マイナンバーカードの保険証利用が進むほどメリットを実感する者が増えていくため、利用体制整備が最重要—中医協総会(2)
2023.6.22.(木)
マイナンバーカードの保険証利用をする場合のメリット(過去の診療情報を現在の診療に活かせるなど)について、何らかの実感をしている者は43.5%、何らの実感もない人は56.5%であった—。
一方、そうしたメリットについて「事前に知らない」者でも、「マイナンバーカードの保険証利用」によって実感できるケースが少なくない。マイナンバーカードの保険証利用を進めると、メリットを実感する者も増えていく—。
6月21日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こうした調査結果が厚生労働省保険局医療課保険医療企画調査室の荻原和宏室長から報告されました。結果の解釈については診療側と支払側とで隔たりがあり、「この7月に実施する結果検証調査」(本調査)の結果も見ながら、加算見直しが必要か否かも含めて議論していくことになります。
なお同日には、薬価制度改革・保険医療材料制度改革のキックオフ論議も行われており、別稿で報じます(外来その1(総論)論議に関する記事はこちら)。
マイナンバーカードの保険証利用を進めることで「メリットを実感する」人が増えていく
昨年(2022年)12月の中医協総会で「オンライン資格確認の導入・普及を促進するために、【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】について、マイナンバーカードによる医療機関等受診をしない患者を対象として、▼点数の引き上げ▼再診時にも算定できる区分の新設▼オンライン請求要件の一部緩和—を時限的に行う」方針が決まり、本年(2023年)4月1日から施行されています。
しかし、議論の過程で支払側委員から「【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】をはじめとする医療DXは、国民の理解・実感が伴わなければ先に進まない。患者・国民が加算のメリットなどを感じているのかを検証し、問題があれば改めていく必要がある」との強い意見が出されました。小塩隆士会長(一橋大学経済研究所教授)もこの意見に賛同。厚労省保険局医療課の眞鍋馨課長は「結果検証調査に先立って、インターネットを活用した【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】に関する調査」(例えばマイナンバーカードを活用した医療機関受診でメリットを感じられているかなど)を行う考えを明らかにし、今般、その結果が中医協総会に報告されたものです。
調査は、本年(2023年)5月に2000名(直近3か月にマイナンバーカードを保険証として利用して医療機関を受診した者1000名、そうでない者1000名)等を対象に行われ、▼医療情報・システム基盤整備体制充実加算を知っているか▼マイナンバーカードを保険証として利用した場合に「点数・自己負担が小さくなる」ことを知っているか▼「点数・自己負担が小さくなる」ためには、過去の診療情報へのアクセスに同意しなければならないことを知っているか▼マイナンバーカードを保険証として利用した場合のメリットを知っているか、実感しているか—などを調べており、次のような状況が荻原保険医療企画調査室長から明らかにされました。
(1)【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】の認知度は、マイナンバーカード受診有の者では約6割(10代の76.8%から60代の47.7%まで年代によるバラつきあり)、無しの者では約4割(40代の44.6%から10代の30.4%まで、バラつきは小さい)
(2)マイナンバーカードを健康保険証として利用した場合に「加算点数が低くなる」(=自己負担が安くなる)ことの認知度は、マイナンバーカード受診有の者では約7割(30代の74.8%から70代の65.3%まで、年代によるバラつきは小さい)、無しの者では約4割(30代の46.8%から10代の30.4%まで、バラつきは小さい)
(3)「加算点数が低くなる」(=自己負担が安くなる)ためには「過去の診療情報へのアクセスへの同意」(医療機関で過去の診療情報を見ることに同意する)が必要なことの認知度は、マイナンバーカード受診有の者では約6割(20代の68.2%から50代の53.1%まで、年代によるバラつきがややある)、無しの者では約2割(20代の28.7%から60代の19.0%まで、バラつきがややある)
(4)マイナンバーカードを健康保険証として利用することのメリットの認知度は次のとおり
▽薬剤情報や特定健診情報の紙媒体を医療機関・薬局に持参する必要がない
→マイナンバーカード受診有の者では28.1%、無しの者では18.1%
▽薬剤情報や特定健診情報の伝え間違い・伝え忘れが減る
→マイナンバーカード受診有の者では26.0%、無しの者では15.3%
▽問診票に記載する内容が少なくなり、手間が減る
→マイナンバーカード受診有の者では23.9%、無しの者では17.0%
▽医療スタッフが診察の中で薬剤情報や特定健診情報に触れるなどし、情報が診療に活用される
→マイナンバーカード受診有の者では26.8%、無しの者では14.4%
▽複数医療機関で処方されている医薬品の重複や飲み合わせの問題等が分かり、処方を調整できる
→マイナンバーカード受診有の者では35.4%、無しの者では23.9%
▽高額療養費の自己負担上限が窓口で分かるようになり、「後日の払い戻し」(患者自身が保険者に請求する)手続きが必要なくなる
→マイナンバーカード受診有の者では29.3%、無しの者では14.0%
▽メリットを知らない者の割合は、マイナンバーカード受診有の者では33.5%、無しの者では57.7%
▽年代による顕著な差は見られないが、「医薬品の重複やの飲み合わせの問題等が分かり処方を調整できる」点については、年代が高いほど認知度が高い
(5)「マイナンバーカードを健康保険証として利用することのメリット(上記(4)」の認知度は、マイナンバーカード受診有の者では「受診回数が多くなるほど、メリットの認知度も高い」
