急性期一般1で「病床利用率が下がり、在院日数が延伸し、重症患者割合が下がっている」点をどう考えるべきか―入院・外来医療分科会(1)
2023.6.8.(木)
急性期一般病棟1でも、高齢患者・認知症患者・リハビリが必要な患者が相当な割合で入院しているをどう考えていくか—。
急性期病棟の多くで「病床利用率が低下し、平均在院日数が延伸している。また重症度、医療・看護必要度を満たす患者割合が低下している」点をどう見るか。病棟過剰になっているの可能性はないのか?新型コロナウイルス感染症の影響にとどまるのか?看護必要度の項目見直しの影響にとどまるのか?—。
急性期充実体制加算を取得する急性期一般1では、未取得病棟に比べて全身麻酔手術や化学療法などの実績が高い。ただし、「門内薬局、敷地内薬局」要件がネックとなり加算取得できない病院も少なくない—。
6月8日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)で、こういった議論が行われました。2022年度の次期診療報酬改定に向けて「入院医療改革の議論が本格スタート」しています。調査結果は極めて膨大であり、本稿では「急性期入院医療」に焦点を合わせて、「ICUなどの高度急性期入院医療」「地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟などの回復期入院医療」「療養病棟をはじめとする慢性期入院医療」などについては、別稿で報じます。
目次
急性期病棟にも、高齢者・認知症・要介護者が多く入院している状況をどう考えるか
2014年度の診療報酬改定から「入院医療改革について、下地となる専門的な議論を入院医療分科会で行い、それを踏まえて中医協で改革方法を固める」という流れができ、さらに外来医療についても同様の形で専門的な議論を行うことになっています(ただし、2016年度改定からは、実質的な方向付けまでは行わず、「専門的な調査・分析」と「技術的な課題に関する検討」にとどめている)。
6月8日の入院・外来医療分科会には、2022年度の前回改定を受けた「入院医療・外来医療の現状」に関する調査結果が報告されました。
このうち「急性期入院医療」(主に急性期一般病棟)の状況を見ると、まず「高齢の入院患者が増えている」ことが次のように再確認されました(関連記事はこちら)。
▽急性期一般1でも、入院患者に占める高齢者の割合が高い(70歳以上が65%程度、80歳以上が35%超)
▽急性期一般1でも、15%超が「認知症あり」患者である
▽急性期一般1でも、1割超が「要介護3以上」患者である
▽急性期一般1でも、リハビリが必要な入院患者が少なくない(5割超が疾患別リハビリを実施)
こうした状況を踏まえて山本修一分科会長代理(地域医療機能推進機構理事長)は「急性期病棟において介護系人材の投入が必要な状況を裏付けている。今後の検討でもその点を視野に入れるべきである」と指摘(関連記事はこちらとこちら)。牧野憲一委員(旭川赤十字病院院長)もこの点について「経年変化を見ることはできないだろうか。看護配置などが変わらない中で、要介護度の高い高齢患者、認知症の高齢患者が増加していれば、それはスタッフの介護等負担が重くなっていることを意味する。患者像が変われば、評価の在り方も見直していく必要がある」とコメントしています。
ただし中野惠委員(健康保険組合連合会参与)は「高齢の急性期患者をどの病棟で受け入れるべきかは、患者の病態もみながら慎重に議論していく必要がある」と指摘しています。
急性期病棟、病床利用率が低下し、在院日数が延伸している状況をどう考えるか
次に、一般病棟における病床利用率や平均在院日数を見ると「2022年度改定前(2021年8-10月)から22年度改定後(2022年8-10月)にかけて、多くの急性期病棟において『病床利用率が低下』し、『平均在院日数が延伸』している」状況が伺えます。
この背景には様々な要因が関係していると見られますが、例えば「新型コロナウイルス感染症の影響で入院患者が減少する」→「病棟利用率が下がる」→「入院収益が下がる」→「空床を埋めるために、在院日数をコントロール(退院の延期)している」という構図がある可能性を指摘する識者も多数おられます。もちろん「1つの可能性」に過ぎず、「コロナ禍で相対的に重症患者の比率が高まり(軽症患者は入院を避ける)、それが平均在院日数の延伸につながっている」可能性も否定できません。今後、より中長期的に「病床利用率」や「平均在院日数」などの動きを見ていく必要があります。
