入院医療における「身体拘束の縮小・廃止」のためには「病院長の意識・決断」が非常に重要―入院・外来医療分科会(3)
2023.7.7.(金)
入院医療においても「身体拘束」を可能な限り縮小・廃止していくべきである—。
その際、病院のトップ、つまり院長が「身体拘束の縮小・廃止」に向けて強いリーダーシップを発揮し、対策を計画・実施していくことが極めて重要である—。
7月6日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)では、こういった議論も行われました(同日の【急性期充実体制加算】に関する記事はこちら、地域包括ケア病棟に関する記事はこちら)。
認知症患者では身体拘束の割合が高くなる、多職種チームでの対応が重要だが・・・
2024年度の診療報酬改定では「医療分野での身体拘束の縮小・廃止」も最重要論点の1つに位置づけられます。
また、実質的に「初回の本格論議」となった7月6日の入院・外来医療分科会でも、入院医療の「横断的事項」として、入退院支援などに先んじて「身体拘束の縮小・廃止」が一番手の議題に上がりました。
まず医療機関における身体拘束の状況を見ると、いずれの病棟でも「0―10%未満」が最も多くなっていますが、一部に「身体的拘束の実施率が50%を超える病棟・病室」もあります。「身体拘束が想像以上に実施されている」と多くの委員が驚いて受け止めた一方で、身体拘束の中に「離床センサー活用なども含まれている可能性が否定できない」と指摘する声も出ています(身体拘束に限らず、今後の調査で「項目の定義」をより明確にしていく方針を確認)。ただし、「身体拘束の縮小・廃止を目指していく方向」そのものに明確に反対する声は出ていません。
次に身体拘束の状況を見ると、「認知症のある患者で拘束が多くなる」「ライン・チューブ類の自己抜去防止や、転倒・転落防止のために拘束をするケースが多い」ことが分かっており、「認知症対策を総合的に進めていく」ことや「転倒防止策を工夫する」ことなどで、身体拘束の割合を減らしていく可能性が見えてきそうです。
この点については、「患者像を踏まえた職員配置を検討すべき(例えば認知症患者にはより多くのスタッフで対応する)」(秋山智弥委員:名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター教授)、「認知症ケア加算1病院が、加算2・3病院と連携し、対応力強化を図る取り組み、認知症ケア加算を取得できない病院への取得支援などが考えられないか」(武井純子委員:相澤東病院看護部長)などの提案がなされました。認知症ケア加算では「身体拘束を行った日は40%点数を減算する」規定が設けられていますが、点数での対応も重要論点の1つになりそうです。
また、身体拘束ゼロに向けて積極的に取り組んでいる先進的な病院では「専門看護師(CNS)による高齢者ケア、認知症ケアのモデル実践」「多職種カンファレンス」「入院時のリスクアセスメントによる環境調整」「認知症の改善やせん妄予防にも効果があると言われているリアリティ・オリエンテーションの実施」などを実践しており、これらを周知・横展開していくことも重要でしょう。林田賢史委員(産業医科大学病院医療情報部部長)も「チームでの取り組みが重要である」と強調しています。診療報酬で新たな評価(加算など)を行う場合には、「先進事例をお手本として点数設計がなされる」ため、今から「先進事例の中で真似できる部分はないか」を各医療機関で探っておくことが重要となります。、
もっとも、津留英智委員(全日本病院協会常任理事)は「病院で介護スタッフを今以上に手厚く配置することは現実的ではない。AIやロボットの活用を研究・検討していくべきである」との考えを示しています。このコメントのうち「介護スタッフ配置は現実的でない」という部分に対し、「日本病院団体協議会では『寝たきりゼロに向けて、急性期病棟への介護スタッフ配置などを求めていく』考え(関連記事はこちら)を示しているが、介護人材配置は困難と述べる幹部がおられ、早くもほころびがでている」と皮肉る識者もおられます。
また、身体拘束の縮小・廃止に向けた医療機関の取り組みを見ると、▼「身体的拘束を予防・最小化するためのマニュアル等」「院内における身体的拘束の実施・解除基準」は9割程度の病院で策定されているが、急性期一般4-6・地域一般では策定率が低い(7割程度)▼「院内の身体的拘束の実施状況に関する病院長との共有」の実施率は急性期一般で低い(2割程度)▼「病院外の者が関わる事例検討会、対策検討」の実施率は非常に低い—ことも明らかとなりました。
身体拘束の縮小・廃止に向けては「トップ(=院長)の決断が非常に重要である」と考えられ、井川誠一郎委員(日本慢性期医療協会副会長)も「トップの指示がなければ現場は動かない。トップの決断が大きい」とコメントしていますが、急性期病院ではその面が弱いようです。例えば病院長を対象としたマネジメント研修などで「身体拘束の縮小・廃止の重要性」を改めて説くことなどが考えられますが、「身体拘束がどれほど辛く、屈辱的なものか、院長に実際に拘束を体験してもらう機会を設けてはどうか」と提案する識者もおられます。
もちろん、高度治療を行う医療機関において、身体拘束を「完全にゼロにする」ことは、すぐには困難かもしれません。このため井川委員は「身体拘束にも、四肢を拘束する厳しいものから、ミトン着用などの緩めのものもある。拘束の内容に関する分析なども進めるべき」と提案しています。
このほか、「療養病棟で、24時間の身体拘束が多い状況である。その実態をより詳しく見ていく必要がある。身体拘束ゼロを謳う介護施設では、拘束をしなければならないケースでは療養病棟への転院を促すという話も聞き、本末転倒である。同時改定に向けて実態を把握し、適切な対応をとるべき」(田宮菜奈子委員:筑波大学医学医療系教授)、「ADL改善を目指す回復期リハビリ病棟でも24時間の身体拘束がなされており、不思議である。実態を把握すべき」(武井委員)、「転棟について、看護職員が法的責任を問われることもあり、結果、身体拘束につながっている面もある。そうした面への対応も進めるべき」(秋山委員)などの意見が出ています。
こうした意見も踏まえながら、「医療機関における身体拘束の縮小・廃止にむけた方策」を練っていきます。
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