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診療報酬改定セミナー2024 看護必要度シミュレーションリリース

地域医療確保のために「積極的に医師派遣を行う」病院、新たにB水準指定対象に―医師働き方改革推進検討会(1)

2020.10.1.(木)

「本務先で960時間以下+副業先で960時間以下」(つまりA水準+A水準)という勤務形態で、合計の時間外労働が960時間を超える医師が少なからずいる。こうした勤務医が地域医療を支えている実態に鑑みて、新たな「B水準指定の類型」を設けることとしてはどうか―。

地域医療確保のために積極的に医師派遣を行う大学病院や地域医療支援病院などが対象として考えられ、この場合、医師労働時間短縮計画には「自院の労働時間短縮」だけでなく、「副業先に対する労働時間短縮要請」などの記載も求めることとしてはどうか―。

9月30日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、今検討会)で、こういった方向が概ね了承されました。

9月30日に開催された、「第9回 医師の働き方改革の推進に関する検討会」(新型コロウイルス感染症対策として一部委員はオンライン出席)

「本務先で960時間以下+副業先で960時間以下」(A水準+A水準)という勤務形態

2024年4月から、すべての勤務医に新たな時間外労働の上限規制が適用されます。原則として「年間960時間以下」が上限となりますが【いわゆるA水準】、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関【いわゆるB水準】や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師【いわゆるC水準】では、「年間1860時間以下」までに上限が緩和されます。ただし、一般労働者と比べて「多くの医師が長時間労働に携わらなければならない」状況そのものは変わっておらず、医療機関の管理者(院長等)には、▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―といった追加的健康確保措置を講じる義務が課されます【医師の働き方改革】

このうちB水準医療機関には、これまでに▼3次救急▼年間1000台以上の救急車受け入れ等を行う2次救急▼在宅医療において特に積極的な役割を担う医療機関▼精神科救急▼小児救急▼へき地で中核的な役割を果たす医療機関▼高度のがん治療等を行う医療機関―などが例示されています。当該医療機関のみの業務で「960時間を超える超時間の時間外労働となる」と考えられるためです。

ところで、研究班や厚生労働省の調査によれば、少なからぬ勤務医で「本務先で960時間以下+副業先で960時間以下」という勤務実態のあることが明らかにされてきています(病院全体では10.2%、大学病院では23.3%)。この場合、労働時間は当然「通算」されるために「960時間を超える長時間の時間外労働」となりますが、いずれの勤務先でも「960時間以下」(つまりA水準+A水準)となることから、制度的にどう取り扱うかという問題が浮上しているのです(関連記事はこちら)。

自院の時間外労働は960時間以下だが、副業先を合計すると960時間超となる勤務医が少なからず存在する(医師働き方改革推進検討会(1)2 200930)



何等の手当ても講じなければ、「B水準とならないために、当該勤務医は960時間を超える時間外労働を行うことはできない」こととなります。しかしこれでは、本務先が「自院の医療提供体制に支障が生じるため、副業を禁ずる(派遣医師を引き揚げる)」という対応を図り、地域医療提供体制が崩壊してしまう可能性もあります。

そこで厚労省は、9月30日の今検討会に「医師の派遣を通じて、地域の医療提供体制を確保するために必要な役割を担う医療機関」をB水準対象に追加してはどうかとの提案を行いました。例えば「地域医療確保のために積極的に医師派遣を行う大学病院や地域医療支援病院など」を、前年度の医師派遣実績などから都道府県でピックアップするイメージです(派遣実績等が重要であり、大学病院や地域医療支援が自動的に本類型でB水準指定されるものではない)。

B水準に新類型を追加(赤字部分)(医師働き方改革推進検討会(1)3 200930)

新類型のみでのB水準指定の場合、「個々の医療機関での時間外労働」は960時間まで

もっとも、上述の「当該病院のみの勤務で960時間を超える時間外労働となる医療機関」とは状況が異なる」ことから次のような点で、通常のB水準と異なる仕組みが設けられることになりそうです。

