2018年度の費用対効果評価に基づく再算定、オプジーボやハーボニーなど12品目に決定―中医協総会
2016.4.27.(水)
2016年度の診療報酬改定で、医薬品・医療機器の費用対効果評価が試行導入されていますが、当面は、既収載品の再算定に用いられることになっており、2018年度の次期改定では抗がん剤のオプジーボやC型肝炎治療薬のハーボニーなど12品目の医薬品・医療機器を再算定の対象とする―。
27日に開かれた中央社会保険医療協議会の費用対効果専門部会と総会では、このように再算定対象品目が決定されました。
費用対効果評価では、企業秘密などに深く関係する事項も審査対象になるため、具体な審議は非公開で行われます(費用対効果評価専門組織など)が、状況は適宜、中医協などにも報告される見込みです。
12品目が2018年度の価格再算定の対象、審議は非公開だが、適宜報告も
わが国の公的医療保険制度では、優れた効果があり安全性の認められた医療技術は基本的に保険収載されます。しかし、医療費が膨張し、わが国の財政を強く圧迫し手いると指摘される中では、あらゆる技術を保険収載することが難しくなってくるかもしれません。
中医協の前会長を務めた森田朗氏(国立社会保障人口問題研究所長)は、このような問題提起を行い、英国など諸外国の例も踏まえた上で、「費用対効果評価」の導入を検討してはどうかと提案していました。これに端を発し、具体的な制度設計に関する議論を続け、ついに2016年度の今回診療報酬改定で、費用対効果評価が試行導入されました(関連記事はこちら)。
具体的には次のような仕組みで運用されます。
(1)費用対効果評価の結果を、既収載医薬品・医療器の価格再算定に用いる(関連記事はこちらとこちら)
(2)メーカーが費用と効果(質調整生存年:QALYを基本とする)に関するデータと分析結果を提出し、公的な専門体制の下でそのデータを再分析する(関連記事はこちらとこちらとこちら)
(3)中医協に新たに設置される費用対効果評価専門組織で「総合的評価」(アプレイザル)を実施する(関連記事はこちら)
(4)薬価算定組織・保健医療材料専門組織で費用対効果評価結果に基づく再算定を行う
(5)次期薬価改定・材料価格改定で費用対効果評価再算定をも加味した価格設定を行う
27日の中医協には、厚労省保険局医療課の眞鍋馨企画官から次の12品目の医薬品・医療機器について費用対効果評価の対象とすることが提案され、了承されました。2012-15年度に保険収載された医薬品・医療機器のうち、▽希少疾病を対象としない▽補正加算率が最も高い▽ピーク時予測売上高が最も高い―などの基準に該当したものです。この12品目が、2018年度における費用対効果評価再算定の対象品目となります。
【医薬品】
(7品目)
●類似薬効比較方式
(5品目)
▽ソバルディ(ギリアド・サイエンシズ社):C型肝炎治療薬
▽ハーボニー(同社):同
▽ヴィキラックス(アッヴィ社):同
▽ダクルインザ(ブリストル・マイヤーズ社):同
▽スンベプラ(同社):同
●原価計算方式
(2品目)
▽オプジーボ(小野薬品工業):悪性黒色腫、非小細胞肺がん治療薬
▽カドサイラ(中外製薬):HER2陽性の再発乳がんなどの治療薬
【医療機器】(5費目)
●類似機能区分比較方式
(3品目)
▽カワスミNajuta胸部シテントグラフトシステム(川澄化学工業):胸部大動脈瘤の治療に用いる
▽アクティバRC(日本メドトロニック社):振戦などの治療に用いる
▽バーサイスDBSシステム(ボストン・サイエンティフィック・ジャパン社):同
●原価計算方式
(2品目)
▽ジャック(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社):外傷性軟骨欠損症の治療に用いる
▽サピエンXT(エドワーズライフサイエンス社):重度大動脈弁狭窄症
上記のメーカーは、今後、データの準備を進め、今年度(2016年度)内にデータ提出を行います。その後、再分析(上記の(2))や総合的評価(上記の(3))などを経て、2018年度の次期薬価・材料価格改定において、費用対効果評価に基づく価格の再算定が行われることになります。
再分析や総合的評価などにおいては企業秘密事項も扱うため、非公開で行われます。ただし、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)から「結果だけの報告では納得感が得られない」との指摘があったことなどを受け、眞鍋企画官は「どの程度の情報を出せるか検討したい」と述べ、適宜、中医協などに報告する考えを述べています。
2016年10月以降に保険適用を希望する新薬等、一定の場合にはデータ提出義務
前述の(1)のように、費用対効果評価に基づく再算定は既収載品が対象となります。しかし、新規収載の医薬品・医療機器についても、一定の場合には費用対効果評価に係るデータの提出が求められます(価格設定には用いない)(関連記事はこちら)。
データ提出が義務化されるのは、次の基準に該当する新規の医薬品・医療機器です。
(a)希少疾患(指定難病、血友病およびHIV感染症)治療にのみ用いるものでなく、医療上の必要性が高いとして開発要請を受けたものなどでもない
(b)類似薬効(機能区分)比較方式で10%以上の補正加算を希望するもので、ピーク時の予測売上高が医薬品では500億円、医療機器では50億円以上である
(c)原価計算方式で10%以上の営業利益率加算を希望するもので、ピーク時の予測売上高が医薬品では100億円、医療機器では10億円以上である
この(a)-(c)に該当する医薬品・医療機器の保険収載を希望するメーカーは、保険適用希望書の提出と同時に費用対効果評価に関するデータを提出することが必要になります。中医協では「今年(2016年)10月以降に保険適用希望書が提出されるもの」から、データ提出を義務化することを決めました。
ただし、データ提出が過重な負担になって新薬・新医療機器の保険収載が遅くなっては、患者にとって好ましくありません。眞鍋企画官は「メーカーとよく調整したい」とコメントしています。
ところで、前述の再算定対象となる既収載医薬品・医療機器や厚労省の推計結果と、新規収載の(a)―(c)の基準とを比べると、原価計算方式の医療機器ではデータ提出義務が課される新規収載品がゼロとなる可能性もあります。
この点を捉えて診療側の万代恭嗣委員(日本病院会常任理事)は、「対象品目がゼロでは試行にならない。(b)(c)の基準値は必要に応じて見直す必要がある」と指摘。眞鍋企画官も「必要に応じて見直す」考えを明確にしています。この見直しは、「2016年10月」よりも前に行われる可能性もあります。
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