(6)「マイナンバーカードを健康保険証として利用することのメリット」は、新聞・テレビ、インターネット・SNSなどで知った者が多く、マイナンバーカード受診有の者は、無しの者に比べて「医療機関・薬局内の掲示」で知ることが多い
(7)マイナンバーカード受診有の者が「実感したメリット」は、次のような状況である
▽薬剤情報や特定健診情報の紙媒体を医療機関・薬局に持参する必要がない:14.4%(認知度に比べて13.7ポイント低い)
▽薬剤情報や特定健診情報の伝え間違い・伝え忘れが減る:11.8%(同14.2ポイント低い)
▽問診票に記載する内容が少なくなり、手間が減る:14.4%(同9.5ポイント低い)
▽医療スタッフが診察の中で薬剤情報や特定健診情報に触れるなどし、情報が診療に活用される:12.0%(同14.8ポイント低い)
▽複数医療機関で処方されている医薬品の重複や飲み合わせの問題等が分かり、処方を調整できる:13.6%(同21.8ポイント低い)
▽高額療養費の自己負担上限が窓口で分かるようになり、「後日の払い戻し」(患者自身が保険者に請求する)手続きが必要なくなる:12.0%(同17.3ポイント低い)
▽実感したメリットは特にない:56.5%(裏を返せば、何らかのメリット(上記)を感じている者が4割弱)
(8)「マイナンバーカードを健康保険証として利用することのメリット(上記(4)」の実感度(上記7)は、「受診回数が多くなるほど、メリットの実感度も高い」(マイナンバーカードの保険証利用を進めることで、メリットを実感する者が増えていくと言える)
(9)「マイナンバーカードを保険証として利用してメリットを実感した」人の割合は、(3)の同意がある者のほうが、同意なしの者よりも高い
(10)「マイナンバーカードを保険証として利用してメリットを実感した」人の割合は、若い年代ほど多い
(11)メリットのうち「問診票に記載する内容が少なくなり手間が減った」については、認知度が実感につながっているが、それ以外には認知度と実感に特段の関係はなく「メリットを知らない人でも、マイナンバーカードの保険証利用によりメリットを実感できる」と推測される
こうした結果を踏まえて、荻原保険医療企画調査室長は「緊急に加算を見直す必要はない」との考えを示し、「本年(2023年)7月に実施する結果検証調査の中で、オンライン資格確認システムに係る診療報酬上の対応(【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】)の実施状況調査を行い、その結果も踏まえて議論を深めてほしい」と中医協に要請しました。結果検証調査は、2022年度改定の影響・効果を2022年度・23年度に分けてみるもので、23年度には、ほかに「リフィル処方箋」「歯科での感染対策」「かかりつけ薬局・薬剤師の評価」「後発医薬品使用」などを調べます(10月から11月に結果が公表される、2022年度調査結果に関する記事はこちら)。
もっとも、調査結果について支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、▼(3)から「マイナンバーカード受診有の者でも、マイナンバーカードを保険証として利用することのメリット知らない人が目立つ」ことが分かった▼(7)から「メリットを実感する者は、いずれの項目でも1割程度にとどまっており、6割がメリットを実感していない」ことから、患者は「マイナンバーカードを保険証として利用する際のメリットは実感していない」と言える—旨を指摘。同じく支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)や佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)も「メリットを実感する者は少ない」点を危惧しました。
しかし、支払側委員から「メリットを実感する患者は少ない。【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】の特例は即時廃止すべき」のような厳しい意見は出ておらず、「今後、多くの患者がメリットを感じられるよう、保険者も「マイナンバーカードの保険証利用」促進に向けた周知・広報に取り組む考えを強調するにとどめています。
これに対し、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「(7)から4割弱の患者がメリットを感じていること、(8)からマイナンバーカードの保険証利用を進めることでメリットを実感する者が増えること、また(11)から『利用によりメリットを実感できる』ことなどが分かった。やはり『マイナンバーカードを保険証利用できる体制』を整備することが有用であると言える」と分析。あわせて「複数医療機関にかかっている患者では『他医療機関の診療情報を活かせる』というメリットを実感しやすいが、他の医療機関にかかっていない患者では実感しにくい。今後の調査では『他医療機関を受診しているか否か』でも分析できるような設計を行ってはどうか」と提案しました。
また長島委員は「医師からすると『この患者がどの薬剤を使用しているのか』などを確認できることは非常に大きなメリットである。しかし、患者・国民を対象にした今般の調査からは、そこは見えてこない」ともコメントしています。本年(2023年)7月に実施する結果検証調査では、医療機関・医師を対象に「医療機関側の患者情報活用状況」も調べることになり、秋以降の議論に注目が集まります。
上記(1)から(11)の解釈は、診療側と支払側とで相当の隔たりがありますが、「利用体制を整備すれば、メリットを実感する者が増える」という好循環が生まれる可能性がありそうです。また両側に「調査結果を踏まえてより質の高い医療提供を目指す」方向に違いはありません。今後、医療DXの基盤となるオンライン資格確認等システムのさらなる導入・利活用促進策を中医協で練っていくことになります。
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