医薬品・医療材料の公的価格と市場価格との乖離、薬剤7.2%、材料4.2%―中医協
2018.12.5.(水)
12月5日に中央社会保険医療協議会の薬価専門部会と保険医療材料専門部会が開かれ、来年(2019年)10月に予定される消費税率引き上げに伴う薬価・材料価格の見直しに関する関係団体ヒアリングが行われました。
単価が低く大量使用される材料、「1円未満」の端数について運用上の工夫が可能か
両部会ではこれまでに、▼価格見直しは消費税率引き上げと同時に実施する▼「消費税率引き上げに対応するための臨時的・特例的な改定」と位置付ける▼再算定(価格見直し)ルールについては「実勢価格等を踏まえて行うもの」のみとする―などといった方針が固められています(関連記事はこちらとこちら)。
これらの方針は関係団体の意向とも合致するもので、関係団体から「評価する」との意見が目立ちましたが、いくつかの注文も付いています。
医療機器関係団体(▼日本医療機器産業連合会(JFMDA)▼日本医療機器テクノロジー協会(MTJAPAN)▼先進医療技術工業会(AdvaMed)▼米国医療機器・IVD工業会(AMDD)▼欧州ビジネス協会(EBC)医療機器・IVD委員会▼日本医療機器販売業協会(医器販協)—)からは、「単価の低い特定保険医療材料については、1円未満の引き上げ分が切り捨てられてしまう。大量に使用される品目についてはメーカー等の負担が大きくなるため、運用で工夫をしてほしい」との要望が出されました。
例えば、万年筆型注入器用注射針の(2)超微細型は、現在(消費税率8%)、償還価格が「18円」に設定されており、消費税率を10%とした場合(110/108を乗じる)、計算上は「18.33円」となります。しかし、特定保険医療材料の償還価格は「円」単位で設定し、小数点以下は切り捨てとなるため、「18円」に据え置かれると考えられます。この製品を100個使用した場合、メーカーにとっては、0.33×100=33円の、いわば「損」が生じると言えます。
一方、仮に「1800円」に償還価格が設定されている製品があった場合、消費税率を10%とした場合(同)、計算上は「1833円」に償還価格が引き上げられることになります。この場合、上記のような「33円の損」は生じません。
このように、「単価が低く設定され(54円未満の場合、1円未満の端数が生じる。約30機能区分ある)、大量に使用される特定保険医療材料」では、高額な特定保険医療材料に比べて、消費税対応改定における「不公平」が生じてしまうのです。このため医療機器関連団体は、「材料価格を小数点2桁まで(薬価と同様に銭単位)とするなど、運用上の工夫を検討してほしい」と要望しているのです。次回会合では、厚生労働省から、薬価・材料価格に関する「消費税対応改定に向けた骨子」案が示される見込みで、それまでに厚労省内でどういった検討が行われるのか注目が集まります。なお、この要望について支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「事情は理解できるが、財源は決まっており、致し方ないのではないか」とコメントしています。
一方、薬価については関係団体(▼日本製薬団体連合会▼日本製薬工業協会▼日本ジェネリック製薬協会▼米国研究製薬工業協会▼欧州製薬団体連合会―)から、「2020年度には通常の改定(2年に一度)が行われるが、その前に臨時・特例的な価格引き下げ(2019年10月の消費税対応改定)がなされ、製薬企業等の経営への影響は大きい。消費税対応改定の影響等を見ながら、丁寧に2020年度の通常改定に向けた検討を行ってほしい」といった旨の注文が付きました(消費税対応改定に対しては特段の注文なし)。具体的には、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の要件緩和やイノベーションの更なる評価などを検討してほしいという内容です。
具体的な議論は、今後、中医協の薬価専門部会等で行われますが、この注文に対し幸野委員は「新薬創出・適応外薬解消等促進加算は『特許期間中は薬価を下支えして研究開発コストの回収を可能とする』『特許期間経過後は、速やかに後発医薬品に市場を明け渡す』といったものと言える。2018年度の薬価制度抜本改革では、後者についての見直し(後発品への置き換え率に応じて、薬価上限を定める新たなG1・G2ルールなど)も行われたが、稼働するのは先のことである。新薬創出・適応外薬解消等促進加算の要件緩和を求めるのであれば、セットで『後発品のさらなる使用促進策』を議論する必要がある」と牽制しました。
薬剤7.2%、材料4.2%の価格乖離、歯科では「逆ザヤ」が拡大
なお、同日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、医薬品と特定保険医療材料の実勢価格に関する調査(薬価本調査、材料価格本調査)の結果も示されました。
2018年9月に取り引きされた医薬品の実勢価格と薬価との乖離率は平均で約7.2%、2018年5-9月に取り引きされた特定保険医療材料(▼ダイアライザー▼フィルム▼歯科材料▼薬局調査分—は2018年9月取り引き)の乖離率は約4.2%となりました。
医療用医薬品と特定保険医療材料については、公定の保険償還価格(薬価、材料価格)が設定されていますが、医療機関などが卸業者から購入する価格は自由価格ゆえ区々です。
消費税対応改定にあたっては、「市場実勢価格に応じて薬価・材料価格を一度引き下げ(ただし、乖離分をすべて引き下げるのではなく、薬価では2%・材料価格では4%の調整幅を残す)、ここに消費税率引き下げ分(8%→10%)を上乗せする」ことになるため、今回の調査結果が、新価格の重要な基礎資料となるのです。
また医薬品について、投与形態別の乖離率を見ると、▼内用薬:8.2%▼注射薬:5.2%▼外用薬:6.6%▼歯科用薬剤:マイナス5.7%―となっています。
歯科については、平均でみると「歯科医療機関が薬価よりも高い価格で薬剤を購入している」、つまり「歯科医療機関で持ち出しが生じている」状況です。過去の調査でも「歯科の逆ザヤ現象」は明らかとなっており、今般の調査では「さらに拡大している」ことが分かりました(2016年度改定に向けた調査:マイナス1.0% → 2018年度改定に向けた調査:マイナス4.0% → 2019年10月改定に向けた調査:マイナス5.7%)。とりわけ歯科用の局所麻酔剤に限れば、「マイナス9.5%」の逆ザヤが発生しています。この点について厚労省医政局経済課の三浦明課長は、「歯科用薬剤は長期収載品が多く、薬価が極めて低くなっている。基礎的医薬品や不採算品目再算定などでの対応を検討する必要があるかもしれない」とコメントしています。
なお、主要薬効群別に乖離率を見ると、▼高脂血症用剤:12.2%▼血圧降下剤:11.7%▼消化性潰瘍用剤:10.8%▼糖尿病用剤:8.6%―などで大きくなっています(2019年10月にも大きく薬価が引き下げられる見込み)。
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