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医師働き方改革に向け「副業・兼業先も含めた労働状況」の把握をまず進めよ―医師働き方改革推進検討会(2)

2021.7.5.(月)

最新の調査によれば、大学病院勤務医では、副業・兼業先病院での業務内容が薄いことから、宿日直許可を得ることができれば、時間外労働が1860時間以内に抑えられるケースが多くなる。しかし、大学病院においても「自院の勤務医の副業・兼業先病院」が宿日直許可を得ているかどうかを把握していないことなどが明らかとなった―。

このため、医師の働き方改革を進めるには、まず「副業・兼業先病院も含めた勤務医の労働状況」を、併せて「副業・兼業先病院が宿日直許可を得ているか」などを把握する必要がある―。

7月1日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、検討会)では、こういった議論も行われています。

7月1日に開催された「第12回 医師の働き方改革の推進に関する検討会」

大学病院による「副業・兼業先病院での宿日直許可」への支援なども重要

2024年4月から、すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制が適用されます。原則として「年間960時間以下」が上限となりますが【いわゆるA水準】、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関【いわゆるB水準】や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師【いわゆるC水準】などでは、「年間1860時間以下」までに上限が緩和されます。ただし、一般労働者と比べて「多くの医師が長時間労働に携わらなければならない」状況そのものは変わっておらず、医療機関の管理者(院長等)には、▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―といった追加的健康確保措置を講じる義務が課されます【医師の働き方改革】



そうした中で、「医師の働き方改革によって、大学病院が『地域の病院に派遣等している医師』を引き揚げるのではないか」との懸念があります。時間外労働の時間は当然「通算」されることから、「時間外労働の多い勤務医について、『自院(大学病院)の勤務を優先』させ、『副業・兼業先病院(地域医療機関)での勤務を劣後』(引き揚げ)させるのではないか」との懸念です。

医師働き方改革では、「勤務医の健康・生命を確保」と「地域医療の確保」とを両立させることが重要であり、厚労省は厚生労働科学研究の一環として「医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査」を実施。昨年(2020年)末には「2つの大学病院」を対象にした調査研究結果を公表し、▼大学病院による「地域医療機関からの医師の引き上げ」が第1選択となるケースは極めて稀である▼大学病院・診療科・地域によって勤務医の労働状況はさまざまであり、まず実態把握を詳細に行ったうえで、関係者による「地域の各医療機関の機能分化推進」などに関する議論を早急に進める必要がある―ことなどが分かりました(関連記事はこちらこちら)。

さらに今般、調査対象を「10の大学病院」に増やした「医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査」が行われ、次のような結果が裵英洙参考人(慶應義塾大学健康マネジメント研究科特任教授)から報告されました。

▽副業・兼業先病院での「待機時間」を含めると、相当程度の大学病院勤務医において、時間外労働が1860時間超となってしまう(23.2%が1860時間超過、(左上の青いプロット図、および下段「上」の棒グラフ)

▽副業・兼業先病院での「待機時間」を除外すると、時間外労働が1860時間超となってしまう勤務医は大幅に減る(10.4%が1860時間超過、右上の緑色のプロット図、および下段「下」の棒グラフ)

副業・兼業先での待機時間を含めた労働時間を見ると186時間超が相当程度いる(左上の青いプロット図、および下段「上」の棒グラフ)が、副業・兼業先での待機時間を除外すると1860時間超は大幅に減る(右上の緑色のプロット図、および下段「下」の棒グラフ)(医師働き方改革推進検討会(2)1 210701)



▽宿日直中の業務内容を「大学病院」と「副業・兼業先病院」とで比べると、「副業・兼業先病院」において「待機時間」が多い(診療業務などは比較的少ない)

副業・兼業先では、大学病院に比べて「待機時間」(桃色の部分)が多い(医師働き方改革推進検討会(2)2 210701)



こうした点を踏まえて検討会構成員からは「副業・兼業先病院において宿日直許可を得ることができれば、副業・兼業先病院での待機時間が労働時間から除外され、勤務医の時間外労働を1860時間以内に抑えやすくなるのではないか」との声が出ています。

ただし、調査研究では「ほとんどの診療科が副業・兼業先の宿日直許可の取得状況の把握はできていなかった」ことも明らかになりました。これは、大学病院サイドが「自院の勤務医が、副業・兼業先病院でどういった労働をどの程度の時間行っているのか」を把握できてないこととイコールと言えます。裵参考人は「まず勤務医の労働状況を正確に把握することが、極めて重要かつ喫緊の課題である」と強調しています。この点、すでにお伝えしたとおり厚労省は「今年度(2021年度)に全医療機関を対象に、勤務医の労働実態を把握しているかなどの状況調査を行う」こととしており、その結果も踏まえたテコ入れ(医療勤務環境改善センターによる支援など)に期待が集まります。

