B水準等指定の前提となる「労務環境等の評価」、各医療機関を5段階判定し結果を公表―医師働き方改革推進検討会(1)
2021.8.24.(火)
960時間超の時間外労働が必要な救急病院等では、いわゆるB水準・連携B水準・C水準の指定を受けなければならないが、その前提として「医療機関勤務環境評価センター」(評価センター、従前は「評価機能」と呼ばれていた)での評価を受けなければならない―。
評価センターでは、各医療機関における労務管理の状況・時間外労働短縮の実績などを確認し、「S」(医師の労働時間短縮が着実に進んでおり、模範となる)から「D」(改善が必要であり、医師労働時間短縮計画の見直しが必要である)までの5段階評価を行う―。
評価結果は公表されるが、その際「労務環境の実際」などが見えるような工夫を行う必要がある―。
8月23日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。
同日の検討会では、いわゆるC2水準(「高度な技能を有する医師」の育成が公益上必要な分野において、長時間の診療業務が必要となる場合)に関する議論も行われており、別稿で報じます。
目次
勤務医の労働時間短縮、追加的健康確保措置などの取り組み状況を1つ1つ確認
2024年4月から、いわゆる【医師の働き方改革】がスタートします。
先ごろ成立した「改正医療法」((良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための 医療法等の一部を改正する法律)に、こうした「医師の働き方改革」の枠組みが盛り込まれ(関連記事はこちら)、2024年度の実施に向けた、より具体的な準備が検討会で進められています(関連記事はこちら(追加的健康確保措置の詳細など)とこちら(地域医療への影響に関する調査結果など)とこちら(医師勤務時間短縮計画など))。
上述のとおり、「自院で働くすべての勤務医について、時間外労働を年間960時間に収める」(A水準)ことを目指しますが、それが困難な医療機関ではB・連携B・C水準の指定を都道府県から受けなければなりません(指定を受けない限り、ただの1人でも「年間960時間を超える時間外労働」に携わることはできない)。
この指定は、大きく次のような流れで進められます。
(1)医療機関で「医師労働時間短縮計画」(時短計画、タスク・シフト/シェアや、医師の業務内容見直し、勤務環境改選などを盛り込む)の作成や、「追加的健康確保措置」(連続勤務時間制限、勤務間インターバル確保、面接指導など)の体制確立を進める
↓
(2)新設される「医療機関勤務環境評価センター」(評価センター、従前は「評価機能」と呼ばれていた)で、各医療機関の体制・取り組み状況を評価する
↓
(3)都道府県において、評価センターの評価結果を参考に「B・連携B・C水準に指定するべきか否か」を決定する
8月20日の検討会では、(2)の「評価センターによる評価」について詳細な議論が行われました。「評価の枠組み」と「実際の評価(運用)」とに分けて見ていきましょう。
まず前者の「評価の枠組み」についてです。
大前提として、「医療法」や「労働関係法令」(労働基準法)、さらに追加的健康確保措置実施などの「B・連携B・C水準となるための要件」を充足していることが必要です。この要件を満たしていない場合、例えば「1860時間を超えてしまっている」「追加的健康確保措置が十分に確立されていない」などの違反があれば、評価は行われません(後述する全体評価では「保留」となり、改善し要件充足がなされるまで評価がなされない。当然、B・連携B・C水準の指定も行われない)。
こうした要件を充足したうえで、各医療機関の第1段階評価を、以下のような▼ストラクチャー(労務管理)▼プロセス(医師の労働時間短縮に向けた取り組み)▼アウトカム(労務管理体制の構築と労働時間短縮の取り組みの実施後の評価)―の3分野の各項目について、「〇」(できている)「×」(できていない)で行います。専門家によって「評価に関するガイドライン」の研究が進められており、改正法や検討会での議論なども踏まえて、ブラッシュアップされてきています(今秋の「模擬評価」結果も踏まえて、さらなるブラッシュアップが行われる見込み)。
