ロボット支援手術、外科医の技術格差は大きく、十分な「指導」体制確立を―医科歯科大・絹笠教授
2018.1.19.(金)
ロボット支援下内視鏡手術の対象術式が、2018年度の次期診療報酬改定で大幅に拡大されるが、安易な導入を避けるためにも、保険収載当初は「通常の腹腔鏡を用いた術式と同点数」とし、症例を重ねる中で優位性などに関するエビデンスを構築していくべきである。またロボット支援下内視鏡手術を実施するためには相当の技術習得が必要であり、学会が中心となって十分な指導を行っていくことが必要である—。
直腸がんに対するロボット支援下内視鏡手術の第一人者である東京医科歯科大学大学院の絹笠祐介教授(消化管外科分野)は、1月18日に緊急勉強会を開催し、このような見解を示しました。
保険収載して症例数を確保、そこからエビデンスを構築し点数引き上げに結びつけよ
どの程度の点数が設定されるかは未定ですが、中医協の下部組織である医療技術評価分科会では「既存技術に比べて優越性を示すまでには至っていない手術については、既存技術と同程度の点数とすべき」との見解を示しています。
この点について、直腸がんに対するロボット支援手術の第一人者である絹笠教授は、「保険収載当初は、通常の腹腔鏡を用いた術式と同点数とすることが妥当である」旨の見解を示しています。保険収載されることで症例数が増え、その中で「既存の腹腔鏡手術よりも優位性がある」とのエビデンスを構築し、ロボット支援手術の点数引き上げにつながることを期待するものです。
さらに、後述するようにロボット支援手術には、特有のリスクがあります。保険収載当初から高点数を設定すれば、技術が十分でない病院や外科医が、我も我もとda vinciシステムなどを導入してしまう可能性があり、絹笠教授は「こうした事態を避けるためにも、既存手術と同程度の点数設定が望ましいのではないか」とコメントしています。
絹笠教授は直腸がんを例にとり、ロボット支援手術には、既存の腹腔鏡手術に比べて▼術者が自身の手元を見ることができる▼高倍率の3次元画像を見ながら手術を行える▼アームの可動域について縮尺を変えることができ、深部でも正確に鉗子などを動かせる▼前立腺の裏側などにまで鉗子を入れることができる—といった術者にとってのメリットがあります。
さらに、手術成績(アウトカム)についても次のようなメリットがあります。
▼排尿障害・性機能障害の発生率を抑えられる(静岡がんセンターでは腹腔鏡出において排尿障害が8.1%発生していたが、ロボット支援手術では2.8%に抑えられた)
▼術後の局所再発率を抑えられる(静岡がんセンターでは、腹腔鏡手術で4%だった再発率が、ロボット支援手術では1%に低減)
▼肛門温存率が高い(静岡がんセンターでは、ロボット支援手術の導入により肛門温存率は90%。他施設で「温存は不可能」とされた患者が中心であり、極めて高い数値である)
▼開腹手術への移行率が抑えられる(静岡がんセンターでは、腹腔鏡手術で3.3%だった移行率が、ロボット支援手術では0%に低減)
また、DPCデータや臨床指標を使って参加病院のがんの診療プロセスを分析し、実名でベンチマークするCQI研究会(分析をグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンが担当)では、開腹手術や既存の腹腔鏡手術に比べてda vicnciシステムなどを用いたロボット支援手術のほうが、平均在院日数が短い傾向にあることなども明らかになっています(関連記事はこちら)。
ロボット支援手術の保険収載によって患者の経済的負担が小さくなる(保険収載されてないロボット支援手術は、これまで全額患者負担の自由診療か、一部のみ公的保険が適用される先進医療として実施)ことで症例数が増え、こうしたメリットに関するエビデンスが構築されるのではないか、と絹笠教授は期待を寄せています。
ところで、新規の医療技術を保険収載するルートとして先進医療があります。しかし絹笠教授は「先進医療の門戸が狭すぎる。直腸がんのロボット支援手術も先進医療の申請を検討してきたが断念せざるを得なかった」と振り返り、「一定程度、安全性・有効性が確認された技術について、診療報酬を既存技術と同程度とした上で、積極的に保険収載していくべきではないか」との見解も示しています。
これまでの「エビデンスが確立されてから保険収載する」という考え方を、「保険収載して症例数を確保し、エビデンスを見出す」という形に大きく転換していくことになるのか、ロボット支援手術の成果に注目が集まります。
ロボット支援手術にも技術格差や、特有のリスクあり、学会による指導体制が重要
ところでロボット支援手術には、特有のリスクもあります。絹笠教授は「現在のda vinciシステムでは触覚がないため、見えない部分で鉗子が干渉するなどし、臓器を傷つける可能性もある」と指摘します。ロボット支援手術では、通常の腹腔鏡手術に比べて「技術習得までの時間(ラーニングカーブ)が短くて済む」との特性がありますが、術者に「相当の技術」が求められることには変わりがありません。
この点、現時点では「医師の技術格差が大きい」「技術を指導できる医師が限られている」(直腸がんであれば、我が国では絹笠教授を含めて5名程度にとどまっている)という問題点があるようです。絹笠教授は「現在、我が国は250台ほどのda vinciシステムが導入されているが、技術の格差は大きく、250台すべてがいきなり動き始めれば大きなトラブルが発生することも予想される。学会主導による十分な指導体制を確保し、いわば『手綱を引きながら』普及していくこと」が極めて重要なポイントになると強く訴えました。
したがって、保険収載によって「ロボット支援手術の導入病院が拡大する」というよりも、「既にロボット支援手術を導入し、かつ『相当の技術を獲得』した医師を抱える病院(絹笠教授によれば、直腸がんでは20施設程度)において症例数が増加していく」という形で普及していくことになると考えられます。
なお、症例数の急速な拡大は疑いようがなく、▼既存のロボット支援手術システム(da vinciシステムなど)の価格が低下する▼新規の、より高機能なロボット支援手術システムが開発される—と予想されます。絹笠教授は「国産の、高機能で低価格なシステムが開発される」ことに期待を寄せています。
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