(1)本類型のみでB水準に指定された場合には、個々の医療機関での時間外労働は「960時間まで」とする

(2)医師勤務時間短縮計画(B水準指定の要件の1つ)には、「自院での労働時間短縮」のみならず、「副業先に対する労働時間短縮の要請」などの記載を求める



まず(1)ですが、もともと「本務先で960時間以下+副業先で960時間以下」(つまりA水準+A水準)という勤務形態であったところ、本類型への指定のみをもって「個々の医療機関で960時間を超える時間外労働(つまり労働強化)を認めることはできない」という考えに基づくものです。派遣元の大学病院等において「960時間を超える時間外労働」を行うためには、本類型とは別に、上述の「通常のB水準指定」を受けることが必要となり、今検討会構成員はこの考え方を了承しています。

ただしその際、病院の中には、「当該病院のみの勤務で960時間を超える時間外労働を行う勤務医」と「自院での時間外労働は960時間以内だが、副業先と合わせて960時間を超える時間外労働となる勤務医」とが混在することになります。この場合、当該病院では「通常のB水準」と「新たな類型のB水準」の両方の指定を受けることになるのかが気になりますが、厚労省は「制度の目的や趣旨、法的な効果、現場負担(手続き上の負担)などを総合的に考慮していく」と述べるにとどめており、今後の具体的な制度設計を待つ必要があります。

勤務医の労働時間短縮は、自院だけでは実現できず、派遣先も巻き込んで実現を

また(2)は、勤務医の労働時間短縮は「個別病院での努力には限界がある」点を踏まえた仕組みと言えます。本務先(大学病院や医師派遣を行う地域医療支援病院)と副業先(派遣を受ける医療機関)とが協力して、「当該勤務医の労働時間を960時間以内に収めるための方策」を検討していくことが求められることから、本務先に対して、副業先に「時間短縮に協力してほしい」と要請することを求めるものです。この要請に協力しない(例えば話し合いに応じない)副業先については「派遣を行わない」という厳しい措置が行われる事態も出てくることでしょう。

ただし、この点については、「副業策が3つ、4つとなる医師も少なくない。そうした場合には、本務先が『調整が面倒』となり、派遣を引き揚げるような事態が生じるのではないか」(今村聡構成員:日本医師会副会長)、「勤務医が自身の使命感で副業を行うケースも少なくないが、本務先がそれを禁じるような動きをすることが心配される」(鈴木幸雄構成員:横浜市立大学産婦人科・横浜市医療局)といった懸念が出ています。

勤務医の副業状況(医師働き方改革推進検討会(1)1 200930)



こうした懸念を払拭するために、例えば「地域の医療関係者が膝を突き合わせて、医師の勤務時間短縮に向けた議論・調整を行う検討の場」設置などの工夫が期待されます。城守国斗構成員(日本医師会常任理事)は「地域医療構想の実現に向けた検討の場として『地域医療構想調整会議』が、医師偏在是正・医師確保に向けた検討の場として『地域医療対策協議会』が設置されており、医師の働き方改革について検討する場をどこにするのか明示することで地域医療関係者の安心が得られる」と期待を寄せています。

また厚労省では、本類型でのB水準指定は「本務先(X病院)」単位で行い、「本務先(X病院)+副業先・派遣先(Y病院、Z病院)」というセットでの指定は行わない考えも示しています。後者の指定方法では「特定の医療機関を狙い撃ちしてB水準指定を行わない」という事態が生じかねないためです。



このように制度の詳細については「詰めるべき課題」があるものの、「本務先で960時間以下+副業先で960時間以下」(A水準+A水準)という形でB水準指定を行う制度的枠組みは概ね了承されました。今後示される「仕組みの詳細」に注目が集まります。



なお、医師働き方改革については政府・医療機関・医師・国民という関係者全員で協力していくことが必要となります。こうした点について、各関係者がどういった行動をとるべき科、その推奨事項などを整理した「厚生労働大臣指針」の策定に向けた議論なども行われており、別稿でお伝えいたします。

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