自身の判断で医行為を実施できる看護師「ナース・プラクティショナー」創設に向け検討を始めよ―日看協
2019.7.17.(水)
医師の指示を待たず、自身の判断で一定の医行為を実施できる看護師「ナース・プラクティショナー」(NP)の創設に向けた検討の場を、厚生労働省に設置してほしい―。
日本看護協会は7月4日に、根本匠厚生労働大臣に対し、こういった内容を盛り込んだ「2020年度予算・政策に関する要望書」を手渡しました(日看協のサイトはこちら)。
NP導入している諸外国では、メリットこそあれ、デメリット報告は皆無
今般の日看協の要望は、(1)看護師基礎教育の4年制化の実現(2)訪問看護提供体制の推進(「訪問看護推進総合計画」の策定)(3)ナース・プラクティショナー制度に関する検討の場の設置(4)看護師等の人材確保の促進に関する法律および基本指針の改正―の4点です。ここでは(2)のナース・プラクティショナーに焦点を合わせましょう。
厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が3月末(2019年3月末)に報告書をとりまとめ、次のような方針を明確にしました(関連記事はこちら)。
▽2024年4月から「医師の時間外労働上限」を適用し、原則として年間960時間以下とする(すべての医療機関で960時間以下を目指す)(いわゆるA水準)
▽ただし、「3次救急病院」や「年間に救急車1000台以上を受け入れる2次救急病院」など地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関で、労働時間短縮等に限界がある場合には、期限付きで医師の時間外労働を年間1860時間以下までとする(いわゆるB水準)
▽また研修医など短期間で集中的に症例経験を積む必要がある場合には、時間外労働を年間1860時間以下までとする(いわゆるC水準)
▽2024年4月までの5年間、全医療機関で「労務管理の徹底」(いわゆる36協定の適切な締結など)、「労働時間の短縮」(タスク・シフティングなど)を進める
このうち「タスク・シフティング」については、医師から他職種に、また他職種からさらに別の職種に「当該職種でなくとも実施可能な業務」を移管し、当該職種が「その資格保有者でなければ実施不可能な業務に集中できる」環境を整えるものです。
この業務移管先の他職種として看護師が注目されています。すでに、一定の研修(特定行為研修)を修了した看護師には、医師の包括的指示の下で、一定の医行為(特定行為)を実施できる仕組みが設けられ、日本病院会や外科系学会などでは、この「特定行為研修を修了した看護師」の養成促進に力を入れています(関連記事はこちらとこちら。
さらに、「医師の働き方改革に関する検討会」でも時間をかけて議論された▼ナース・プラクティショナー(NP)▼フィジシャン・アシスタント(PA)―などにも注目が集まっています。前者のNPには、米国等では「医師等の指示を受けずに、独自の判断で一定の医行為を実施する」ことが認められています。またPAは、医師の監督のもとに▼診察▼薬の処方▼手術の補助―など、医師が行う医療行為の相当程度をカバーする医療資格者をさします。
この点、日看協は▼高齢者のさらなる増加、地域包括ケアの推進等により、病気を抱えながら地域で療養する人々はさらに増加し、一方で労働人口が減少する中で「安全かつ質の高い医療を効率的に提供することが不可欠である▼特定行為研修を修了した看護師の活躍が期待されているが、「医師の指示のもとでの診療の補助」を越えない特定行為研修制度では対応できない現場のニーズがある―ことを強調。
また、アメリカ、カナダ、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、シンガポールなど、「NP」を導入している諸外国の状況を見ると、▼医療へのアクセスの改善▼待ち時間の短縮▼重症化予防▼高い患者満足度―というメリットがある一方で、「患者アウトカムへの悪影響」を示すものはないことも指摘。
高齢化の進展する地方自治体の首長や医療行政担当者、医師等へのヒアリングからは、「医師の確保困難・高齢化等により、住み慣れた地域で継続的に医療を提供することが困難となっており、NP制度創設を求める声が多い」ことなども踏まえ、まず厚労省に「ナース・プラクティショナー(NP)制度に関する検討の場」を設置するよう強く求めています。
なお、厚労省の開催する「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング」(6月17日に第1回のヒアリングを実施)では、日本医師会から「新職種創設でなく、既存職種の充実で対応すべき」との意見が出ていますが、日本脳神経外科学会からは「「若手医師のトレーニングとのバランスを考慮した上で、PA創設は積極的に考えてはどうか」との意見も出ています。NPに対する具体的な言及はありませんが、「検討」事態は積極的に進めていくべきでしょう(関連記事はこちら)。
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