●医療機関の医師の労働時間短縮の取組の評価に関するガイドライン(評価項目と評価基準)
【ストラクチャー(労務管理)】
▽適切に労務管理体制が構築されているか▽36協定が締結されているか▽時短計画が作成されているか▽健診が実施されているか▽時間外労働が長時間におよぶ医師への面接指導体制が確立されているか―など
【プロセス(医師の労働時間短縮に向けた取り組み)】
▽適切な勤務計画(シフト表)が作成されているか▽勤務時間の把握・管理が行われているか▽月の時間外労働が155時間を超えた場合の措置(面接指導→必要に応じた就業制限など)が行われているか▽医師の労働時間短縮に向けた研修が行われているか▽他職種へのタスク・シフトなどが進んでいるか▽医師の業務内容見直しが行われているか▽医師の働き方改革について、患者や地域住民への周知は行われているか―など
【アウトカム(労務管理体制の構築と労働時間短縮の取り組みの実施後の評価)】
▽B・連携B・C水準対象医師の平均労働時間数は短縮しているか▽960時間を超える時間外労働を行う医師の人数・割合は減っているか▽職員満足度・患者満足度などの情報収集をしているか―など
評価結果を積み上げて、各医療機関を「S」「A」「B」「C」「D」の5段階で評価
第2段階として、この個別評価結果を積み上げて、「当該医療機関で医師の労働時間短縮が進んでいるか、不十分か」という全体評価を行います。専門家による研究を踏まえて、下表のように「S」「A」「B」「C」「D」の5段階で、医療機関を評価する方針が固まってきています。例えば、上記の第1段階評価で「〇」(できている)が多ければ「S」「A」などの高評価を下すことになりますが、詳細は今秋に行われる「模擬評価」(希望病院に対する模擬的な評価)を踏まえて詰めていきます。
この全体評価結果を踏まえて都道府県が「B・連携B・C水準に指定すべきか」を判断します。B・連携B・C水準に指定されれば「対象医師は960時間を超える時間外労働が可能」になりますが、指定されなければ960時間超の時間外労働をさせた医療機関管理者(院長など)は「違法」となってしまいます。
2022・23年度に書面評価でS・A・B・C・D判定し、D判定病院には訪問評価を実施
次に「実際の評価(運用)」について見てみましょう。
大きく「2024年4月に向けた初回の評価」と「2024年4月以降の2回目以降の評価(更新評価)」に分けて考えることができます。
「2024年4月に向けた初回の評価」では、▼2022・23年度に書面評価を行い、「S」「A」「B」「C」「D」の5段階判定を行う▼書面評価で「D」(医師の労働時間短縮に向けた医療機関内の取組には改善の必要があり、医師労働時間短縮計画案の見直しが必要である)判定された医療機関に対し訪問評価を行う―ことになります。多くの病院が評価を受けるため、「指定が間に合わない」事態を避けるために、医療機関サイドは「できるだけ早期に時短計画などを作成し、評価を受ける」必要が、都道府県サイドは「できるだけ早期に、960時間超の時間外労働が必要な医療機関をあぶりだし、積極的に介入する」必要があります。
一方、「2024年4月以降の2回目以降の評価(更新評価)」では、書面評価・訪問評価をセットで実施し、「S」「A」「B」「C」「D」の5段階判定を行うことになります。この「書面評価・訪問評価のセット実施」が基本形と言え、上記の初回評価は「多くの医療機関が評価を受け、極めて繁忙になる」ことを踏まえた、柔軟措置・簡略措置であると考えることができます。
評価結果の有効期間は「原則、3年間」とされており、初回指定から3年の間に更新評価を受けることになります(例えば1回目の更新では2024・25・26年度の間に、順番に1度、更新評価を受ける)。
都道府県・医療機関は早めに時短計画作成等に取り組み、D判定を出さないことが重要
