医師時短計画作成は努力義務だが「B水準等指定の前提」な点に変化なし、急ぎの作成・提出を―医師働き方改革推進検討会(1)
2021.7.2.(金)
医師働き方改革では、各病院において「勤務医の労働時間などを把握する」→「医師労働時間短縮計画を作成し、都道府県に提出し、評価を受ける」ことがまず重要である。この点、「改正医療法」案作成の際に、技術的観点から「2023年度末までの時短計画作成義務」が「努力義務」となっている―。
ただし、B水準等指定の前提が「時短計画の作成・提出・評価」である点に変わりはなく、時間外労働が960時間を超える医師がいる病院では、急ぎ時短計画の作成に取り組む必要がある―。
円滑な作成に向けて、厚労省は時短計画の「雛形」や「作成例」を提示しているので、これらを参考にすることが望ましい―。
7月1日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。
検討会では「医師の働き方改革の地域医療への 影響に関する調査」も報告されています。そこでは、大学病院勤務医について「副業先の病院で『宿日直許可』を得ることができれば、時間外労働上限をクリアしやすくなる」ことなどが明確となっています。「大学病院サイドでも、勤務医の副業先が『宿日直許可』を得られるような取り組みを行う」ことが非常に重要です。この点については別稿で詳しく報じます。
目次
2023年度末までの「時短計画作成」は、「義務」から「努力義務」へ変更
検討会では、こうした「医師の働き方改革」の制度化(法令等の規定整備)に向けて▼B・C水準の対象医療機関や指定の枠組み▼追加的健康確保措置の内容と実施確保―などを検討し、過日、「改正医療法」((良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための 医療法等の一部を改正する法律)として成立しました(関連記事はこちら)。これを受け、検討会では今後、医師働き方改革の2024年4月実施に向けた準備を本格的に進めることになります。具体的には、▼働き方改革が地域医療に及ぼす影響を踏まえた対応▼医師労働時間短縮計画の作成支援▼追加的健康確保措置の詳細▼大臣指針(2021年4月)の策定―などの詳細を詰めていきます。
「医師の働き方改革」は次のような枠組みで推進されます。
(1)各医療機関で勤務医の労働時間短縮を進め、「時間外・休日の労働時間合計が年間960時間以内」とすることを目指す
↓
(2)労働時間短縮を徹底してもなお「960時間を超える時間外労働が必要な勤務医」がいる場合にB水準指定等を受ける(前提として「医師労働時間短縮計画」を作成し評価を受けなければならない)
↓
(3)長時間労働は勤務医の健康を損ねる可能性があることから、健康確保措置をあわせて実施する
このため、まず各医療機関において勤務医の勤務状況を把握し、960時間超の時間外労働をする医師がいる医療機関では「医師労働時間短縮計画」を作成することが何よりも重要となります(別稿で述べるが、とりわけ「勤務状況の把握」が極めて重要)。
「医師労働時間短縮計画」については、これまで「時間外労働が960時間超となる勤務医がいる医療機関」すべてについて2023年度末までの作成を「義務づける」方向で検討が進められてきました。2023年度末までに計画を作成し、評価を受けていなければ、B水準等の指定がなされない(この場合、2024年度から勤務医すべてで960時間までの時間外労働しか認められなくなる)ためです。
しかし法案作成段階で、「『時間外労働が960時間超となる勤務医がいる医療機関』すべてに義務化することは法技術的に困難である』と判断され、次のような見直しが行われています。
●時間外・休日労働が年960時間を超える医師が勤務する医療機関では、「医師労働時間短縮計画」(時短計画)の作成を努力義務とする(検討段階では義務)
●時短計画の都道府県への提出は任意とする(検討段階では義務)
●B水準指定等を受ける医療機関は、時短計画の「内容」について医療機関勤務環境評価センター(いわゆる評価機能、以後「評価センター」と本稿では呼ぶ)の評価を受ける(検討段階では「取り組み状況」の評価であった)
時短計画が「努力義務」となっても、「早期に作成し、提出すべき」点に変わりはない
B水準指定等を目指す医療機関では、2023年度末までに「時短計画の評価」を受けなければなりません。このため、大きな違いとしては「現在は960時間を超える時間外労働をする勤務医がいるが、2023年度末までに『すべて960時間以内に収められる』病院では、時短計画を作成せず、別の取り組みによることも可能となった」点があげられるでしょう。ただし、2023年度末が迫ってきた段階になって「残念だが960時間以内に収めることができない」などと判明し、その時点で時短計画を作成・提出したとしても、▼評価センターや都道府県による評価が間に合わない(評価センターも都道府県も多忙であり、キャパシティが当然決まっている)→▼B水準指定を2024年4月当初から受けられない―事態に陥る可能性があります。この場合には「960時間超の時間外労働を行う」ことは一切認められなくなる点に最大限の留意が必要です。「960時間以内に収めることができない」事態を想定し、時短計画の作成を進めておくべきでしょう。
