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新薬創出等加算の企業要件には「相当の合理性」あり、ドラッグ・ラグ/ロスで日本国民が被る不利益をまず明確化せよ―中医協・薬価専門部会

2023.7.13.(木)

我が国では、多様な視点で「新薬の有用性」を評価するが、医学・医療の進展を踏まえた「新たな視点での評価」という面が弱く、今後、見直しを検討していく必要がある—。

新薬創出・適応外薬解消等促進加算の企業要件等を製薬メーカーサイドは批判するが、相当程度の合理性を持った仕組みと言える—。

ドラッグ・ラグ/ロス解消は問題であるが、薬価制度のみで対応できるものでもなく、また「我が国の患者がどのような不利益を受けているのか」を明らかにしたうえで対策を考える必要がある—。

7月12日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会で、こういった議論が行われました(同日開催の中医協総会における「在宅その1」論議の記事はこちら)。同日には「費用対効果評価制度改革」論議も行われており、別稿で報じます。

新薬の補正加算、「医学・医療の進展を踏まえた新たな視点での評価」という面が弱い

2024年度には、診療報酬改定とセットで実施される、いわゆる「通常の薬価改定」が行われます。2024年度の薬価制度改革に向けては、▼後発品を中心とする安定供給▼創薬力の強化▼ドラッグ・ラグ/ロスの解消—といった大きなテーマが掲げられ、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の報告書も踏まえた議論が進められます。

厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、▼新薬創出等加算や長期収載品に関する薬価算定ルールの見直し▼革新的新薬の日本への導入の状況や安定供給上の課題も踏まえた、これまでの薬価制度改革の検証▼調整幅の在り方▼診療報酬改定がない年の薬価改定(いわゆる中間年改定)の在り方▼市場規模の推計が困難な疾患を対象とした薬剤における薬価算定方法等や、緊急承認された医薬品の本承認時における薬価算定の方法等▼「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」における指摘事項(安定供給の確保、創薬力の強化、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消、適切な医薬品流通に向けた取組)▼「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針2023)で指摘されている事項(長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、バイオシミラーの使用促進等、医薬品の安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直しなど)―などを検討していく方針を示しています(関連記事はこちら)。

7月12日の薬価専門部会では「新薬のイノベーション評価」を議題とし、(1)新薬の評価(補正加算など)(2)新薬創出・適応外薬解消等促進加算(3)ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消—の主に3点について議論を行いました。

まず(1)の「新薬の評価」については、類似医薬品がある場合には「当該類似薬と基本的に同じ薬価を設定する」(類似薬効比較方式)、類似医薬品がない場合には「開発・製造などにかかる原価を積み上げて薬価を設定する」(原価計算方式)という2つの考え方で行われています。

さらに、当該新薬が優れたものである場合には、例えば▼臨床上有用な新規の作用機序を有するか▼高い有効性又は安全性を有するか▼治療方法が改善されるか(服用などの頻度が大幅に低くなるかなど)▼希少疾病用医薬品か▼小児に使用できるか▼世界に先駆けて開発されたか—などの視点で評価が行われ、「価格の上乗せ」(補正加算)が行われます。

新薬の評価体系全体像(中医協・薬価専門部会1 230712)

補正加算の全体像(中医協・薬価専門部会2 230712)



こうした「新薬の評価」については、▼原価の開示度が進まない▼加算の評価視点は「過去の事例」を踏まえたものであり、新たな有用性の観点は評価視点に組み込まれていない▼加算率に偏りがある(最も低い5%加算が多い)—などの課題があります。

補正加算の分布(中医協・薬価専門部会3 230712)



このため製薬メーカーサイドは、「迅速導入評価制度を新設する」「有用性加算などの根拠データの対象を拡大する」などの保険適用時(薬価収載時)の評価拡充を求めています(関連記事はこちら)。

こうした状況を踏まえた中医協論議では、委員から厳しい意見が多数でています。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「補正加算の評価視点は、過去の実績と整合するように設定されており、医学・医療が進展・変化する中では適切に対応できていない」と認めたうえで「薬価を『期待』に基づいて設定することは認められない。エビデンスに基づく評価を議論する必要がある」と指摘。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「イノベーション評価は極めて重要であるが、補正加算の評価視点などを見直すのであれば、具体的な方法や効果を示してもらったうえでなければ検討できない」との考えを示しています。

