病院管理者や指導医・上級医の意識改革こそが、医師働き方改革の最重要ポイント―医師働き方改革・情報発信作業部会
2021.11.16.(火)
医師の働き方改革を進めるうえでは、病院管理者や指導医などのベテラン医師、若手医師のすべてが「医師の健康・生命の確保と、良質な地域医療提供体制の確保との両立」という理念を十分に理解するとともに、意識改革をしていく必要がある―。
そのために、まず簡潔な情報・コンテンツによる情報提供を行い、「医師の働き方改革に興味を持ってもらう」ことが重要である。また、病院管理者や指導医などの層にこそ、情報発信をしっかり行い、意識改革をしてもことが最重要ポイントとなる―
11月15日に開催された「勤務医に対する情報発信に関する作業部会」(「医師の働き方改革の推進に関する検討会」の下部組織、以下、作業部会と呼ぶ)で、こういった議論が始まりました。
医師の働き方改革に向けた分かりやすい情報発信は、2024年度以降も継続する重要テーマとなりますが、当面なすべき事項について「今年度(2021年度)中に意見取りまとめ」を行い、具体的な施策(情報発信)に落とし込んでいくことになります。
目次
管理者・ベテラン医師・若手医師など、それぞれに必要な情報を提供することが重要
Gem Medで繰り返しお伝えしているとおり、2024年4月から、【医師の働き方改革】がスタートします。
改正医療法(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律)でB・C水準の枠組みや、追加的健康確保措置の義務化などが行われたことを受け、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」において、施行に向けた詰めの議論(▼医師勤務時間短縮計画(時短計画)の作成▼時短計画の評価▼勤務間インターバルや連続勤務時間制限、代償休息の付与方法―など)が詰められてきました。
▽C2水準に関する議論の記事はこちらとこちらとこちら
▽評価センターによる評価の議論の記事はこちらとこちら
▽追加的健康確保措置に関する記事はこちら
▽医師勤務時間短縮計画に関する記事はこちら
▽労務管理、地域医療への影響に関する記事はこちら
このように「制度の枠組みの詳細」が固まり、施行に向けた準備が着々と進められてきていますが、それと裏腹に対象となる医療現場には「制度の内容」などが十分に伝わっていないようです。「医師の働き方改革とは何か?」「医師の働き方改革という話は知っているが、私に関係するのか?」という声が少なくないとともに、「医師の働き方改革で1860時間まで残業を強制される」などの誤った情報も一部に飛び交っているようです。
こうした事態を放置すれば、医師の働き方改革が適切に進まず、それは良質な地域医療の確保にも支障を来すため、作業部会が設置され「どういった情報・内容を発信すればよいのか」「どのように情報発信すれば現場に伝わるのか」という議論を現場目線で行うことになりました。作業部会には、病院の管理・経営者、ベテラン医師(言わば指導医)、若手医師(研修医など)が参画し、それぞれの視点で「伝わりやすい情報の在り方」を模索していきます。
11月15日には作業部会の初会合が開催され、「どういう内容、どういった手法で情報を発信していくけば現場に伝わりやすいか」という視点で自由討議が行われました。その中で重要ポイントとして挙がってきたのが、次のような点です。
(1)病院管理者、指導医、若手医といった層別の情報発信が必要で、とりわけ管理者や指導医の意識改革を促すような情報発信が重要である
(2)「興味を引くような簡単な情報」→「興味が湧いたら少し詳しい情報」→「さらに深掘りできるような詳しい情報」という具合に、情報がつながる形でのアピールが望ましい
(3)極めて多忙な勤務医(若手時代は病院と家を往復するだけで、ニュースなどを見る余裕もないとの声も)等の業務実態を踏まえた情報発信が必要である
