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エビデンスに基づき「ロボット支援手術が適した分野」と「開腹手術が適した分野」との仕分けを―外保連

2018.7.19.(木)

 ロボット支援下内視鏡手術(以下、ロボット手術)に関するエビデンスを構築し、「ロボット手術が適した分野」「開腹手術等のほうが適している分野」の仕分けを、コスト、患者のメリット、外科医の見解などを総合的に考えて行っていく必要がある―。

外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の岩中督会長(埼玉県病院事業管理者)は、7月17日に開催した記者懇談会でこのような考えを述べました(関連記事はこちら)。

また今後のロボット支援手術の保険収載拡大について、データ収集に必要な期間と、中央社会保険医療協議会・医療技術評価分科会の審議日程とを勘案すると、▼2020年度の次期診療報酬改定において「再建の複雑な膵頭十二指腸切除術」や耳鼻咽喉科・脳神経外科領域への拡大▼2020年度の診療報酬改定でエビデンスに基づく点数の引き上げ―というスケジュールが描けるのではないか、と岩中会長はメディ・ウォッチにコメントしています。

岩中督外保連会長:埼玉県病院事業管理者

岩中督外保連会長:埼玉県病院事業管理者

 

複雑な手術ではロボット手術に軍配が上がるが、開腹手術が適しているケースも

 外保連は、100の外科系学会で構成される組織で、主に外科系診療の適正かつ合理的な診療報酬のあるべき姿を学術的な視点に立って研究し、提言を行っています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。7月17日の記者懇談会では、2018年度の今回診療報酬改定で大幅に術式が拡大された【ロボット支援下内視鏡手術】(以下、ロボット手術)に焦点を合わせ、現状と今後の展望が示されました。

お浚いしておくと、ロボット手術の対象が、従前の「前立腺がん」「腎がん」に加え、▼胃がん▼食道がん▼直腸がん▼肺がん▼子宮がん―など12術式に拡大されましたが、点数(診療報酬)は腹腔鏡手術と同程度に設定されています。裏を返せば「腹腔鏡手術について、ロボットを用いて実施してもよい」ということです。この背景について岩中会長は、「腹腔鏡手術に比べたロボット手術の優越性が必ずしも示されていない。患者へのメリットが示されない以上、高点数設定はできない。『操作性の高さ』(手ブレのない画像をもとに、多関節鉗子を用いて繊細・直観的な手術を行うことができる)などは医療側のメリットであり、高いコストは医療機関で負担すべきである。もっとも『既存点数と同程度でもよいので導入したい』との医療現場の要望には応える」との考えが厚生労働省にあると見通します(関連記事はこちら)。

逆に言えば、「ロボット手術の対象を拡大し、症例数を集積する」→「その中で安全性や有効性に関する優越性のエビデンスを構築する」ことで、ロボット手術の点数引き上げが期待されます。

この「ロボット手術の優越性」について、7月17日の記者懇談会では、領域別に次のような状況が明らかにされました。各領域で研究実績等があり、今後、「エビデンス」構築に向けた積極的な調査分析が行われることが伺えます。

【胃がん】
▽単純比較は難しいが、「過去の腹腔鏡手術」と「2015年3月以降実施のロボット手術」とを比べると、合併症発生率がロボット手術で有意に低い(腹腔鏡6.4%に対し、ロボットは半分以下の2.45%)。今後、無作為抽出試験を行い、ロボット手術の優越性に関するエビデンス構築を進める

胃がん症例について発表を行った静岡県立静岡がんセンター胃外科の寺島雅典部長(日本胃癌学会理事)

胃がん症例について発表を行った静岡県立静岡がんセンター胃外科の寺島雅典部長(日本胃癌学会理事)

 
【食道がん】
▽「2009年5月-2017年12月実施の腹腔鏡手術」(120例)と「2011年9月-2017年12月実施のロボット手術」(16例)とを比較すると、手術時間はロボット手術で有意に長く(腹腔鏡セットアップや調整等の時間が必要なため、腹腔鏡583±102分、ロボット730±97分)、術後在院日数はロボット手術で有意に短い(合併症が少ないため、腹腔鏡32.7±36.5日、ロボット17.6±10日)

▽佐賀大学では、食道がん手術については2018年4月の保険収載以降、全例をロボットで実施(従前は、ロボット/ロボット+腹腔鏡は最大28%)

食道がん症例について発表を行った佐賀大学医学部一般・消化器外科の能城浩和教授(日本内視鏡外科学会評議員)

