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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

高度技能獲得目指すC2水準、乱立・分散防ぐため当初限定をどこまですべきか―医師働き方改革推進検討会(2)

2021.9.17.(金)

医師が高度技能獲得を目指す場合、「短期間に多くの症例を集中的に経験する」必要があるため、どうしても長時間労働となってしまうので、「C2水準」として960時間を超える時間外労働が認められる―。

このC2水準について、症例等の分散を防ぐためには、一定程度の「限定」が必要となるが、それを「医師働き方改革」スタートの時点でどこまで求めるべきか―。

9月15日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、検討会)では、こうした点について激論が交わされました。結論は出ておらず、再度「C2水準の在り方」を議論します。

9月15日に開催された「第15回 医師の働き方改革の推進に関する検討会」

C2プログラムが乱立し、症例が分散してしまえば、高度技能獲得に悪影響も

2024年4月から、【医師の働き方改革】がスタートします。

すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制(原則:年間960時間以下(A水準)、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)など:年間1860時間以下)を適用するとともに、一般労働者と比べて「多くの医師が長時間労働に携わらなければならない」状況に鑑みた、追加的健康確保措置(▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されるものです。

医師働き方改革の全体像(中医協総会1 210721)



C水準(研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師などで、長時間の労働を認める)には、▼臨床研修医(医師免許取得から2年以上)、日本専門医機構の専門研修を受ける専攻医を対象とするC1水準▼我が国の医療水準の維持発展に向けて高度な技能を有する医師を育成することが公益上必要な分野において、当該技能を獲得しようとする医師(医師免許取得後6年銘以降)を対象とするC2水準―があります。

後者のC2水準は、例えば「心臓血管治療や脳手術などの高度な技能を身に着けたい、そのためには長時間の労働が必要である」と考えた医師を起点としてスタートします。これまでに次のような大枠が固められてきています(関連記事はこちらこちら)。

◆対象となる「分野」を国・審査組織(別に定める)が予め指定しておく(対象分野が不明確では、医師サイドが申請しにくい)

◆都道府県が「高度技能獲得のために必要な体制・設備を有している」などの要件を満たす医療機関をC2指定する(▼特定機能病院▼臨床研究中核病院▼基本領域の学会が認定する専門研修認定医療機関(基幹型のみ)―などは要件を満たすと考えられ、それ以外でも要件を満たす病院はC2指定を受けることが可能)

◆「高度な技能獲得を目指す医師」が、自ら、主体的に「高度特定技能育成計画」を作成し、その必要性を所属する医療機関(C2指定を受けていなければならない)に申請する

▼申請を受けた医療機関が、計画に必要な業務について審査組織に申請し、承認を受ける

▼この承認によって、当該医師について上記36協定が適用され、協定に基づいた業務を実施できる

C2水準指定フロー(医師個人でなく、医療機関を指定する)(医師働き方改革推進検討会(2)4 210823)



8月23日の前回会合では、「対象となる『分野』を国・審査組織(別に定める)が予め指定しておく」という点に関して、厚生労働省から次のような考え方が示されていました。

▽「我が国の医療水準の維持発展のために必要な診療領域において、高度な技能を有する医師を育成することが公益上特に必要と認められる医療の分野」とは、日本専門医機構の定める19基本領域とする

▽C2水準の対象となりえる技能としては、▼医学研究や医療技術の進歩により新たに登場した、保険未適用の治療・手術技術(先進医療を含む)▼「良質かつ安全な医療を提供し続けるために、個々の医師が独立して実施可能なレベルまで修得・維持しておく必要がある」が、基本領域の専門医取得段階ではそのレベルまで到達することが困難な技能―とする

▽技能の修得にやむを得ず長時間労働が必要となる業務としては、(ア)診療の時間帯を選択できない現場でなければ修得できない(イ)同一の患者を同一の医師が継続して対応しなければ修得できない(ウ)その技能に関する手術・処置等が長時間に及ぶ―の1つ以上に該当するものとする



9月15日の会合では、この対象となる分野・技術について「我が国の医療水準を維持発展していくために必要であるもの」などの限定が追加されました。今村聡委員(日本医師会副会長)や城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「現時点で、これ以上の限定は難しく、最初から完璧な仕組みは作れない。まずスタートさせてみて、事例を集積しながら限定を試みていくべきである」と指摘しますが、一部委員からは「分野の特定が十分になされていないことは、クリティカルな問題につながってくる」との指摘が出ています。

