がん化学療法の外来移行、「栄養指導」や「仕事と治療との両立支援」などと一体的・総合的に進めよ―入院・外来医療分科会(1)
2023.7.21.(金)
外来腫瘍化学療法診療料を取得しながら、化学療法をすべて入院で実施する病院がある。例えば急性期充実体制加算において「外来腫瘍化学療法診療料を取得」が要件化されているが、さらに「がん化学療法での外来実施率」などの要件化も検討してはどうか―。
がん化学療法の外来移行を進めるには、単に「化学療法を外来で実施せよ」と求めるにとどまらず、「栄養指導」や「仕事と治療との両立支援」などを一体的・総合的に実施していく必要がある—。
働きながら腎疾患と闘う人のために「人工透析の時間外実施」が進められているが、働きながらがんと闘う人のために「外来がん化学療法の時間外実施」も推進していくべきである—。
7月20日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)で、こういった議論が行われました。同日の入院・外来医療分科会では「オンライン診療」「外来その1(かかりつけ医機能の強化、外来機能分化)」「入退院支援」「急性期充実体制加算」なども議題に上がっており、これらは別稿で報じます。
目次
外来腫瘍化学療法診療料を取得しながら、化学療法をすべて入院で実施する病院がある
2022年度の前回診療報酬改定では「がん化学療法の外来シフト」が重要テーマの1つとなり、例えば(1)外来腫瘍化学療法診療料の創設(2)外来栄養食事指導料】において、外来化学療法を実施しているがん患者に対し専門的な知識を有する管理栄養士が指導を行った場合の加算(月1回に限り260点)の新設(3)療養・就労両立支援指導料における対象患者・連携先の拡大—などが行われました(関連記事はこちら)。
働き盛りの時期にがんに罹患することが増え、医学医療の進展により予後が良好になる中では「働きながらがん治療を行う」ケースが増えてきます。そうした中では「外来での化学療法実施」を推進していくことが、患者のQOL向上にとっても極めて重要となります。そこでは、単に「抗がん剤投与を外来で実施する」だけではなく、「様々な副作用への相談体制充実」(外来腫瘍化学療法診療料で対応)、「化学療法継続のための栄養指導充実」(外来栄養食事指導料の新加算で対応)、「働きながら化学療法を含めたがん治療を継続するための支援充実」(療養・就労両立支援指導料で対応)などを一体的・総合的に行うことが極めて重要となります。
まず、【外来腫瘍化学療法診療料】の状況を眺めてみましょう。
(1)のB001-2-12【外来腫瘍化学療法診療料】は、従前の【外来化学療法加算】から「がん患者に対する外来化学療法」部分を抜き出し、新点数化したものです。
従前の点数(外来化学療法加算)に比べ、外来化学療法において▼抗がん剤投与日以外の診療・指導・管理などを評価する▼「副作用発現等に対する医師による一連の治療管理・指示」を充実する▼「帰宅後に副反応が出た場合などに、ホットライン等を設けて患者からの訴え・相談に速やかに24時間対応できる体制」を整備する—など、より総合的で手厚い外来化学療法の実施を目指すもので、こうした視点に立った施設基準、算定要件などが規定されています(関連記事はこちら)。
【外来腫瘍化学療法診療料】新設後の状況については、厚生労働省から次のような点が明らかにされました。
▽【外来腫瘍化学療法診療料1】について(外来化学療法の専用ベッドを置いた治療室の設置、化学療法経験5年以上の専任常勤医師配置、化学療法経験5年以上の専任看護師の常時配置、化学療法調剤経験5年以上の専任常勤薬剤師配置、専任医療従事者による24時間の患者相談体制整備、急変時等入院体制確保(連携医療機関対応でも可)、レジメン評価委員会開催など)
▼届け出医療機関数(2022年7月)は、外来化学療法加算1の届け出医療機関数(2021年7月)の94%となっている(ほとんどの医療機関が外来化学療法加算1→外来腫瘍化学療法診療料1へ移行している)
▼算定回数(2022年7月のイ(抗がん剤投与日)+ロ(抗がん剤投与日以外))は、外来化学療法加算A(2021年7月)と比べて増加している
