項目がある。メリハリをつけることで、無駄な負担を減らすことができるのではないか」と指摘しています。

 拠点病院の指定要件については、第3期がん対策推進基本計画を閣議決定(2017年6月見込み)した後、計画の内容も踏まえて見直し論議を行うことになっており、大胆な見直しが行われる可能性もありそうです。

拠点病院の相談支援センター、拠点病院内でも認知度が低く、周知の徹底が必要

 ところで、がん診療連携拠点病院には、2014年1月から「がん相談支援センター」(以下、支援センター)の設置が義務づけられています(指定要件の見直し)。支援センターには、▽がんの病態、標準的治療法などがん診療などに関する一般的な情報の提供▽地域の医療機関・従事者に関する情報の収集、提供▽セカンドオピニオン提示が可能な医師の紹介▽がん患者の療養上の相談―など多岐にわたっています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

がん診療連携拠点病院には、がん相談支援センターの設置が義務づけられている

がん診療連携拠点病院には、がん相談支援センターの設置が義務づけられている

がん相談支援センターでは、「誰でも」相談できる体制、「信頼できる情報」を提供する体制、「患者自らが解決できる」ように支援する体制、「中立の立場での橋渡し」を行う体制を整える事が重要

がん相談支援センターでは、「誰でも」相談できる体制、「信頼できる情報」を提供する体制、「患者自らが解決できる」ように支援する体制、「中立の立場での橋渡し」を行う体制を整える事が重要

 高山智子参考人(国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報提供部長)は、支援センターに対してアンケート調査を行い、次のような課題があることを検討会に報告しました。

(a)支援センターが十分に知られていない

(b)相談員には情報支援の高度な知識・スキルが必要になってきており、支援センターのみでの対応が難しくなってきている

(c)相談者・相談内容が多様化しており、複雑なニーズへの対応が難しくなってきている

(d)拠点病院内で支援センターへの理解が進んでおらず(知られていないことも)、活動が制限される、あるいはされやすい状況になっている

 高山参考人は(a)について、支援センターの認知度は一般市民で10%未満、拠点病院でのがん治療経験者でも5割程度にとどまっているものの、支援センター利用者の満足度は81.4%と高く、「もっと早く支援センターのことを知りたかった」という声が少なくないことを紹介。認知度向上に向けて、▽県・国単位での広報▽地域の医療関係者(開業医、看護師、薬剤師など)に支援センターを周知し、活用してもらう取り組み▽拠点病院の担当医から支援センターへ確実につなげる体制づくり―が必要と提案しています。(d)にもあるように、拠点病院の中ですら支援センターを知らない医療スタッフもおり、医療関係者への周知が極めて重要でしょう。

 (b)と(c)は、多様かつ複雑な患者ニーズへの対応が、個別の支援センターだけでは難しくなっているため、高山参考人は▽がん罹患前の人々への情報提供▽県を超えた広域ネットワークづくり▽相談員のスキルアップ―などを進めることが必要と訴えています。

 また(d)の院内での認知度向上に関しては、スタッフへの周知を進めるだけでなく、「病院に対するインセンティブ付与」が必要と提案しています。高山参考人は具体的に「診療報酬上の措置」や「DPCの機能評価係数での評価」などを提案しています。

がん相談支援センターの課題と、解決策(提案)

がん相談支援センターの課題と、解決策(提案)

 高山参考人はさらに「相談は『無料』という仕組みを維持するべき」とも述べていますが、この点について検討会の鶴田憲一構成員(全国衛生部長会会長)は「事業の継続性や、相談員の質向上のためにも、支援センターの利用者に応分な負担を求めるべきである。経済的弱者には相談料の減免などを考えればよい」と反論しています。

 また今村聡構成員(日本医師会副会長)は、「現在は認知度が低く、利用者が少ないことから丁寧な対応が可能で、満足度も高いと思う。認知度が上がり多忙になると、丁寧な対応が難しくなり、満足度は下がっていってしまうことを懸念している」と指摘。高山参考人も指摘事項に賛同した上で、「支援センターで得られた相談内容を病院にフィードバックし、病院全体、さらには地域全体でがん患者に対応シなければいけないと考えている」と述べています。

 さらに北島政樹座長(国際医療福祉大学副理事長・名誉学長)は「看護職員などのキャリアパスの中に『支援センターの相談員』を入れなければ、質の高い相談員は増えていかない」と危惧し、支援センターの充実に向けた制度的な対応を行うべきとの考えも示しています。

 お伝えしているとおり、第3期がん対策推進基本計画の議論が進んでいます(関連記事はこちらこちら)。その中ではがん診療提供体制の1つとして「がん相談支援や情報提供」が重要項目となる予定で、高山参考人の報告内容や検討会での議論は、基本計画のベースとなる「検討会の議論の整理」に反映されることになります。

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