食道がん症例について発表を行った佐賀大学医学部一般・消化器外科の能城浩和教授(日本内視鏡外科学会評議員)

 
【直腸がん】
▽静岡がんセンターにおける、「ロボット導入前」症例(腹腔鏡)と「ロボット導入後」症例を比較すると、▼開腹手術への移行率(導入前3.3%→導入後0%)▼出血量(同39ml→15ml)▼術後排尿障害の発生率(同8%→3%)▼術後局所再発率(同4%→1%)―と好成績をあげている(関連記事はこちら

▽保険収載後、2018年4月には従前の3倍、2018年5月には従前の5倍というペースで、直腸がんに対するロボット手術治療が実施されている、

直腸がん症例について発表を行った東京医科歯科大学医学総合研究科消化管外科学の絹笠祐介教授(日本内視鏡外科学会評議員)

直腸がん症例について発表を行った東京医科歯科大学医学総合研究科消化管外科学の絹笠祐介教授(日本内視鏡外科学会評議員)

 
【肺がん】
▽縦隔腫瘍(特に胸腺腫)について、従前は「III期以降や腫瘍径5cm超は開胸手術」「I期・II期や腫瘍径5cm以下は胸腔鏡手術」と考えられていたが、開胸適応のケースでもロボット手術にとってかわられつつある

▽人件費・機器コスト等を加味して収支を見ると、胸腔鏡手術ではようやく黒字だがロボット手術では人件費を賄うことが全くできない

肺がん症例について発表を行った鳥取大学医学部器官制御外科学講座胸部外科学分野の中村廣繁教授(日本呼吸器外科学会理事)

肺がん症例について発表を行った鳥取大学医学部器官制御外科学講座胸部外科学分野の中村廣繁教授(日本呼吸器外科学会理事)

 
【膀胱がん】
▽鳥取大学における膀胱全摘除症例について、「開腹手術」(52症例)と「ロボット手術」(32症例)とを比較すると、▼総出血量(開腹の中央値862ml(260-3750ml)、ロボットの中央値245ml(50-710ml))▼内科的・外科的治療が必要となるII以上の合併症の発生率(開腹92%、ロボット47%)—と優位に「ロボットが優越している」ことが分かる

▽とくに、「症例数が多く、かつリスクの高い(80歳以上では死亡率が60歳未満に比べて2.98倍に上昇する)」高齢症例について、ロボットのほうが開腹よりも安全である(開腹では55%において30日以内に中等程度以上の合併症が発生したが、ロボットではゼロ%)

▽鳥取大学では、2018年4月の保険収載後、ロボット手術症例が従前の約5.5倍に増加する見込み

膀胱がん症例について発表した鳥取大学医学部器官制御外科学講座腎泌尿器学分野の武中篤教授(日本泌尿器内視鏡学会理事)

膀胱がん症例について発表した鳥取大学医学部器官制御外科学講座腎泌尿器学分野の武中篤教授(日本泌尿器内視鏡学会理事)

 
【子宮がん】
▽京都大学における子宮全摘術症例について、「開腹手術」と「ロボット手術」とを比較すると、▼出血量(開腹の中央値880g、ロボットの中央値82g)▼排尿▼術後在院日数(開腹の中央値14日程度、ロボットの中央値7日程度)—とロボットが優越している
子宮がん症例について発表を行った京都大学大学院医学研究科婦人科学・産科学の万代昌紀教授(日本産婦人科学会代議員)

子宮がん症例について発表を行った京都大学大学院医学研究科婦人科学・産科学の万代昌紀教授(日本産婦人科学会代議員)

 
 これらを俯瞰すると「ロボット手術は開腹手術や腹腔鏡手術に比べ優れている」というエビデンスが構築され、コスト問題が解決すれば、いずれ「対象手術はすべてロボット手術に移っていく」ようにも思えます。特に、複雑な手術においては多関節鉗子を駆使できるロボット手術に軍配が上がりそうです。しかし、細かくみると、例えば「食道がん手術では、開腹手術のほうが手術時間が短い」「小児科では、患児の体が小さく、ロボットのアームの方が長いケースがあり、ロボット手術は適さない」といった、ロボット手術の弱点・課題もあるようです。岩中会長は「すべてにおいてロボット手術が開腹手術・腹腔鏡手術を凌駕しているわけではない。コスト、患者が享受できるメリット、外科医のメリットなどを勘案し、『この手術ではロボット手術が適している』『この分野は開腹で迅速に手術すべき』という仕分けがなされていくのではないか」と見通しました。