この点、検討会構成員からは「義務化が、努力義務化となった」ことについて、「B水準等指定に間に合わない」という事態が生じないような支援を国・都道府県に求める声が相次ぎました。「努力義務」となったことで、「あとで作成すれば良い」と気の緩みが生じることを懸念するものです。評価・審査を行う都道府県代表として出席する家保英隆構成員(高知県健康政策部長)は「期限間際に申請が殺到すれば、評価・審査が困難になる。一定の要件に該当する病院(例えば、960時間超の勤務医が多数在籍する、兼業・副業を行う勤務医が多数在籍する、救急医療等を担っているなど)に対しては、早めに時短計画の作成・提出などに取り組むよう促してほしい」と強く要望しています。
別稿で述べるとおり、大学病院でも「自院の勤務医が、副業先・兼業先でどういった勤務状況にあるのか」「副業先・兼業先の医療機関が宿日直許可を得ているのか」などを把握していない状況も明らかになっています。
「自院での勤務状況」をしっかり把握し、「960時間超の時間外労働を行う勤務医はいない」病院であっても、副業先・兼業先の労働時間を加味すれば「時間外労働が960時間を超えている」勤務医が存在する可能性があります。
「副業先・兼業先を含めて、間違いなくすべての勤務医が960時間以内の時間外労働となっている」かつ「仮に960時間を超える勤務医がいることが後に判明したとして、当該勤務医の時間外労働を960時間以内に収めることができ、それでもなお医療提供に問題が生じない」という非常に厳しい要件を間違いなくクリアできる病院以外は、早期に「時短計画作成」に取り組む必要があるでしょう。
このため、「時短計画を作成し、評価を受ける」べき病院(数はもちろん、対象も)は、検討段階とほとんど変わらないと推測されます。厚労省は「従前と同様のスケジュールで、評価センターが個別医療機関の時短計画等について書面評価・訪問審査を行うことになるであろう」と見ています(ただし、評価センターの評価が「取り組み状況」から「内容」に変更となったため、訪問審査の件数は少なくなる可能性がある)。言葉を選ばずに端的に述べれば、「ゆっくりしてはいられない」ということです。
【B水準等指定の流れ(イメージ)】
●B水準指定等を希望する医療機関が「時短計画」を作成する
↓
●評価センターで時短計画の「書面審査」を行う
↓
●書面審査結果が芳しくない医療機関では、評価センターが訪問審査を行い、改善状況などを確認する
↓
●「労働時間短縮にしっかり取り組んでいる」が、それでもなお「960時間超の時間外労働が必要となってしまう」と評価される医療機関についてB水準等の指定を行う
↓
●指定期間は3年間有効であり、3年毎に再審査を受ける
こうした点も踏まえて、厚労省では、すべての病院を対象に「労働時間把握がどれだけ進んでいるのか」を、本年度(2021年度)に調査します。調査の結果、「労働時間把握が進んでいない」と判断された病院については、各都道府県の医療勤務環境改善センター(勤改センター)に報告され、そこから「労働時間把握をまず進めよ」「貴院では時間外労働960時間超の勤務医が発生すると思われ、時短計画の作成を進めるべきである」などの支援等が行われます。
さらに、2022年度の次期診療報酬に向けて「時短計画作成などを支援する診療報酬上の評価」が検討される可能性もあります。この点については、今後の中央社会保険医療協議会論議を注視する必要があります。
各病院で「時短計画」作成が円滑に進むよう、厚労省が「雛形」や「作成例」を提示
こうした見直し(法案作成段階における見直し)も踏まえて、厚労省は「時短計画」作成に向けたガイドラインを改訂するとともに、「時短計画」の雛形・作成事例を公表しました。
時短計画は、▼共通記載事項(従前は「必須記載事項」と呼んでいた)▼項目ごとに任意の取り組みを記載する事項(従前は「任意記載事項」と呼んでいた)—の2本柱で作成します。
「共通記載事項」は、▼労働時間数(960時間超、1860時間超の時間外労働を行っている医師の数や割合など)▼労務管理・健康管理(管理方法や追加的健康確保措置の実施状況など)▼意識改革・啓発—などです。
また「項目ごとに任意の取り組みを記載する事項」としては、▼タスク・シフト/シェア▼医師業務内容の見直し▼その他の勤務環境改善(ICT活用など)▼副業・兼業を行う医師の労働時間管理▼研修医・専攻医の研修効率化—などです。従前は「任意記載事項」との名称でしたが、「作成・記載が任意である」(記載しなくてもよい)と誤解される恐れがあり、名称が修正されました。各病院で取り組み内容が異なるため、それぞれの病院での取り組み内容を記載することが求められます(例えば、A病院では「タスク・シフトについて、特定行為研修を受講する看護師を●名以上に増加させる」取り組みを、B病院では「その他の勤務環境改善に向けて、音声入力システムでカルテ作成を補助している」取り組みを行っていれば、それぞれを記載する)。
さらに厚労省は、「2023年度末までの努力義務期間用の作成例」(いわばB水準等の初指定に向けた時短計画作成例)と「2024年度の義務化された場合の作成例」とを分けて提示しています。
各病院において、このガイドラインや雛形・作成例などを「参考」にして、「自院の時短計画」を急ぎ作成していくことになります。
城守国斗構成員(日本医師会常任理事)は「初めての作成ゆえ、わからない部分も多いと思う。その際には適切に相談に応じるような支援体制を十分に敷いてほしい」と、また馬場武彦構成員(社会医療法人ペガサス理事長)は「多くの病院では宿日直許可について理解が不十分と思われる。宿日直許可を得られる状況にも関わらず、申請もしていない病院も少なくない。例えば『夜間の勤務医を増員し、個々の医師の負担を減らせば宿日直許可が得られる』ケースもあると思う。そうし情報も提示してほしい」といった要望を行っています。
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