2016年度改定で新設された看護必要度C項目、外保連も見直しに協力していく考え
2016.7.13.(水)
2016年度診療報酬改定では一般病棟用の重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)に、手術などの医学的状況を評価するC項目が導入された。手術の侵襲や術後の経過を的確に把握できるのは外科系の医師であり、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)もC項目の見直しに向けて協力していく―。
外保連は12日に記者懇談会を開催し、このような考えが岩中督会長(埼玉県立小児医療センター病院長)から示されました(関連記事はこちらとこちら)。
また今後の診療報酬改定に向けて、外保連試案と診療報酬点数表のKコードのすり合わせを厚生労働省に求めていく考えも述べています。
目次
腹腔鏡手術は一律3日間C項目1点だが、術式によりグレード分けなども必要か
看護必要度については、2016年度診療報酬改定で次のような大幅な見直しが行われました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
▽A項目に、「救急搬送後(2日間)の患者」と「無菌治療室での治療」(専門的な治療・処置に追加)を加える
▽B項目から「起き上がり」「座位保持」を削除し、新たに「危険行動」「診療・療養上の指示が通じる」を追加する
▽手術などの医学的状況を判断するC項目(これまでM項目として議論、詳細は以下)を追加
・開頭の手術(7日間)
・開胸の手術(7日間)
・開腹の手術(5日間)
・骨の観血的手術(5日間)
・胸腔鏡・腹腔鏡手術(3日間)
・全身麻酔・脊椎麻酔の手術(2日間)
・救命等に係る内科的治療(2日間)
外保連の川瀬弘一手術委員長(聖マリアンナ医科大学小児外科教授)は、新設されたC項目について「手術後の看護の必要量が評価されたこと」を歓迎した上で、自院の状況を振り返り、例えば次のような矛盾点・疑問点があると指摘します。
(1)腹腔鏡手術では術後3日間のみC項目1点と評価され、「腹腔鏡下虫垂切除術」においては外保連試案の技術度D(DPCの入院期間IIは9日)である「虫垂周囲膿瘍を伴うもの」も、技術度C(同じく5日)である「虫垂周囲膿瘍を伴わないもの」も同一となってしまう
(2)尿路系・副腎にある「腹腔鏡下小切開」手術(例えば腹腔鏡下小切開(尿管)悪性腫瘍手術など)は、C項目において「腹腔鏡手術」として取り扱うのか、「開腹手術」として取り扱うのかが明確でない
(3)小開胸と胸腔鏡を併用する「胸腔鏡補助下手術」は、胸腔鏡下手術として保険請求しているが、C項目においても「胸腔鏡手術」として取り扱うのかが明確でない(術後早期合併症の発見や、縫合不全、膵液瘻などの早期発見などに係る看護の必要量は開胸手術と同じである)
(4)C項目に「救命等に係る内科的治療」が導入されたが、例えば眼科では局所麻酔下手術後に眼が不自由になるため看護の必要量は多く、この点を考慮すべきである
(5)整形外科領域では、どのKコードがC項目で評価されるのかが分かりにくく(特に看護師にとって)、全Kコードに対応した看護必要度の評価日数一覧を公表すべきである
このうち(1)-(3)について川瀬手術委員長は、「腹腔鏡手術は一律に3日とされカウントしやすい」とした上で、「例えば虫垂炎では重症患者のほうがC項目として評価される日数が相対的に低くなる((1)で見ると、重症では9分の3、軽症では5分の3)。全体としてどのような状況なのかを見て、矛盾が多ければ何らかの要望も必要になってくるのではないか」とコメントしています。
また岩中会長は、「C項目の評価対象となっている手術の侵襲度や術後の経過が分かっているのは外科系の医師である。同じ腹腔鏡手術だからといって一律に考えてよいのかという問題はある。例えば胸腔鏡下で食道の手術をした場合、(重症と考えるのは)3日で良いだろうか。腹腔鏡・胸腔鏡手術の中でもグレードつけることなどを考えなければいけない。看護必要度については本来、看護系学会社会保険連合(看保連)がデータまとめるところで、連携していくための協力は惜しまない」との考えを述べました。
診療報酬点数表のKコードと外保連試案の術式名とのすり合わせを
ところで、現在の診療報酬改定では、手術点数の見直しに当たって「外保連試案」が重要なエビデンスの1つとなっています。現在、外保連試案(特に手術試案)は個別の術式ごとに▽人件費▽医療材料費用▽医療機器費用―がどの程度かかっているのかを調べ、積算したものとなっています。
岩中会長は、試案の精緻化(より実態に合ったものとする)に向けて今秋にも実態調査を行うことや、新たに「検査・処置・手術を横断する内視鏡試案」を策定する考えを発表。
さらに、「診療報酬点数表のKコードと外保連試案の術式名とのすり合わせを何年かかけて行っていくべき」との要望も行う考えです。現在、Kコードの中には、「●●根治手術」など、どのような術式なのか名称だけでは分からないものがあります。この点、外保連試案では「どういう臓器の、どういう疾病に、どうアプローチして、何をするか」を明確にした術式名を構築しており、諸外国でも同様になっていると岩中会長は指摘。今後、厚労省に対して「科学的根拠のあるコーディングされた術式名を導入し、国際的な議論・比較を可能にすべき」と提言することを強調しています。
手術施設基準に「NCDへの全症例登録」、岩中会長は懸念も
2016年度改定では、「K695-2 腹腔鏡下肝切除術」の一部拡大、「K703-2 腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術」の新設が行われ、施設基準に「関連学会と連携の上、手術適応などの治療方針の決定および術後管理などを行っている」という要件が盛り込まれました。腹腔鏡下手術などで医療事故が発生していることを踏まえ、「安全性の確立」が重要要件とされたものと言えます。
この点について瀬戸泰之実務委員長(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学・代謝内分泌外科学教授)は、▽NCD(National Clinical Database)▽日本消化器外科学会▽日本肝胆膵外科学会▽日本内視鏡外科学会▽肝臓内視鏡外科研究会▽膵臓内視鏡外科研究会―が協同して、「当該手術を行おうと決めた全症例について、術前にNCDに登録する」という仕組みを構築したことを発表しました(6月から登録開始)。
術前に「腹腔鏡で実施しよう」と計画し、後に開腹手術に変更した場合でも、当該症例のデータを追跡することが可能となり、瀬戸実務委員長は「将来的に安全性の検証をしていく」考えを強調しています。
もっとも岩中会長は、「そもそもNCDは、個々の施設や医師を監査するために構築したものではない」点を強調。「今後、『NCDへの登録』などが診療報酬の施設基準となることが当たり前になっては困る」と厚労省を牽制しています。
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