「2020年度改定で術式拡大、2022年度改定で点数の引き上げ」が現実的スケジュール

こうしたエビデンス構築のためには症例数の確保が不可欠で、上述した各領域では「2018年4月の保険収載後、ロボット手術の症例数が増加している」状況も伺えます。この点について、肺がん症例について発表を行った鳥取大学医学部器官制御外科学講座胸部外科学分野の中村廣繁教授(日本呼吸器外科学会理事)は、「我が国には約300台のda Vinci支援システムがあるが、使われていない機器も多かった。保険収載により、患者からの要望も強くなり、使っていないda Vinciを使いだした施設が増加したようだ。診療報酬の施設基準では『年間10例以上』などの実績が求められているが、実績値を満たすまで診療費をサポートする(サポートがなければ保険は使えず、全額自己負担となってしまう)病院もあるようだ」と症例数増の背景を分析しています。

また、外保連では「症例数を重ねてエビデンスを構築し、診療報酬の引き上げを狙う」考えを示しており、岩中会長はメディ・ウォッチに対し「私見も交じる」と前置きした上で、「データ集積・解析に係る時間と、医療技術評価分科会のスケジュールを考慮すると、早くとも▼2020年度の次期診療報酬改定において「再建の複雑な膵頭十二指腸切除術」や耳鼻咽喉科・脳神経外科領域への拡大▼2022年度の診療報酬改定でエビデンスに基づく点数の引き上げ―が現実的ではないか」とのコメントを寄せました。前者の「再建の複雑な膵頭十二指腸切除術」については、既に関係学会で保険収載に向けた一定のデータ収集が進んでいるようです。

さらに岩中会長は、食道がんなどでは「在院日数が短縮している」点にも着目。医療費で考えれば「在院日数の短縮は、入院基本料等の算定回数を減らし、医療費を適正化する効果」があります。また、患者の早期社会復帰・職場復帰つながり、QOLの向上は飛躍的に上昇します。こうした点も併せて、厚労省に「点数見直し」に向けた要望を行っていけるのではないかとも見通しています。

ロボット手術の技術習得に向け、関係学会が個別病院での「教育」システム構築進む

ところでロボット手術においては、熟達のスピード(いわゆるlearning curb)は腹腔鏡・胸腔鏡に比べて早いと指摘されますが、やはり術者が確実に技術を身に着けるためには一定の時間が必要です。

この点、例えば静岡県立静岡がんセンターでは、段階的な術者教育プログラム(術者資格の取得→トレーニング→独り立ち)を用意したり、日本泌尿器科学会・日本泌尿器内視鏡学会では「新規技術者を指導するプロクターを承認する」制度を稼働させるなど、各方面で積極的に教育に取り組んでいる状況も報告されました。

岩中会長は、今後「熟達のスピードに関するエビデンス」も構築されると見通しています。また、膀胱がん症例について発表した鳥取大学医学部器官制御外科学講座腎泌尿器学分野の武中篤教授(日本泌尿器内視鏡学会理事)は、ロボット手術の技術習得において▼前立腺がん治療では腹腔鏡手術実績を要件としていない▼腎臓がん治療では腹腔鏡手術実績を要件としている―ことを紹介。術式によって腹腔鏡手術の技術が必要かどうかは変わってくるようですが、武中教授は「いきなりロボット手術の技術習得に向かう医師が増えてくるのではないか」との見通しを示しています

「エビデンスが出るまで従来技術と同点数」との厚労省姿勢には忸怩たる思いがある

なお、岩中会長は、今般のロボット手術の拡大について「外保連ではコスト・難易度に基づいた試案を示している。今回の厚労省の考え方に一部は理解できる(患者のメリットが明らかでなく、高点数は設定できない)が、忸怩たる思いがある。今後も『保険導入し、症例を積んでエビデンスを構築してほしい。それまでは従来技術と同点数を設定する』という手法が用いられるのであれば、外保連としても対応を考えなければいけない」との考えも披露しています。

【更新履歴】
本文中、「▼2020年度の診療報酬改定でエビデンスに基づく点数の引き上げ―が現実的ではないか」との記述がありますが、「▼2022年度の診療報酬改定でエビデンスに基づく点数の引き上げ―が現実的ではないか」の誤りです。訂正し、お詫び申し上げます。本文は修正済です。
 
 
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