da vinci用いた腎部分摘出術やPED法でのヘルニア治療など、診療報酬の引き上げを―外保連
2017.3.16.(木)
ダ・ヴィンチ(da vinci)を用いた腎部分切除術や、PED(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)などは既存治療に比べて医療の質が向上する。しかし、コストに比べて診療報酬は低いため、2018年度の次期診療報酬改定に向けて「費用対効果が優れている」点をアピールし、報酬引き上げを求めていく―。
外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の岩中督会長(埼玉県立小児医療センター病院長)は、14日に開催した記者懇談会でこのような方針を強調しました。
新たな評価軸の1つ「費用対効果」の考え方をもって、報酬増を提言へ
外保連は、100の外科系学会で構成される組織で、主に外科系診療の適正かつ合理的な診療報酬のあるべき姿を学術的な視点に立って研究し、提言を行っています。岩中会長は2018年度改定に向けた提言の1つとして、「費用対効果評価」に着目する考えを示しています。
費用対効果評価については、中央社会保険医療協議会の重要検討テーマの1つで、ある医療技術が「既存技術と比べてどれだけ効果(QALY:質調整生存年がどれだけ上昇するかなど)が優れ、その効果に見合った費用となっているのか」を勘案し、報酬水準を決定する仕組みです。「新規技術βの費用(b)と既存技術αの費用(a)との差(つまりb-a)」を「新規技術βの効果(B)と既存技術αの効果(A)との差(つまりB-A)」で除し(この計算で得られた値を増分費用効果比:ICERと呼ぶ)、このICERの高低で「この技術は費用対効果が優れている」「この技術は費用対効果が良くない」などと判断することがベースとなります(関連記事はこちらとこちら)。
外科系でも新たな技術が次々と開発され、医療の質(効果)に貢献しています。例えば、小径の悪性腎腫瘍(腎がん)については腎部分切除が推奨されます(全摘出よりも腎機能低下が抑えられ、予後も良好なため)。腎部分切除術には、従来の内視鏡を用いた術式(LPN:laparoscopic)とロボット(da vinciシステム)を活用した術式(RAPN:robot-assisted partial nephrectomies)がありますが、両者を比較すると「有効性・安全性(腎機能温存、がんの根治性、合併症軽減)ともにロボット支援手術のほうが優れている」ことが分かっています。
しかし、近藤幸尋手術委員(日本医科大学大学院教授、同付属病院泌尿器科部長)は「ロボット支援手術の診療報酬は7万730点(K773-5)だが、外保連の実態調査に基づくコストと比較すると50万円の赤字となってしまう」ことを説明し、2018年度改定での点数引き上げが必要と訴えています。
また弓部大動脈瘤治療においては、開胸して大動脈瘤を切除し、人工血管に置換する治療法と、ステンドグラフトを用いた血管内治療法(ステンドグラフト内挿術)がありますが、後者のステンドグラフト内挿術のほうが、入院日数・ICU滞在日数が短く、あわせて総費用も安く済むというメリットがあります(ただし長期フォローアップでの成績比較は今後の課題)。しかし、種本和雄手術委員(川崎医科大学心臓血管外科学教授)は、「新たなデバイスとしてカワスミNajuta胸部ステンドグラフトシステムが開発された。分岐血管の閉鎖を避けることによって脳虚血などのリスク軽減が図れる有用性があるが、190万円と高額であり、十分な診療報酬での評価が待たれる」と述べています。
さらに腰椎椎間板ヘルニア治療において、PED法(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)は、従来から行われているLove法(腰部を切開し、骨除去などを行う)やMED法(内視鏡下ヘルニア切除術:直径20㎜程度の内視鏡を挿入し、骨除去などを行う)に比べて、▼神経組織への侵襲が少なく、神経根癒着などを防止できる▼術後の疼痛抑制、職場復帰に関して優位に良好である―というメリットがあります。しかし、平泉裕委員(昭和大学医学部整形外科客員教授)は「PED治療では、初期投資に約1750万円が必要である。またランニングコスト(ディスポ―ザブルデバイスなど)を考慮すれば、現行の診療報酬点数(3万390点、K134-2内視鏡下椎間板摘出(切除)術・後方摘出術)では1件当たり18万円程度の赤字になってしまう」と指摘。次期改定に向け「診療報酬の引き上げ」と「ディスポ―ザブルデバイの考え方の見直し(複数回使用できるものもある)」が必要と訴えました。
いずれも「優れた高額な医療機器」(da vinciでは本体3億円余り、保守料で初年度5600万円など)を用いることで高コストとなり、現在の診療報酬では賄えないという課題の解消を求めるものです。この点について岩中会長は、「かつての外保連試案では手術室の建設費なども考慮していたが、これは病院によって費用規模が大きく異なる。そこで、現在の外保連試案では、病院によるバラつきの少ない人件費と材料費に限定して実態を調査し、それをベースに適切な報酬水準を提言している。しかし、ここまで高額な医療機器が開発され、しかも有用性が高いとなると何らかの評価をしていただく必要がある。そこで、『新たな評価軸』の1つである『費用対効果』を考慮した報酬設定について提言していく」との考えを示しています。
なお、冒頭述べたように、中医協で議論されている費用対効果評価の手法は「増分費用効果比(ICER)が、どれだけの値か」がベースとなり、対象技術が「どれだけ高額か」をダイレクトに勘案するものでありません。今後、外保連内でさらなる理論構築が行われることになりそうです。
外保連試案の改訂に向け手術時間などの実態調査を実施
ところで、前述した「新たな評価軸」は、2014年度の診療報酬改定において「外保連試案で人件費が下がった(技術革新で手術時間が短くなった)」ことなどから手術料が引き下げられたことに対応する考え方です。「費用対効果」のほかに、「手術中の緊急度」や「2つの命を同時に救う」など大きく5つの評価軸があります。
外保連では2018年度改定に向けて、この新たな評価軸に沿った「適正な診療報酬設定」を要望していく考えですが、川瀬弘一手術委員長(聖マリアンナ医科大学小児外科教授)は外保連試案の改訂/a>に向けて、昨年(2016年)に大規模な実態調査を実施したことを報告しています。
それによると、手術時間が短縮した術式が167(うち13術式は半分以下に)、逆に延伸した術式が271あります。この背景には、例えば前者では「高度の技術を持つ術者のいる施設に症例が集中している」ことや「内視鏡手術の進展」などが、後者には「内視鏡手術が行えない複雑な症例の集中」などがあると考えられます。
手術時間が半分以下となった術式には、▼皮膚両性腫瘍摘出術・非露出部▼経皮的ステント留置術・頭蓋内脳動脈▼斜視手術(前転法)▼植込型ループ式連続モニター装置移植術―などがあります。
【更新履歴】平泉裕先生の写真のキャプションが、誤って近藤先生となっておりました。お詫びして訂正いたします。本文は訂正済です。
【更新履歴】種本和雄先生のお名前と所属に誤りがございました。深くお詫びして訂正いたします。本文は訂正済です。
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