訪問看護の裾野広げる「機能強化型3訪問看護ステーション」、中小民間病院で設置意向が強い—日看協
2019.5.17.(金)
2018年度診療報酬改定で新設された、地域医療機関の看護職員受入れ等を実施し、言わば訪問看護の裾野を広げていく役割を負う「機能強化型3の訪問看護ステーション」は、病院全体の0.5%にしか設置されていないが、今後4.1%で設置意向がある。取得意向は200床未満の民間病院で強い―。
日本看護協会が5月15日に公表した「2018年 病院看護実態調査」結果速報から、このような状況が明らかになりました(日看協のサイトはこちら)。
目次
中小の個人・民間病院で看護職員の離職率が依然として高い
日看協は毎年、病院看護職員の需給動向や労働状況、看護業務の実態などを調査(病院看護実態調査)しています(前年の状況はこちら)。
2018年調査では、(1)看護職員の離職率(2)今後の看護職員数の増減予定(3)訪問看護への取り組み状況など(4)看護職員の給与など―の4点に焦点を合わせて調査が行われました。ポイントを絞って調査結果を眺めてみましょう。
まず(1)の離職率に関する調査です。
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となることから、今後、地域の医療・介護ニーズが増加していきます。その後、2040年にかけて高齢者の増加スピードは鈍化しますが、高齢者を支える現役世代の数が急速に減少するため、医療・介護提供体制の確保が極めて重大な課題の1つとなります。
ここで2017年度における看護職の離職率を見ると、常勤で10.9%(前年度から増減なし)、新卒で7.5%(同0.1ポイント減)となり、過去5年間では大きな変動のないことが分かりました。
病院の規模別では、「小規模になるほど離職率が高い」状況も変わっていません。教育・研修体制などの職場環境に由来する部分が大きいと考えられます。
また設置主体別では、常勤・新卒ともに個人病院や医療法人病院で高くなっており、一方で「常勤では都道府県立病院や日赤病院、新卒では国立大学病院や都道府県県立病院で低い」状況が分かります。給与面なども含めた職場環境の影響などが大きいと推測され、詳細な分析が期待されます。
さらに都道府県別に見ると、常勤では▼東京都(14.5%)▼神奈川県(13.4%)▼京都府(13.0%)▼大阪府(12.9%)―など大都市部で高いことが分かります。「病院が多く転職しやすい」という状況が大きく関係しているように思われます。
なお、岩手県では、常勤離職率が2016年度には「12.2%」でしたが、17年度には「7.3%」と大幅に低下しています。2025年度から16年度にかけて5.1ポイント跳ね上がり、16年度から17年度にかけて4.9ポイント下がっているので、16年度が異常値であったと考えられますが、その原因について詳しく分析することが重要でしょう。
病棟や退院支援部門で「看護職員の増員」予定、外来で「減員」予定が目立つ
次に(2)の「今後の増員予定」を見てみると、全体では「同程度」が53.7%、「増員予定」が34.5%で、「減員予定」は3.2%にとどまっています。400床以上の大規模病院で、やや「減員予定」のところが多いようです。2018年度の診療報酬改定では、一般病棟入院基本料等の報酬体系を大きく見直し、従前の7対1と10対1の間に、看護配置10対1ながら高点数である【急性期一般病棟入院料2】【急性期一般病棟入院料3】が創設されており、こちらへの移行を睨む病院がどの程度あるのか、今後の動向に注目が集まります(関連記事はこちら)。
また部門別では、▼病棟▼退院支援・地域連携▼訪問看護―で「増員」を考えているところが多く、減員は「外来」でやや多くなっています。
52.3%の病院が、何らかの訪問看護機能を持つ
さらに(3)の訪問看護に目を移すと、全体の52.3%の病院が、▼院内に訪問看護部門(訪問看護室)を設置▼訪問看護ステーションを併設▼同一・系列法人に訪問看護ステーションを設置(併設ではない)―など、何らかの訪問看護機能を有していることが分かりました。
この「何らかの訪問看護機能」を有する割合を病床規模別にみると、▼99床以下:39.9%▼100-199床:60.1%▼200-299床:64.0%▼300-399床:56.8%▼400-499床:52.0%▼500床以上:36.0%―という状況です。
また、現在、訪問看護部門や訪問看護ステーションを併設していない病院における「今後の予定」を見ると、「併設を考えている」割合は▼機能強化型1の訪問看護ステーション:1.3%▼機能強化型2の訪問看護ステーション:1.3%▼機能強化型3の訪問看護ステーション:2.1%▼その他の訪問看護ステーション:10.5%―となっています。
機能強化型訪問看護ステーションは、常勤の看護職員を手厚く配置し、▼24時間対応▼重症者の受け入れ▼地域住民等への情報提供―などを実施する、いわば「地域包括ケアシステムの要」の機能を果たす訪問看護ステーションです。現在、「機能強化型1(2よりも手厚い人員配置等)」、「機能強化型2」のほか、医療機関と連携して退院指導を行ったり、地域医療機関の看護職員の受入れを行う「機能強化型3」が設けられています。
