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がん検診、科学的根拠に基づかないものは対策型として実施すべきではない―がん対策推進協議会

2016.11.24.(木)

 がんの早期発見に向けて検診受診率の目標値を高めるべきだが、科学的根拠に基づかない検診には「不利益が利益を上回る可能性もある」ことから、対策型検診として実施すべきではないことを検診の指針に明記することも考えるべき―。

 24日に開かれたがん対策推進協議会には、厚生労働省からこういった方向性が示されました。

11月24日に開催された、「第62回 がん対策推進協議会」

11月24日に開催された、「第62回 がん対策推進協議会」

科学的根拠に基づかないがん検診によって「過剰診断」が生じている可能性

 協議会では、我が国のがん対策の拠り所となる「がん対策推進基本計画」の見直しに向けた議論が進められています。基本計画は現在、5年を1つの単位としており、2017年度からの第3期計画に向けて、改訂論議が進んでいるのです。

 24日には、(1)がんの予防・がん検診(2)がんに関する相談支援と情報提供(3)がんの教育・普及啓発―の3点をテーマに意見交換を行いました。

 (1)のうちがん検診については、下部組織である「がん検診のあり方に関する検討会」の議論を踏まえた次のような「今後の方向性」が厚労省から報告されました。これについて正面から議論したわけではないものの、大きな方向性に明確な異論は出ていません。

【受診率の目標値や、受診率向上施策など】

▼受診率の目標値は、現在の「50%」よりも高い値とすべき

▼市町村は、「検診受診手続きの簡素化」「効率的な受診勧奨方法の検討」「対象者の網羅的な名簿管理に基づく個別の受診勧奨・再勧奨」「かかりつけ医からの受診勧奨」などの施策をさらに推進すべき

▼国は、がん教育や職員に対するがん検診の普及啓発に引き続き努めるべき

【科学的根拠に基づいたがん検診】

▼全市町村が、がん検診の精度管理・事業評価を実施するとともに、科学的根拠に基づく検診を実施する必要がある

▼精密検査受診率の目標値を「90%」とすべき

▼項目や対象年齢などについて科学的根拠に基づかないがん検診は、「不利益が利益を上回る」可能性があり、対策型検診として実施しべきではないことを検診指針に明記すべき

【職員におけるがん検診】

▼職域におけるがん検診に対するガイドラインを策定し、保険者や事業主が任意でがん検診を実施する際の参考とする

▼国は、検診の受診率向上や精度管理を行っている保険者・事業主へのインセンティブを検討すべき

 またがん予防に関しては、▼たばこ対策(禁煙治療の保険適用拡大など)▼肝炎対策(肝炎ウイルス検査の受診勧奨や陽性者への専門医受診勧奨など)▼がん教育・食生活改善の普及啓発―などを進めるべきとしています。

 

 このテーマに関連して、津金昌一郎参考人(国立がん研究センター・社会と健康研究センター長)は、がん予防において「正しい知識の普及・啓発」「個人の講堂変容と社会としての環境整備」(屋内禁煙の法規制など)「罹患リスク予測に基づいた個別課予防」といった点が今後の課題になることを指摘。その上で、行動変容を支援するツールの開発を提言しています。例えば、▼年齢▼性別▼飲酒習慣の有無▼BMI▼糖尿病の有無▼コーヒー飲用習慣の有無▼B型肝炎ウイルス感染の有無▼C型肝炎ウイルス感染の有無―を入力すると、個々人が今後10年間に肝がんに罹患する確立が明らかになるといったツールです。これによって、どういった行動ががんの罹患率を高めることが数字として明確になり、行動変容に結びつくことが期待できるといいます。

 なお津金参考人は、がん検診には「過剰診断」という落とし穴があるとも指摘します。これは「寿命前に症状をもたらしたり、死因になることがないようながん」を検診が発見し、無用な治療につながることを意味します。米国NCI(National Cancer Institute)では、▼前立腺がん▼乳がん▼肺がん▼甲状腺がん▼メラノーマ(悪性黒色腫)―において、過剰診断があることが分かっており、「医療費の高騰」はもとより、「不要な治療による身体的・精神的苦痛、QOLの低下」などが生じている可能性があるといいます。

 こうした点を踏まえて津金参考人は、「当該がんの死亡リスク減少に帰結することが未知である」「不利益が利益を上回る」といった推奨されていないがんの早期発見・検診は、提供しない・受けないことが重要であるとし、▼過剰診断を想定させる腫瘍は、がんとは別の呼称(上皮性病変など)を用いて診断を抑制する▼高精度のリスク予測に基づき、ハイリスク者への予防・検診の重点化、ローリスク者への検診頻度の低下―などを検討することが必要と提案しています。上記の方向性と合致する部分もあり、将来的に重要な検討課題になると考えられます。

 

 なおがん予防に関しては、子宮頸がん予防ワクチン(HPV)の摂取勧奨を再開すべきか否かというテーマを避けてとおることはできません。専門家の意見などを待って、がん対策推進協議会でも今後、議題に上がることになりそうです。

がん患者の支援に向け、ピアサポートの育成・普及を求める声

 (1)のがん相談支援・情報提供に関しては、現在、がん診療連携拠点病院に、患者に情報提供を行う「相談支援センター」の設置が義務付けられましたが、必ずしも十分には機能していないようです(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

 この点について厚労省健康局がん・疾病対策課の丹藤昌治がん対策推進官は、▼拠点病院のみならず、拠点病院以外の医療機関からの紹介や苦痛のスクリーニングなどの機会を捉えて「相談が必要な患者・家族を相談支援センターに確実につなぐ」仕組みの構築▼外来における多岐にわたるニーズへの対応(研修の内容見直しや相談支援センターの体制の見直しなど)▼患者・家族が必要な情報を簡単に検索でき、医療施設同士の比較も可能なシステムの構築▼インターネット上の情報に対して、科学的根拠に基づく情報提供を行う方策―などを検討していく方向を示しました。

 このテーマに対しては、主に患者・家族を代表する委員から、相談支援センターの機能充実などを強く求める意見が出されました。桜井なおみ委員(CSRプロジェクト代表理事)は、今後、相談支援センターが「地域の活動との連携」や「ピアサポートの育成と普及」といった機能も持つべきと提案。ピアサポートとは、「がん患者やがん経験者が、自身の経験をもとにがん患者の相談に乗る」といった取り組みのことです。患者の中には不安や悩みを医師や看護師に相談できない人もおり、がん経験者が相談に乗ってくれることで、不安が軽減されるケースが少なくないと言います。また、若尾直子委員(がんフォーラム山梨理事長)は、「医療従事者は、『患者は理解できていない』との前提に立ってインフォームド・コンセントを積極的に行ってほしい」とも要望しています。

 一方、山口建委員(静岡県立静岡がんセンター総長)は、こうした意見を踏まえた上で「相談支援センターの負担が過重になっている恐れがあり、業務内容の整理を行うべき」と提案。さらに「相談支援センターに任せきりにせず、病院全体が相談支援センターに協力していく体制が不可欠である」とも強調しています。

 

 がん対策推進協議会では、次回会合で「緩和ケア」や「目標値」などについて議論を行う予定です。その後、年明けから第3期計画の策定に向けた議論を本格化させ、3月には第3期計画案をまとめた上で、6月に閣議決定というスケジュールが描かれています。

  
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