C2水準の大枠(医師働き方改革推進検討会(2)1 210915)



例えば、島崎謙治構成員(国際医療福祉大学大学院教授)は「十分な限定がされておらず、医師サイドから申請がなされた際に、審査組織で却下することが困難になるのではないか。結果、C2水準として動く研修プログラムが乱立し、症例が分散し、将来的に医療・医学の水準が低下してしまうことが懸念される」と指摘。

C2水準の当事者である若手医師の代表とも言える鈴木幸雄構成員(横浜市立大学医学部産婦人科客員研究員)も、「C2水準の対象を絞り切ることが難しいことは理解できるが、多くの地域・医療機関でC2水準として動く研修プログラムが乱立してしまっては好ましくない。症例が集約され、一定範囲の施設で適切な研修を受けられるような仕組みを考えてほしい」と要望。鈴木構成員は「専門医研修では、希少な症例を数多く経験することが資格要件となっているが、研修施設が増え、症例の奪い合いが生じている。どの病院に希少症例、それに対応できる高度技能を集約するかという大きな視点が必要である」とも付言しています。

また高度技能の研修プログラムを提供する側とも言える片岡仁美構成員(岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授)も、「C水準はB水準・連携B水準と異なり、A水準に収束していくものでない。非常に多くのC2申請が行われた場合、どのような視点で審査をしていくのか。地域による限定、技術内容による限定などを、掘り下げていくべきではない」と指摘しました。



こうした指摘に対し、厚労省は「形のないところからC2水準を作り上げていくため、スタート時点で対象分野などをかっちりと固めることは難しい、審査組織で複数の専門家の目で審査し、必要に応じて研修プログラムを公表するなど、運用の中で適正性を担保する形をとりたい」と理解を求めました。

しかし島崎構成員は、「事例を積み重ねる中で限定していくべき点があることはもっともだ」と理解を示したうえで、「症例を分散させてしまってよいのか、集約していく必要があるのか、非常に根本的な点を確認しておく必要がある」とし、C2水準の在り方をさらに議論する必要があると進言。遠藤久夫座長(学習院大学教授)も、これを受け止め「再度、検討会でC2水準の議論を行う」ことを決定しました。

なお、昨年暮れ(2020年12月)の検討会中間とりまとめ、2019年3月の「医師の働き方改革に関する検討会」(今検討会の前身となる検討会)報告書では、C2水準について「高度に専門的な医療を三次医療圏単位またはより広域で提供することにより、我が国の医療水準の維持発展を図る必要がある分野であって、そのための技能を一定の期間、集中的に修練する必要がある分野を想定している」とされています。

島崎構成員は「三次医療圏(つまり都道府県)や、より広域を対象とした高度技能が想定されている点を再度振り返り、より重く踏まえるべきである」旨も付言しています。





ところで、「症例の集約化」という視点は「医療の質を確保する」と言う面でも非常に重要です。Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンと、米国有数の病院であるメイヨークリニックとの共同研究では、「症例数」と「医療の質」との間には負の相関がある、つまり「症例数が一定以上あれば、医療の質が担保され、向上する。一方、症例数が少ない病院では医療の質が十分でない」ことが明らかとなっています。

人工膝関節置換術における症例数と術後合併症の関係



高度技能要件の中に「保険未適用の治療・手術技術(先進医療を含む)」とあり、ここに「医療安全の確保」が極めて重要であることは、過去の痛ましい事例を通じて、強く認識されています。

こうした「医療安全の確保」は、高度技能を獲得していく過程でも極めて重要な視点です。また、「プログラムが増加して症例が分散し、医師1人1人の経験症例数が少なくなる」ことにより、習得できる技能の水準や習得までの時間にも影響が出てくることを懸念する識者も少なくありません。今後のC2水準論議の行方に注目する必要があります。



なお、9月15日の検討会では、▼追加的健康確保措置(勤務間インターバル、連続勤務時間制限、代償休息など)▼国による医師の働き方改革支援―についても確認。その中で島崎委員は「医師の働き方改革は全く初めての仕組みであり、逐条解説などを行うべき」と進言厚労省も、この意見を踏まえて詳しい「Q&A」など(実質的な逐条解説と言える)を作成し、ホームページ等で公開していく考えを明らかにしています。



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