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同一術野に複数手術を行う場合でも、所定点数の算定を認めよ—外保連

2017.7.12.(水)

 同一手術野に2以上の手術を行う(複数手術)場合、「開腹」が一回で済む分の減算を行った上で、行った手術のすべての所定点数を算定できるようにすべきである—。

外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の岩中督会長(埼玉県立小児医療センター病院長)は、11日に開催した記者懇談会において、2018年度の次期診療報酬改定に向けて、厚生労働省にこうした要望を行う考えを明らかにしました(関連記事は こちらこちら)。

記者懇談会では、6学会からの要望内容も発表されています。

外保連の岩中督・会長(埼玉県立小児医療センター病院長)

外保連の岩中督・会長(埼玉県立小児医療センター病院長)

高齢化の進展で複数疾病を抱える高齢者が増加し、複数手術の場面も増える

 外保連は、100の外科系学会で構成される組織で、主に外科系診療の適正かつ合理的な診療報酬のあるべき姿を学術的な視点に立って研究し、提言を行っています。岩中会長は2018年度には診療報酬と介護報酬の同時改定が行われるため、通常よりも前倒しで議論が進められている点を説明した上で、厚労省に「複数手術に関する診療報酬算定ルールの見直し」などを要望していく考えを強調しました。

現在の診療報酬では、同一手術野または同一病巣に複数の手術を行った場合、「主たる手術の所定点数のみを算定する」ことを原則とし、例外的に「主たる手術の所定点数と、従たる手術の所定点数の100分の50とを合算して算定する」ことになっています。2度の手術を行う場合よりも手術コストが小さくなることに由来するルールですが、岩中会長は開腹の手間は1回分減るために、その分の診療報酬減額は理解できるとした上で、「高齢化が進行し、複数疾病を抱える患者が増加しており、現行ルールはおかしい。複数の手術を行った場合にも、それぞれの所定点数を100%算定できる(ただし、1回の開腹分はマイナスする)ようにすべき」と強く訴えました。

また瀬戸泰之実務委員長(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学・乳腺内分泌外科学教授)は、このほかに▼腹腔鏡手術の評価(膵臓切除など)▼外保連の提唱する「新たな評価軸」に基づく手術の評価(重症肥満患者に対する外科治療の費用対効果評価など)▼休日・時間外・深夜加算のさらなる施設基準緩和▼外保連試案第9版(2018年度版、11月上旬に公表予定)をベースにした評価—なども求めていく考えを示しています。

このうち「休日・時間外・深夜加算」については、2016年度の前回改定で「毎日の当直人数が6人以上の病院では、当直日数上限を24日(通常は12日)とする」との施設基準緩和が行われましたが、瀬戸実務委員長は「当直6人以上という規定は大学病院などでしか満たせない。多くの病院では、せいぜい内科系1人・外科系1人といったところではないか。実態に合わせた見直しを求めていく」との考えを述べています。

外保連の瀬戸泰之・実務委員長(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学・代謝内分泌外科学教授)

外保連の瀬戸泰之・実務委員長(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学・代謝内分泌外科学教授)

 
以下、各学会の要望をポイントを絞ってご紹介します。

◆日本耳鼻咽喉科学会

 K319【鼓室形成術】について、オペ時間などを考慮し、K319-1【鼓室形成術(耳小骨温存術)】(患者が聴力を維持しており、病変除去後に聴力改善の再建手術は不要)と、K319-2【鼓室形成術(耳小骨再建術)】(病変除去後に聴力改善の目的で▽自家骨▽自家軟骨▽人工骨—などを形成し、振動を内耳に伝える細工が必要)に区分し、後者を手厚く評価すべきである。現状では、鼓室形成術症例の43%が前者(耳小骨温存術)、57%が後者(耳小骨再建術)となっており、仮に前者の点数が引き下げられても、技術全体の保険診療上の評価は上がると見込まれる。(春名眞一手術委員)

春名眞一手術委員

春名眞一手術委員

 
◆日本人工臓器学会

 小児において心移植までの待機期間を補助する『小児用ベルリンハートEXCOR』には、極めて高い効果(2017年4月末時点で、本機器を用いた28症例中、▽心臓移植が14症例▽心機能開腹による本機器からの離脱が2症例▽補助継続中が12症例—で、補助中の死亡はゼロ)があることが判明しているが、保険償還価格(材料価格基準では血液ポンプやカニューレなどの合計で707万円)が実売価格(同938万円)よりも低く設定され、保険診療を行うに当たっては1症例につき231万円の持ち出しが生じてしまう。本機器を用いた治療の均てん化を図るため、償還価格を実売価格と同等に引き上げるべきである。(小野稔:同学会診療報酬対策委員会委員)

小野稔:同学会診療報酬対策委員会委員

小野稔:同学会診療報酬対策委員会委員

 
◆日本内視鏡外科学会

 結腸手術に比べて難易度の高い「直腸がん手術」について、開腹手術では「術後の痛みが強く、回復が遅い」、腹腔鏡手術では「相当な技術が必要であり、開腹移行が高く、排尿障害などが発生しやすい」というデメリットがある。そこで、腹腔鏡手術に比べて▽開腹移行率が低い▽排尿障害の発生率が低い▽技術習得が容易—というメリットのある、da vinciシステムを用いたロボット手術を保険適用すべきである。(川合一茂氏:東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学講座 腫瘍外科学 講師)

川合一茂氏:東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学講座 腫瘍外科学 講師

川合一茂氏:東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学講座 腫瘍外科学 講師

 
◆日本泌尿器内視鏡学会

 腹腔鏡下の膀胱全摘除術については、技術の進歩によって、従前は開腹によってしかできなかった「尿路変更」が可能となっているが、これらを評価する点数や加算が設定されていない。そこで、K803-2【腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術】について、▽回腸導管▽代用膀胱―の点数を設定し(現在の全摘除の点数<回腸道管の点数<代用膀胱の点数)、自動縫合器加算、自動吻合器加算の算定を認めるべきである。(市川智彦実務委員)

市川智彦実務委員

市川智彦実務委員

 
◆日本食道学会

 食道がん手術において、開胸手術や胸腔鏡手術には「肺機能の低下」というデメリットがある。一方、縦隔鏡下手術ではリンパ節郭清ができないなどのデメリットがあったが、昨今の技術革新で、縦隔鏡下手術でもリンパ節郭清が可能となり根治を目指せるようになった。このため、下部食道がんや中部食道がんでは、縦隔鏡下手術での長期成績が良好となっており、保険収載を認め、開胸手術と同程度(12万2540点)の評価を行うべきである。(渡邊雅之:同学会保険診療検討委員会委員長)

渡邊雅之:同学会保険診療検討委員会委員長

渡邊雅之:同学会保険診療検討委員会委員長

 
◆日本整形外科学会

 X線透視下での骨折観血的手術や、脊椎手術の術中投資装置使用が良好な成績を収めている。その一方で、術者は術中に放射線を大量に浴びるため、整形外科医においては非整形外科医に比べて、被曝量が15倍、がん発生率が2.6倍に及んでいる。術者と補助者の安全を確保するために、X線をガードする機能を持つグローブ(手袋)の使用が不可欠であり、前述の2手術における加算(1万3000円×2双に相当する点数)を認めるべきである。(亀山真氏:済生会中央病院整形外科担当部長)

亀山真氏:済生会中央病院整形外科担当部長

亀山真氏:済生会中央病院整形外科担当部長

 
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