▽【外来腫瘍化学療法診療料2】について(外来化学療法の専用ベッドを置いた治療室の設置、化学療法経験のある専任看護師の常時配置、専任常勤薬剤師配置、専任医療従事者による24時間の患者相談体制整備、急変時等入院体制確保(連携医療機関対応でも可)など)
▼届け出医療機関数(2022年7月)は、外来化学療法加算2の届け出医療機関数(2021年7月)の37%にとどまっている(外来化学療法加算2→外来腫瘍化学療法診療料2への移行が必ずしも十分に進んでいない)
▼算定回数(2022年7月のイ(抗がん剤投与日)+ロ(抗がん剤投与日以外))は、外来化学療法加算A(2021年7月)と比べて減少している
▽入院料別の【外来腫瘍化学療法診療料】取得状況を見ると、急性期一般1、7対1専門病院、特定機能(一般病棟7対1)で高くなっている(順に82%、100%、100%)
▽少なからぬ医療機関で【外来腫瘍化学療法診療料】を届け出ながら、「すべてのがん化学療法を入院で実施」している(総合入院体制加算、急性期充実体制加算取得病院でも同様)
このうち、「外来腫瘍化学療法診療料を取得しながら、すべてのがん化学療法を入院で実施している」医療機関の存在が気になります。例えば、急性期充実体制加算を取得するためだけに「形だけ外来腫瘍化学療法診療料を取得している」などが伺えますが、その背景は必ずしも明確ではありません。
7月20日の入院・外来医療分科会でも多くの委員がこの点を問題視し、「外来腫瘍化学療法診療料を取得する医療機関では、レジメンの審査や化学療法外来実施基準等を何らかの形で定めていると考えられる。これらの取り組みを明確化(文書化など)し、医療機関内や地域医療機関間で共有を進めることで、『すべての化学療法を外来で実施する』といった医療機関は減少していくのではないか」(眞野成康委員:東北大学病院教授・薬剤部長)、「少なくとも外来腫瘍化学療法診療料取得が要件となっている【急性期充実体制加算】取得病院では、化学療法の『外来での実施』を進めていくべき」(中野惠委員:健康保険組合連合会参与)などの意見が出ています。例えば「急性期充実体制加算の施設基準において、『外来腫瘍化学療法診療料の取得』にとどまらず、『外来でのがん化学療法実施割合』などを定めていく」ことなども検討される可能性がありそうです。
なお、診療科別に「外来で実施可能なレジメン」の状況を見ると、乳腺外科(92.3%)、外科(85.7%)、消化器外科(82.8%)、呼吸器外科(82.3%)、内科(81.8%)では多くなっていますが、小児科(15.8%)、気管食道外科(51.6%)、血液内科(51.7%)、整形外科(53.1%)などでは低くなっています。
小児については「外来での抗がん剤投与に耐えられるか不安である(子どもの嘔吐などを保護者が心配して入院を選択することも多い)」「小児がん診療を行う医療機関が限定的で、遠方居住患者は入院を選択することになる」「小児では血液がん(白血病など)患者が多い」ことなどが、「入院での化学療法実施が多くなる」要因となるようです。
こうした患者構成の違いも「化学療法の外来・入院実施割合」に影響している可能性があります(小児がん対応を積極的に行う病院では入院実施が多くなりやすい)。
なお、2024年度からの第4期医療費適正計画においても「外来での化学療法実施」推進が重要ポイントの1つとなっている点に留意が必要です。
がん化学療法の外来移行、「栄養指導の充実」「仕事と治療の両立支援」等と一体的推進を
冒頭に述べたように、がん化学療法の外来移行を進めるためには、単に「化学療法を外来で実施する」にとどまらず、「栄養指導の充実」や「仕事と治療との両立支援」などを総合的・一体的に実施することが必要です。
しかし、外来腫瘍化学療法診療料取得医療機関の中で、仕事と治療との両立を支援する【療養・就労両立支援指導料】を取得しているのは、わずか2%に過ぎません。また算定状況も2022年6月には「全体で113件」にとどまっています。仕事と治療との両立が困難となれば、「外来での化学療法」が円滑に進まないことは述べるまでもありません。
