第3期がん対策基本計画、「がんの克服」をスローガンに掲げる—がん対策推進協議会
2017.4.18.(火)
今年度(2017年度)からの「第3期がん対策推進基本計画」では、『がんの克服』をスローガンとして掲げ、全体目標として▼がん予防▼がん医療の充実▼安心して暮らせる社会の構築(共生)―の3項目を設定し、とくに「1次予防」や「ゲノム医療」「希少がん・難治性がん対策」「緩和ケアの推進」「がん患者の就労を含めた社会的な問題の解決」などを重点分野に定め、精力的な取り組みを行う—。
このような方針が13日に開催された「がん対策推進協議会」で固まりました。スローガンに盛り込まれる『克服』という文言は「がんの根絶」などの誤解を招くのではないかと医療提供者委員から懸念も出されましたが、患者代表委員は『克服』を目指すべきと強く訴えており、両者の意見は分かれていました。門田守人会長(堺市立病院機構理事長)が「患者代表委員が4分の1を占める本協議会として、患者側の思いを尊重したい」と英断した格好です。
目次
患者の強い思いに応え、「がんの克服」というスローガンを設定
我が国のがん対策は、概ね5年を1期とする「がん対策推進基本計画」に基づいて進められており、協議会では2017年度からの第3期計画策定に向けた議論が続けられています。13日の会合では、第3期計画の構成や章立て、盛り込むべき内容などについて議論を行いました(関連記事はこちらとこちら)。
まず全体構成としては、(1)スローガン(2)全体目標(3)分野別施策(4)がん対策を総合的・計画的に推進するために必要な事項—となります。
このうち(1)のスローガンは「第3期計画を一言で表すと何か」というもので、桜井なおみ委員(CSRプロジェクト代表理事)や若尾直子委員(がんフォーラム山梨理事長)ら患者代表委員が「がんの克服」を掲げるべきと強く求めていました。桜井委員は「がん対策に向けた考え方を国民も参加して共有することが重要」と強調しています。
これに対し山口建委員(静岡県立静岡がんセンター総長)や中川恵一委員(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)ら医療提供側委員は「何度も議論したが、『克服』という表現は強すぎ、『制圧』や『撲滅』が可能になるとの誤解を招くのではないか」と難色を示しました。
両者の意見ともに一理あり、議論は平行線を辿りましたが、門田会長は「本協議会は他の審議会と異なり、委員の4分の1は患者代表が参加しており、その良さを伸ばしていくべきであろう。患者代表委員の意見を尊重したい」と議論を収束させました。第3期計画では、これまでにない「がんの克服」というスローガンが掲げられます。
小児やAYA世代などの特性に応じたがん対策を、医療面と共生面の送付から進める
(2)の全体目標としては、▼正しい知識・科学的根拠に基づく「がん予防」の充実▼患者中心の「がん医療」の充実▼尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築―の3項目が設定されました。
この3つの目標を達成するために、(3)の分野別施策が例えば次のように具体的に設定されます。
(a)がん予防:▽1次予防(※)▽2次予防(早期発見、がん検診)
(b)がん医療の充実:▽ゲノム医療(※)▽手術・放射線・薬物・免疫療法▽チーム医療▽支持療法▽希少がん・難治性がん(※)▽病理診断▽がんリハビリテーション▽がん登録▽医薬品・医療機器の早期開発・承認
(c)がんとの共生:▽診断時からの緩和ケア(※)▽相談支援・情報提供▽地域社会におけるがん患者支援▽就労を含めた社会的な問題(※)▽ライフステージに応じたがん対策(小児、AYA、高齢者)
さらに、これらを支えるために、『がん研究』(※)、『人材育成』、『教育・普及啓発』といった基盤を整備していく考えも示しています。なお、(※)は進捗に遅れがあるなどし「重点的に取り組む分野」を意味します。
こうした個別項目は、厚労省の「たたき台」で示されたものですが、委員からはさまざまな注文が付きました。
例えば、小児やAYA(Adolescent and Young Adult)世代対策は、「ライフステージに応じたがん対策」として(c)共生施策に盛り込まれましたが、(b)がん医療の充実にも併せて盛り込むべきとの指摘がありました。中釜斉委員(国立がん研究センター理事長)は「小児・AYA世代のがん医療は極めて充実であるが、『がん対策』として盛り込み、学習などの小児・AYA世代に特有の課題は共生対策として書き込むことが適切なのではないか。共生対策で小児・AYA世代などとまとめるメリットがある。医療の充実と共生で分けて記載するデメリットもある」と述べ、厚労省のたたき台を支持。
しかし、檜山英三委員(広島大学自然科学研究支援開発センター教授)らは、「共生対策は長期フォローアップであり、医療の充実とは切り離して考えるべきである。小児ゆえの特殊性があり『小児がん拠点病院』指定の流れとなった」と訴え、小児・AYA・高齢者など世代に応じた対策は(b)がん医療の充実と(c)共生との双方に記載する方向が固まりました。
また(b)の「免疫療法」については、免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボやキイトルーダ)を用いた治療など「科学的根拠に基づく」ものと、いわゆる免疫細胞療法など根拠のない治療とが混在しないよう、明確なかき分けをする必要があると中釜委員や若尾委員は強く求めています。
さらに「希少がん・難治性がん」対策や「ゲノム医療」(関連記事はこちら)について、中釜委員や桜井委員は「克服のための方策として、病理診断の充実や集約化など、精緻に記載する必要がある」と注文を付けています。
一方(c)の「がんとの共生」に盛り込まれた情報提供は、(a)「がん予防」(b)「がん医療の充実」とも密接に関連しますが、田中秀一委員(読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)は「『がん』『治療』でネット検索すると、軒並み根拠不明の免疫細胞療法を実施するクリニックが表示され、正しい情報にたどり着くには困難な状況である。情報提供はもちろんだが、『どうすれば正しい情報を探せるのか』も考えなければいけない」と指摘しました。この点、国立がん研究センターのがん対策情報センター『がん情報サービス』の機能充実などが一つの答えになるかもしれません。
市町村の「健康増進計画」に、がん関連施策を盛り込んではどうか
(3)の分野別施策を推進するために、厚労省は(4)として▼がん患者を含めた国民の努力▼患者団体との協力▼都道府県による計画の策定▼必要な財政措置の実施と予算の効率化・重点化▼ロードマップの作成▼目標の達成状況の把握▼基本計画の見直し―といった事項について具体的に示す考えです。後者3項目はPDCAサイクルを的確に回すことを求めるものと言えます。
このうち「都道府県による計画の策定」は、2018年度からスタートする第7次医療計画などとも関係しますが、松村淳子委員(京都府健康福祉部長)は、市町村においてもがん対策の実効性を高める必要があると強調します。例えば(2)の(a)「がん予防」では、検診の充実などが盛り込まれますが、「がん検診」の重要な実施主体は市町村であることからも、この点は納得できます。そこで松村委員は、▼市町村の「健康増進計画」にがんに関係する内容を盛り込むよう促す▼がんとの共生において「在宅療養」は欠かせず、医療計画などにこの点の記載も求める▼国の役割・都道府県の役割・市町村の役割を一覧として記載する—ことを提案しています。
今後、委員の意見を踏まえて「たたき台」を充実し、「素案」や「報告書案」に練り上げていくことになります。
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