医師と一口に言っても、管理者(院長など)、マネジメント層(管理職医師)、指導医、若手医など、それぞれで「鍵となる情報」「情報収集ツール」などが異なってきます。例えば管理者やマネジメント層では「制度の全体像、具体的な時短方策など」を詳しく知る必要があり、そうした情報は各種メディアや学会・職能団体からの広報を通じて得る機会が多そうです。
例えば馬場秀夫座長(熊本大学病院病院長)からは、熊本大学病院において、勤務医の働き方改革を進めるために、例えば▼ICTによる労務管理の徹底▼外来受付時間の繰り上げによる外来勤務負担軽減▼外来採血ブースの増設による外来診療効率化—などの取り組みがなされていることが紹介されています。病院管理者は、こうした「具体的な時間短縮方策の実例」情報を欲していると考えられそうです。
一方、研修医などの若手医師は、上述のように「病院と家を往復するだけ」の日々が続き、外からの情報収集をすることは困難で、「医師の働き方改革が求められている」ことすら知らない医師も決しては少数派ではないようです。こうした多忙な若手医師には、ピンポイントで「副業・兼業先の勤務も含めて時間外労働上限が規制されることになる」「勤務間インターバルや連続勤務時間制限が確保される」といった情報を伝えることが、健康・生命を守るために重要でしょう。
こうした点を踏まえて山内英子構成員(聖路加国際病院副院長、乳腺外科部長)や木戸道子構成員(日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)らは、対象者や情報発信内容をマトリックスにして、それぞれを具体的に埋めていく作業が必要であると進言。多くの構成員がこの考え方に賛同しており、たとえば「指導医向けの情報発信内容、情報発信ツール」「研修医向けの情報発信内容、情報発信ツール」を検討していくことになりそうです。その際、情報量が多くなれば伝わりにくくなるため、思い切った「情報の絞り込み」なども重要になってくるでしょう。
併せて将来を見据えて「医学生向けの情報発信」の重要性も確認されています。
全ての医師はもちろん、患者・国民にも「医師の働き方改革の必要性」理解を求める
そうした中で、すべての医師に共通して理解してもらうべき事項として「医師働き方改革の趣旨」があります。医師働き方改革が必要とされる背景には、「我が国の優れた医療は、勤務医の過酷な労働環境によって支えられている」という点があります。事態は長年放置されてきましたが、さらに続けば地域医療提供体制が崩壊してしまうでしょう。このため「勤務医の健康・生命の確保」と「良質な地域医療の確保」という両面に配慮し、医師の働き方改革の制度設計が行われてきているのです。
こうした点を全ての医師が理解しなければ、例えば「サービス残業」により時間外労働の規制をすり抜けるような事態が生じかねません。結果、勤務医が健康を損ね、医療提供の縮減→地域医療の崩壊などにつながってしまうのです。管理者等がサービス残業を強制する場面だけでなく、意識の高い若手医師が「サービス残業を進んで行う」ような場面も想定され、後者は管理者や同僚が「働きすぎの弊害」を丁寧に説いてサポートするなどの取り組みが求められるのです。
さらに、こうした医師の働き方改革の根底にある考え方は、医師、医療従事者だけでなく、患者、国民が理解することも必要です。いくら「医師の働き方改革」を進めても、患者が「昼間の外来は混んでいるので、夜間外来に行こう」「待ち時間が嫌なので救急車を呼び、救急外来で診てもらおう」などと考えていたのでは、勤務医の労働環境は一向に改善しないからです。もっとも作業部会では「医師への情報発信」をメインテーマに据えており、国民への情報発信などは別の場で議論を進めていくことになるでしょう。
まず「医師の働き方改革に興味を持ってもらう」ことが重要
また(2)(3)は、情報発信の内容に関する論点と言えますが、構成員からは「厚労省が提示するA・B・C水準等に関するポンチ絵(下図)などが分かりにくい。勤務医の興味を引く内容に絞って第1弾の情報発信をすべき」との指摘が相次ぎました。
