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外来診療 経営改善のポイント 看護必要度シミュレーションリリース

高額医療技術の保険収載や軽微傷病の負担水準など、「保険給付範囲」を正面から議論せよ―財政審建議

2018.5.24.(木)

遅くとも団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年度までに我が国の基礎的財政収支(PB)の黒字を安定的に確保しておく必要がある。医療・介護分野については、「保険給付範囲」の在り方を正面から議論するとともに、医療費縮減方向での診療報酬改定や、後期高齢者の2割負担、経済・人口の動向に応じて給付率(自己負担割合)を調整する仕組みなどを早急に検討する必要がある―。

 財政制度等審議会(財政審)が5月23日、新たな財政健全化計画の策定に向け、麻生太郎財務大臣に宛てて、このような内容の建議を行いました(財務省のサイトはこちら)(関連記事はこちらこちらこちら

高齢者増・支え手の大幅減・医療の高度化・高額化を考慮した社会保障費改革を

 我が国の財政状況は、第二次世界大戦直後よりも悪化していると指摘されるなど、極めて厳しい状況にありことから、政府は「2020年度までに基礎的財政収支(PB、プライマリバランス)を黒字化させる」との目標を立てました。しかし、消費増税の遅れなどのために、目標達成は困難な状況にあります。財政審は「これ以上の財政健全化の遅れは許されない」として、遅くとも団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年度までにPB黒字を安定的に確保しておく必要があると強く訴えました。

 財政審は、社会保障費の膨張が、我が国の財政を圧迫しているとし、「社会保障改革」の重要性を強調。今後も、▼高齢者の増加▼支え手の大幅な減少▼医療の高度化・高額化―が進み、社会保障費は、現状のままでは大きく膨張してしまうことを危惧し、今般の建議でも、「社会保障給付と国民負担のバランスを国際比較すると、我が国は給付に見合った負担となっていない。給付と負担の見直しを含めた制度改革を進めることが不可欠」とし、具体的な改革メニューを提案しています。

 まず、社会保障費について、「高齢化等の人口変動に伴う伸びの範囲内におさめることが必要」との考えを改めて提示。2016-18年度には、この考えに基づいて「3年間で1兆5000億円」が社会保障費の伸びの目安とされました。今般の建議でも、「今後数年間にわたる具体的な歳出の伸びの目安を定めることが必要」とコメントしています。

 次に医療・介護分野の具体的な改革内容について、見ていきましょう。

高齢化や技術革新を背景に、医療・介護の費用は増加を続けており、これを賄うために公費(税金)と保険料の引き上げが行われています(もちろん、他の制度見直しも並行実施)が、財政審は「医療・介護などの義務的経費は、給付費に応じて国庫負担が自動的に決まる仕組みとなっており、『予算の範囲内で執行額を収める』という意味での財政規律が働く仕組みとはなっていない」点を問題視しています。

「保険給付の範囲」を正面から議論する時期に来ている

社会保障改革の視点としては次の3点を示され、それぞれについて具体的な改革メニュー案が提示されましたています。
(1)制度の持続可能性を踏まえた保険給付範囲
(2)必要な保険給付の効率的な提供
(3)高齢化や人口減少を踏まえた給付と負担の見直し

財政審建議1 180523
 
 このうち(1)は、従前から指摘はされているものの、正面からは議論されていないテーマです。現在は、安全性・有効性が確認されれば、新たな医療技術は基本的にすべて保険収載されます。また軽微疾病であっても、重度な疾病であっても同じように3割負担(高額療養費によるさらなる支援あり)となっています。財政審では、こうした仕組みの見直しに向けて、正面から議論していくべきと提案しています。いわゆる「混合診療」とも関連する、極めて重要なテーマです(関連記事はこちら)。

財政審は、この(1)の「保険給付の在り方」において、次のような具体的な改革メニュー案を提示しています。

▽新薬・新医療技術について、これまでの「安全性・有効性」に加え、「経済性・費用対効果」を踏まえて、公的保険での対応の在り方を決める仕組みとすべき

▽原価計算方式で薬価を設定する医薬品は費用対効果評価を義務付け、費用対効果が悪いものは、▼保険収載の見送り▼薬価「全体」について償還可能な価格まで引き下げ―る仕組みとすべき(保険収載が見送られた医薬品等について、安全性・有効性があれば「保険外併用療養」により柔軟に対応するか否かの検討も行う)

▽類似薬効比較方式で薬価を設定する医薬品のうち、「補正加算」が付される場合には、費用対効果評価を義務付け、その結果に応じて薬価を引き下げる仕組みとすべき

▽薬剤自己負担について、「薬剤の種類に応じた保険償還率の設定」「一定額までの全額自己負担」などの諸外国例も参考としつつ、市販品と医療用医薬品とのバランス、リスクに応じた自己負担の観点等を踏まえて、速やかに検討・実施すべき
財政審建議2 180523
 
▽「少額の受診」に一定程度の追加負担を求めていくべき。その際、かかりつけ医やかかりつけ薬局への患者の誘導策として定額負担に差を設ける(かかりつけ医を受診した場合には、より少ない追加負担とするなど)ことも検討すべき
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▽ケアマネジメントの質の向上を図る観点等から、居宅介護支援等にも利用料負担を設けるべき

