診療放射線技師・臨床検査技師・臨床工学技士・救急救命士が実施可能な医行為の幅を拡大―医師働き方改革タスクシフト推進検討会
2020.12.14.(月)
医師の働き方改革で重要となる「タスク・シフティング」に向けて、▼診療放射線技師▼臨床検査技師▼臨床工学技士▼救急救命士―が実施可能な医行為の幅を広げる法令改正を行う—。
12月11日に開催された「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった方針が了承されました。4職種の資格法改正案が、「医師働き方改革関連法案」の一部として次期通常国会へ提出される見込みです。
4職種の資格法を改正し、一定の医行為を医師から移管可能とする環境を整える
これを実現するためには、すべての医療機関で「労務管理の徹底」(いわゆる36協定の適切な締結など)や「タスク・シフティング等による労働時間そのものの短縮」などを進めていくことが強く求められます。
検討会では、後者のタスク・シフティング(医師から多職種への業務移管)を進めるために、「医師が実施している業務・行為のどの部分を、どの職種に移管可能か」「移管する場合には安全性等が最優先となるが、それを担保するためにどういった研修等が必要となるか」という視点で議論を続け、今般、取りまとめにいたったものです(途中、新型コロナウイルス感染症の影響で10か月ほど議論が中断)。
具体的には、▼要件1「資格付随業務」(原則として各資格法の資格定義とそれに付随する行為の範囲内であること)▼要件2「技術隣接業務」(その職種が担っていた従来の業務の技術的基盤の上にある隣接業務であること)▼要件3「安全性の担保」(教育カリキュラムや卒後研修などによって安全性を担保できること)―の3要件に照らして、「移管可能な業務・行為」と「移管先の職種」を選別。その結果、次の4職種に、一定の医行為実施を可能とする(医師からのタスク・シフティングを可能とする)法令改正を行うこととなりました。
ここで留意すべきは、これらの行為(医行為)を「必ず技師等に行わせなければならない」わけではなく、「技師等に移管できるような環境を整える」ものであるという点です。実際に当該業務・行為を技師等に行わせるか否かは、各医療機関で判断することになります。
【診療放射線技師】
〇造影剤を使用した検査・RI検査(放射性医薬品を用いる検査)のための静脈路確保
〇RI検査医薬品を注入するための装置接続と操作
〇RI検査医薬品投与終了後の抜針・止血
▽動脈路への造影剤注入装置接続(動脈路確保のためのものを除く)と操作
▽下部消化管検査(CTコロノグラフィ検査を含む)のための注入した造影剤・空気の吸引
▽上部消化管検査のために挿入した鼻腔カテーテルからの造影剤注入、造影剤投与終了後に鼻腔カテーテル抜去
〇医師・歯科医師が診察した患者に対する、その医師等の指示に基づく、医療機関以外の場所に出張して行う超音波検査
【臨床検査技師】
〇採血に伴う静脈路確保と、電解質輸液(ヘパリン加生理食塩水を含む)への接続
▽直腸肛門機能検査(バルーンおよびトランスデューサーの挿入(バルーンへの空気注入を含む)・抜去を含む)
▽持続皮下グルコース検査(検査のための機器装着・脱着を含む)
▽運動誘発電位検査・体性感覚誘発電位検査に係る電極(針電極を含む)の装着・脱着
▽検査のための経口・経鼻・気管カニューレ内部からの喀痰吸引採取
▽消化管内視鏡検査・治療における、医師立会いの下でも、生検鉗子を用いた消化管からの組織検体採取
〇静脈路を確保し、成分採血のための装置接続と操作、終了後の抜針・止血
〇超音波検査に関連する行為としての静脈路確保、造影剤接続・注入、造影剤投与終了後の抜針・止血
【臨床工学技士】
〇手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療における▼静脈路確保と装置や輸液ポンプ・シリンジポンプとの接続▼輸液ポンプ・シリンジポンプを用いた薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る)投与▼当該装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続された静脈路の抜針・止血―
▽血液浄化装置の穿刺針その他の先端部の動脈表在化・静脈への接続、動脈表在化・静脈からの除去
〇心・血管カテーテル治療における生命維持管理装置を使用して行う治療に関連する業務として、身体に電気的負荷を与えるための当該負荷装置操作
〇手術室での鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持、術野視野を確保するための内視鏡用ビデオカメラ操作
【救急救命士】
〇現行法における「医療機関に搬送されるまでの間(病院前)に重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置」の、救急外来(救急診療を要する傷病者が来院してから入院(病棟)に移行するまで(入院しない場合は帰宅するまで)に必要な診察・検査・処置等を提供される場)での実施
救急救命士が医療機関で一定の医行為を実施することに強く反対する意見も一部ありますが、医療現場で医師の負担を軽減するために必要なものとして、これらの考え方は了承されています。
「〇」の業務・行為を当該職種に実施可能とするためには法律改正が必要となります(「▽」の行為は政省令改正で実施可能)。このため厚労省は、来年の通常国会へ「医師の働き方改革関連法案」として、医療法などとともに4職種の資格法改正案を提出する考えです。
ただし、法律改正がゴールではなく、またタスク・シフティングがゴールでもありません。ゴールは「医療の質を確保したうえで、勤務医の負担を軽減する」ところにあります。このため、裵英洙構成員(慶應義塾大学健康マネジメント研究科特任教授)は、▼医療の質の確保▼医師の労働時間短縮効果▼タスク・シフティングされた側(4職種)の労働時間(増加しないか否か)―の3つを指標に、事後のモニタリング等を行うことを提案。永井良三座長((自治医科大学学長)も「患者のメリットを含め、さまざまなデータを見て、今後の議論につなげていく必要がある」との考えを示しました。これを受けて厚生労働省も様々な機会をとらえたフォローアップを行う考えを明示しています。
また権丈善一構成員(慶應義塾大学大学院商学部教授)は「国民への丁寧な周知」が重要であると強調します。これまで医師が行ってきた業務・行為が多職種に移管された場合、患者・家族サイドに何らの説明がなければ不安を感じるケースもあるでしょう。この不安が「医療機関へのクレーム」となる可能性も否定できず、そうなればタスク・シフティングは実際には進んでいきません。制度的対応はもちろん、各医療現場においても十分かつ丁寧な説明が行われることが求められます。
なお、上述のとおり安全性確保のために、4職種には「一定の研修」等が必要となるケースが出てきます。その詳細については、改正法案の成立を待って進められることとなるでしょう。
医療機関トップや各専門職の「タスク・シフティングに向けた意識改革」が重要
このほか、▼患者への説明と同意の取得▼各種書類の下書きや仮作成▼患者の誘導▼各職種に既に認められている行為(例えば研修を受けた看護師による特定行為など)の推進―なども、併せて進めていくことを検討会では確認しています。
さらに、医師や医療機関の管理者(院長など)が「タスク・シフティングを進めていこう」と意識改革をすることも重要です。専門職種は「この業務は我々が行うものである。我々のテリトリーである」という意識・考えに縛られ、自らの業務を他職種に任せることに非常に後ろ向きです。このために「既に各職種に認められている行為」の実施が進まず、また検討会での議論も長引きました。
冒頭に述べた「医師の働き方改革」では、いわゆるB水準医療機関等には「勤務医の労働時間短縮に向けた取り組みの推進」が求められており、「労働時間短縮に消極的である」と判断された場合にはB水準指定が適わない可能性もあります。今から「意識改革」を行っていくことが重要でしょう。
さらに検討会ではタスク・シフティング推進に向けて、「全国の好事例」を横展開とするとともに、「失敗事例の共有」なども行っていくことを確認しています。
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