こうした「評価の枠組み」「実際の評価(運用)」について、異論・反論は出ていませんが、構成員からは、いくつかの注文がついています。
まず全体評価で「D」((医師の労働時間短縮に向けた医療機関内の取組には改善の必要があり、医師労働時間短縮計画案の見直しが必要である)と判定された場合の取り扱いです。
2024年4月に向けた初回の評価では、「書面評価でDとなった場合に、訪問評価を行い、改善等に向けた指導や支援を行い、計画の見直し→今後の改善が見込まれれば、B・連携B・C水準の指定を行うことも考えられる」との見解を示しました。今村聡構成員(日本医師会副会長)も「D判定を受けたとしても地域医療確保に欠かせないケースもあろう」と述べ、厚労省の考え方に賛同。しかし、都道府県代表である家保英隆構成員(高知県健康政策部長)は「見直しが必要なものを都道府県として指定することはできない」と厳しい見方をしています。実際の運用を注視していく必要があります。
ただし、厚労省は「事前の指導・支援等を行い、D判定医療機関を出さないことが重要」との考えも示しています。例えば、現在、すべての病院に対して「労働時間把握がどれだけ進んでいるのか」などの調査が行われています。ここから「960時間超の勤務医がいる病院」「労務管理の取り組みが遅れている病院」などが把握でき、その情報は都道府県にも共有されます。都道府県では、その情報をもとに「この病院では、960時間超の時間外労働が継続すると思われるが、時短などの取り組みが遅れている。このままではD判定が出てしまう」といった病院を抽出し、勤務環境改善支援センター(勤改センター)と協同して、当該病院に労務管理や労働環境改善、タスク・シフト推進などの支援を早期に開始し、「D判定の発生を防ぐ」ことが重要です。
病院サイドでも、「自院は960時間超の時間外労働が多い、B・連携B・C水準の指定が必要なのではないか」という場合には、早期に都道府県等に相談し、時短計画の作成・労務環境の改善などに取り組み「D判定とならない」ような努力を行うことが重要です。
また、2024年度以降は、B・連携B・C水準の指定医療機関では「毎年度、時短計画を改善して提出する」こととなるため、都道府県で「各医療機関の状況を把握できる」ことになります。それを踏まえて「更新評価に向けて事前の指導・支援を行い、D判定を出さない」ような取り組みを行うことも可能となります。
S・A・B・C・Dの5段階判定とともに、「勤務環境の改善状況」なども公表
また、「S」「A」「B」「C」「D」の5段階判定結果は公表されます。公表に難色を示す構成員も少なくありませんが、「公表することで、各医療機関が勤務環境のさらなる改善に取り組む」ことが期待されるため、公表方針に変更はなさそうです。
ただし、単純に5段階で公表した場合には問題も出てきます。例えば「時短の取り組みが相当程度進み、労働時間短縮の効果が出にくくなった」(例えば「時間外1500時間から1400時間」に向けた短縮よりも、「時間外1000時間から960時間」に向けた短縮はかなり難しくなると考えられる)医療機関では、しっかり努力しているにもかかわらず、「S」「A」評価を得ることが難しくなってしまうのです。馬場武彦構成員(社会医療法人ペガサス理事長)は、こうした点を強く危惧しています。
評価結果は、例えば医師が転職に当たり「この病院の勤務環境はどうであろう」と考える重要な判断材料となります。その際に「労務環境改善にしっかり取り組んでいるにも関わらず、それが見えない」状況があれば、当該病院にとっても、医師にとっても不幸なことです。
このため、厚労省では、「S」「A」「B」「C」「D」の5段階判定結果と合わせて、「●●病院はB評価であるが、時短が相当進み、時間外労働時間の短縮が限界に近付いているためである」などのコメントも付すことを検討していく方針を示しています。こうした「評価結果の公表」に向けた検討は、次回以降に行われます。
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