他方、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「希少疾病用医薬品や小児用医薬品などについては『個別の評価』を行えるよう、柔軟性を持たせてはどうか」「原価開示については、メーカー側の『開示できない事情』をより詳しく見ていく必要がある」とコメントしています。

「優れた医薬品は、高い価格を設定し、経済的にも十分な評価が行われる」必要があります。しかし、限られた医療保険財源の中では「評価に値する根拠を十分に示すべき」とする中医協委員の意見にも頷ける部分があります。

今後、薬価算定組織の意見(薬価算定ルールに則り、個別製品の薬価案を設定する。設定論議の中で「現行制度の課題、問題点」などが明らかとなるため、中医協に改善に向けた意見具申を行う)やメーカーサイドのより詳細な意見(10月頃に聴取する予定)も踏まえ、「より適切なイノベーション評価」方法を検討していくことになります。

現在の新薬創出等加算は「合理的な仕組みである」と中医協委員は判断

次に(2)の新薬創出等加算について見てみましょう。

現在の薬価制度では、医薬品の価格は定期的に(毎年度)引き下げられます。一般的に、医療機関・薬局は、卸業者から「薬価より安い価格」(市場実勢価格)で医薬品を購入し、この市場実勢価格と薬価(公定価格)との差が「薬価差」です。医療保険財源に限りがあり、厳しさを増す中では「薬価差の縮小」が強く求められ、毎年度「市場実勢価格を踏まえた薬価の引き下げ」が行われるのです。

しかし、「優れた医薬品については薬価を維持し、そこで得られた財源を次の優れた医薬品開発に投資する」ことが必要とされ、2010年度の薬価制度改革で「優れた医薬品の薬価を、特許期間中、一定程度維持する」仕組み(新薬創出等加算)が導入されました。

その後、2018年度の薬価制度抜本改革の中で新薬創出等加算制度の見直し(対象品目について「革新性・有効性に着目して絞り込み」を行う、革新的新薬の開発やドラッグ・ラグ解消等の「企業指標の達成度」に応じて加算を行う)が行われ、「新薬に占める加算対象品目の割合は低下」しています(ただし対象品目「数」は増加している)。

新薬創出等加算の全体像(中医協・薬価専門部会4 230712)

新薬創出等加算の品目要件(中医協・薬価専門部会5 230712)

新薬創出等加算の企業要件(中医協・薬価専門部会6 230712)

新薬創出等加算の対象品目の推移(中医協・薬価専門部会7 230712)



この点について、製薬メーカーサイドは「特許期間中に薬価が強制的に引き下げられる仕組みを導入している先進国は日本だけである。特許期間中は医薬品価格を維持するべき」「新薬創出等加算の企業要件はベンチャー企業に酷である(一定の配慮はなされているが、薬価は維持されず、少しずつ下がっていく)」などの考えを強く訴えています(関連記事はこちら)。

しかし、中医協委員は、やはり厳しい考え方を示しています。診療側の長島委員は「新薬創出等加算は、未承認薬・適応外薬の解消に適応できない企業の製品にまで対応していたダメに見直しを行った経緯があり、そこを忘れはならない。『厚労省の開発要請にしっかり対応する企業』の製品であることが、新薬創出等加算での高評価(薬価が維持される)の前提となる。ベンチャー企業製品にも配慮(加算係数を一定程度高く設定し、薬価引き下げを緩和)がなされている。それでも薬価が維持されにくいのは『価格乖離が大きい』(市場実勢価格が低い)という面もあるのではないか。薬価が維持されるか否かには、製薬メーカー・卸業者・医療機関等の間での自由取引の結果が大きく反映される。価格乖離を無視して薬価を維持することは難しい」と指摘。

また、支払側の松本委員も「新薬創出等加算は、従前『薬価差に着目』して対象品目を選定していたが、『医薬品の価値に着目』した選定に移行した。その結果、加算品目割合が減少(その後横這い)し、品目数が増加していることは、この考え方にマッチしている」と述べ、現行の新薬創出等加算の「合理性」を強調。