訪問看護の推進に向けた方策の1つとして、「医療機関に勤務する看護職員」が訪問看護ステーションで一定期間勤務し、その経験を医療機関勤務に生かすことに注目が集まっています。例えば、訪問看護ステーションでの勤務で「病棟看護職員が考えているよりも、在宅療養を可能とするハードルは低い」ことが実感でき、これを病棟業務に生かすことで「早期の在宅復帰」が可能になります。こうした点を踏まえ、2018年度の診療報酬改定で「機能強化型3」の訪問看護ステーションが新設されたのです(関連記事はこちら)。
今般の調査では、この「機能強化型3」について次のような状況が分かりました。
▽設置済は19病院で、全体のわずか0.5%にとどまっているが、設置意向のある病院は149(全体の4.1%)で、今後の増加が期待できる
▽設置意向のある病院には、▼200床未満が多い▼医療法人(つまり民間)が多い▼地方都市が多い―という特徴がある
▽設置意向のある病院の機能は、▼急性期や回復期、慢性期等複数の機能をもち、ニーズに幅広く対応する(37.6%)▼急性期病院の後方支援やリハビリテーション機能をもち、在宅復帰をめざす患者に対応する(16.8%)▼主に急性期疾患で入院医療が必要な患者や、比較的軽度な急性期患者に対応する(14.1%)▼長期療養が必要な疾患・障害のある患者に対応する(10.7%)▼主に高度・専門的な入院医療を提供し、重度の急性期疾患に対応する(10.1%)―と幅広い
2019年以降の調査結果に期待が集まります。
看護職員の平均給与、ベテランではアップ、新卒ではダウン
最後に(4)の「看護職員の平均給与」を見ると、次のようになっています。
▼2019年度採用予定の新卒の初任給(諸手当込み)は、大卒で27万1381円(前年度に比べて2473円減)、高卒+3年課程卒で26万3551円(同2490円減)
▼同じく基本給は、大卒で20万6608円(同405円減)、高卒+3年課程卒で19万9894円(同220円減)
▼勤続10年・非管理職の給与(諸手当込み)は32万2111円(同1650円増)、基本給は24万4446円(同710円増)
なお「夜勤」の形態を見ると、二交代制(夜勤1回当たり16時間以上)が最も多く、全体の57.8%(前年から1.3ポイント増)、次いで▼変則を含む三交代制(23.7%、同1.7ポイント減)▼夜勤1回当たり16時間未満の二交代制(14.9%、同0.4ポイント増)―という状況です。
夜勤手当の平均額は、▼二交代制夜勤で1万1019円(前年より20円増)▼三交代制夜勤で5053円(同13円減)▼三交代制準夜勤で4090円(同59円減)―という状況です。
【関連記事】
高度急性期から慢性期のいずれの機能でも、看護人材の育成・確保が大きな課題—日看協
72時間超の夜勤する看護師が多い病院では、離職率も高い—日看協
7割超の病院で看護部長が病院の経営方針策定に参画、500床以上では9割弱―日看協
【2018年度診療報酬改定答申・速報6】がん治療と仕事の両立目指し、治療医と産業医の連携を診療報酬で評価
【2018年度診療報酬改定答申・速報5】在総管と施設総管、通院困難患者への医学管理を上乗せ評価
【2018年度診療報酬改定答申・速報4】医療従事者の負担軽減に向け、医師事務作業補助体制加算を50点引き上げ
【2018年度診療報酬改定答申・速報3】かかりつけ機能持つ医療機関、初診時に80点を加算
【2018年度診療報酬改定答申・速報2】入院サポートセンター等による支援、200点の【入院時支援加算】で評価
【2018年度診療報酬改定答申・速報1】7対1と10対1の中間の入院料、1561点と1491点に設定
ロボット支援手術を、胃がんや肺がん、食道がんなど12術式にも拡大―中医協総会 第384回(1)
2018年度改定、入院料の再編・統合、かかりつけ機能の評価拡充などが柱に―中医協総会 第382回(3)
かかりつけ機能持つ診療所など、初診料の評価アップへ―中医協総会 第382回(2)
7対1・10対1を再編し7つの急性期入院料を新設、重症患者割合が争点―中医協総会 第382回(1)
【2018年度診療報酬改定総点検3】複数医療機関による訪問診療をどこまで認めるべきか
【2018年度診療報酬改定総点検2】ICTの利活用を推進、オンライン診察等の要件はどうなる
【2018年度診療報酬改定総点検1】入院料を再編・統合、診療実績による段階的評価を導入
2018年度改定、年明けからの個別協議に向け各側がスタンスを表明―中医協総会
麻酔科医の術前術後管理の重要性を勘案し、麻酔管理料の評価充実へ―中医協総会 第379回
「専従」要件の弾力運用、非常勤リハビリスタッフの「常勤換算」を認める―中医協総会 第378回
かかりつけ薬剤師の推進目指すが、「かかりつけ」を名乗ることへの批判も―中医協総会 第377回(5)
介護施設を訪問して入所者を看取った場合の医療機関の評価を拡充―中医協総会 第377回(4)
腹膜透析や腎移植、デジタル画像での病理診断などを診療報酬で推進―中医協総会 第377回(3)