一昨年(2019年)7月には、厚生労働省が通知「医師、看護師等の宿日直許可基準について」を示し、宿日直許可基準の明確化(医師・看護師等の宿日直は、「通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のもの」で、「特殊の措置を必要としない軽度または短時間の業務」実施のみを行う場合に限って認められるなど)を行いました(関連記事はこちらこちら)。馬場武彦構成員(社会医療法人ペガサス理事長)は「多くの病院が宿日直許可を得られるよう、制度の周知や支援に力を入れる必要がある」と指摘しています。大学病院サイドも副業・兼業先病院に対して「基準を満たせば宿日直許可が得られ、待機時間などは労働時間から除外できる」旨を説明し、必要な支援を行っていくことが、「自院の医療提供体制を確保する」ためにも重要となってきます。

なお、鈴木幸雄構成員(横浜市立大学医学部産婦人科客員研究員)は、「副業・兼業先病院での待機時間に、大学病院での残務を処理している実態があることを承知しておいてほしい」と要望しました。いわゆる「持ち帰り残業」であり、そもそも「大学病院での労働時間にカウントすべき」ものです。より適切な論無管理徹底が求められます。

医師の副業・兼業で「長時間の移動」が健康に悪影響を及ぼす点をどう考慮していくか

また、今般の調査研究では、「医師の労働時間」と「地域の医師偏在指標」との関係も調べられました。「医師少数の地域」においては、1人1日の医師の労働時間が長くなるのではないか、との仮説に基づく調査です。

この点、「明確な関係は見いだせなかった」のですが、片岡仁美構成員(岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授)から「他県などへの派遣によるものではないか。追加調査を検討すべき」との指摘がなされています。例えば、医師多数(X県)にあるX大学病院から、医師少数(Y県)のY病院への派遣が多数なされていれば、医師多数の地域に勤務する医師であっても「副業・兼業先病院での労働時間が長く」なり、結果として「医師の労働時間」と「地域の医師偏在指標」との関係が見えてこない可能性があるのです。今後の追加調査に期待が集まります。

また関連して、多くの構成員から「移動時間をどのように考慮していくか」という論点が提示されました。移動時間は労働時間には含まれません。しかし、例えば「他県の関連病院にアルバイトに行く」ケースなどでは、移動時間が長くなり、中には「副業・兼業先病院で夜勤を終え、その足で自動車を長時間運転して大学病院に戻り、勤務に就く」といった事例もあり得ます。こうした場合に「移動時間は労働時間に含まれないので、関知しない」となったのでは、勤務医の健康・生命を確保することが極めて困難になります。今般の調査では「1週間の平均移動時間が13時間に及ぶ」ケースもあり、何らかの対策(例えば、今後詳細wを検討する「追加的健康確保措置」の中で特別の勘案を行うなど)が必要でしょう。

医師働き方改革に向けて、「救急医療の集約」や「若手医師への情報発信」も重要

こうした調査研究結果を踏まえて、裵参考人は例えば次のような提言も行っています。

(1)「現状の労働時間の適切な把握」が1丁目1番地であり、まず勤務実態把握に早期に取り組む必要がある

(2)「チーム制の導入」「休日出勤は原則当直医のみとする」などの取り組みによって労働時間が短縮された診療科もあり、横展開を検討するべきである

(3)医師の労働時間短縮のためには「医療を受ける側も認識を変える」必要がある

(4)医師の労働時間短縮のためには、▼救急医療提供体制の集約化▼各医療機関の役割の明確化—など、地域の医療提供体制についてもあわせて検討する必要がある



このうち(1)の「勤務実態把握」を早急に進めるため、裵参考人は「医師の勤務実態把握マニュアル」を作成・公表しました。このツールを活用して勤務実態を把握し、まず、今年度(2021年度)に行われる全病院を対象とした調査に自信を持って臨み、併せて「医師労働時間短縮計画」の作成に進むことが必要です。

まず「勤務医の勤務実態」について自院はもちろん、副業・兼業先を含めて把握することが極めて重要である(医師働き方改革推進検討会(2)3 210701)



また(4)の「救急医療提供体制の集約化」などについて、岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)は「全く同感である」と強調しました。救急医療を提供する医療機関が分散していれば、少ない医師が常に「応需体制」を整えておかなければなりませんが、集約化を進めることでローテーションも組みやすくなり、1人1人の医師の負担を減らすことが可能になると期待されます。今後の「医療提供体制改革」の重要論点であり、「医師働き方改革」「地域医療構想の実現」「医師偏在の解消」を三位一体で進めていくことの重要性を再確認できます。





なお、医師働き方改革を進めるためには「現場の勤務医が、正しい情報を持ち、意識を変える」ことも重要です。医師働き方改革のターゲットとなる勤務医の多くは、極めて多忙であり「複雑な医師働き方改革に向けた議論の状況」などについて正しい情報を持っていないケースもあります。

このため、厚労省は検討会の下部に、若手勤務医も参画する「勤務医に対する情報発信に関する作業部会」を設置し、「若手の勤務医に向けた情報提供」を行っていく考えも示しました。

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