例えば、石田苑子構成員(神戸大学大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学分野医学研究員)は「若手時代は極めて多忙でニュース番組などを見る暇もなく、上級医や指導医からの指示に『はい』とのみ答える毎日であった。例えば病院の廊下などに『医師の働き方が変わります』などのポスターをたくさん貼るなどして、まず勤務医に興味を持ってもらうことから始めることが重要ではないか」と提案。
また、車田絵里子構成員(愛仁会リハビリテーション病院事務部部長)は「勤務医は病院に出勤した後に情報を獲得する手段が極端に狭くなる。事務部門から、働き方改革の情報や労働時間の見える化などの院内情報提供が重要になると思う」とコメントしました。医師個人に向けた情報発信よりも、病院向けの情報発信を行い「院内で情報拡散してもらう」手法にも期待が集まります。
例えば、▼ポスターを廊下に数多く貼ることで、勤務医が「働き方とは何か」と興味を持つ→▼勤務医が事務部門に「働き方改革とは何か」との相談があった際、事務部門が簡単なリーフレットなどを手渡し「働き方改革の概要」を知ってもらう→▼さらに詳しい情報を知りたい医師向けのサイト(厚労省ホームページなど)を紹介する―といった、情報のつながりの重要性も確認されました。
管理者や指導医などのベテラン医師の意識改革が最重要ポイント
さらに(1)から(3)のすべての共通する事項として、最も重要な情報発信先は「管理者や指導医である」との声が多数出ています。
石田構成員コメントのように「極めて多忙な若手医師は、事実上、上級医・指導医からしか情報獲得できない」状況があります。また、指導医が「彼・彼女は自分の時間を犠牲にしても働く良い医師である」との評価基準を自分の中に持っていれば「効率的にWLBを意識して働く医師」の評価は低くなり、結果、院内で「働き方改革」や「労働時間短縮」などが根付かない恐れがあります。
この点、若手医師の構成員だけでなく、木戸構成員や山内構成員といった管理者・ベテランからも「管理者や指導医などの意識改革が極めて重要である」との見解が明確に示されました。木戸構成員は「自分が正しいと思い、長年かけて築いてきた価値観を否定されるのは極めて辛いことであるが、ジェネレーションギャップ解消が必要である」と、また山内構成員は「管理者・指導医の意識改革をしなければ、数字合わせ(年間960時間、1860時間に抑える)のためのサービス残業の強制が必ず生じてしまう」と述べ、管理者や指導医などの意識改革を思い切って進めることの重要性を強調しています。
ところで作業部会の構成員は、若手医師も含めて「働き方改革に向けた意識の高い」層であることは確実です。一方で、勤務医や病院管理者の中には「働き方改革など、違う世界の話であろう」と言わんばかりの方がおられることも事実です。後者にこそ、正しい情報発信を行い、働き方改革の必要性・背景・理念を理解してもらう必要があります。
こうした点を踏まえ、臨床研修医代表として参画する中安優奈構成員(横浜市立大学附属病院臨床研修医)、ベテラン医師代表として参画する木戸構成員は「働き方改革に関する医師の生の声を聞くためのアンケート調査」実施を提案。例えば、「医師の働き方改革の仕組みにについてどれだけ知っているのか」「働き方改革に向けて率直にどう考えるのか」「普段、どういったツールで情報収集しているのか」などの実態を把握するものです。木戸構成員は「アンケート調査が、働き方改革の話題を知ってもらうことにもつながる」と期待を寄せています。多くの構成員がこの提案に賛同しており、厚労省で詳細を練っていくことになるでしょう。
作業部会では年度内を目途に意見を取りまとめる予定で、構成員以外からの意見聴取なども行われる見込みです。馬場座長は「医師が疲弊し辛そうな表情をしていれば、患者は医師からの説明等をネガティブに受け止める。そうした雰囲気を醸し出していては良い医療提供ができない」と、管理者をはじめとするマネジメント層からの意識改革を進めていくことの重要性を説き、初回会合を締めくくっています。
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