医療に係る消費税、「個別医療機関の補填の過不足」を調整する税制上の仕組みを―2019年度厚労省税制改正要望
2018.9.3.(月)
厚生労働省は8月29日に、来年度(2019年度)の税制改正に関する要望をおこないました(厚労省のサイトはこちら(主要項目)とこちら(全体の概要))(関連記事はこちら)。
注目される「医療に係る消費税」については、「個別の医療機関等の補てんの過不足について、新たな措置を講ずる」よう求めています。三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)・四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)の提言と同じ方向性と言えます。年末にかけて、財務省とどのような調整が行われるのかますます関心が集まります。
社会医療法人でも「訪日外国人の診療」においてコストに見合った費用徴収を可能とせよ
「医療に係る消費税」については、特別の診療報酬プラス改定(消費税対応改定)によって医療機関等(病院、診療所、薬局など)の負担(いわゆる控除対象外消費税)に対する補填が行われています。
2014年度(消費税率5%→8%)には、医療機関等による不公平ができるだけ生じないよう、基本診療料(初診料、再診料、入院料など)への上乗せが行われましたが、その後の調査で「医療機関等ごとに、大きなバラつきが生じている」ことが分かりました。医療機関等によって、診療報酬の算定状況が異なるためです(関連記事はこちら)。
消費税率が引き上げられれば、医療機関等の負担も大きくなる(社会保険診療は消費税非課税であり、引き上げ分を患者・保険者に転嫁することができない)ため、こうしたバラつきが医療機関等の経営に与える影響も大きくなります。そこで厚労省は、2019年10月に予定される消費増税(8%→10%)において、「医療保険制度における手当のあり方の検討等とあわせ、▼医療機関の仕入れ税額の負担▼患者等の負担—に十分に配慮し、関係者の負担の公平性、透明性を確保しつつ検討を行い、『個別の医療機関等の補てんの過不足』について、新たな措置を講ずる」よう求めているものです。
詳細な措置内容には言及していませんが、「消費税対応改定を維持した上で、個別医療機関等の補填の過不足を申告によって調整すべき」という三師会・四病協の提言と同じ方向性を言えるでしょう。
このほか厚労省は、医療・介護に関連する税制について、次のような見直しも要望しています。
▽社会保険診療報酬における「事業税非課税性措置」を存続する
▽医療法人の社会保険診療報酬以外の部分に係る「事業税の軽減措置」を存続する
▽訪日外国人の診療において、「診療報酬と同一の基準で計算された額を請求する」という社会医療法人等の認定要件を見直し、社会医療法人等が費用に見合った額を請求できるようにする(訪日外国人が増加し、多言語対応などのコスト増に見合った費用請求を可能とする)
▽▼社会医療法人▼特定医療法人▼認定医療法人—の「社会保険診療収入等が全収入の8割超」という要件において、「社会保険診療収入等」の中に、▼社会保険診療収入▼介護保険収入等—に加えて「障害福祉サービス収入」を追加する
▽医療機関等が500万円以上(取得価格)の高額医療用機器(高度な医療の提供に資するもの、または医薬品医療機器等法の指定から2年以内のもの)を取得した場合の特別償却制度(特別償却割合を12%とする)を2年延長する。あわせて「高度な医療の提供」という観点から、対象機器を見直す
▽サービス付き高齢者向け住宅の住宅供給促進税制(固定資産税について、3分の2を参酌して「2分の1以上、6分の5以下」の範囲内で市町村の条例で定める割合を軽減する、不動産取得税については、家屋では1戸あたり「課税標準から1200万円」を軽減し、土地についても一定額を軽減する)を、2021年3月31日まで延長する
▽研究開発税制を、次のとおり延長・拡充する
・総額型の控除率・控除上限の拡充(最大15%の控除率を実現)
・2018年度末で適用期限を迎える措置(▼試験研究費の対売上高割合10%超の場合▼総額型の控除上限特例)—を3年間延長し、拡充する
・オープンイノベーション型の適用要件を拡充し、ベンチャー・中小企業への控除率・控除上限を引き上げる
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