薬剤9.1%、材料7.0%の価格乖離、診療報酬本体プラス改定も―中医協総会 第376回(3)
2017.12.7.(木)
2017年における薬価と市場実勢価格との平均乖離率は約9.1%、同じく材料価格と市場実勢価格との平均乖離率は約7.0%であった―。
このような結果が、12月6日に開催された中央社会保険医療協議会・総会に報告されました。この数字をもとに薬価・材料価格の引き下げが行われることになり、
市場実勢価格と償還価格との差を埋める
医療用医薬品と特定保険医療材料については、保険償還価格(薬価、材料価格)が設定されています。医療機関などでは、これらを使用して保険診療を行い、保険償還価格に沿った支払いが行われます。
他方、医療機関などが卸業者から医薬品や医療材料を購入する価格(市場実勢価格)は、自由取引であるためまちまちとなっています
この保険償還価格と市場実勢価格の差が、いわゆる薬価差・材料価格差であり、かつてはこの薬価差などの「縮小」が大きな政策課題となっていました。
というのも、医薬品などを低価格で購入すれば、薬価差などは医療機関などの利益になりますが、保険診療は国民の納めた税金や保険料などで賄われており、医療機関などに支払われる薬剤費・材料費も最終的には国民が負担しています。したがって、実際に医療機関のコストとなる市場実勢価格が低ければ、国民負担となる薬価・材料価格もそれに応じて引き下げていく必要があるのです。これが、2年に一度(今後は毎年)行われる薬価改定・材料価格改定の重要な役割の1つとなっています。
改定に当たっては、医薬品や医療材料を医療機関がいくらで購入しているのか、つまり市場実勢価格を把握する必要があり、厚生労働省は改定の前年に大規模な調査(薬価本調査、材料価格本調査)を行っています。
今般、調査結果の速報値が中医協総会に示され、医薬品については、市場実勢価格と薬価との乖離率が平均で約9.1%であることが分かりました。2年前の前回調査では、平均乖離率が約8.8%でしたので、価格の乖離が広がっています。
投与形態別に見ると、▼内用薬10.1%(前回調査では9.4%)▼注射薬7.2%(同7.5%)▼外用薬8.2%(同8.2%)―なっています。歯科用薬剤については、マイナス4.0%(同マイナス1.0%)となっており、前回調査に続き「薬価よりも高い価格で歯科医療機関が医薬品を購入している」状況で、より高価格で購入していることが分かりました。厚労省医政局経済課の三浦明課長は、「逆ザヤは認識している」とコメントするにとどめており、その理由は明確になっていません。
また薬効群別に見ると、▼その他のアレルギー用薬14.5%(同12.3%)▼血圧降下剤13.3%(同11.4%)▼消化性潰瘍剤13.1%(同13.3%)▼高脂血症用剤12.7%(同12.0%)―などで、乖離率が大きくなっています。
また、後発医薬品の使用割合(数量ベース)は約65.8%で、前回調査(約56.2%)よりも10ポイント近く(9.6ポイント)伸びています。政府は「2017年央に70%以上に、2020年9月に80%以上とする」との後発品使用促進目標を掲げており、達成までの道のりはまだ遠いようです。
一方、医療材料については、平均乖離率が約7.0%となっています。前回調査(約7.9%)よりも乖離幅は縮小しています。
薬価・材料価格の引き下げによって、診療報酬本体はプラス改定の可能性も
この結果を受けて、薬価と医療材料は来年(2018年)4月から引き下げられることになります。
現行ルールでは、「乖離分をすべて引き下げる」のではなく、一定の調整幅を残した上出の引き下げを行うことになっています。薬価については調整幅が2%とされており、「9.1-2.0」=7.1%の引き下げ、材料価格については調整幅が4%とされており、「7.0-4.0」=3.0%の引き下げ、となる見込みです。
これが医療保険財政に及ぼす影響を考えてみましょう。まず薬剤費を9兆円と仮置きすると、「9兆円×7.1%の引き下げ」によって、薬剤費は6390億円減少することになります。薬剤費における国庫負担割合を4分の1(25%)と仮置きすれば、2018年度には1600億円程度の国費縮減が可能と考えられます。
また材料費を1兆円と仮置きすると、同様に「1兆円×3.0%の引き下げ」により材料費は300億円減少し、国費は75億円縮減できると考えられます(同じく国庫負担割合を25%と仮置き)。
ところで、2018年度は「2020年度におけるプライマリーバランスの黒字化に向けた集中改革期間(2016-18年度)」の最終年度に当たり、医療・年金などの社会保障関係費の増額は3年度で1兆5000億円(単純計算で1年度あたり5000億円増)に抑えることになっています。一方、2018年度予算概算要求では、社会保障費は6300億円増となっており、「6300億円と5000億円の差額である1300億円の縮減」が必要です(関連記事はこちら)。
ここで、薬価・材料価格の引き下げにより合計で1675億円(1600億円+75億円)の縮減が可能で、上記「1300億円の縮減」は達成が可能な見込みです。さらに、1675億円と13300億円との差額、375億円を診療報酬本体の改定財源に用いることが認められれば、2018年度には「診療報酬本体はプラス改定」になるでしょう。
もっとも、この価格引き下げ分を診療報酬本体の引き上げ財源に使うことについて、財政制度等審議会は「国民に還元すべきで、認められない」と強く求めており、年末にかけての改定率論議がさらに熱を帯びそうです(関連記事はこちら)。
なお、375億円を診療報酬本体に充て、改定率の比率「医科:歯科:調剤=1:1:0.3」が維持されると仮定すれば、医科に322億円、歯科に37億円、調剤に15億円程度の改定財源が準備されることになり、医科0.34%、歯科0.45%、調剤0.10%のプラス改定が見込まれます。
もちろん数字はいずれも「仮置き、仮定」のものであり、今後、薬価制度改革・材料制度改革の行方などで、状況は大きく変わってきます。
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