また、、外来化学療法を実施しているがん患者に対し専門的な知識を有する管理栄養士が栄養指導を行うことを評価する加算(外来栄養食事指導料の注2・注3)は、外来腫瘍化学療法診療料届出施設の一部(注2:33.3%、注3:17.4%)にとどまっていることも分かりました。栄養状態が芳しくなければ、化学療法を中断せざるをえず、やはり「外来での化学療法」が円滑に進みません。
このため、「外来化学療法推進に向けた取り組みの各項目(栄養、仕事と治療の両立など)をポイント化し、累計ポイントで医療機関を評価する仕組みを考えてはどうか。また【療養・就労両立支援指導料】は、要件緩和等がなされたが、まだ煩雑な印象がある」(鳥海弥寿雄委員:東京慈恵会医科大学医療保険指導室室長))、「【療養・就労両立支援指導料】の取得が進まない背景を詳細に分析し、手を打つ必要がある」(林田委員、中野委員)、「外来での栄養指導について、研修要件の緩和を検討すべきではないか」(津留英智委員:全日本病院協会常任理事)、「専門教育を受けた看護師の相談支援などを進めるために、評価を充実すべき」(秋山智弥委員:名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター教授)などの提案が出ています。
「時間外の透析」が進んでいるように、「外来がん化学療法の時間外実施」も進めよ
さらに、がん化学療法の外来での実施状況を見ると、次のような点が明らかになってきました。
【職員配置状況】
▽外来化学療法の専任職員配置状況は、外来腫瘍化学療法診療料届け出医療機関で多い傾向にある
▽外来化学療法の専任職員では「薬剤師」が少ない
【外来化学療法実施対象患者に関する基準や指針】(「どういった患者について外来化学療法を実施するか」など)
▽基準や指針は、外来腫瘍化学療法診療料届け出医療機関の74%で作成している
▽急性期充実体制加算取得病院の83%で、基準や指針を作成している
【患者への選択肢(入院or外来など)提示】
▽外来腫瘍化学療法診療料を取得し、外来化学療法実施対象患者に関する基準や指針を作成している病院の68%が、「化学療法の選択肢」に関する提示方法を基準・指針に記載している
▽外来化学療法実施対象患者に関する基準や指針を作成し、そこに選択肢提示方法を明記している病院では、「主治医が化学療法の内容・選択肢を、治療に関わるパンフレットを用いて説明している」割合が高い
【時間外対応】
▽外来腫瘍化学療法診療料取得病院では、「電話・メール等で相談を常時受けられる体制」、「速やかに受診が必要な場合に自院で診療できる体制」をとっている割合が高いが、診療所では「速やかに受診が必要な場合に連携他医療機関で診療できる体制」を取っている割合が高く、「速やかに受診が必要な場合に自院で診療できる体制」を取っている割合は低い(ただし、経過措置期間中である点に留意)
▽外来腫瘍化学療法診療料取得診療所の時間外加算取得状況を見ると、▼加算1:23%(時間外の電話等に原則自院で常時対応)▼加算2:17%(標榜時間外の夜間数時間の電話等に原則自院で対応)▼加算3:3%(時間外の電話等に複数クリニックで対応)—となっている
このうち、時間外対応に関して「仕事をつづけながら化学療法を受けるとなれば、時間外での対応が極めて重要になる」と林田賢史委員(産業医科大学病院医療情報部部長)が指摘。また鳥海委員は「透析でも時間外対応が一般化してきており、化学療法についても同様に進めていく必要があろう。ただしクリニックに時間外対応を強制することは難しいかもしれない。その場合、クリニックでの評価を下げ、夜間は連携病院での対応を進めていくことが現実的かもしれない」との考えを示しています。
「仕事をしながら腎疾患と闘う患者のための時間外透析推進」と、「仕事をしながらがんと闘う患者のための時間外がん外来化学療法推進」との類似性に着目した取り組みに期待が集まります。
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