療養病棟入院料も再編、20対1看護、医療区分2・3割合50%がベースに―中医協総会 第377回(2)
「入院前」からの外来で行う退院支援、診療報酬で評価―中医協総会 第377回(1)
薬剤9.1%、材料7.0%の価格乖離、診療報酬本体プラス改定も―中医協総会 第376回(3)
退院支援加算2でも、地域連携診療計画加算の算定を可能に―中医協総会 第376回(2)
7対1から療養までの入院料を再編・統合、2018年度は歴史的大改定―中医協総会 第376回(1)
抗菌剤の適正使用推進、地域包括診療料などの算定促進を目指す—第375回 中医協総会(2)
退院支援加算1、「ICT活用した面会」などを弾力的に認める—第375回 中医協総会(1)
安定冠動脈疾患へのPCI、FFR測定などで「機能的虚血」確認を算定要件に—中医協総会374回(1)
地域包括ケア病棟の評価を2分、救命救急1・3でも看護必要度を測定—中医協総会(2)
7対1・10対1基本料を再編・統合し、新たな入院基本料を創設へ―中医協総会(1)
内科などの有床診療所、より柔軟に介護サービス提供可能に―中医協総会(2)
療養病棟入院基本料、2018年度改定で「療養1」に一本化—中医協総会(1)
訪問看護ステーション、さらなる機能強化に向けた報酬見直しを—中医協総会(2)
病院に併設する訪問看護ステーション、手厚く評価をすべきか—中医協総会(1)
診療報酬でも、「同一・隣接建物に住む患者」への訪問で減算などを検討—中医協総会(1)
紹介状なしに外来受診した場合の特別負担、500床未満の病院にも拡大へ—中医協総会(3)
非常勤医師を組み合わせて「常勤」とみなす仕組みを拡大へ—中医協総会(2)
2016年度改定後に一般病院の損益比率は▲4.2%、過去3番目に悪い—中医協総会(1)
保湿剤のヒルドイド、一部に「極めて大量に処方される」ケースも―中医協総会(3)
生活習慣病管理料、エビデンスに基づく診療支援の促進を目指した見直し―中医協総会(2)
ICT機器用いた遠隔診察、対象疾患や要件を絞って慎重に導入を―中医協総会(1)
臓器移植後の長期入院、患者からの「入院料の15%」実費徴収禁止の対象に―中医協総会
要介護者への維持期リハ、介護保険への完全移行「1年延期」へ―中医協総会(2)
回復期リハ病棟のアウトカム評価、次期改定で厳格化すべきか—中医協総会(1)
統合失調症治療薬クロザピン使用促進に向け、精神療養の包括範囲を見直し—中医協総会(2)
向精神薬の処方制限を2018年度改定で強化、薬剤種類数に加え日数も制限へ—中医協総会(1)
医療安全管理部門への「専従医師」配置を診療報酬で評価すべきか―中医協総会(2)
医療体制の体制強化で守れる命がある、妊婦への外来医療など評価充実へ―中医協総会(1)
抗菌薬適正使用に向けた取り組みや医療用麻薬の投与日数をどう考えるか—中医協総会(2)
小児入院医療管理料、がん拠点病院加算と緩和ケア診療加算を出来高評価に—中医協総会
レセプトへの郵便番号記載、症状詳記添付の廃止、Kコードの大幅見直しなど検討—中医協総会
認知症治療病棟でのBPSD対策や入退院支援の在り方などを検討—中医協総会
2018年度から段階的に診療報酬請求事務の効率化や、診療データ活用などを進める—中医協総会
地域包括ケア病棟、「病院の規模」や「7対1の有無」などと関連させた議論に—中医協総会(1)
医療療養2、介護医療院などへの移行に必要な「経過措置」を検討—中医協総会
オンラインでのサービス担当者会議などを可能にし、医療・介護連携の推進を—中医協・介護給付費分科会の意見交換
要介護・維持期リハビリ、介護保険への移行を促すため、診療報酬での評価やめるべきか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
複数医療機関による訪問診療を認めるべきか、患者の状態に応じた在宅医療の報酬をどう考えるか—中医協(1)
かかりつけ薬剤師指導料、対象患者は高齢者や多剤処方患者に絞るべきか—中医協総会(2)
生活習慣病の重症化予防、かかりつけ医と専門医療機関・保険者と医療機関の連携を評価―中医協総会(1)
訪問看護、2018年度同時改定でも事業規模拡大などが論点に―中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
医療機関での看取り前の、関係者間の情報共有などを報酬で評価できないか―中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
7対1・10対1入院基本料、看護配置だけでなくパフォーマンスも評価する報酬体系に―中医協総会(1)
主治医機能に加え、日常生活から在宅までを診る「かかりつけ医機能」を評価へ―中医協総会(1)
2018年度診療報酬改定に向け、臨床現場でのICTやAIの活用をどう考えるか―中医協総会(1)
2018年度改定に向け入院医療の議論も始まる、機能分化に資する入院医療の評価を検討―中医協総会(1)
2018年度改定に向けた議論早くも始まる、第1弾は在宅医療の総論―中医協総会