なお、この点について「在院日数のコントロールが必要なほど空床が目立つのであれば、それは『病床過剰』に他ならない。病院の規模を見直すことも必要である」と指摘する識者も少なくありません。この点について、今般の調査では、急性期一般1でも「病床削減」を考える病院は4.3%にとどまり、「増床」を考える病院が3.9%、「現状維持」と考える病院が88.0%ある点が気になります。地域の医療ニーズと、自院の機能、さらに他院の動向などを踏まえ、地域医療関係者が膝を突き合わせ「どの病院がどのような機能を持つべきか、病床規模はどの程度が適正化」を議論する地域医療構想の実現に向けた動きを加速化する必要もあるでしょう。
急性期病棟の重症患者割合が下がっている背景には何があるのか
他方、重症度、医療・看護必要度(以下、単に「看護必要度」)に関しては次のような状況が見えてきました。
▽看護必要度を満たす患者の割合は、2022年度改定後に▼看護必要度Iでは急性期一般入1約5%、急性期一般4で約3%低下▼看護必要度IIでは急性期一般入1約4%、急性期一般4で約1%低下—している
この背景の1つとして「2022年度改定で心電図モニターをA項目から除外した」ことが考えられそうです(関連記事はこちら)。猪口委員は「外科系や循環器系では、大きな影響を受けたのではないか。より詳しい分析が必要である」と提案しています。
ところで、この調査結果は、上述の「コロナ禍で相対的に重症患者の比率が高まっている」可能性と相反するものとも言えます。このため、上述した識者の指摘する「新型コロナウイルス感染症の影響で入院患者が減少し、空床を埋めるために在院日数をコントロール(退院の延期)している」可能性を裏付けるデータにもなりかねず(在院日数コントロールの結果、看護必要度を満たす患者割合も低下している可能性あり)、より詳細な分析が待たれます。。
急性期充実体制加算、ネックの1つに「門内薬局、敷地内薬局」要件があるようだ
次に、2022年度の前回診療報酬改定で新設された【急性期充実体制加算】の状況を見てみましょう。重篤な患者を受け入れる体制を整えるとともに、その実績を持つ「いわゆるスーパー急性期病棟」を評価する加算で、本加算取得病棟(急性期一般1)では、未取得病棟(同)に比べて、明らかに「全身麻酔による手術件数」や「化学療法の件数」「救急自動車等による搬送件数」「腹腔鏡下・胸腔鏡下手術件数」が多く、「スーパー急性期評価」が実際になされていることが伺えます(関連記事はこちら)。
また、本加算取得のネックとなっている事項としては、「手術等に係る実績」のほか、400床以上の大病院では「特定薬局との間で不動産取引等その他の特別な関係の賃貸借取引がないこと」があがっています。いわゆる「門内薬局、敷地内薬局」が設置されている病院では、本加算を取得できず、「そこが唯一のネックである」と悩む病院も少なくないようです。この点をどう考えるのかも、今後の論点に浮上してくる可能性があります。
また、本加算と【総合入院体制加算】との併算定が認められないことから、「どちらの加算を取得すべきか」で悩んでいる病院も少なくないことが今般の調査で明らかになりました。この点については「点数の高い【急性期充実体制加算】に移行し、その際、【総合入院体制加算】で要件となっていた分娩対応・精神科対応を廃止する」病院が一部にあると問題視されています。今後、「【急性期充実体制加算】と【総合入院体制加算】との役割分担の更なる明確化」などを論点とすべきと猪口雄二委員(日本医師会副会長)は指摘しています。あわせて、加算選択の際には「点数が高い、低いという点ではなく、地域でどのような医療ニーズがあり、それに応えるためにはどちらの加算取得が望ましいか」という視点での検討が重要となる点も忘れてはなりません(関連記事はこちら)。
今後、委員の指摘・提案も踏まえて「さらなる詳細な分析結果」が入院・外来医療分科会に報告され、それに基づく「踏み込んだ議論」が繰り広げられます。
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