あわせて「製薬メーカーサイドは『経営状況の厳しさ』などから薬価の下支えを主張されているが、新薬創出等加算品目の6.9%、特許期間中品目の2.7%で仕切り価(メーカー→卸業者の販売価格)が低下している。主張と値引き行動との間に乖離がある」と疑問を呈しています。もちろん「厳しい環境の中で、価格を下げて販売数量を確保し、売り上げ全体を引き上げる」という戦略も十分にあり得ることから、「仕切り価の低下=経営状況が厳しくない」と早急に判断することはできませんが、松本委員は「より明確な説明が必要」と考えています。

新薬創出等加算品目の仕切り価の変化状況(中医協・薬価専門部会8 230712)



このように、中医協委員は「新薬創出等加算には一定の合理性があり、メーカーサイドの意向に沿った大幅な見直しは不要」と考えていることが伺えます。メーカーと中医協委員との考え方の乖離をどう埋めていくのか、今後の議論に注目が集まります。

ドラッグ・ラグ/ロス、「我が国の患者への不利益」を明らかにしたうえで対策検討

さらに(3)のドラッグ・ラグ/ロス解消については、製薬メーカーサイドから例えば▼2020年時点で、欧米の既承認医薬品243品目(2016-20年に承認されたもの)のうち、本邦では72%に当たる176品目が「未承認」である▼中でも抗悪性腫瘍剤が最多の44品目が未承認であり、2016年(21品目)から倍増している—などのデータが示され(関連記事はこちら、「日本国民が、海外では一般に使用可能な優れた医薬品にアクセスできていない」と強く指摘されています。

ドラッグ・ラグ/ロスの状況(がん研究有識者会議 230628)



このため、メーカーサイドは「日本市場の魅力を高める必要があり、新薬の薬価設定を充実する(上記(1))、特許期間中は薬価を維持する仕組みを設ける(上記(2))べき」などの提案を行っています(関連記事はこちら)。

この点に対しては、「ドラッグ・ラグ/ロスは『研究開発段階の要因』が大きく、まずそこに対応するべきであり、研究促進を保険制度で対応することは筋が違う。『長年にわたって議論し、改善を続けてきた薬価制度に基づけば、薬価が低すぎるので、高く設定してほしい』との主張に従えば、薬価制度を構築・改善してきた意味がなくなってしまう。米国では高すぎる医薬品価格が問題になっているとも聞く。欧米と同じ薬価にすれば、ドラッグ・ラグ/ロスが解消とは、言い過ぎである」(診療側の長島委員)、「我が国で、実際に必要となる医薬品のラグ/ロスがどの程度生じているのかを明確にし、その上で有効な手立てを考えるべき」(診療側の森委員)、「ドラッグ・ラグ/ロスは懸念されるが、我が国の患者にどのような不利益が出ているのかを明確にすべき。『欧米開発品のうち○品目・○%が日本で上市されていない』という数字だけでなく、代替品はないのか、などを丁寧に見て考える必要がある」(支払側の松本委員)、「ドラッグ・ラグ/ロス解消に向けては薬価制度だけでなく、薬事制度、流通制度等を総合的に考える必要がある、海外ベンチャーへの『日本の薬事・薬価制度の情報提供』などから始めてはどうか」(支払側の安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)、「ドラッグ・ラグ/ロスが、日本国民・患者にどのような影響を及ぼしているのかをまず明確にすべき」(支払側の佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)など、多くの反論が出ています。

この点についても、製薬メーカーサイドと中医協委員との間で、見解・考え方に大きな乖離があります。多くの委員が指摘するように「我が国の患者が、どのような不利益を被っているのか」をまず明確にし、そのうえで必要な対策を検討することが重要でしょう。



薬価専門部会では、夏頃まで新薬・後発品などの課題を整理。その後、再度の業界ヒアリングを経て「具体的な薬価制度改革案」を秋以降に練っていきます。

2024年度薬価制度改革の検討スケジュール(中医協・薬価専門部会9 230712)



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