▽一定の時期までに、「利用者の状態像によって専門的なサービスが必要な特段の場合」を除き、軽度者(要支援、要介護1・2)の介護サービスは、基本的に「緩和型」や「住民主体のサービス」に移行するなどの方針を国で定めるべき。要介護1・2の者の生活援助サービス等の更なる地域支援事業への移行も進めていくべき

医療費の伸びを抑制する方向での診療報酬改定等を実施せよ

 また(2)は、これまでと同様に「効率的なサービス提供」の推進を求めるものです。具体的には、次のような改革メニュー案が示されています。

▽医療費の伸びを抑制する方向での診療報酬改定を行うとともに、病院・診療所など医療機関の間での診療報酬の適切な配分に向けた議論を深めていくべき

▽薬価制度における抜本改革の残された課題(費用対効果評価の導入、毎年度改定の対象範囲など)について、スケジュールに沿って着実に検討を進めるとともに、イノベーションの推進に向けて、▼創薬コストの低減▼製薬企業の費用構造の見直し―に取り組むべき

▽かかりつけ機能を果たしていない薬局の報酬水準を適正化する、門前薬局に行く方が患者負担が軽くなってしまう点に対応する、など調剤報酬の在り方を検討すべき

▽在宅介護と施設介護の公平性を確保する等の観点から、介護施設の多床室における室料相当額を基本サービス費から除外するべき
財政審建議4 180523
 
▽地域医療構想の実現に向けて、▼都道府県が病床再編を具体的に進めていけるような手段の付与▼進捗に応じた財政支援などのインセンティブ措置▼病床機能報告における定量的基準の策定▼医療費適正化効果の検証—など、様々な施策を講じるべき

▽診療報酬改定が、「地域医療構想に沿った病床再編」「急性期入院医療費の削減」につながっているか、適切なKPIを設定した上で、進捗を評価し、必要に応じて更なる要件厳格化等を次期改定で実施すべき
財政審建議5 180523
 
▽「診療所」「医師配置」「高額医療機器」「在宅介護サービス」などの提供体制をコントロールする仕組みの在り方検討すべき

▽2018年度から国民健康保険の財政責任主体が都道府県になったことも踏まえ、高齢者医療確保法第14条に規定される「地域別の診療報酬」について、医療費適正化に向けた具体的に活用可能なメニューを国として示すべき
財政審建議6 180523
 
▽介護保険における「自立支援・重度化防止に積極的に取り組む自治体へのインセンティブ交付金」(保険者機能推進交付金)について、自立支援・重度化防止の取り組みの指標の達成状況を「見える化」するとともに、取り組みが十分でない地方公共団体への指導を徹底すべき

▽国において今年(2018年)10月までに、軽度者の頻回サービス利用に関する「保険者によるケアプランチェックのための指針」等を策定・周知するとともに、今後、ケアプラン点検の実績も踏まえ、次期介護報酬改定に向けて「利用者の状態像に応じたサービスの利用回数や内容等についての標準化」を進めるべき

▽介護費の地域差縮減等に向けて保険者機能を強化していくため、在宅サービスについても▼総量規制▼公募制—などのサービスの供給量を地方公共団体がコントロールできる仕組みを導入すべき

▽介護サービス事業者の経営の効率化・安定化や、介護人材の確保・有効活用等の観点から「経営主体の統合・再編」等を促すための施策を講じていくべき
財政審建議7 180523
 

医療給付費や経済・人口の動向に応じて、給付率を調整する仕組みを検討せよ

さらに(3)の「高齢化・人口減少を踏まえた給付と負担の見直し」に関しては、次のような具体策を提案しています。

▽速やかに75歳以上の後期高齢者の医療費自己負担を2割に引き上げていくべき

▽介護保険についても、利用者負担を原則2割とするなどの引き上げを行っていくべき

▽医療保険・介護保険における負担の在り方全般について、所得のみならず「金融資産の保有状況」も勘案して負担能力を判定できるようにするための基盤整備について、マイナンバーの積極的活用を検討していくべき

▽75歳以上の後期高齢者等において、「現役並み所得者」の判定基準を見直し、現役世代との公平性を確保すべき(現在、所得要件と収入要件の両方を上回ることとされているため、現役以上の所得があっても「現役並み」とは評価されない仕組みとなっている)

▽医療費そのものを抑制しつつ、医療給付費や経済・人口の動向に応じて、支え手の負担が過重とならないよう、一定のルールに基づき給付率を調整(=自己負担を調整)する仕組みの導入に向け、具体的方策について検討を開始すべき
財政審建議8 180523
財政審建議9 180523

 
 具体的な制度見直し・設計論議は、今後、社会保障審議会の医療保険部会や介護保険部会で行われることになりますが、例えば「医療給付費や経済・人口の動向に応じて、給付率を調整する仕組み」などには、すでに慎重論(反対論)が数多く出ており、今後、どのように検討が進められるのか、注目する必要があります(関連記事はこちら)。
 
 
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